17 / 37
それから
12.ちょっとお茶会
しおりを挟む
「で?」
「うん?」
「フォンス様は、本日は何故こちらへ?」
お茶の準備が整えられた、いつもの応接室に五人全員が着席したところで、カルムがおもむろにフォンス様の顔を見ながら問い質すように聞いた。
微妙に失礼な感じの物言いに、私が口を挟もうとする前に、フォンス様が飄々と答える。
「さっきも言ったけど、姫達の顔を見にね。……それと、王子の方のイトコオイから連絡があったからさ。一応、姫達にも伝えておこうと思って」
「……ルトハルト殿下から?」
カルムが訝しげな顔をする。私もハテ?と首を傾げる。
「わあ、本当にその様子だと、すっかり興味がないみたいだね!もう一方の遊び人失格の方の話さ。先日、ルトが様子を見に行ったのだけれど。……どうにも、改心が難しいようでね」
あら、ちょっと予想通り。どうでもよすぎて、すっかり忘れていたけれど。
「フリーダとも何かあったようで、ルトがずいぶんとご立腹でね。彼のお母上は王様の妹だろ?病弱でもあるし、あまり心労をかけないように……まあ、王家もね、甘やかした判断をしていた訳だけど、さすがに無理だってことで、公爵家からは放逐になった。もちろん学園も退学させて、公爵の知人の商人に預けるらしい。諸外国を股にかける大商会だから、甘えた性根を叩き直して欲しい親心もあるのだろうがね」
フォンス様が眉を下げながら話す。彼もいろいろと思う所はあるのだろうな。ルト様もロイエも、弟のように可愛がっていたもの。
まあ、それはそれとして。
「うーん、それでも上手く女性に甘えて逃げる姿しか想像ができないわ」
「分かります」
「それより、フリーダは大丈夫かしら?そちらが心配よ。傷ついていなければいいけれど……」
「……殿下がお怒りとあらば、可能性は高いですよね」
「……そうよね。王都に帰ったらすぐに会いに行きましょう」
「そうですね。お手紙を出されますか?準備しておきますか?」
「ええ、お願いするわ」
「畏まりました」
「……って、おーい?!話にはちらっときいていたけど、本当にロイエはどうでもいいんだな?!確かにフリーダも心配だろうが、そっち?」
私とシスの反応に、フォンス様が一人つっこむ。
カルムは淡々とお茶を飲み、ハルマン様は苦笑しながらお菓子を摘まんでいた。
「ええ。私、自分を大事にするって決めていますから。それにもちろん、お友達も」
私はにこやかに応える。
「それは、まあ、大切なことだから当然だけど。私の記憶違いでなければ、二人はとても想い合っていたよね?言い方は悪いが、ずいぶんとあっさり……」
「想っていたからですわ、フォンス様」
フォンス様がハッとしたように私を見る。
「それは……うん、そう、そうだ、そうだよな」
「そうでしょう?」
さすが王国一の社交上手なだけあって、フォンス様は納得したように頷いた。
なんて言ってもね。もし、今回が初めての経験だったりしたら、私も引きずってすがったり、かわいさ余って憎さ百倍とかで、復讐するわ!とかなったかもしれないけれど。何せ二度目だし。人生一周分の記憶を思い出した今は、その時間がどれだけ勿体ない事か分かるのだ。
「人を変える事ができたら、素晴らしいのでしょうけれど。変えようと思って変えられることは少ないでしょう?特にこういった事は。頑張って頑張って、それを出来ない自分を責めて自分をダメにしたくはないですし。伝わらない人には悲しいくらい伝わらないですし……そもそも、人を変えようなんて烏滸がましいと思った方がいいのでは、と思うのです」
ちょっと偉そうかしらと思ったけど、フォンス様は、うん、そうだな、と聞いてくれた。
「それにしても達観していて大したものだ。以前からしっかりしていたが、八つも年下のご令嬢と話しているとは思えないくらいだよ」
「あら、失礼な。可憐な17歳ですわ」
内心ちょっとドキドキだけど、おほほと言った体で返す。
「それは失礼。確かに、可憐で……しかも才媛だ」
フォンス様がなぜか甘やかな顔でこちらを見る。
「フォンス様……?」
「シャルリア嬢。本気で私の婚約者にならない?」
「え、無理です」
「まさかの即答?!」
フォンス様が心底驚いた顔をする。だって、ねぇ。
「ロイエとタイプが違うことは認識できるのですけれど。やっぱり王国一は、ちょっと」
私は右手の頬に手を当てて、そちら側に首を傾げる。
そしてその私の言葉にシスはひたすら頷き、カルムは腰辺りで小さくガッツポーズをし、ハルマン様は笑いを堪えていた。
「ぷっ、くふふ……王国一の社交上手も、シャルリアお嬢様にかかると一刀両断ですね。くくっ」
ハルマン様が助け船?を出してくれる。
フォンス様はハルマン様を軽く一瞥し、また私の方を見る。
「シャルリア嬢が婚約者になってくれるなら、改めるが」
「ご自分の行動の責任を、人に押し付けないで下さいな」
「くっ……!でもね、これも仕事というか、上に姉が三人もいるだろう?女性の扱いに厳しくてね、どうしても」
「何でも環境のせいにするのは、いかがなものかと。それにお仕事にしても、スマートにエスコートするのと、口説くのは別問題のような……」
「妖精姫、辛辣!……でもまあ、これからか」
「はい?」
「いーや、何でも!」
その後は皆であれこれ騒いで。「はいはい。お話が済みましたら、お茶会は終了ですね。ではフォンス様、ごきげんよう」とのカルムの一声で、お開きになった。
「うん?」
「フォンス様は、本日は何故こちらへ?」
お茶の準備が整えられた、いつもの応接室に五人全員が着席したところで、カルムがおもむろにフォンス様の顔を見ながら問い質すように聞いた。
微妙に失礼な感じの物言いに、私が口を挟もうとする前に、フォンス様が飄々と答える。
「さっきも言ったけど、姫達の顔を見にね。……それと、王子の方のイトコオイから連絡があったからさ。一応、姫達にも伝えておこうと思って」
「……ルトハルト殿下から?」
カルムが訝しげな顔をする。私もハテ?と首を傾げる。
「わあ、本当にその様子だと、すっかり興味がないみたいだね!もう一方の遊び人失格の方の話さ。先日、ルトが様子を見に行ったのだけれど。……どうにも、改心が難しいようでね」
あら、ちょっと予想通り。どうでもよすぎて、すっかり忘れていたけれど。
「フリーダとも何かあったようで、ルトがずいぶんとご立腹でね。彼のお母上は王様の妹だろ?病弱でもあるし、あまり心労をかけないように……まあ、王家もね、甘やかした判断をしていた訳だけど、さすがに無理だってことで、公爵家からは放逐になった。もちろん学園も退学させて、公爵の知人の商人に預けるらしい。諸外国を股にかける大商会だから、甘えた性根を叩き直して欲しい親心もあるのだろうがね」
フォンス様が眉を下げながら話す。彼もいろいろと思う所はあるのだろうな。ルト様もロイエも、弟のように可愛がっていたもの。
まあ、それはそれとして。
「うーん、それでも上手く女性に甘えて逃げる姿しか想像ができないわ」
「分かります」
「それより、フリーダは大丈夫かしら?そちらが心配よ。傷ついていなければいいけれど……」
「……殿下がお怒りとあらば、可能性は高いですよね」
「……そうよね。王都に帰ったらすぐに会いに行きましょう」
「そうですね。お手紙を出されますか?準備しておきますか?」
「ええ、お願いするわ」
「畏まりました」
「……って、おーい?!話にはちらっときいていたけど、本当にロイエはどうでもいいんだな?!確かにフリーダも心配だろうが、そっち?」
私とシスの反応に、フォンス様が一人つっこむ。
カルムは淡々とお茶を飲み、ハルマン様は苦笑しながらお菓子を摘まんでいた。
「ええ。私、自分を大事にするって決めていますから。それにもちろん、お友達も」
私はにこやかに応える。
「それは、まあ、大切なことだから当然だけど。私の記憶違いでなければ、二人はとても想い合っていたよね?言い方は悪いが、ずいぶんとあっさり……」
「想っていたからですわ、フォンス様」
フォンス様がハッとしたように私を見る。
「それは……うん、そう、そうだ、そうだよな」
「そうでしょう?」
さすが王国一の社交上手なだけあって、フォンス様は納得したように頷いた。
なんて言ってもね。もし、今回が初めての経験だったりしたら、私も引きずってすがったり、かわいさ余って憎さ百倍とかで、復讐するわ!とかなったかもしれないけれど。何せ二度目だし。人生一周分の記憶を思い出した今は、その時間がどれだけ勿体ない事か分かるのだ。
「人を変える事ができたら、素晴らしいのでしょうけれど。変えようと思って変えられることは少ないでしょう?特にこういった事は。頑張って頑張って、それを出来ない自分を責めて自分をダメにしたくはないですし。伝わらない人には悲しいくらい伝わらないですし……そもそも、人を変えようなんて烏滸がましいと思った方がいいのでは、と思うのです」
ちょっと偉そうかしらと思ったけど、フォンス様は、うん、そうだな、と聞いてくれた。
「それにしても達観していて大したものだ。以前からしっかりしていたが、八つも年下のご令嬢と話しているとは思えないくらいだよ」
「あら、失礼な。可憐な17歳ですわ」
内心ちょっとドキドキだけど、おほほと言った体で返す。
「それは失礼。確かに、可憐で……しかも才媛だ」
フォンス様がなぜか甘やかな顔でこちらを見る。
「フォンス様……?」
「シャルリア嬢。本気で私の婚約者にならない?」
「え、無理です」
「まさかの即答?!」
フォンス様が心底驚いた顔をする。だって、ねぇ。
「ロイエとタイプが違うことは認識できるのですけれど。やっぱり王国一は、ちょっと」
私は右手の頬に手を当てて、そちら側に首を傾げる。
そしてその私の言葉にシスはひたすら頷き、カルムは腰辺りで小さくガッツポーズをし、ハルマン様は笑いを堪えていた。
「ぷっ、くふふ……王国一の社交上手も、シャルリアお嬢様にかかると一刀両断ですね。くくっ」
ハルマン様が助け船?を出してくれる。
フォンス様はハルマン様を軽く一瞥し、また私の方を見る。
「シャルリア嬢が婚約者になってくれるなら、改めるが」
「ご自分の行動の責任を、人に押し付けないで下さいな」
「くっ……!でもね、これも仕事というか、上に姉が三人もいるだろう?女性の扱いに厳しくてね、どうしても」
「何でも環境のせいにするのは、いかがなものかと。それにお仕事にしても、スマートにエスコートするのと、口説くのは別問題のような……」
「妖精姫、辛辣!……でもまあ、これからか」
「はい?」
「いーや、何でも!」
その後は皆であれこれ騒いで。「はいはい。お話が済みましたら、お茶会は終了ですね。ではフォンス様、ごきげんよう」とのカルムの一声で、お開きになった。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
精霊王を宿す令嬢が、婚約破棄される時
田尾風香
恋愛
全六話。
***注意*** こんなタイトルですが、婚約破棄は五話、ざまぁは最終話の六話です。それを前提の上でお読み下さい。
暗い色をした目を持つマイヤは、両親から疎まれていた。それでも、優しい祖父母と領民の元で幸せに暮らしていた幼少期。しかし、十三歳になり両親に引き取られて第三王子の婚約者となってから、その幸せは失われた。そして、マイヤの中の何かが脈動を始めた。
タイトルがネタバレになっています。
週一回、木曜日に更新します。
「結婚しよう」
まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。
一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。
聖女の瞳なんて要りません
富士山のぼり
恋愛
ぐるぐる眼鏡をかけた一見地味な伯爵令嬢エリゼは自分の婚約者が浮気している現場に遭遇する。
別の令嬢に愛を囁く婚約者に家格以外興味は無いと言われたエリゼはいずれ婚約破棄される事を知った。
ケヴィンは豪商である実家の利益の為、貴族の家格欲しさだけでエリゼに近づいて来たのだった。
「君とこうしている時が一番幸せだよ。僕の婚約者はあんなのだしさ」
「可哀そうなケヴィン。私が傍に入れればいいのに」
「もう相手をしなくていいわよ、ケヴィン」
一瞬で愛情が覚めたエリゼは自分から婚約を破棄して気分一新生きていく事に決める。
まず彼女が初めにした事は眼鏡を外す事だった。
実はエリゼは人間の心を惑わす力を持つ魔眼の持ち主で眼鏡はそれを隠すための手段だったのだ。
ある薬を使う事によって眼鏡を外すことが出来たエリゼだがその様子を第二王子が焦って見ていた。
周囲が彼女の美しさに気付くからである。
スーパーメイドに守られたそんな令嬢と第二王子の話。
悪役令嬢は、いつでも婚約破棄を受け付けている。
ao_narou
恋愛
自身の愛する婚約者――ソレイル・ディ・ア・ユースリアと平民の美少女ナナリーの密会を知ってしまった悪役令嬢――エリザベス・ディ・カディアスは、自身の思いに蓋をしてソレイルのため「わたくしはいつでも、あなたからの婚約破棄をお受けいたしますわ」と言葉にする。
その度に困惑を隠せないソレイルはエリザベスの真意に気付くのか……また、ナナリーとの浮気の真相は……。
ちょっとだけ変わった悪役令嬢の恋物語です。
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる