腹黒王子の初恋

渡 幸美

文字の大きさ
上 下
10 / 16

10.初めての?防衛本能

しおりを挟む
「おはよう、エマ嬢」

「おはようございます、ラインハルト殿下」

今朝もエマ嬢の登校時間に迎えに行く。……様子はどうだろう。


「あの、そういえば昨日もですけれど……結構お待たせしてますか?この時間…」

「ん?いや、大丈夫だよ。エマ嬢のスケジュールは大体認識を……ゴホン、いや、大丈夫だ」

エマ嬢、さすがの気遣いだな。が、君のスケジュールは8割は把握をしてたり……まあ、いろいろなで。

「……そうですか?」

少し怪訝な顔をされる。ヤバイヤバイ。


「そ、それより、昨日はきちんと眠れた?」

話を逸らしながら、気になることを聞く。

「はい!バッチリです!」

えっ?!バッチリ?ま、まあ、そりゃ、体調万全の方がいいに決まっているけども。

「そっか。良かった。……けど、ちょっと残念な気も……」

つい、本音が。

「え?残念?」

「いや、言ってないよ?」

笑顔でスルーだ。……それにしても、この、エマ嬢の落ち着き方。


「……何か…スタート地点に戻ってしまった雰囲気のような……?」

「はい?スターがどうしましたか?」

「何でもないよ?」

やっぱり、安定の天然と言うか……が、炸裂しているような。あれ?


「今日は殿下がおかしくないですか?ちゃんと寝ました?」

真顔で心配される。

「いや、大丈夫、大丈夫、うん」

「本当ですか?」

「本当だよ」

……昨日は、夢でも見たか、俺。

その後はいつものように、エマ嬢のクラスまでエスコートをする。何だ?前進したように感じたのは、俺の思い過ごし?


そんなことを悶々と考えながら、自分の教室に向かって歩き出すと。

「ハルト」

「ローズ義姉さん」

義姉さんに声を掛けられる。……珍しいな。


「おはよう義姉さん。珍しいね。どうしたの?」

「おはよう。……そうね、少し貴方に確認したいことがあって」

「……確認?」

「そう、確認」

何だか含みのある言い方だな。……俺に対しては、珍しい。どうぞ続けて?との意味で、手を差し出す。

「エマを……婚約者に望むのは、彼女が聖女だから?」

「……は?!」

驚いてキツめの反応をしてしまう。


「……今更、何を言ってるの?兄上にもちゃんと話したけど」

「聖女だからではない、と言うことよね」

「当たり前だろ!」

たまたま、エマ嬢が聖女だっただけだ。だからこそ出会えた側面もあるのはあるけれど。……何なんだ、本当に今更。

言った、ということね」

「……?まあ、そうだね。義姉さんにも、兄上から話が行くと思っていたけれど……ダメだった?」

「ダメじゃないわよ?

「…そうだったんだね」 

何だろう。とてつもなく含みがあるよな。

「エマだから、って事よね?」

「……うん。エマが何者でも、エマがいいんだ」

ここは、はっきり伝えておかないと。

「良かったわ。やっぱり分からないもの。」

義姉さんが、やけにいい笑顔で言う。

「お節介でごめんなさいね。私達にとって、エマは本当に大切な友人なものだから」

「……理解しているつもりだよ」

「そうよね。ああ、もう時間になるわね。引き止めて悪かったわ」

「いや……」


義姉さんと別れ、自分の教室に向かう。

しかし、わざわざ何だったんだ。晩餐でも頑張る宣言をしたし、見ていれば分かりそうなものだけれど。

でも、これで二人には伝えたし、変な誤解は無くなるだろう。……二人、には。って、あれ?

「……俺、エマ嬢には……」


言ってないな?!無いよな?!


「そういう、こと?何してんだ、俺……」

きっと、無意識に避けていた。はっきりと伝えて、彼女から決定的な言葉を返されるのを。……逃げていた。

「情けないなあ」

自嘲してしまう。人間の防衛本能って、勝手に発動されるんだな。とか、感心している場合じゃなくて。

わざわざ義姉さんが伝えに来てくれたのは、昨日、あの後エマ嬢と何か話した可能性が高いよな。……期待したくなるけれど……今朝のエマ嬢の妙に吹っ切れた感を見ると、どうなのか判断が難しい。

難しい……が。


「逃がす気も、他の奴に渡すつもりもない」


そう。なのだから。ここは、エマ嬢にも伝えなければ。


なんて、人の気合いを余所に。

その日も、次の日の朝も、エマ嬢の顔を見られないとは考えてもいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

騎士団の世話役

haru.
恋愛
家族と領地のピンチでお兄様に助けを求めに行ったら、酔っぱらいにゃんこに絡まれたーーーー! 気づいたら何だかんだで、騎士団に就職する事になるし、酔っぱらいにゃんこは騎士団長!? ※公爵家の名前をアスベル家に変更しました。 よろしくお願いしますヾ(ΦωΦ)/ 本編は完結済みです。 番外編の更新を始めました! のんびり更新の予定ですが、よろしくお願いします♪

百度目は相打ちで

豆狸
恋愛
「エスポージト公爵家のアンドレア嬢だな。……なにがあった? あんたの目は死線を潜り抜けたものだけが持つ光を放ってる。王太子殿下の婚約者ってのは、そんなに危険な生活を送ってるのか? 十年前、聖殿で会ったあんたはもっと幸せそうな顔をしていたぞ」 九十九回繰り返して、今が百度目でも今日は今日だ。 私は明日を知らない。

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。

Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。 それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。 そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。 しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。 命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

処理中です...