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14.東の花壇にて
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ひまりに言われてたどり着いた、東の花壇。
紫陽花が咲き誇るそこに、その人はいた。
そして、その足下にあるのは……とても凝った装飾の、美しい墓石だ。
美緒さんというのが、きっとひまりのママだ。
その、隣には。
「ひまり……本当にそう、だったのか」
自分にも言い聞かせるように呟いた。
それから俺たちは、目の前にひまりパパがいるのも忘れ、その墓石をしばらくの間見つめてしまっていた。
どのくらい、そうしていたのだろう。
「君たちは、どなたかな?娘を……ひまりを知っているようだが」
低い威厳のある声に、ハッと我に返る。
「すみません、突然お邪魔して。あの、俺たちはひまりちゃんに頼まれて」
「ひまりに、頼まれて……?」
しまった、いろいろ動揺して、話す段取りを間違えた気がする。いや、この親父さんの迫力のある顔から察するに、盛大に間違えた。
「に、兄ちゃん、それじゃ伝わらないよっ」
「そ、そうだけど、他に何て言えば?」
「た、確かに、ひまりが……とか、考えてもいなかったしな」
兄弟でオロオロしながら話していると、明らかに冷たさを増したひまりパパが心の底から吐いたため息が聞こえて来た。
三人でビクッとしながら振り返ると、ひまりパパは呆れた顔を隠さずにいた。
「どうせ、新手の詐欺か何かだろう?今日はもう帰れ、見逃してやる。まだ君たちは未成年じゃないか?これに懲りたら、慣れないことをやるんじゃない。向いていないと思うぞ」
表情は厳つい。けれど、言葉の端々に優しさを感じる。こんな、得体の知らない俺たちに。ひまり、本当だ。パパは優しいな。
「それにしても、関さんはどうしたんだ?珍しいな、こんなこと……」
「あ、あの!本当に、頼まれたんです。ひまりちゃんに」
このまま簡単に引き下がるのはダメだ。俺は更に言葉を重ねる。
(きっと、これはひまりの最後の願い。なんとか叶えてやりたい!親父さんだって、優しい人じゃないか)
「まだ言うのか。あんまりしつこいと警察を……」
「よ、呼んでもいいです!」
「今日、お父さんお誕生日なんですよね?ひまりとプレゼントを作ったんです!」
優真翔真も、必死にいい募る。
「お前ら、本当にいい加減に……!」
「本当かもしれませんよ?旦那様」
第三者の声に、全員で振り返る。そこには、ひまりパパと同い年くらいの男性が立っていた。ひまりが言っていた、秘書さんかな。
「……頼。何を、言って」
「さっき、関さんから内線もらって。お嬢様が帰っていらしたって言うんだよね」
「あっ、じゃあ関じいさんにもひまりちゃんが見えたんだね?良かった!」
「こら、また優真!」
「……関じい?」
「あっ、すみません、ひまりちゃんがそう言ってたから、つい!」
ひまりパパの鋭い眼光にも怯まず、優真はあっけらかんと答える。たぶん、俺らの中で一番順応性が早い。
「ひまり、が……まさか……」
親父さんは頭を押さえながら首を振る。なかなか信じられないみたいだ。それはそうだよなあ。
「ちなみに、ひまりちゃんはプレゼントは何を?」
秘書さんらしき人が、俺たちに向かって訊ねる。
「パパと約束したから、お守りを、と。あと、あ!手紙!手紙もあります。それと、俺ら兄弟と相談して、枯れないように折り紙の花束を……」
「ひまりちゃん、一生懸命作ってました!」
「うん、薔薇の花がキレイに折れないってムクれててかわいかったな。あっ、すみません」
ひまりパパの傷ついたような顔を見て、翔真が慌てて謝る。何も関係のない俺たちが、この数日ひまりといられたのは、この人にとっては辛いはずだ。
秘書さんが、ひまりパパの肩を支える。
「お守り……あの日、確かに言ってましたね。ひまりちゃん」
「…………ああ……」
二人にも、覚えがあるものらしい。
「信じてください。俺たち、本当に頼まれたんです。パパと仲直りしたいから、協力して欲しいって」
「仲、直り……」
「プレゼントです。受け取って下さい」
ひまりパパは、泣くのを堪えるような、悲しさと少しの嬉しさをないまぜにしたような顔をして、震える手で、ようやくプレゼント入りの紙袋を受け取った。
「……ひまり」
ひまりパパがそう呟いて、顔の前で紙袋の取っ手をぎゅっと握った、その時。
『ーーーパパ!良かった!やっと会えた!!』
光の道を笑顔で走ってくる、ひまりがそこにいた。
紫陽花が咲き誇るそこに、その人はいた。
そして、その足下にあるのは……とても凝った装飾の、美しい墓石だ。
美緒さんというのが、きっとひまりのママだ。
その、隣には。
「ひまり……本当にそう、だったのか」
自分にも言い聞かせるように呟いた。
それから俺たちは、目の前にひまりパパがいるのも忘れ、その墓石をしばらくの間見つめてしまっていた。
どのくらい、そうしていたのだろう。
「君たちは、どなたかな?娘を……ひまりを知っているようだが」
低い威厳のある声に、ハッと我に返る。
「すみません、突然お邪魔して。あの、俺たちはひまりちゃんに頼まれて」
「ひまりに、頼まれて……?」
しまった、いろいろ動揺して、話す段取りを間違えた気がする。いや、この親父さんの迫力のある顔から察するに、盛大に間違えた。
「に、兄ちゃん、それじゃ伝わらないよっ」
「そ、そうだけど、他に何て言えば?」
「た、確かに、ひまりが……とか、考えてもいなかったしな」
兄弟でオロオロしながら話していると、明らかに冷たさを増したひまりパパが心の底から吐いたため息が聞こえて来た。
三人でビクッとしながら振り返ると、ひまりパパは呆れた顔を隠さずにいた。
「どうせ、新手の詐欺か何かだろう?今日はもう帰れ、見逃してやる。まだ君たちは未成年じゃないか?これに懲りたら、慣れないことをやるんじゃない。向いていないと思うぞ」
表情は厳つい。けれど、言葉の端々に優しさを感じる。こんな、得体の知らない俺たちに。ひまり、本当だ。パパは優しいな。
「それにしても、関さんはどうしたんだ?珍しいな、こんなこと……」
「あ、あの!本当に、頼まれたんです。ひまりちゃんに」
このまま簡単に引き下がるのはダメだ。俺は更に言葉を重ねる。
(きっと、これはひまりの最後の願い。なんとか叶えてやりたい!親父さんだって、優しい人じゃないか)
「まだ言うのか。あんまりしつこいと警察を……」
「よ、呼んでもいいです!」
「今日、お父さんお誕生日なんですよね?ひまりとプレゼントを作ったんです!」
優真翔真も、必死にいい募る。
「お前ら、本当にいい加減に……!」
「本当かもしれませんよ?旦那様」
第三者の声に、全員で振り返る。そこには、ひまりパパと同い年くらいの男性が立っていた。ひまりが言っていた、秘書さんかな。
「……頼。何を、言って」
「さっき、関さんから内線もらって。お嬢様が帰っていらしたって言うんだよね」
「あっ、じゃあ関じいさんにもひまりちゃんが見えたんだね?良かった!」
「こら、また優真!」
「……関じい?」
「あっ、すみません、ひまりちゃんがそう言ってたから、つい!」
ひまりパパの鋭い眼光にも怯まず、優真はあっけらかんと答える。たぶん、俺らの中で一番順応性が早い。
「ひまり、が……まさか……」
親父さんは頭を押さえながら首を振る。なかなか信じられないみたいだ。それはそうだよなあ。
「ちなみに、ひまりちゃんはプレゼントは何を?」
秘書さんらしき人が、俺たちに向かって訊ねる。
「パパと約束したから、お守りを、と。あと、あ!手紙!手紙もあります。それと、俺ら兄弟と相談して、枯れないように折り紙の花束を……」
「ひまりちゃん、一生懸命作ってました!」
「うん、薔薇の花がキレイに折れないってムクれててかわいかったな。あっ、すみません」
ひまりパパの傷ついたような顔を見て、翔真が慌てて謝る。何も関係のない俺たちが、この数日ひまりといられたのは、この人にとっては辛いはずだ。
秘書さんが、ひまりパパの肩を支える。
「お守り……あの日、確かに言ってましたね。ひまりちゃん」
「…………ああ……」
二人にも、覚えがあるものらしい。
「信じてください。俺たち、本当に頼まれたんです。パパと仲直りしたいから、協力して欲しいって」
「仲、直り……」
「プレゼントです。受け取って下さい」
ひまりパパは、泣くのを堪えるような、悲しさと少しの嬉しさをないまぜにしたような顔をして、震える手で、ようやくプレゼント入りの紙袋を受け取った。
「……ひまり」
ひまりパパがそう呟いて、顔の前で紙袋の取っ手をぎゅっと握った、その時。
『ーーーパパ!良かった!やっと会えた!!』
光の道を笑顔で走ってくる、ひまりがそこにいた。
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