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それから

6.夏休みです

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かなり私的な理由で、弟が留学を中断してこっちの学園に戻って来た訳だが。程なくして学園は夏休みに突入し、ただ今馬車にてある目的地へ移動中。


「わ~!やっぱり空気が美味しい!きゃっ、野うさぎちゃんがいる!可愛い!!」

「姉上の方がお可愛らしいですよ。ほら、危ないですから、体を外に出さない」

「そうですよ、お嬢様。こんな田舎のうちの領地にはしゃいで下さるのは嬉しいですが。もう少しこちらへ」


そう、今年の夏休みのスタートは、シスのご実家から!

王都に道場を建てるにあたって、フォルテロ家の道場の視察をお願いしたのだ。

辺境伯のお隣だけあって、王都からは結構遠い。なかなか来られないからテンションが上がってしまう。


「二人とも心配し過ぎよ!それに、ねぇ、本当にカルムも話し方は変えないの?悠希斗と思うとムズムズしちゃうのだけれど」

「ええ。いつうっかりするか分かりませんので。慣れてください」

「ええー……」

「その残念そうなお顔も大層お可愛らしいですが、譲りませんよ」


キラキラ笑顔で拒否される。そして甘い。弟なのに。


「カルム……。褒めてくれるのは嬉しいけれど、ほどほどにしないと自分の縁談にも響くわよ?」

「僕は本当に後悔したくないのですよ、姉上。言わないと伝わらないでしょう?僕の一番はずっと貴女です。しばらくその気もありませんし。でもいずれはきちんと家の為になる結婚をしますから、お構い無く」

「家の、って、もう、それはそうだけれど、でも……」

「貴族の結婚なんてそんなものでしょう?家同士の契約でお互いに別に想い人がいるなんて珍しくもない。僕にとってはありがたいくらいです。姉上をずっと想っていられる。あ、でも姉上はきちんと姉上を愛してくれる奴じゃないと認めませんけどね?」


き、きゃー!!弟の愛情が想像以上に重い~!そしてかなり勝手な事を言っている!これ、大丈夫?大丈夫なやつ?


「まだ14歳で何を言ってるの!自分もきちんと大切な人を見つけなさい!」

「大丈夫ですよ。僕はクズにはなりたくないので。妻になる人には誠実に尽くしますから」


わあん、今が公爵令息ってのもあるとは思うけど、前世まで思い出してると子どもらしさが皆無に!姉ちゃんは心配だよ!


「で、でも、シスコンは嫌がられるんじゃ……」

「ははは。僕がそんなバレるようなヘマをするとでも?きちんと『姉想いのかわいい弟』くらいを演じますよ」


またさらりといい笑顔で言われる。つ、伝わらない。


「シス~!助けてぇ」


どうにも勝てない私は、シスに助けを求めた。


「カルム様。それでは心優しいお嬢様が心配をなさいますよ」

「そうそう!」


何だかまた持ち上げられているけれど、心配なのは確かなので必死に同意する。


「そういった事は、こっそり進めませんと」

「そうだね。姉上に縁談の話を出されて動揺してしまった」

「まだまだですね」

「次からは気をつけるよ」

「そうなさって下さい」



……違う、そうじゃない。


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