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プロローグ

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「うーん、やっぱりここからの眺めは最高!」

私、ダリシア=イデシス。一応、グリーク王国の侯爵令嬢。17歳。通っているグリーク魔法剣術学園が夏の長期休暇に入ったため、寮から王都の自宅に帰ったところ。

そしてこの場所は、小さい頃からの私のお気に入りの場所。少し高台にある我が家の庭でここにと、王都が一望できるのだ。通る風も気持ちいい。


「きゃあ!お嬢様、やっぱり!!帰る早々に木登りはお止め下さい!危ないですよ!」


私の専属侍女のリズが叫ぶ。見つかってしまった。まあ、昔から毎日のように登っているのだから、当たり前なんだけど。


「大丈夫よ~!登り慣れてるから」

「そういう問題ではございません!」

「ドレスも身軽になったしね?王妃様と聖女様たちのお陰で女性が生きやすくなったわよね~!感謝!!」


そう、グリーク王国は王政だが、ドレスコードや平民の地位などが自由な方向に転換してきている。領主制度だし、身分制度も残っているが、飾り…までとは言わないけれど、名誉職のような感じになっているというか。

何なら、打倒!王政!みたいな流れが起きても不思議ではないくらい、平民も裕福だが。国を護る女神様に愛されている王家は、国民からもかなり愛されているのだ。

聖女様たち凄いしね~!

平和、ありがたい。

「お嬢様。大層らしく語られてますが、王妃様も聖女様も木登りの為に軽装化を進めた訳ではないはずですわ」

「あら、声に出てた?」

「ともかく!降りてくださいませ!旦那様がお呼びです」

「はいはい」

私はリズの冷たい突っ込みとお小言を聞きながら、しぶしぶ木から降りた。




「……は?婚約?ですか?私が?」

父の執務室に向かうと、想定外のことを言われて驚く。

いや、一応貴族令嬢なので、婚約どうこうも、ない話ではないのだが。でも、私、なのだ。

「そう、ダリシア=イデシス、お前に、だ」

お父様は、モレス=イデシス、36歳。今年即位されたジークフリート陛下の1つ上。ちなみに、陛下のご長男のアンドレイ王太子殿下は、私の1つ下だったりする。悪ゆ…もとい、幼馴染みだ。


「こんなお転婆で、魔法研究にしか興味のない私に?」

「そうだ。お転婆で、子どもの頃から生傷が絶えなくて、魔法研究に没頭し始めたら、結果が出るまで一週間でも(学園に勝手に作った)研究所に籠りきりの、世間の皆様から無駄美人と言われている、ダリシアに、だ」

「ちょっと、さすがに失礼ですわよ、お父様」

「自分でも言ってたじゃないか」

「自分で言うのはいいんです!」

私はプイッと横を向く。世間の評判は自分のせいなのだが、それはそれだ。

「そうか。悪かったよ。で、本題だ。こちらが釣書だ。どうする?」

「どうするって、お父様、これって……」


でーん、と見える家紋は。


「カリタス…公爵家ですよね?」

「そうだな。ご嫡男の、ルーエン=カリタス様がお相手だな」


何で公爵家が?ま、まあ、うちは侯爵家だから家格は釣り合うけれど。ルーエン様は23歳、うちと同じ侯爵家のエレクト家は男の子ばかりだし、エルファイデ家は1男2女だけど、まだ幼い。

「あとは王妃様のご実家のイベレスト公爵家…も、弟君が継いだけれど、お子様はお小さいし。王弟殿下のシェール公爵家も、お嬢様はまだ確か8歳……」

そして、私は17歳。ぶつぶつと一人言て、気付く。

「……年齢的に、私がちょうどいいからですね?」

だよねぇ。確か、ルーエン様は社交界で大人気の方だ。わざわざ私をご指名となると、そんなものだろう。

魔法省の二人いらっしゃる副大臣のうちの一人で、もちろん最年少出世…ではないな、長官のエトル様が最速長官だわ、だけど、かなりのスピード出世で有望株なのだ。


「でも今時、家格にこだわらなくてもとも思いますし。そうなると他にもたくさん……公爵家ともなると難しいのかしら?…それとも、他に理由が?ルーエン様も変わり者とか?」


私が冗談半分で呟くと、お父様がスッと視線を逸らす。


「……お父様?」

「いっ、いや、うん!ダリシアがいろいろと考えるのも理解できるが。他にも理由があるのかも知れないよ?心当たりはないのかい?」

父が一応フォローする。まあ、ね?世間的にが付くとは言え、美人なんですよ、私。ライラック色のストレートな髪に、瑠璃色の瞳で、我ながらなかなかだと思う。が。

「いいえ、全く!学園でも私が一年生の時に、あちらはもう六年生でしたし、接点という接点がございませんわ。

それに自分で言いますけれど、私をお誘いする殿方は今まで一人もおりませんでしたし」

……自分で言ってて虚しいが……す、少しだけね!でも、研究より殿方を優先できる自信もないかも……。

結婚していいのか?私。考えた事もなかったけれど。

「そ、そんなこともないだろう?ダリシアは可愛いぞ!アンドレイ殿下もサージュ殿下も、よくお前と遊びたくて取り合っていたではないか」

更にフォローを重ねるお父様。ちなみに、サージュ殿下はアンドレイ殿下の3つ下の弟君だ。

そして、フォローはありがたいですけれど。

「それは子ども時代の話ですわ、お父様」

「そ、そうか。では、どうする?ダリシアもあと一年で学園も卒業するし、悪い話ではないと思うが」

少し前まではこの国も、幼い頃から婚約していて、学園卒業と同時に結婚の流れが大多数だったが、今はだいぶ緩やかだ。学園でお相手を見つける事も多いし、卒業後というのも珍しくなくなってきた。

私も、今の今まで、婚約、ましてや結婚なんて全く頭になかった。

「……正直申し上げて、結婚など全く考えておりませんでしたので、決めかねますが」

「そうか、やはり全く考えてなかったか……うん、コホン。ダリシア、あちらは是非お会いしたいと言って下さっている。断るにしても、一度お会いしてみたらどうだい?」

少しお父様の焦りも見え隠れするけれど。

そして確かに、以前より家格で断り難いとかは無くなっているが、会わずに、というのも失礼かしらね。

研究一筋とはいえ、一応貴族令嬢!ですから。

「そうですね。私に白羽の矢が立った理由も気になりますし……本当に年齢だけが理由かもしれませんが。魔法は私とはですが、何か発見できるかもしれませんし。一度お会いしてみます」

「そうか!うん、父さんもそれがいいと思うぞ!先方には連絡しておく」

お父様、張り切り過ぎてるわ。失敗したかしら。

でも、絶対お見合いも結婚もNO!って拘ってる訳でもないし。

人生経験よね。少し大人への第一歩かしら……ふふ。

「ありがとうございます」

私は素直に頭を下げる。

こうして私とルーエン様のお見合いが決まったのだった。

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