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11.初めての告白
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昨日は、リーゼ嬢たちとのお茶会が催されたので、帰りにエマ嬢を捕まえることはできなかった。
さすがに女子会に首は突っ込まない。けど、ベル(実は俺の耳である侍女)の情報によると、皆だいぶ打ち解けて、仕事の話も順調そうだったらしい。何よりだ。……俺の話、出なかったみたいだけど……。
ま、まあ、気を取り直して。今朝もお迎えだ。
朝のうちに放課後の約束を取り付けよう。……また、治療院に行くって言うかな?王立病院については話もあるし……それならそれで丁度いいけれど。
なんて、計画を立てていた訳だが。
「おはよう。義姉さん、エントランスに立っていて、どうしたの?…と、皆さんも。おはようございます」
ローズ義姉さんが、誰かを待つようにエントランスに立っていた。ひとまず笑顔で挨拶をする。……また珍しいよな。そして周りのお嬢様方。挨拶は返してくれたものの、皆様、何か言いたげにお見受けしますが。さすがに少し緊張感が。何だ?……エマ嬢が見当たらないし。
「義姉さん……エマ嬢は?」
「エマから頼まれて、貴方を待っていたのよ、ハルト。……今朝は課題の調べ物があるから、先に登校します、って」
「……はっ……?!」
自分の顔色が無くなるのが分かる。
……自分の不甲斐なさを棚に上げて、焦りと苛立ちのような感情が涌き出てきてしまう。顔にも出てしまっているかもしれない。
「…………そう」
思ったより、低い声になってしまう。
「あの、ハルト。エマは嫌だからとかいう訳ではないと思うわ」
義姉さんが慌ててフォローしてくれるが、表情を戻すことが出来ない。出来ないんだよ、エマ嬢。今、どうしてる?誰といる?……本当に嫌じゃなかった?
人前で感情のコントロールが出来ないなんて、初めてだ。
「ありがとう、義姉さん。悪いけど、先に行くね」
俺はエマ嬢の教室に向かって駆け出した。
「だ、大丈夫かしら……?」
「ハルト様のあのようなお顔、初めてですね、ローズ様」
「ええ。セレナ様も、よね?」
「お二人とも!心配ですから、私たちも早く参りましょう!」
「え、ええ、レイチェル」
残ったお嬢様方が心配してくれていたと聞くのは、後の話。
四年生のAクラスに着く。
すると、たくさんの話し声と笑い声が響いている。
中心にいるのは……思った通りと言うべきか……エマ嬢だ。生き生きとした笑顔で、皆と議論している。皆も、心から喜んでいそうだ。
……解っている。エマ嬢にとっても、クラスメートにとっても、当然の権利だ。ましてや彼女は聖女。誰とも分け隔てなく接するのは道理ですらある。そしてそれを理解している彼女は、義務感からだけではなく、人の喜びを自分の喜びに出来る人。……解っているんだ。俺が、どれだけ君に相応しくないか。こんな狭量では駄目だと言うことも。
「セシル様、大袈裟よ。でも嬉しいわ。私で良ければ、いつでもお声掛けをして下さいな。…皆様も」
エマ嬢の言葉に、盛り上がるクラスメート達。……解るよ。
でも、ごめん。
「あ、あの!でしたら今度、私達のお茶会に…」
「それはダメ」
セシル嬢の言葉を遮りながら、後ろからエマ嬢を抱きしめる。
「ら、ラインハルト殿下?!」
セシル嬢が驚きながら言う。……驚くよな。でも、譲れないよ。
「セシル嬢。申し訳ないけれど、それはダメ。君たちのお茶会には、そっちの二人も来るだろう?」
この三家が、懇意なのは認識している。
「ま、あ、その……」
王子権限を振りかざすようで申し訳ないが、なりふり構っていられない。
「ねぇ、エマ嬢?今朝はどうして先に登校したの?」
「あ、あの、殿下。皆さんに失礼ですよ。そんな……」
だから解ってる。
「だってエマ嬢が一人で行くから。どれだけ心配したと思ってるの?……案の定、誘われかけてるし…」
もう、ただの勝手な我が儘でしかないが、知ったことか。
「し、心配と申されましても……」
心外な顔のエマ嬢。それはそうだろう。学園に来るだけなのだから。でも。
「心配だよ」
俺は抱きしめていた腕をほどき、エマ嬢を椅子の横向きに座らせ、自分の方に向ける。
「殿下…?」
不思議そうに首を傾げるエマ嬢。これ、可愛いんだよな。じゃなくて。……伝えないと。
俺はエマ嬢に跪き、彼女の右手を取る。
目を見開いて驚くエマ嬢。
「エマ嬢。私は君が好きだよ。私の唯一だと思っている。……婚約者にしたいのは、国の為だとでも思っていた?」
「……!だっ、だって、その……」
驚いたように手を引こうとするエマ嬢。その手をしっかり握る。離さないよ。
「……何で自己評価が低いかな…」
思わずぼやく。だってって、何だ。
「え?」
「いや。ともかく私は、努力家で、家族思いで、友達思いで優しくて、しっかりしているのに時々やらかすエマ嬢が……可愛くて仕方ない。エマ嬢が聖女でも聖女じゃなくても、側にいて欲しいと願っているよ。……誰にも渡したくないんだ。愛している」
「!!っ、……で…」
「一生共に歩きたい。……改めて、私と婚約をしていただけますか?」
ようやく伝えた。エマ嬢は驚き過ぎて固まっていたようだが、じわじわ、じわじわ、顔が赤くなるのが分かる。そして、耳まで赤くなった後に……ポロポロと涙を流した。なんて綺麗なんだろう。
「……エマ嬢…?…返事は?」
指で涙を拭いながら、聞く。期待と不安でどうにかなりそうだ。
「……はい。よろしく、お願いします……わ、私も、ラインハルト様が好きです」
わあっ、と、歓声と悲鳴といろいろな音が、教室中に響き渡る。
そして俺はエマ嬢の言葉の破壊力に、顎に手を当てて顔を天井に向けた。……言葉に出来ない嬉しさだ。
自分の想い人に想いを返してもらえるということは、こんなにも嬉しくて、幸せなことなのか。
知らなかった感情を、また知ることができた。
こうした日を人生で最良の日と表現されるのを、どこか冷めた目で見ていた自分が嘘みたいだ。
今日は間違いなく、俺の人生で最良の日だ。
さすがに女子会に首は突っ込まない。けど、ベル(実は俺の耳である侍女)の情報によると、皆だいぶ打ち解けて、仕事の話も順調そうだったらしい。何よりだ。……俺の話、出なかったみたいだけど……。
ま、まあ、気を取り直して。今朝もお迎えだ。
朝のうちに放課後の約束を取り付けよう。……また、治療院に行くって言うかな?王立病院については話もあるし……それならそれで丁度いいけれど。
なんて、計画を立てていた訳だが。
「おはよう。義姉さん、エントランスに立っていて、どうしたの?…と、皆さんも。おはようございます」
ローズ義姉さんが、誰かを待つようにエントランスに立っていた。ひとまず笑顔で挨拶をする。……また珍しいよな。そして周りのお嬢様方。挨拶は返してくれたものの、皆様、何か言いたげにお見受けしますが。さすがに少し緊張感が。何だ?……エマ嬢が見当たらないし。
「義姉さん……エマ嬢は?」
「エマから頼まれて、貴方を待っていたのよ、ハルト。……今朝は課題の調べ物があるから、先に登校します、って」
「……はっ……?!」
自分の顔色が無くなるのが分かる。
……自分の不甲斐なさを棚に上げて、焦りと苛立ちのような感情が涌き出てきてしまう。顔にも出てしまっているかもしれない。
「…………そう」
思ったより、低い声になってしまう。
「あの、ハルト。エマは嫌だからとかいう訳ではないと思うわ」
義姉さんが慌ててフォローしてくれるが、表情を戻すことが出来ない。出来ないんだよ、エマ嬢。今、どうしてる?誰といる?……本当に嫌じゃなかった?
人前で感情のコントロールが出来ないなんて、初めてだ。
「ありがとう、義姉さん。悪いけど、先に行くね」
俺はエマ嬢の教室に向かって駆け出した。
「だ、大丈夫かしら……?」
「ハルト様のあのようなお顔、初めてですね、ローズ様」
「ええ。セレナ様も、よね?」
「お二人とも!心配ですから、私たちも早く参りましょう!」
「え、ええ、レイチェル」
残ったお嬢様方が心配してくれていたと聞くのは、後の話。
四年生のAクラスに着く。
すると、たくさんの話し声と笑い声が響いている。
中心にいるのは……思った通りと言うべきか……エマ嬢だ。生き生きとした笑顔で、皆と議論している。皆も、心から喜んでいそうだ。
……解っている。エマ嬢にとっても、クラスメートにとっても、当然の権利だ。ましてや彼女は聖女。誰とも分け隔てなく接するのは道理ですらある。そしてそれを理解している彼女は、義務感からだけではなく、人の喜びを自分の喜びに出来る人。……解っているんだ。俺が、どれだけ君に相応しくないか。こんな狭量では駄目だと言うことも。
「セシル様、大袈裟よ。でも嬉しいわ。私で良ければ、いつでもお声掛けをして下さいな。…皆様も」
エマ嬢の言葉に、盛り上がるクラスメート達。……解るよ。
でも、ごめん。
「あ、あの!でしたら今度、私達のお茶会に…」
「それはダメ」
セシル嬢の言葉を遮りながら、後ろからエマ嬢を抱きしめる。
「ら、ラインハルト殿下?!」
セシル嬢が驚きながら言う。……驚くよな。でも、譲れないよ。
「セシル嬢。申し訳ないけれど、それはダメ。君たちのお茶会には、そっちの二人も来るだろう?」
この三家が、懇意なのは認識している。
「ま、あ、その……」
王子権限を振りかざすようで申し訳ないが、なりふり構っていられない。
「ねぇ、エマ嬢?今朝はどうして先に登校したの?」
「あ、あの、殿下。皆さんに失礼ですよ。そんな……」
だから解ってる。
「だってエマ嬢が一人で行くから。どれだけ心配したと思ってるの?……案の定、誘われかけてるし…」
もう、ただの勝手な我が儘でしかないが、知ったことか。
「し、心配と申されましても……」
心外な顔のエマ嬢。それはそうだろう。学園に来るだけなのだから。でも。
「心配だよ」
俺は抱きしめていた腕をほどき、エマ嬢を椅子の横向きに座らせ、自分の方に向ける。
「殿下…?」
不思議そうに首を傾げるエマ嬢。これ、可愛いんだよな。じゃなくて。……伝えないと。
俺はエマ嬢に跪き、彼女の右手を取る。
目を見開いて驚くエマ嬢。
「エマ嬢。私は君が好きだよ。私の唯一だと思っている。……婚約者にしたいのは、国の為だとでも思っていた?」
「……!だっ、だって、その……」
驚いたように手を引こうとするエマ嬢。その手をしっかり握る。離さないよ。
「……何で自己評価が低いかな…」
思わずぼやく。だってって、何だ。
「え?」
「いや。ともかく私は、努力家で、家族思いで、友達思いで優しくて、しっかりしているのに時々やらかすエマ嬢が……可愛くて仕方ない。エマ嬢が聖女でも聖女じゃなくても、側にいて欲しいと願っているよ。……誰にも渡したくないんだ。愛している」
「!!っ、……で…」
「一生共に歩きたい。……改めて、私と婚約をしていただけますか?」
ようやく伝えた。エマ嬢は驚き過ぎて固まっていたようだが、じわじわ、じわじわ、顔が赤くなるのが分かる。そして、耳まで赤くなった後に……ポロポロと涙を流した。なんて綺麗なんだろう。
「……エマ嬢…?…返事は?」
指で涙を拭いながら、聞く。期待と不安でどうにかなりそうだ。
「……はい。よろしく、お願いします……わ、私も、ラインハルト様が好きです」
わあっ、と、歓声と悲鳴といろいろな音が、教室中に響き渡る。
そして俺はエマ嬢の言葉の破壊力に、顎に手を当てて顔を天井に向けた。……言葉に出来ない嬉しさだ。
自分の想い人に想いを返してもらえるということは、こんなにも嬉しくて、幸せなことなのか。
知らなかった感情を、また知ることができた。
こうした日を人生で最良の日と表現されるのを、どこか冷めた目で見ていた自分が嘘みたいだ。
今日は間違いなく、俺の人生で最良の日だ。
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