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プロローグ

5.さすが私のお嬢様(アネシス視点)

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私、アネシス=フォルテロと申します。

僭越ながら、アウダーシア公爵家ご令嬢のシャルリアお嬢様の専属侍女を務めております。

フォルテロ家は、祖父の代に隣国との最後の大きな戦で武功を挙げた一族で、いわゆる成り上がり男爵家でございます。

元々、一代限りの騎士爵を代々受け継いでいたような家系だったのですが、その戦で王弟殿下とシャルリアお嬢様のお祖父様をお助けしたらしく。共に辺境を守るようにと辺境伯様のお隣に小さな領地を預かり、男爵位を拝命したのでございます。

そのご縁で、なんちゃって貴族のフォルテロ家の後見を、アウダーシア公爵家が引き受けて下さったのです。私が10歳になり、公爵家にマナーを学ぶための行儀見習いに入ることができたのも、そのためです。

私は、お嬢様の侍女見習い兼、遊び相手係兼、ちょっとしたボディーガードとして、当時5歳のお嬢様に初めてお会いした訳ですが。会ってびっくり、そこにはお目々くりくりのマイスゥゥイィートエンジェルがそこにいらしたのです!


そう、会った瞬間に思い出しました。前世の全てを。





お嬢様は、私の大好きな親友でした。


私は幼い頃から家の道場で稽古をつけられており、その辺の男子より強くて。男子からも女子からも男友達扱いをされておりました。

それはそれで良かったのです。楽でしたし。

けれど私は、綺麗なものや可愛いものが大好きな、普通の女の子でもあったのです。

中学生になったある日。その前日に意味不明な因縁をふっかけてきた上級生(男子)を返り討ちにした翌日のことでした。その上級生が私の教室までに来て、私に絡み出したのです。友人らしき二人を連れてまで。

振り返れば、ただの負け惜しみなのですが、お前がこんなもの持っていても可愛くないだとか、男女だとか、私の好きな物を全否定して壊し始めたのです。

私も腕に覚えがあり、多少の男友達扱いには慣れていたとはいえ、好きな物を馬鹿にされ、壊されるのはさすがに思春期の女の子、ショックで動けなくなったのです。

クラスの子達は先輩相手に怖かったでしょう、みんな遠くで見てるしかありませんでした。仕方のないことです。けれど、彼女が。

『先輩、昨日金井さんに勝手に喧嘩売って負けた人ですよね?負け惜しみなんて、カッコ悪いです!金井さんは、キレイでカッコいい素敵な女の子です!可愛い物だって似合います!勝手に決めつけて、馬鹿にしないで下さい!』

と、私の机を倒そうとした彼らの前に立ちはだかったのです。

驚きました。そりゃあ、クラス中が。その先輩達さえも。だって、小さな可愛い女の子が、震えながらも両手を広げて私を守っているのですから。

そこでクラス中の視線を感じたのか、さすがにバツが悪くなったのか、先輩達はチッ、と去って行きました。

『金井さん、大丈夫?怖かったよね』

『だ、大丈夫……だって、私は、強いし』

『強くてカッコよくても女の子だよ!金井さん、すごくキレイだし!まったく!男子!あんたたちも先輩と同罪だからね?金井さんも!ハイ、自覚すること!分かった?』

クラス中が、はーい、とか、確かに悪かったよ……とかそんな雰囲気になって。私も『はい』と返事をさせられて。

『よし!じゃあ、私、先生に知らせて来るから』

そう言って教室を出た彼女を、『委員長は金井と違った意味で怖いな』とみんな感心して言っていたけれど、私はちゃんと見たのです。彼女の手が、足が震えていたのを。そしてそれを堪えていたのを。……怖かったのです、彼女だって。それでも私の為に声を上げてくれた。

けれど私は、その事実が何だか気恥ずかしくて。後で、学級委員だからって無理をしなくていいのに、と可愛くないことを言いましたら、『無理じゃなくて。私の憧れの金井さんを侮辱するからムカついちゃったんだよ!あんな奴等にさ~!』と、眩しい笑顔で委員長らしからぬことを返されて。私は完全に彼女に堕ちました。


お人好しで、大好きな私の親友。


多少のことからは私が守れると思っていたのに。


道場の跡継ぎと、好きな美容の仕事。両立を応援してくれた彼女。まさかその学校で、あんな奴と出会うなんて。


あの日、あの場所で、奴と会ったりしなければ。彼女の素晴らしさに奴の目が覚めたのかもなどと、変な期待をしなければ。


そう私は、ずっとずっと、後悔していたのです。


彼女の完璧な笑顔を失くさせた三年間を。







そしまさかの転生で、お嬢様との再会!私は誓ったのでした。今度こそ、お嬢様を守ると。

お祖父様、グッジョブでしたわ!!

守るとは、もちろんあのクズからです。他からももちろんですけれど。昔も合気道の師範の家に生まれた私、武道には自信があります。今生の騎士道と掛け合わせて、新たな武術も作り上げました。今生は後悔しないように、精神的にも強くならなければ。

そんな前世を跨いでまで、いつまでも後悔する?とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、あまりにも強い後悔は、何年、何十年経とうとも、昨日の様に悔しいものなのです。

なのに、やらかしました。あんな表面的なことで騙されるなんて。……お嬢様への執着は、私と同じようなものなのでしょうけれど。唯一違うとすれば、私はお嬢様が自分自身より一番。奴は自分の為のお嬢様。という所でしょうか?


「シス~!一緒にお茶にしましょう!今日はハーブティーがいいわ」

今日もお嬢様の笑顔が眩しい。可愛さと凛とした公爵令嬢としての気品が備わった、私の自慢のお嬢様。今日も尊いですわ。

「かしこまりました」

「うーん、本当にブレないわね、シス……」

「当然です」

最近は、前世のように砕けてお話しになることも増えていらしたので、少し心配なのですが。まあ?基本的にはなので、大目に見ております。

「アズさんとお考えになった新しいパンの売り上げも順調そうで、ようございましたね」

お嬢様のお好きなレモングラスベースのハーブティーを淹れて、お嬢様の前に置く。

「そうなの!嬉しいわよね。……本当、でも良かった。アズさん以外の方たちも皆さんでご一緒できて……」

しみじみとホッとした笑顔を浮かべて、お嬢様はハーブティーを口につけられる。

「お嬢様のご尽力の賜物ですわ」

他の皆さまにお声をかける姿は、正しく天使のようでした。さすが私のお嬢様。

今回は本当に皆さま素敵なお嬢様方で。アズさんがお話を進めてくれていたこともあり、どこのお家でもシャルリアお嬢様にご両親と共に平身低頭で謝られ、感謝されました。

クズの悪どさが際立ちましたよね。学習能力の使いどころが違うだろ!と、お嬢様がキレたのも納得です。結局、馬鹿なのでしょうね。

「ふふ、ありがとう、シス。でも私だけではなく、皆さんのお蔭よ。もちろん、シスもね!ロイエを軽々と抑えつけるのも、すっごくかっこよかったもの!」

「ありがとう存じます。でもやはり、お嬢様の公爵令嬢然としながらも凛とした溢れるお優しさが、皆さんのお心を打たれてファンクラブなるものが出来たのだと思います」

私の言葉に、ぐふっ、とお茶を詰まらせるお嬢様。吐き出さないのはさすがです。

「そ、それ止めない?恥ずかしいから……」

「お嬢様の頼みとは言え、それは聞き入れられません。私、名誉会長ですから」

「いつの間に!」

「先日、アズさんから正式に頼まれまして」

「正式にって……」

恥ずかしそうにジタバタしているお嬢様も、目が落ちるくらいの可愛さです。アズさんにお見せできないのが申し訳ないくらいの可愛さです。

アズさんは、、初めてお嬢様にお会いした時から、なんて素敵なお嬢様なんでしょう、と、シャルリア様に憧れていたらしく。あのクズの婚約者と知って愕然として大きなショックを受けたものの、あんな素敵な方に引導を渡されるのなら心して受けようと思っていたようです。

それが、あの日、思ってもいなかった慈悲を受け、凛としたお嬢様に勇気ももらい、この方に一生付いて行こうと決めたとおっしゃっていました。

瞳をキラキラさせながらお嬢様にお気持ちを伝えるアズさんに、お嬢様はずっと恥じらっておいででした。それがまたアズさんに火をつけ(分かる!)、他の皆さまにも広まったのでした。

「シャルリア様にはご迷惑をお掛けしましたし、私も……ショック、でしたけど、シャルリア様にお会いできるきっかけになったと思うと、今は彼に感謝の気持ちもあります」

なんておっしゃって。ええ。今回奴は見る目だけはありました。その能力を女性以外に使えないのですかね。まあもう関係のない奴ですけれど。

ちなみに、アズさんに突っ込まれた日本語は、「聞かれたくないことは古代語で話せるように勉強していたのよ」と、お嬢様が誤魔化しました。素直なアズさんは、「さすが公爵家ですね!」と感心していました。可愛いです。

「そういえば、お嬢様。今朝、旦那様から一応お伝えするように言われていたのですが。クズは学園を休学して領地へ帰っているようですよ。あの北の地の彼のお祖父様は確か武に秀でて厳しいお方ですから、鍛え直してこいということなのでしょう」

「あら、そうなの?学園でももう会ってないし、何でもいいのだけれど。ロイズ翁は確かに厳しくて素敵なお祖父様だけれど、あのクズはどうにかできるかしらねぇ?何であんなに女がいないとダメなんだろうね?アイツ。まあ、私には一生わからないだろうし、どうでもいいけれど。アズさん達が安心できそうなのは良かったわ」

興味が無くなると、エキセントリックに輪がかかるお嬢様も素敵です。

今回は平民の女性たちが被害者だったために、貴族の社交界では大きな醜聞にはなっておりませんが。

当家が口を閉じているとはいえ、「完璧な」シャルリアお嬢様との婚約破棄、学園の休学、領地送り……こんなことが重なれば、自然と奴のやらかしも広がることでしょう。貴族のお嬢様を持つお家は、警戒するでしょうね。果たして、貴族社会で生きていけるのか……って、私が気にすることではないですね。お嬢様が興味のないことは、私も興味がないので。

「ね、それよりも、シスが師範の道場も作るんでしょ?王都に!楽しみね!私も教わろうかしら」

「お嬢様は私がお守りしますから」

「それはそれで嬉しいけど……ちょっとだけ!ねっ?」

「……仕方ないですね。少しだけですよ?」

「本当?やったあ、楽しみ!」

そうなのです。噂が噂を呼んで、女性の為の護身術を教えて欲しいと街の女性から声が上がり、お嬢様の鶴の一声で道場を興すことになったのでした。アウダーシア公爵家が後見についてくれましたので、世間では、アウダーシア公爵家は女性の強い味方と認識されつつあります。さすが私のお嬢様。

「黒歴史も満載だけど……」

「お嬢様?」

「シスと昔話も含めていろいろと話せるのは、やっぱり楽しい!思い出せて良かったなと思えるようになってきたわ。これからも宜しくね、シス!」

「お嬢様……!もちろんでございます……!」


私は、今日も明日もこれからもずっと、お嬢様の専属侍女でございます。

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