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それから
18.グレイの事情(本人視点) その2
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最初に言っておくが、俺は別に女性嫌いなのではない。
語弊があるが、むしろ好きだ。
……いや、やっぱり語弊がありすぎだな。普通に!ってことだ。普通の16歳男子だ。
けど、異性って緊張しないか?
うちが男ばかりの五人兄弟ってこともあるのかもしれない。そして俺は長男だ。
ともかく、緊張してしまうのだ。それに輪をかけて、表情筋があまり働かないタイプなのだ。黙っていても怖がられがちの顔の造りだし、もうこれはどうしようもない。
慣れてくれば普通なのだが。それでもアーロンには「ギリギリな」と言われるが。
それが憧れの人との対面なんて……そりゃ、無理に決まってるだろ。だらしない顔もしたくないし。こんな強面な奴がヘラヘラしていたら、かえって怖くないか?とか思ってしまう。
案の定、俺はシャルリア様を怖がらせてしまったらしい。けれど、メリーヌとアーロンのお陰で何とか乗り切れた。ちょっと恥ずかしいことも言われたけど。
そしてお礼も言えた。
やっぱりシャルリア様は憧れのシャルリア様だった。心からアズと仲良くしてくれているのが伝わって、俺もようやく安心できた。しかもシャルリア様呼びまで許されたのだ!今日はなんて素晴らしい日なんだろう!!
「じゃ、ねーだろーが、このアホ」
せっかく幸せな気持ちに浸っていたのに、アーロンに軽く小突かれながらそんなことを言われる。
ちなみに、今日は俺の紹介と軽く仕事の説明をされて、早めの解散となった。……のだが、アーロンとメリーヌに中庭まで引き摺られてきた。そして、この言われよう。なぜに?
「アーロン、言葉が乱れすぎだけれど……分かるわ、あれはないわよ、グレイ」
メリーヌにまで呆れた顔をされる。本当になぜだ?
「何が?シャルリア様も分かってくれたし、お礼も言えたし、完璧じゃないか?」
「うわあ、嬉しそうな顔……その顔をシャルリア様の前でもしなさいよ……ある意味したのか……タイミング……とも違うし…………分かる、分かるんだけど」
メリーヌは右手で額を押さえて項垂れている。アーロンも、全くだ、とやれやれ感を出されている。
「何だよ、二人共。いろいろフォローしてくれたのは感謝してるけど、俺も自分なりに頑張ったんだが?」
「まあな……」
「それはね、そう、なんでしょうけれど……」
自分が不器用で無愛想なのは認めるが、二人からのダメ出しにさすがに少しムッとしてしまう。
だけど二人の返事は、また納得のいかないものだった。
「もう、本当に何だよ!」
訳が分からず、思わず大きな声になってしまう。
「……アズちゃんの話が出た時。安心したのも妹として可愛がっているのも知っているけど、いい顔しすぎ」
メリーヌに指をさされながら真顔で言われる。横でアーロンも何度も頷いている。
「……えっ?」
「え、じゃないわ、何だよ、あんな顔もできんのかよ、って俺らは知ってるけどさ。お互いに兄妹みたいに親しくしてるのも……だから彼女はロイエ様に騙されちまった訳だしな。でもな、分かっているのは俺ら、だからだ」
「……えっ?」
「アメリア様にも見事に固まって。更にシャルリア様にはもう……せっかく人がフォローしたのに……」
「え……」
これは、つまり、どういうことだ?
「きっとシャルリア様は、たとえ一時ロイエ様に絆されたとしても、大事に大事に想っていてくれている幼馴染みがいるのね……と思ったと思う」
「だな。普段はあんなに固い表情なのに、そんな優しい顔も出来るんだ……アズちゃ……アズさんを想うと、ってな」
「……それはつまり?」
何だろう。途轍もなく鈍い俺でも、何だか嫌な予感がする。
「「グレイの想い人はアズさんなのね、と思った」」だろうな」でしょうね」
「えーーーっ!!!」
息ぴったりな二人の言葉に、俺は驚くことしかできなかった。アズとは本当に、お互いに兄妹以上の感情なんか持ったことがないのに!
「しかも殿下よ。あーあ、一途な不器用青年と愛され妖精の恋物語を堪能したかったけど……難しいかしらねぇ」
「だな。美女と野獣も見たかったけどな」
「えっ、で、殿下が?何?」
ちょいちょい不思議な単語が聞こえて来たがそれはスルーだ。
「もう、本当にシャルリア様に現を抜かしすぎよ……さらっと惚れ直したって言ってたじゃないの」
そんなこと、言ってたか?誰に?……いや、話の流れからしたら、シャルリア様に決まってる。
「殿下が……、惚れ……直す……」
「殿下にしては珍しいよな。思わず、って感じで」
「本当よね。きっとあれ、無意識よね。それにアネシス様もさらっと殿下に続いていたわよね?きっともう、シャルリア様も認識していそうよね?」
ちなみに、シャルリア様の侍女の方は、在学中から女生徒たちの憧れだったらしく、卒業してからもその人気は続いているそうだ。メリーヌ情報。
それはさておき。
「殿下かあ、そりゃそうよね。幼馴染みでいて、シャルリア様に惹かれない訳はないかあ」
「今まで従兄弟で親友の想い人だったから押さえていたのかもな」
「それはそれで、いい……!けれど、グレイ!この圧倒的な不利状況、どうするのよ?!このままでいいの?」
「そんな、ことを言われても、殿下がそうなら俺なんて……」
無理だろう。どうやらアズのことも勘違いされているみたいだし、そもそも。
「シャルリア様には憧れているけど……こ、婚約者になりたいとか、そんな大それたことは考えたことなんかないよ。家格も違い過ぎるし、無理だろ」
ーーーそう、そんなのは幼い頃の夢物語だ。
「……ヘンドラー家なら、どうにかなりそうな気もするけれど」
「ないない、メリーヌの買い被りすぎ」
つい、乾いた笑いが出てしまう。
どうやら俺は少し浮かれすぎていたみたいだ。そうだよ、スパッときったとは言え、シャルリア様だって傷ついた筈なのに、どこかで喜んでしまっていた自分がいた。バチが当たったのだろう。と、いうより、自分の立場を思い出した。
学園で少し近づけたとはいえ、彼女が高嶺の花であることには変わりがないのだから。
「でも、せっかく憧れの人と一緒に仕事できるんだから、生徒会はちゃんと頑張るよ」
俺は二人と目線を合わせずに、自分にも言い聞かせるように言った。
「……グレイはそれでいいんだ?」
「いいも何も、仕方ないだろ」
メリーヌの咎めるような視線を感じるが、俺は顔を上げずにそう答える。
「……分かった。私、先に帰る」
「ちょ、メリーヌ」
「じゃあね、アーロン。また明日」
少し慌てるアーロンを余所に、メリーヌはスタスタと去っていった。
「あーあ、仕方ないなあ、あいつも……」
「……追いかけなくてもいいのか?」
「おっ、グレイもそんな事に気づくんだな?」
アーロンの揶揄に、少し顔を上げて軽く睨む。そんな俺を見て、アーロンは困ったような笑顔を向けていた。
「まあ、今回はな?俺のせいじゃないから追いかけないさ」
「……何、俺のせいなの?今回のことは感謝してるけど、そもそもメリーヌには関係がないだろ。機嫌を悪くされる筋合いはないだろ」
「そう言うなって。メリーヌは純粋にお前に幸せになってほしかっただけなんだから」
「幸せって、別に……」
「ほら、シャルリア様があんな別れ方だったろ?余計なお世話には違いないが、ずっと一途に想っていたグレイなら良くないか、ってさ。女性に不器用だから浮気もしないだろうし」
「そうだけど、一言余計」
「はは。あとはその不器用な親友の長年の想いを、心から応援したいってのが一番だったな」
「…………」
「ま、どっちにしてもお節介だけどな。それだけ。じゃあ俺も帰るわ」
そう言って、俺の肩を軽く叩いてアーロンも帰って行った。
……何なんだよ、二人して。
だからって、俺にどうしろって言うんだ。殿下まで出てきたのに。
でもこのままだと、また彼女の隣に違う男が立つ訳で。またそれを見ているしか……。
「ああ、くそっ!!」
それは嫌だと思う自分も確かにいるのに。
「情けねーなあ……」
しばらく俺は、そのまま佇むことしかできなかった。
語弊があるが、むしろ好きだ。
……いや、やっぱり語弊がありすぎだな。普通に!ってことだ。普通の16歳男子だ。
けど、異性って緊張しないか?
うちが男ばかりの五人兄弟ってこともあるのかもしれない。そして俺は長男だ。
ともかく、緊張してしまうのだ。それに輪をかけて、表情筋があまり働かないタイプなのだ。黙っていても怖がられがちの顔の造りだし、もうこれはどうしようもない。
慣れてくれば普通なのだが。それでもアーロンには「ギリギリな」と言われるが。
それが憧れの人との対面なんて……そりゃ、無理に決まってるだろ。だらしない顔もしたくないし。こんな強面な奴がヘラヘラしていたら、かえって怖くないか?とか思ってしまう。
案の定、俺はシャルリア様を怖がらせてしまったらしい。けれど、メリーヌとアーロンのお陰で何とか乗り切れた。ちょっと恥ずかしいことも言われたけど。
そしてお礼も言えた。
やっぱりシャルリア様は憧れのシャルリア様だった。心からアズと仲良くしてくれているのが伝わって、俺もようやく安心できた。しかもシャルリア様呼びまで許されたのだ!今日はなんて素晴らしい日なんだろう!!
「じゃ、ねーだろーが、このアホ」
せっかく幸せな気持ちに浸っていたのに、アーロンに軽く小突かれながらそんなことを言われる。
ちなみに、今日は俺の紹介と軽く仕事の説明をされて、早めの解散となった。……のだが、アーロンとメリーヌに中庭まで引き摺られてきた。そして、この言われよう。なぜに?
「アーロン、言葉が乱れすぎだけれど……分かるわ、あれはないわよ、グレイ」
メリーヌにまで呆れた顔をされる。本当になぜだ?
「何が?シャルリア様も分かってくれたし、お礼も言えたし、完璧じゃないか?」
「うわあ、嬉しそうな顔……その顔をシャルリア様の前でもしなさいよ……ある意味したのか……タイミング……とも違うし…………分かる、分かるんだけど」
メリーヌは右手で額を押さえて項垂れている。アーロンも、全くだ、とやれやれ感を出されている。
「何だよ、二人共。いろいろフォローしてくれたのは感謝してるけど、俺も自分なりに頑張ったんだが?」
「まあな……」
「それはね、そう、なんでしょうけれど……」
自分が不器用で無愛想なのは認めるが、二人からのダメ出しにさすがに少しムッとしてしまう。
だけど二人の返事は、また納得のいかないものだった。
「もう、本当に何だよ!」
訳が分からず、思わず大きな声になってしまう。
「……アズちゃんの話が出た時。安心したのも妹として可愛がっているのも知っているけど、いい顔しすぎ」
メリーヌに指をさされながら真顔で言われる。横でアーロンも何度も頷いている。
「……えっ?」
「え、じゃないわ、何だよ、あんな顔もできんのかよ、って俺らは知ってるけどさ。お互いに兄妹みたいに親しくしてるのも……だから彼女はロイエ様に騙されちまった訳だしな。でもな、分かっているのは俺ら、だからだ」
「……えっ?」
「アメリア様にも見事に固まって。更にシャルリア様にはもう……せっかく人がフォローしたのに……」
「え……」
これは、つまり、どういうことだ?
「きっとシャルリア様は、たとえ一時ロイエ様に絆されたとしても、大事に大事に想っていてくれている幼馴染みがいるのね……と思ったと思う」
「だな。普段はあんなに固い表情なのに、そんな優しい顔も出来るんだ……アズちゃ……アズさんを想うと、ってな」
「……それはつまり?」
何だろう。途轍もなく鈍い俺でも、何だか嫌な予感がする。
「「グレイの想い人はアズさんなのね、と思った」」だろうな」でしょうね」
「えーーーっ!!!」
息ぴったりな二人の言葉に、俺は驚くことしかできなかった。アズとは本当に、お互いに兄妹以上の感情なんか持ったことがないのに!
「しかも殿下よ。あーあ、一途な不器用青年と愛され妖精の恋物語を堪能したかったけど……難しいかしらねぇ」
「だな。美女と野獣も見たかったけどな」
「えっ、で、殿下が?何?」
ちょいちょい不思議な単語が聞こえて来たがそれはスルーだ。
「もう、本当にシャルリア様に現を抜かしすぎよ……さらっと惚れ直したって言ってたじゃないの」
そんなこと、言ってたか?誰に?……いや、話の流れからしたら、シャルリア様に決まってる。
「殿下が……、惚れ……直す……」
「殿下にしては珍しいよな。思わず、って感じで」
「本当よね。きっとあれ、無意識よね。それにアネシス様もさらっと殿下に続いていたわよね?きっともう、シャルリア様も認識していそうよね?」
ちなみに、シャルリア様の侍女の方は、在学中から女生徒たちの憧れだったらしく、卒業してからもその人気は続いているそうだ。メリーヌ情報。
それはさておき。
「殿下かあ、そりゃそうよね。幼馴染みでいて、シャルリア様に惹かれない訳はないかあ」
「今まで従兄弟で親友の想い人だったから押さえていたのかもな」
「それはそれで、いい……!けれど、グレイ!この圧倒的な不利状況、どうするのよ?!このままでいいの?」
「そんな、ことを言われても、殿下がそうなら俺なんて……」
無理だろう。どうやらアズのことも勘違いされているみたいだし、そもそも。
「シャルリア様には憧れているけど……こ、婚約者になりたいとか、そんな大それたことは考えたことなんかないよ。家格も違い過ぎるし、無理だろ」
ーーーそう、そんなのは幼い頃の夢物語だ。
「……ヘンドラー家なら、どうにかなりそうな気もするけれど」
「ないない、メリーヌの買い被りすぎ」
つい、乾いた笑いが出てしまう。
どうやら俺は少し浮かれすぎていたみたいだ。そうだよ、スパッときったとは言え、シャルリア様だって傷ついた筈なのに、どこかで喜んでしまっていた自分がいた。バチが当たったのだろう。と、いうより、自分の立場を思い出した。
学園で少し近づけたとはいえ、彼女が高嶺の花であることには変わりがないのだから。
「でも、せっかく憧れの人と一緒に仕事できるんだから、生徒会はちゃんと頑張るよ」
俺は二人と目線を合わせずに、自分にも言い聞かせるように言った。
「……グレイはそれでいいんだ?」
「いいも何も、仕方ないだろ」
メリーヌの咎めるような視線を感じるが、俺は顔を上げずにそう答える。
「……分かった。私、先に帰る」
「ちょ、メリーヌ」
「じゃあね、アーロン。また明日」
少し慌てるアーロンを余所に、メリーヌはスタスタと去っていった。
「あーあ、仕方ないなあ、あいつも……」
「……追いかけなくてもいいのか?」
「おっ、グレイもそんな事に気づくんだな?」
アーロンの揶揄に、少し顔を上げて軽く睨む。そんな俺を見て、アーロンは困ったような笑顔を向けていた。
「まあ、今回はな?俺のせいじゃないから追いかけないさ」
「……何、俺のせいなの?今回のことは感謝してるけど、そもそもメリーヌには関係がないだろ。機嫌を悪くされる筋合いはないだろ」
「そう言うなって。メリーヌは純粋にお前に幸せになってほしかっただけなんだから」
「幸せって、別に……」
「ほら、シャルリア様があんな別れ方だったろ?余計なお世話には違いないが、ずっと一途に想っていたグレイなら良くないか、ってさ。女性に不器用だから浮気もしないだろうし」
「そうだけど、一言余計」
「はは。あとはその不器用な親友の長年の想いを、心から応援したいってのが一番だったな」
「…………」
「ま、どっちにしてもお節介だけどな。それだけ。じゃあ俺も帰るわ」
そう言って、俺の肩を軽く叩いてアーロンも帰って行った。
……何なんだよ、二人して。
だからって、俺にどうしろって言うんだ。殿下まで出てきたのに。
でもこのままだと、また彼女の隣に違う男が立つ訳で。またそれを見ているしか……。
「ああ、くそっ!!」
それは嫌だと思う自分も確かにいるのに。
「情けねーなあ……」
しばらく俺は、そのまま佇むことしかできなかった。
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