腹黒王子の初恋

渡 幸美

文字の大きさ
上 下
13 / 16

13.初めての事実

しおりを挟む
あの日から一週間で、エマと俺の婚約は成立した。結構な早さだ。周りの気合いの入り方が窺える。


そしてエマは今日、城でローズ義姉さんとお披露目魔法の練習がある日だ。ドレス姿はお預けされたけれど、練習は覗いてもいいだろう。


(あれ、兄上の声がする。やはり見に来るよな)


部屋に近づいた所で気付き、ドアをノックしようとすると。


「そうよ~、楽しみにしていてね?ローズファンが増えてジークが焼きもちを焼くほどの、綺麗な魔法を見せるからね!」

これは、エマだよな?義姉さんじゃないよな?


マナー違反だが、ノックをせずに部屋に入る。


「ねぇ、何でエマは兄上を愛称で呼んで、さらに呼び捨てで親しげなの?」


間髪入れずに問い質してしまう。だって、どういうことなんだ、この親しさは。……俺には、まだ敬語なのに。


「あっ、……と?」

凄い勢いで、目が泳ぐエマ。珍しい。

「そもそも、警戒心の強い兄上と義姉さんが親しくなる早さが尋常じゃなかったから、気になってはいたんだよね」

そうだ、最初に気になった所だ。つい語気が強くなってしまう。まあ、二人がエマを大切にしているのだから、変な事はないとは思っているけれど。


「エマ、ハルトとは婚約したのだし、話してもいいんじゃないか?なあ?ローズ」

「そうね、私達は大丈夫よ」

拍子抜けするほど、兄上たちはあっさりと話を進めようとしてくれる。

「……うん。でも……」

でもどうやら、エマは乗り気ではないようだ。……なぜ?


「ろ、ローズ達とは、違う、もの……。き、らわれ、たり、しない、かなあ……?」

彼女らしくなく、下を向いて小声になっている。

「……ごめん、八つ当たり……」

何となく、二人とは立場?が違うことは窺える。そして二人を羨んだような発言を恥じたのか、二人に謝るエマ。この辺りも、さすがだと思う。


義姉さんが首を振って、エマを抱きしめる。

そんなに悩むことなのか。……俺に嫌われたくないって。

……かなり気になるけれど、エマに暗い顔をさせるのは本意ではない。


「……ごめん、気楽に聞いたけど、そんなに言いにくいこと?それなら、聞かないよ。エマはエマだしね。……ただ、そんな簡単に俺がエマを嫌うなんてことはあり得ないからね?それは覚えておいて」


そう言いながら、エマの頭をポンポンする。大丈夫だから、そんな泣きそうな顔をしないでくれ。俺は、エマといられさえすればいいのだから、と気持ちを込めて。


エマは更に泣くのを堪えた顔をする。

でも、少し間を置いて、意を決したように言った。

「ジーク……話してもらってもいいかな……?」

「……分かった」

兄上が目を細めて優しく微笑む。そして俺に向き直って口を開く。



「ハルト。俺たち三人には、前世の記憶があるんだ」



……な、……前世?一瞬固まるが、兄上はふざける人ではない。まず、聞こう。



「……信じられないか?」

全てを話終えた兄上に、苦笑気味に聞かれる。


「いや……驚いたけど……確かに、いろいろと辻褄が合う。そうか、女神様……」

かなり驚いた。荒唐無稽のようだが、そもそも三人は女神様に拝謁が叶っている。それに記憶を遡れば遡るほど、辻褄が合って行く。兄上たち二人の行動の理由が理解できた。

それで、だ。

「うん、状況は分かった!前世の名残で親しげなんだね?じゃあもう、俺も事情を知ったし、エマ、俺も呼び捨てで呼んで!敬語もなしで!」

これ、大事。


「え……?」

ローズ義姉さんの腕の中で、俯いていた顔をパッと上げるエマ。

「え、って何?今ので俺がエマを嫌う要素がどこにあるの?」

俺はそっと、エマを義姉さんの腕から自分の方に引き寄せて、言う。


「だ、だって、アラフォーだったし、結婚してたし」

「うん、でもそれ、エマじゃないよね?」

「そ、そうだけど、今の事業も前世の知識の流用だし。私がゼロから考えたものでもないし」

「そうだね?でも民や国の為になる。使えるものは何でも使っていいと思うよ?違うの?」

そう、どれも些末なことだ。

エマが心配していたことを、ひとつひとつ潰していく。


「……違わない。私も、そう、思ってる、けど……」

「じゃ、問題ないよね?女神様のお墨付きのようなもんだし?」

本当にエマは自己評価が低い。魂の輝きを女神様に見初められたって、かなり自慢になると思うのだが。……まあ、そこがエマらしくて好きなんだけどさ。


「……私で、いいの……?」

また遠慮がちに……。仕方ないなあ。可愛いなあ。

「エマがいいの!何度でも言うよ?前世もあっての今のエマなら、それごと愛するよ。……もし、前世の旦那様が現れても、渡してあげないよ?」


ここは譲れない。きっと太陽の聖女としての時も、前の時も、君は素敵な人だったろう。愛されていただろう。けれど、誰が来ても、今のエマは今までを全部ひっくるめて俺のものだ。


「……エマは?」

下から顔を覗き込んで、聞く。

「は、ハルトが大好きです……」

エマがそう言ってくれた瞬間に抱きしめる。可愛すぎ!

言葉の威力が半端ない。


「盛り上がっている所で悪いけど、そこまでよ」

義姉さん……。そうだ、保護者がおりましたね……。

恥ずかしさに気付き、エマが慌てて離れようとするのを俺はぎゅっと止める。


「もう、義姉さん、いい所なのに……」

「いい所で、じゃないでしょ!まだ節度を保ちなさい!」

「はーい」

前世は随分と砕けた感じの世界にいたくせに、厳しいよなあ。渋々と腕をほどく。


「エマも立派なバカップル仲間になったな」

そんな様子を見て、楽しそうに兄上が言う。

「兄上、バカップルって何?」

何となくイメージできるけど。

「ああ、それはな……」

「その説明は要らなくない?」

「もう諦めなさいな、エマ。仲間よ、仲間」

「えぇ……」


四人でわちゃわちゃ話す。兄上たちとも更に近くなれた気がする。……嬉しいな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

騎士団の世話役

haru.
恋愛
家族と領地のピンチでお兄様に助けを求めに行ったら、酔っぱらいにゃんこに絡まれたーーーー! 気づいたら何だかんだで、騎士団に就職する事になるし、酔っぱらいにゃんこは騎士団長!? ※公爵家の名前をアスベル家に変更しました。 よろしくお願いしますヾ(ΦωΦ)/ 本編は完結済みです。 番外編の更新を始めました! のんびり更新の予定ですが、よろしくお願いします♪

百度目は相打ちで

豆狸
恋愛
「エスポージト公爵家のアンドレア嬢だな。……なにがあった? あんたの目は死線を潜り抜けたものだけが持つ光を放ってる。王太子殿下の婚約者ってのは、そんなに危険な生活を送ってるのか? 十年前、聖殿で会ったあんたはもっと幸せそうな顔をしていたぞ」 九十九回繰り返して、今が百度目でも今日は今日だ。 私は明日を知らない。

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。

Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。 それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。 そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。 しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。 命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

処理中です...