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状況確認 2

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シンはハンバーグを三枚ペロリと平らげ、ご飯も三杯おかわりをして、夕飯を終えた。そしてはるかが片付けを始めて水道から水を出すと、シンは「うわっ!」と驚く。


「何だそれ?水か?何かの妖術か?!」

「違うわよ。……片付けが終わったら説明するから」

「うむ。承知した」


意外にも素直にシンは引き下がり、キラキラとした目で片付けを見ている。将来の?大物妖怪には思えないくらいだ。


(そりゃあ、平安時代時代からしたら、魔法みたいに見えるわよね、ちょっと蛇口を捻れば水が出るとか)


ふふふっ、と、はるかはつい顔が緩む。本人が妖怪だ!と騒いでも、はるかにはあんまり邪気を感じ取れなくて、微笑ましく見てしまう。耳と尻尾は付いているのだが。逆にそれが幼稚園の発表会とかを連想してしまって、和んでしまうのだ。


はるかはいつもよりも楽しい気分で片付けを終えた。






「さて、改めて状況確認をします」

「おう」


二人はリビング兼寝室で、テーブルの挟んで座っている。


「私の憶測だけれど。今のは、シンがいた時代ではないわ。何があったのかは分からないけど、シンが生きていた時代から千年以上飛ばされていると思う」

「は?!千年?……チッ、あのババア……」

「思い当たることがあるの?」

「……まあ、たぶん……」


シンは濁しながら、ゴニョゴニョと言いづらそうに説明を始めた。

要約すると。九尾の狐候補こと、妖狐のシンは、他の妖狐に越されぬよう、早く強くなりたかった。

手っ取り早いのは、妖力をあげること。彼は一帯の守り神様のお社の結界を壊してみたり、人に化けて人間を騙して食べ物を奪ったり、迷わせたり、喧嘩させたりと、好き放題やっていた。

神様はそんな彼を何度も説教してくれたが、強くなりたいシンには届かず。寧ろ煩わしく思って、ある日、全妖力を神様にぶつけたらしい。何てことだ。


でもそこは、さすがにもう貫禄のある神様だ。シンがババア呼ばわりするだけあって、古くからの神様らしい。神様はあっさりとその全妖力を本人に返した。更に倍にして。少しは懲りて、他人の痛みを分かるようになりなさいと諌められたらしい。


「しかも、妖力が戻れば傷なんて治るのに、妖力を押さえる結界に入れられてなかなか治せなくてな」

「ああ……本当に叱られたのね……」

「頭に来たから、少し回復した力を使って、結界をこじ開けて出ようと思ったのだ」

「きゃあ、何をしてるの?!」

「……さすがに無理をしたらしい。結界は出られたようだが、その後の覚えがない。傷が広がったのは分かったが……そして気づいたら、はるかの部屋にいた」

「……あの傷は、無理をしたからなのね」

結界やら何やらが絡まって、この時代に飛んできてしまったのだろうな、と、シンは軽く言う。


「シンは、近くの神社で倒れていたのよ。酷い傷で……」

「ああ、ババアの神社だな?だいぶ気配は薄いが……場所はたぶん、千年前と一緒なのかもしれんな。……それにしても、千年後とは……」

「ふふっ、信じられない?じゃあ、外を見てみて」

「外?」

「実は今、夜だからね!」

「夜?こんなに明るいのにか?」


シンは電気の存在に気づき、感心しきりだ。妖力を流そうとするので、はるかは慌てて止めた。そしてベランダに出て、二人で夜の景色を見る。


「これは……すごいな。美しい」

「でしょう?もっとすごい所もたくさんあるけど、ここからの景色もなかなかなんだ」


賑やか過ぎない、生活の灯り。この夜景をはるかは気に入っていた。


少しの間、二人でそれを堪能して、また部屋に戻る。


「納得できた?」

「ああ。千年後か……こうも変わるのか。そういえば、もののけの気配をあまり感じぬな。こう、明るいと難しくなるのか……」


シンが難しい顔をしている。はるかも本で読んだことがある。暗闇と共に、もののけが消えてきたーーーと。


「寂しい?」

「そう、だな。しかし淘汰されるのならそれは仕方のないことでもあるしな」

「結構悟っているのね」

「そりゃあの。俺は九尾の狐候補だと言ったろうが」


それがどう繋がるかは、はるかには分からなかったが、もしかしたら自分達が想像する九尾の狐とは何かが違うのかも、と漠然と思った。顔は本当に綺麗だけれど。


「それで?シンはこれからどうするの?元の時代に帰れるの?」

「いや、知らん」

「知らんて……」

「意識がなく飛ばされたからなあ。しばらく様子を見るしかなかろうな。この時代は分からぬし、はるか、しばし世話になるぞ」

「軽っ!まあ、いいけど……」


口はまあ、あれだけど、可愛いし。想像していた妖怪より全然怖くないし。


「よし、そうと決まればいろいろ教えろ。はるかは治癒師なのか?あのババアの守り人か?なぜ俺の力が効かない」

「全くわからないわ」

「嘘……ではないな」

「分かるの?」

「ああ、嘘は見抜ける。それに……ああ、男運がないようだな、はるか」

「ちょ!何?記憶とか見れるの?それ、ダメなやつ!」


はるかの猛抗議は、シンに笑って流される。見た目5歳児の美少年に弄られるのは、かなり痛い。


「もう、そんなことするなら、出て行って!!」


「えっ、僕がいたらダメなの?はるかお姉ちゃん……」


美少年が泣き落としをしてきた。いや、騙されるな、はるか。狐よ、狐。50年生きてる奴なのよ。


「もうしないよ……ね?」


うるうるとした瞳で見つめられ、首をコテンとされたら、あっという間に陥落だ。


「っ、次は無いからね!」

「分かった!」


うう、ぱあっとした笑顔のなんて神々しいことか。これは騙される。被害者の気持ちが痛いほど分かるはるかであった。


なんのかんので、こうして二人は同居することになった。

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