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シンの千年

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「あー、はるかの作ったハンバーグが食べたい!」

「この時代は、そもそも無理じゃな。ほれ、次はこれじゃ」

「っ、ババア!帰って来てから目茶苦茶厳しいぞ!」

「おや、人聞きの悪い。はるかの元に帰りたいのだろう?なら修行するしかないわなあ」

「チッ!分かってるよ!」

含みある笑顔で神様ババアに言われ、俺はしぶしぶと次の書物に手を伸ばす。妖術……神術の勉強は嫌いではないが、その他の勉強は面倒で好きではない。今までも、ずっと逃げてきた。

「でも、約束したしな」

またはるかを泣かせる訳には行かない。

……あの後、気配がした。まあ、正確にはかなり神力が上がっていて、俺じゃビビるくらいの「九尾の狐」の気配だ。

そう、なれるのだ。そしてそうなって、逢いに行くのだから。

「しゃあねぇ、気合い入れるか」

柄にもなく、素直に勉強を始めた俺を見て、ババアが嬉しそうな笑顔を浮かべていたが、気づかないふりをする。

早く、早く戻りたい。あのかけがえのない日常に。その為に、全て強くなる。……本当の意味で。

俺たちにとって、千年なんて鼻で笑うくらいの年月だったけど、待ち人がいるとなると、何て長く感じるのだろう。はるかに会わなければ、永遠に分からない気持ちだった。あのお人好しに貰った愛情を、たくさん返したい。



「ババア!あれ、はるかの直系の祖先だな?」

500年もすると、はるかに近い人間が生まれて来る。

「そうさな、しかし我らの守護範囲ではないからな。手出しはいかんぞ」

「分かってるよ。はるかに会えなくなるかも知れないんだろ?……時々、視てもいいか?」

「……まあ、それくらいならの。向こうの神にも伝えておこう」

「!!ありがとう……っつ、ご、ざいます!」

「全く、いつもそう素直だと良いのだがな」

俺は笑って誤魔化して、はるかの祖先たちを見守る。

どうやらお人好し一族らしい。はるかのは筋金入りなんだな。いろいろとハラハラヤキモキさせられるが、介入出来ないのはもどかしい。ババアの言う通り、歴史を変えてもいけないのは理解しているが。


何のかんのと、はるか一族はお人好しの力で助け合いながら時代を乗り越えて行った。






そしてとうとう。



「オギャア、オギャア!」

はるかの誕生だ。赤ん坊の頃から、何て可愛さだ。

両親も親戚一同も、大喜びだ。祝福のオーラが溢れ出ている。何て幸せで、美しい瞬間。

「ようこそ、はるか。待っていたよ」

神の使いでもなんでも、嬉しいと泣けるもんなんだなと初めて知った。

それからは、慎重に慎重に。はるかの虫除けに勤しむ毎日だ。まだ俺らの守護地域にいないはるかを守るのは、なかなか大変だった。たまに手を出しすぎて、向こうの神様に叱られたり、ババアにフォローしてもらったりしながら、何年か過ごした。

そして、とうとう!

大学入学を機に、はるかがババア守護の地域に引っ越してきた。

あの時、ババアが言っていた通り、はるかの神社への挨拶は気持ちがいい。予定通り?というのか?ババアははるかに加護を付け、俺にはほどほどにするように釘を刺す。


「分かってるな?シン?今までもギリギリではあるのだからな!」

「……はいはい」

そうは言っても、はるかの隣に男がいるのは許容できない。……まあ、まだ俺とは会っていないのだから、本当に好きな奴とかできたら仕方ないのだけれど。

彼女はお人好しのせいか、ダメ男を呼び寄せやすい。だから、ちょっと近くに女をちらつかせれば、すぐに靡く奴が多い。はるかに気に入られているのに、バカな奴等だ。

そのうちに、はるかが気にしていた、「呪われた美女」の噂が出始める。はるかは不本意だろうし、落ち込んでいたが、俺としては好都合。それでも健気に頑張る彼女を見るのは辛さもあったが、めげずに前を向く彼女を誇らしくも感じていた。

でも、最後の奴のときはさすがに痛々しかったな。俺もいい奴だと思っていたんだ。危機感を感じる程に。でも奴も結局、欲に負けた。

大丈夫だ、後は俺には任せてくれればいい。これからはずっと、これでもかって程俺が甘やかすから。


はるかだけを一途に。


俺が関わっていたと聞いたら、驚くかな?怒るかな?でも俺は女を近くに置いただけで、自制心とはるかへの気持ちが強ければ、起きないことだったのだ。だから許してくれるかな?


はるかはお人好しだから、謝れば許してくれるかな、なんて。……さすがに怒るか。


でも、楽しみだな。早く、早くその時にならないかな。




二人の再会まで、あと少し。


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