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13.初めての事実
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あの日から一週間で、エマと俺の婚約は成立した。結構な早さだ。周りの気合いの入り方が窺える。
そしてエマは今日、城でローズ義姉さんとお披露目魔法の練習がある日だ。ドレス姿はお預けされたけれど、練習は覗いてもいいだろう。
(あれ、兄上の声がする。やはり見に来るよな)
部屋に近づいた所で気付き、ドアをノックしようとすると。
「そうよ~、楽しみにしていてね?ローズファンが増えてジークが焼きもちを焼くほどの、綺麗な魔法を見せるからね!」
これは、エマだよな?義姉さんじゃないよな?
マナー違反だが、ノックをせずに部屋に入る。
「ねぇ、何でエマは兄上を愛称で呼んで、さらに呼び捨てで親しげなの?」
間髪入れずに問い質してしまう。だって、どういうことなんだ、この親しさは。……俺には、まだ敬語なのに。
「あっ、……と?」
凄い勢いで、目が泳ぐエマ。珍しい。
「そもそも、警戒心の強い兄上と義姉さんが親しくなる早さが尋常じゃなかったから、気になってはいたんだよね」
そうだ、最初に気になった所だ。つい語気が強くなってしまう。まあ、二人がエマを大切にしているのだから、変な事はないとは思っているけれど。
「エマ、ハルトとは婚約したのだし、話してもいいんじゃないか?なあ?ローズ」
「そうね、私達は大丈夫よ」
拍子抜けするほど、兄上たちはあっさりと話を進めようとしてくれる。
「……うん。でも……」
でもどうやら、エマは乗り気ではないようだ。……なぜ?
「ろ、ローズ達とは、違う、もの……。き、らわれ、たり、しない、かなあ……?」
彼女らしくなく、下を向いて小声になっている。
「……ごめん、八つ当たり……」
何となく、二人とは立場?が違うことは窺える。そして二人を羨んだような発言を恥じたのか、二人に謝るエマ。この辺りも、さすがだと思う。
義姉さんが首を振って、エマを抱きしめる。
そんなに悩むことなのか。……俺に嫌われたくないって。
……かなり気になるけれど、エマに暗い顔をさせるのは本意ではない。
「……ごめん、気楽に聞いたけど、そんなに言いにくいこと?それなら、聞かないよ。エマはエマだしね。……ただ、そんな簡単に俺がエマを嫌うなんてことはあり得ないからね?それは覚えておいて」
そう言いながら、エマの頭をポンポンする。大丈夫だから、そんな泣きそうな顔をしないでくれ。俺は、エマといられさえすればいいのだから、と気持ちを込めて。
エマは更に泣くのを堪えた顔をする。
でも、少し間を置いて、意を決したように言った。
「ジーク……話してもらってもいいかな……?」
「……分かった」
兄上が目を細めて優しく微笑む。そして俺に向き直って口を開く。
「ハルト。俺たち三人には、前世の記憶があるんだ」
……な、……前世?一瞬固まるが、兄上はふざける人ではない。まず、聞こう。
「……信じられないか?」
全てを話終えた兄上に、苦笑気味に聞かれる。
「いや……驚いたけど……確かに、いろいろと辻褄が合う。そうか、女神様……」
かなり驚いた。荒唐無稽のようだが、そもそも三人は女神様に拝謁が叶っている。それに記憶を遡れば遡るほど、辻褄が合って行く。兄上たち二人の行動の理由が理解できた。
それで、だ。
「うん、状況は分かった!前世の名残で親しげなんだね?じゃあもう、俺も事情を知ったし、エマ、俺も呼び捨てで呼んで!敬語もなしで!」
これ、大事。
「え……?」
ローズ義姉さんの腕の中で、俯いていた顔をパッと上げるエマ。
「え、って何?今ので俺がエマを嫌う要素がどこにあるの?」
俺はそっと、エマを義姉さんの腕から自分の方に引き寄せて、言う。
「だ、だって、アラフォーだったし、結婚してたし」
「うん、でもそれ、エマじゃないよね?」
「そ、そうだけど、今の事業も前世の知識の流用だし。私がゼロから考えたものでもないし」
「そうだね?でも民や国の為になる。使えるものは何でも使っていいと思うよ?違うの?」
そう、どれも些末なことだ。
エマが心配していたことを、ひとつひとつ潰していく。
「……違わない。私も、そう、思ってる、けど……」
「じゃ、問題ないよね?女神様のお墨付きのようなもんだし?」
本当にエマは自己評価が低い。魂の輝きを女神様に見初められたって、かなり自慢になると思うのだが。……まあ、そこがエマらしくて好きなんだけどさ。
「……私で、いいの……?」
また遠慮がちに……。仕方ないなあ。可愛いなあ。
「エマがいいの!何度でも言うよ?前世もあっての今のエマなら、それごと愛するよ。……もし、前世の旦那様が現れても、渡してあげないよ?」
ここは譲れない。きっと太陽の聖女としての時も、前の時も、君は素敵な人だったろう。愛されていただろう。けれど、誰が来ても、今のエマは今までを全部ひっくるめて俺のものだ。
「……エマは?」
下から顔を覗き込んで、聞く。
「は、ハルトが大好きです……」
エマがそう言ってくれた瞬間に抱きしめる。可愛すぎ!
言葉の威力が半端ない。
「盛り上がっている所で悪いけど、そこまでよ」
義姉さん……。そうだ、保護者がおりましたね……。
恥ずかしさに気付き、エマが慌てて離れようとするのを俺はぎゅっと止める。
「もう、義姉さん、いい所なのに……」
「いい所で、じゃないでしょ!まだ節度を保ちなさい!」
「はーい」
前世は随分と砕けた感じの世界にいたくせに、厳しいよなあ。渋々と腕をほどく。
「エマも立派なバカップル仲間になったな」
そんな様子を見て、楽しそうに兄上が言う。
「兄上、バカップルって何?」
何となくイメージできるけど。
「ああ、それはな……」
「その説明は要らなくない?」
「もう諦めなさいな、エマ。仲間よ、仲間」
「えぇ……」
四人でわちゃわちゃ話す。兄上たちとも更に近くなれた気がする。……嬉しいな。
そしてエマは今日、城でローズ義姉さんとお披露目魔法の練習がある日だ。ドレス姿はお預けされたけれど、練習は覗いてもいいだろう。
(あれ、兄上の声がする。やはり見に来るよな)
部屋に近づいた所で気付き、ドアをノックしようとすると。
「そうよ~、楽しみにしていてね?ローズファンが増えてジークが焼きもちを焼くほどの、綺麗な魔法を見せるからね!」
これは、エマだよな?義姉さんじゃないよな?
マナー違反だが、ノックをせずに部屋に入る。
「ねぇ、何でエマは兄上を愛称で呼んで、さらに呼び捨てで親しげなの?」
間髪入れずに問い質してしまう。だって、どういうことなんだ、この親しさは。……俺には、まだ敬語なのに。
「あっ、……と?」
凄い勢いで、目が泳ぐエマ。珍しい。
「そもそも、警戒心の強い兄上と義姉さんが親しくなる早さが尋常じゃなかったから、気になってはいたんだよね」
そうだ、最初に気になった所だ。つい語気が強くなってしまう。まあ、二人がエマを大切にしているのだから、変な事はないとは思っているけれど。
「エマ、ハルトとは婚約したのだし、話してもいいんじゃないか?なあ?ローズ」
「そうね、私達は大丈夫よ」
拍子抜けするほど、兄上たちはあっさりと話を進めようとしてくれる。
「……うん。でも……」
でもどうやら、エマは乗り気ではないようだ。……なぜ?
「ろ、ローズ達とは、違う、もの……。き、らわれ、たり、しない、かなあ……?」
彼女らしくなく、下を向いて小声になっている。
「……ごめん、八つ当たり……」
何となく、二人とは立場?が違うことは窺える。そして二人を羨んだような発言を恥じたのか、二人に謝るエマ。この辺りも、さすがだと思う。
義姉さんが首を振って、エマを抱きしめる。
そんなに悩むことなのか。……俺に嫌われたくないって。
……かなり気になるけれど、エマに暗い顔をさせるのは本意ではない。
「……ごめん、気楽に聞いたけど、そんなに言いにくいこと?それなら、聞かないよ。エマはエマだしね。……ただ、そんな簡単に俺がエマを嫌うなんてことはあり得ないからね?それは覚えておいて」
そう言いながら、エマの頭をポンポンする。大丈夫だから、そんな泣きそうな顔をしないでくれ。俺は、エマといられさえすればいいのだから、と気持ちを込めて。
エマは更に泣くのを堪えた顔をする。
でも、少し間を置いて、意を決したように言った。
「ジーク……話してもらってもいいかな……?」
「……分かった」
兄上が目を細めて優しく微笑む。そして俺に向き直って口を開く。
「ハルト。俺たち三人には、前世の記憶があるんだ」
……な、……前世?一瞬固まるが、兄上はふざける人ではない。まず、聞こう。
「……信じられないか?」
全てを話終えた兄上に、苦笑気味に聞かれる。
「いや……驚いたけど……確かに、いろいろと辻褄が合う。そうか、女神様……」
かなり驚いた。荒唐無稽のようだが、そもそも三人は女神様に拝謁が叶っている。それに記憶を遡れば遡るほど、辻褄が合って行く。兄上たち二人の行動の理由が理解できた。
それで、だ。
「うん、状況は分かった!前世の名残で親しげなんだね?じゃあもう、俺も事情を知ったし、エマ、俺も呼び捨てで呼んで!敬語もなしで!」
これ、大事。
「え……?」
ローズ義姉さんの腕の中で、俯いていた顔をパッと上げるエマ。
「え、って何?今ので俺がエマを嫌う要素がどこにあるの?」
俺はそっと、エマを義姉さんの腕から自分の方に引き寄せて、言う。
「だ、だって、アラフォーだったし、結婚してたし」
「うん、でもそれ、エマじゃないよね?」
「そ、そうだけど、今の事業も前世の知識の流用だし。私がゼロから考えたものでもないし」
「そうだね?でも民や国の為になる。使えるものは何でも使っていいと思うよ?違うの?」
そう、どれも些末なことだ。
エマが心配していたことを、ひとつひとつ潰していく。
「……違わない。私も、そう、思ってる、けど……」
「じゃ、問題ないよね?女神様のお墨付きのようなもんだし?」
本当にエマは自己評価が低い。魂の輝きを女神様に見初められたって、かなり自慢になると思うのだが。……まあ、そこがエマらしくて好きなんだけどさ。
「……私で、いいの……?」
また遠慮がちに……。仕方ないなあ。可愛いなあ。
「エマがいいの!何度でも言うよ?前世もあっての今のエマなら、それごと愛するよ。……もし、前世の旦那様が現れても、渡してあげないよ?」
ここは譲れない。きっと太陽の聖女としての時も、前の時も、君は素敵な人だったろう。愛されていただろう。けれど、誰が来ても、今のエマは今までを全部ひっくるめて俺のものだ。
「……エマは?」
下から顔を覗き込んで、聞く。
「は、ハルトが大好きです……」
エマがそう言ってくれた瞬間に抱きしめる。可愛すぎ!
言葉の威力が半端ない。
「盛り上がっている所で悪いけど、そこまでよ」
義姉さん……。そうだ、保護者がおりましたね……。
恥ずかしさに気付き、エマが慌てて離れようとするのを俺はぎゅっと止める。
「もう、義姉さん、いい所なのに……」
「いい所で、じゃないでしょ!まだ節度を保ちなさい!」
「はーい」
前世は随分と砕けた感じの世界にいたくせに、厳しいよなあ。渋々と腕をほどく。
「エマも立派なバカップル仲間になったな」
そんな様子を見て、楽しそうに兄上が言う。
「兄上、バカップルって何?」
何となくイメージできるけど。
「ああ、それはな……」
「その説明は要らなくない?」
「もう諦めなさいな、エマ。仲間よ、仲間」
「えぇ……」
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