14 / 16
14.初めての……
しおりを挟む
お披露目当日は、文句のない晴天だった。それこそ、女神様の祝福を感じずにはいられないほどに。
街もかなりの賑わいだ。
「いいなあ、街中楽しそう……見に行きたい……」
すっかり準備万端のエマと俺は、待機部屋にいる。
「何を言ってるの。今日はエマを見てもらう日でしょ?まあ、気持ちは分かるけど」
「そう、ですけれど」
ちょっとプウッとするエマ。もう、何をしても可愛い。
「ほらほら、俺からしたらどんなエマも可愛いけど、そんな顔しないの。何度でも言うけど……ドレスもとても似合っていて……とても素敵な淑女だよ。エマと婚約できて、本当に嬉しい」
手を取り、甲にキスをする。太陽の聖女って、エマの為にある称号のようだ。
「それより、エマ。敬語に戻ってるけど?」
「あ、すみませ…、ごめん、ハ、ハルト」
まだ時々敬語混じりになるのさえ、愛しい。我ながら大概だと思うが、仕方ない。
「うん」
幸せ過ぎるって、こういうことを言うのだろう。
「……でも、本当に幸せだなあ。ありがとう、ハルト。私を選んでくれて。これからも宜しくお願いします」
エマが優しい優しい顔で微笑んで、久しぶりにカーテシーをしてくれる。相変わらず美麗なカーテシー。そしてそれは、誓いのようで。
「……うん、こちらこそ、エマ。仕事に負けないように俺も頑張る」
同じ様なことを、同じタイミングで考えていた嬉しさと気恥ずかしさと、エマの美しさが相まって、何だかはぐらかしてしまう。
「何よそれ~!ちゃんとハルトも大事にするよ!……仕事も大事だけど」
怒らずに乗ってきてくれる。……後半も本音なんだろうけど……。
「ほら、怪しい」
ふふふっ、と目を合わせて笑う。
少しして、ドアがノックされる。
「ラインハルト様、エマ様。お時間でございます」
リサのお迎えだ。
「分かった、今、行く。……エマ、手を」
「……はい」
いよいよお披露目式だ。
民衆の大歓声の中、式は滞りなく進む。エマと義姉さんの魔法も大好評で、その上、女神様のご降臨も賜った。歴史に残るお披露目式だろう。
「ジークフリート王太子と月の聖女ローズマリーとの婚姻は、予定通り二年後。ラインハルト王子と太陽の聖女エマの婚約も改めて発表する!女神様にも認められた慶事である!皆で祝ってやってくれ!!」
父上が……陛下が締めくくる。観衆のボルテージは最高潮だ。兄上たちだけではなく、エマと俺との婚約への祝福もたくさん聞こえてくる。有り難いな。
……なんて、呑気に思っていましたよ。
いやね、国民の祝福はもちろん有難いですよ。幸せ者だと、認識しております。
ただね。
まさか、ここから7年も、結婚できないとは考えてもいなかったんだ……。
そもそも兄上たちの婚姻が、ローズ義姉さんの学園の卒業を待ってからなのだから、最初の2年は仕方のないことだ。
兄上たちの翌年、というのも、準備を考えると厳しいな、とも思っていた。
それに俺も王族として、二人の準備の手伝いもあったし、自分が公爵になる為の準備もあったし。エマのお母上を迎える準備もあったし。その上学園もあるし。そりゃ、忙しかった。
だが、エマの忙しさがそれ以上だったのだ。
あのお披露目式の後、義姉さんと二人の人気は凄まじいものだった。
二人の聖女に支持が集まるのは、喜ばしいことだ。
理解はしている、のだが。
「ルピナスシリーズ」を聞きつけて来た、中小貴族やら商人やらが、想定以上に集まり過ぎた。エマの大事な仕事の根幹なので、誰でも参加させる訳にもいかず、その人選にも時間と労力がいることになった。エマは学園とその人選に、てんやわんやだ。友人たちも協力してくれていたが。無論、俺も手伝ったが。
…そして、事業の幅は広がって行く。そう、素晴らしい事だ。解っている。心から誇らしいのも本当だ。
「でも、寂しいよなー」
自室の窓辺で一人言ちり、乙女か!と自分で突っ込む。でも、寂しいものは寂しいのだから仕方ない。
実はエマの卒業後の行き先は、いろいろあった。まだ俺に1年、学園が残っているからだ。また神殿に戻るとか、お義母上の新居に住むとか、王宮に住むとか。
それを、全力で阻止した。在学中もあれだけ多忙だったのだ、卒業したら更に拍車がかかるのは目に見えている。少しでも側にいたい。
そう思って、公爵邸に入れるように手を尽くした。まだ俺は学生だったけど、王太子の結婚で正式に公爵になっていたのと、エマとの婚約後の働きぶりを評価され、陛下と学園が特例を認めてくれた。エマが公爵邸に住み、俺も寮を出て、共に暮らせるようになった。
……婚約期間中は、もちろん部屋は別だが。
改めてプロポーズをして、公爵邸に住むことをエマも受け入れてくれた。嬉しそうに、恥ずかしそうに。……そして初めて唇にキスをした。エマが余りにも可愛くて。
結婚まで、理性が保てるか心配だったけど。杞憂になってしまった。
「……こんなにすれ違うのは、さすがに想定以上だったよな……エマの仕事への情熱は素晴らしいことだし、尊敬しているけどさ……まあ、俺が忙しいのも確かなんだが」
公爵当主より忙しい嫁(まだ婚約者だけど)。
「なかなかいないよな」
そう考えると、少し楽しくなってくる。
そう、結局、そんな規格外な所も大好きなんだよな。
コンコン。
控えめなノックがされる。これは。
「……ハルト、起きてる?良かったら、少しお茶をしない?」
急いでドアを開ける。
「エマ!お帰り!起きてる!する!」
言いながら、エマを抱きしめる。
「ただいま。いつも遅くてごめんね」
抱きしめ返してくれる。
「……謝らないで?頑張っているのは知ってるから」
強がりを含むが、これも本心。
「ありがとう。ハルト、大好き」
腕に力を込めて言ってくれる。会う時間が少ない分、エマは言葉を尽くしてくれる。
「俺も大好き」
エマを上に向かせてキスをする。エマは嬉しそうに、ふにゃっと笑う。幸せだ。頑張って一緒に住めるようにして良かった。
「はい、そこまでです。お茶の準備ができております」
「リサ……相変わらず優秀で助かるよ……」
渋々、エマと少し距離を取る。
「恐れ入ります」
「うん、いい笑顔だ」
優しくも厳しい使用人ほごしゃたちは、同情をしてくれても、甘やかしてはくれない。
そんなこんなで慌ただしく日々は過ぎ。
お披露目式から7年後の佳き日に。
ようやく結婚式を迎えることができた。
その日、ウエディングドレスを纏ったエマの可憐さ、愛らしさ、美しさは、言葉に出来ない程だった。きっと、その辺の女神様も敵わなかっただろう。
そして、……その日の夜の美しさは、それ以上だったが。その美しさは……俺だけのものなので、秘密。
街もかなりの賑わいだ。
「いいなあ、街中楽しそう……見に行きたい……」
すっかり準備万端のエマと俺は、待機部屋にいる。
「何を言ってるの。今日はエマを見てもらう日でしょ?まあ、気持ちは分かるけど」
「そう、ですけれど」
ちょっとプウッとするエマ。もう、何をしても可愛い。
「ほらほら、俺からしたらどんなエマも可愛いけど、そんな顔しないの。何度でも言うけど……ドレスもとても似合っていて……とても素敵な淑女だよ。エマと婚約できて、本当に嬉しい」
手を取り、甲にキスをする。太陽の聖女って、エマの為にある称号のようだ。
「それより、エマ。敬語に戻ってるけど?」
「あ、すみませ…、ごめん、ハ、ハルト」
まだ時々敬語混じりになるのさえ、愛しい。我ながら大概だと思うが、仕方ない。
「うん」
幸せ過ぎるって、こういうことを言うのだろう。
「……でも、本当に幸せだなあ。ありがとう、ハルト。私を選んでくれて。これからも宜しくお願いします」
エマが優しい優しい顔で微笑んで、久しぶりにカーテシーをしてくれる。相変わらず美麗なカーテシー。そしてそれは、誓いのようで。
「……うん、こちらこそ、エマ。仕事に負けないように俺も頑張る」
同じ様なことを、同じタイミングで考えていた嬉しさと気恥ずかしさと、エマの美しさが相まって、何だかはぐらかしてしまう。
「何よそれ~!ちゃんとハルトも大事にするよ!……仕事も大事だけど」
怒らずに乗ってきてくれる。……後半も本音なんだろうけど……。
「ほら、怪しい」
ふふふっ、と目を合わせて笑う。
少しして、ドアがノックされる。
「ラインハルト様、エマ様。お時間でございます」
リサのお迎えだ。
「分かった、今、行く。……エマ、手を」
「……はい」
いよいよお披露目式だ。
民衆の大歓声の中、式は滞りなく進む。エマと義姉さんの魔法も大好評で、その上、女神様のご降臨も賜った。歴史に残るお披露目式だろう。
「ジークフリート王太子と月の聖女ローズマリーとの婚姻は、予定通り二年後。ラインハルト王子と太陽の聖女エマの婚約も改めて発表する!女神様にも認められた慶事である!皆で祝ってやってくれ!!」
父上が……陛下が締めくくる。観衆のボルテージは最高潮だ。兄上たちだけではなく、エマと俺との婚約への祝福もたくさん聞こえてくる。有り難いな。
……なんて、呑気に思っていましたよ。
いやね、国民の祝福はもちろん有難いですよ。幸せ者だと、認識しております。
ただね。
まさか、ここから7年も、結婚できないとは考えてもいなかったんだ……。
そもそも兄上たちの婚姻が、ローズ義姉さんの学園の卒業を待ってからなのだから、最初の2年は仕方のないことだ。
兄上たちの翌年、というのも、準備を考えると厳しいな、とも思っていた。
それに俺も王族として、二人の準備の手伝いもあったし、自分が公爵になる為の準備もあったし。エマのお母上を迎える準備もあったし。その上学園もあるし。そりゃ、忙しかった。
だが、エマの忙しさがそれ以上だったのだ。
あのお披露目式の後、義姉さんと二人の人気は凄まじいものだった。
二人の聖女に支持が集まるのは、喜ばしいことだ。
理解はしている、のだが。
「ルピナスシリーズ」を聞きつけて来た、中小貴族やら商人やらが、想定以上に集まり過ぎた。エマの大事な仕事の根幹なので、誰でも参加させる訳にもいかず、その人選にも時間と労力がいることになった。エマは学園とその人選に、てんやわんやだ。友人たちも協力してくれていたが。無論、俺も手伝ったが。
…そして、事業の幅は広がって行く。そう、素晴らしい事だ。解っている。心から誇らしいのも本当だ。
「でも、寂しいよなー」
自室の窓辺で一人言ちり、乙女か!と自分で突っ込む。でも、寂しいものは寂しいのだから仕方ない。
実はエマの卒業後の行き先は、いろいろあった。まだ俺に1年、学園が残っているからだ。また神殿に戻るとか、お義母上の新居に住むとか、王宮に住むとか。
それを、全力で阻止した。在学中もあれだけ多忙だったのだ、卒業したら更に拍車がかかるのは目に見えている。少しでも側にいたい。
そう思って、公爵邸に入れるように手を尽くした。まだ俺は学生だったけど、王太子の結婚で正式に公爵になっていたのと、エマとの婚約後の働きぶりを評価され、陛下と学園が特例を認めてくれた。エマが公爵邸に住み、俺も寮を出て、共に暮らせるようになった。
……婚約期間中は、もちろん部屋は別だが。
改めてプロポーズをして、公爵邸に住むことをエマも受け入れてくれた。嬉しそうに、恥ずかしそうに。……そして初めて唇にキスをした。エマが余りにも可愛くて。
結婚まで、理性が保てるか心配だったけど。杞憂になってしまった。
「……こんなにすれ違うのは、さすがに想定以上だったよな……エマの仕事への情熱は素晴らしいことだし、尊敬しているけどさ……まあ、俺が忙しいのも確かなんだが」
公爵当主より忙しい嫁(まだ婚約者だけど)。
「なかなかいないよな」
そう考えると、少し楽しくなってくる。
そう、結局、そんな規格外な所も大好きなんだよな。
コンコン。
控えめなノックがされる。これは。
「……ハルト、起きてる?良かったら、少しお茶をしない?」
急いでドアを開ける。
「エマ!お帰り!起きてる!する!」
言いながら、エマを抱きしめる。
「ただいま。いつも遅くてごめんね」
抱きしめ返してくれる。
「……謝らないで?頑張っているのは知ってるから」
強がりを含むが、これも本心。
「ありがとう。ハルト、大好き」
腕に力を込めて言ってくれる。会う時間が少ない分、エマは言葉を尽くしてくれる。
「俺も大好き」
エマを上に向かせてキスをする。エマは嬉しそうに、ふにゃっと笑う。幸せだ。頑張って一緒に住めるようにして良かった。
「はい、そこまでです。お茶の準備ができております」
「リサ……相変わらず優秀で助かるよ……」
渋々、エマと少し距離を取る。
「恐れ入ります」
「うん、いい笑顔だ」
優しくも厳しい使用人ほごしゃたちは、同情をしてくれても、甘やかしてはくれない。
そんなこんなで慌ただしく日々は過ぎ。
お披露目式から7年後の佳き日に。
ようやく結婚式を迎えることができた。
その日、ウエディングドレスを纏ったエマの可憐さ、愛らしさ、美しさは、言葉に出来ない程だった。きっと、その辺の女神様も敵わなかっただろう。
そして、……その日の夜の美しさは、それ以上だったが。その美しさは……俺だけのものなので、秘密。
0
お気に入りに追加
321
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百度目は相打ちで
豆狸
恋愛
「エスポージト公爵家のアンドレア嬢だな。……なにがあった? あんたの目は死線を潜り抜けたものだけが持つ光を放ってる。王太子殿下の婚約者ってのは、そんなに危険な生活を送ってるのか? 十年前、聖殿で会ったあんたはもっと幸せそうな顔をしていたぞ」
九十九回繰り返して、今が百度目でも今日は今日だ。
私は明日を知らない。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夜会の夜の赤い夢
豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの?
涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる