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1.初めての気持ち
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「ジークフリート殿下も優秀だが、ラインハルト殿下もそれ以上な気がしないか?」
「そうだなあ、お二人共に王妃様のお子であるし。秀でている方の方に王太子になっていただきたいな」
それは、確か4歳の頃。
何かの会議が終わった部屋の前を、通りかかって聞こえた会話。
自分で言うが、俺は人より頭がいい。この頃には大人の会話も理解ができていた。
この人たちは、俺を担ぎ上げるつもりか。あんな立派な兄上を差し置いて?……それは嫌だな。ローズ姉ちゃんにも嫌われたくないし。
そこから、俺の自由な王族生活は始まったのだ。
◇◇◇◇◇
「え、兄上が?」
「そうです。何やら影まで動かして、聖女認定をされた娘を監視しているようです」
自室で公務中に、サムから報告を受ける。この執事は護衛と、諜報もできるのだ。
「…ローズ義姉さんは?知ってるの?」
「そのようです。何やらお二人で、ですね」
「……ふ~ん?何だろうね?……まあ一応、こっちも何となく調べておいて?」
「承知致しました」
そう言って、サムは部屋を出て行く。
「聖女、ねぇ。確か30年ぶり……」
国としたら、目出度いだけだが。二人には何かあるのだろうか。
兄上たちの絆はとても深い。あまりの仲の良さに、兄上に言い寄るご令嬢はすでに皆無となる程だ。本人達は若干無意識なんだよなあ、あれ……。兄上が争奪戦から離脱したようなものだから、周りに被害が行ってるし。本人達が靡かなければいい話だけど、どうなるのだか。ともかく、兄上と義姉さんの睦まじさは、幼馴染みだからとの一言では済ませられないと思うのだが、聞くとそう、流される。そしてそれは、義姉さんの魔法属性が判明した後に、更に強くなったようにも感じる。
「憧れの二人か……ご令嬢方の気持ちも、分からなくもないかなあ」
変に早くからいろんな事が理解できてしまっていると、逆に人生を損したような気持ちにすらなってしまう。今は、あの真っ直ぐな二人が、そのまま幸せになってくれたらいい。
「…って、俺はおじいちゃんか……。でも、俺には無理そうだよなあ」
理性が飛ぶようなイメージが全くできない。
10歳で俺は、すでに恋とやらは諦めていた。
俺が学園で3年生になると、ひとつ上に件の聖女様が転入してきた。さらっと調べたけれど、不安材料は無さそう…というより、むしろ優秀で、立派な聖女様との印象しかない。二人は何が引っ掛かっているのだろう?
まあ、少し様子見だな。
そして、聖女様はあっという間に学園に溶け込む。さすがと言うべきか。彼女に懸想している者も多い様子。神官と教師も怪しいのだとか。本人は……見ている限り、誰にも平等だ。……ちょっと、あの二人の雰囲気と被るんだよなあ。気のせいか?
更にしばらくすると、彼女に4人の令息がしつこく纏わりつき始める。聖女らしく対応しているけれど、嬉しくはないのか?表情が読めないな。普通、喜びそうなものだけれど。聖女らしくあろうとしているのか?
……とかやってる間に、兄上とローズ義姉さんは、あっさりと聖女様と仲良くなっていた。何なんだ。
そして王城での三人のお茶会は、防音魔法がかかっていた。こじあけるとバレるから諦めたけど、気になる。
三人は、更に打ち解けた様子。晩餐も共にし、どうやら城に泊まるらしい。……打ち解けすぎじゃね?
「ホントに可愛いんだね!」
「ありがとうございます」
うーん、ぶれないな。にしても、兄上がつっかかってくるなあ。いつもより。……まさか、側妃にとか考えてないよな?!だとしたら、何だかがっかりだ。とか思う俺も、まだまだ純粋かなと自嘲する。
……確かにエマ嬢は可愛らしい。食べてる姿が小動物っぽい。いや、マナーは完璧なんだけど、何だか。つい、言葉が出た。
「エマ嬢って美味しそうに食べるね!あの4人の気持ちも分かるわ~」
「ハルト!」
本人よりも兄上が怒る。何だよ。
「……兄上も狙ってるの?浮気者~!」
いつもの調子で、軽く煽ってみる。てか、何でそんなに怒るのさ。……横でローズ義姉さんが困っている。さすがにやり過ぎたか。
「ラインハルト殿下」
その時、エマ嬢の清廉な声が響く。そして、ふわっと話を回転させて場の空気を変える。兄上たちを持ち上げて、自分の立ち位置もしっかり示して……。何だ、この子。
何より、兄上達の仲の良さを本気で喜んで、楽しんでいるのが分かる。不思議な姉目線?いやむしろ、母目線のような……ともかく、嬉しそうだ。うちの両親も、すっかり懐柔されたな。
人に興味を持つなんて、久しぶりだ。学園よりは無意識に気が緩んでいるのだろう。くるくる変わる表情も面白い。「ふうん、さすが、聖女様か……」
もっと、いろんな表情を見てみたい。
「ホントに兄上たちは仲良しだよねー、羨ましいよー」
わざと棒読みで言ってみる。あ、怪訝な顔をしてる。
ちょっと楽しくなってしまう。
「と、いうわけで、エマ嬢は俺と婚約しようか!」
わあ、すごい固まってるよ、エマ嬢!ほら、いつもの笑顔、笑顔!!
「そうだなあ、お二人共に王妃様のお子であるし。秀でている方の方に王太子になっていただきたいな」
それは、確か4歳の頃。
何かの会議が終わった部屋の前を、通りかかって聞こえた会話。
自分で言うが、俺は人より頭がいい。この頃には大人の会話も理解ができていた。
この人たちは、俺を担ぎ上げるつもりか。あんな立派な兄上を差し置いて?……それは嫌だな。ローズ姉ちゃんにも嫌われたくないし。
そこから、俺の自由な王族生活は始まったのだ。
◇◇◇◇◇
「え、兄上が?」
「そうです。何やら影まで動かして、聖女認定をされた娘を監視しているようです」
自室で公務中に、サムから報告を受ける。この執事は護衛と、諜報もできるのだ。
「…ローズ義姉さんは?知ってるの?」
「そのようです。何やらお二人で、ですね」
「……ふ~ん?何だろうね?……まあ一応、こっちも何となく調べておいて?」
「承知致しました」
そう言って、サムは部屋を出て行く。
「聖女、ねぇ。確か30年ぶり……」
国としたら、目出度いだけだが。二人には何かあるのだろうか。
兄上たちの絆はとても深い。あまりの仲の良さに、兄上に言い寄るご令嬢はすでに皆無となる程だ。本人達は若干無意識なんだよなあ、あれ……。兄上が争奪戦から離脱したようなものだから、周りに被害が行ってるし。本人達が靡かなければいい話だけど、どうなるのだか。ともかく、兄上と義姉さんの睦まじさは、幼馴染みだからとの一言では済ませられないと思うのだが、聞くとそう、流される。そしてそれは、義姉さんの魔法属性が判明した後に、更に強くなったようにも感じる。
「憧れの二人か……ご令嬢方の気持ちも、分からなくもないかなあ」
変に早くからいろんな事が理解できてしまっていると、逆に人生を損したような気持ちにすらなってしまう。今は、あの真っ直ぐな二人が、そのまま幸せになってくれたらいい。
「…って、俺はおじいちゃんか……。でも、俺には無理そうだよなあ」
理性が飛ぶようなイメージが全くできない。
10歳で俺は、すでに恋とやらは諦めていた。
俺が学園で3年生になると、ひとつ上に件の聖女様が転入してきた。さらっと調べたけれど、不安材料は無さそう…というより、むしろ優秀で、立派な聖女様との印象しかない。二人は何が引っ掛かっているのだろう?
まあ、少し様子見だな。
そして、聖女様はあっという間に学園に溶け込む。さすがと言うべきか。彼女に懸想している者も多い様子。神官と教師も怪しいのだとか。本人は……見ている限り、誰にも平等だ。……ちょっと、あの二人の雰囲気と被るんだよなあ。気のせいか?
更にしばらくすると、彼女に4人の令息がしつこく纏わりつき始める。聖女らしく対応しているけれど、嬉しくはないのか?表情が読めないな。普通、喜びそうなものだけれど。聖女らしくあろうとしているのか?
……とかやってる間に、兄上とローズ義姉さんは、あっさりと聖女様と仲良くなっていた。何なんだ。
そして王城での三人のお茶会は、防音魔法がかかっていた。こじあけるとバレるから諦めたけど、気になる。
三人は、更に打ち解けた様子。晩餐も共にし、どうやら城に泊まるらしい。……打ち解けすぎじゃね?
「ホントに可愛いんだね!」
「ありがとうございます」
うーん、ぶれないな。にしても、兄上がつっかかってくるなあ。いつもより。……まさか、側妃にとか考えてないよな?!だとしたら、何だかがっかりだ。とか思う俺も、まだまだ純粋かなと自嘲する。
……確かにエマ嬢は可愛らしい。食べてる姿が小動物っぽい。いや、マナーは完璧なんだけど、何だか。つい、言葉が出た。
「エマ嬢って美味しそうに食べるね!あの4人の気持ちも分かるわ~」
「ハルト!」
本人よりも兄上が怒る。何だよ。
「……兄上も狙ってるの?浮気者~!」
いつもの調子で、軽く煽ってみる。てか、何でそんなに怒るのさ。……横でローズ義姉さんが困っている。さすがにやり過ぎたか。
「ラインハルト殿下」
その時、エマ嬢の清廉な声が響く。そして、ふわっと話を回転させて場の空気を変える。兄上たちを持ち上げて、自分の立ち位置もしっかり示して……。何だ、この子。
何より、兄上達の仲の良さを本気で喜んで、楽しんでいるのが分かる。不思議な姉目線?いやむしろ、母目線のような……ともかく、嬉しそうだ。うちの両親も、すっかり懐柔されたな。
人に興味を持つなんて、久しぶりだ。学園よりは無意識に気が緩んでいるのだろう。くるくる変わる表情も面白い。「ふうん、さすが、聖女様か……」
もっと、いろんな表情を見てみたい。
「ホントに兄上たちは仲良しだよねー、羨ましいよー」
わざと棒読みで言ってみる。あ、怪訝な顔をしてる。
ちょっと楽しくなってしまう。
「と、いうわけで、エマ嬢は俺と婚約しようか!」
わあ、すごい固まってるよ、エマ嬢!ほら、いつもの笑顔、笑顔!!
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