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状況確認 2
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シンはハンバーグを三枚ペロリと平らげ、ご飯も三杯おかわりをして、夕飯を終えた。そしてはるかが片付けを始めて水道から水を出すと、シンは「うわっ!」と驚く。
「何だそれ?水か?何かの妖術か?!」
「違うわよ。……片付けが終わったら説明するから」
「うむ。承知した」
意外にも素直にシンは引き下がり、キラキラとした目で片付けを見ている。将来の?大物妖怪には思えないくらいだ。
(そりゃあ、平安時代時代からしたら、魔法みたいに見えるわよね、ちょっと蛇口を捻れば水が出るとか)
ふふふっ、と、はるかはつい顔が緩む。本人が妖怪だ!と騒いでも、はるかにはあんまり邪気を感じ取れなくて、微笑ましく見てしまう。耳と尻尾は付いているのだが。逆にそれが幼稚園の発表会とかを連想してしまって、和んでしまうのだ。
はるかはいつもよりも楽しい気分で片付けを終えた。
◇
「さて、改めて状況確認をします」
「おう」
二人はリビング兼寝室で、テーブルの挟んで座っている。
「私の憶測だけれど。今のここは、シンがいた時代ではないわ。何があったのかは分からないけど、シンが生きていた時代から千年以上飛ばされていると思う」
「は?!千年?……チッ、あのババア……」
「思い当たることがあるの?」
「……まあ、たぶん……」
シンは濁しながら、ゴニョゴニョと言いづらそうに説明を始めた。
要約すると。九尾の狐候補こと、妖狐のシンは、他の妖狐に越されぬよう、早く強くなりたかった。
手っ取り早いのは、妖力をあげること。彼は一帯の守り神様のお社の結界を壊してみたり、人に化けて人間を騙して食べ物を奪ったり、迷わせたり、喧嘩させたりと、好き放題やっていた。
神様はそんな彼を何度も説教してくれたが、強くなりたいシンには届かず。寧ろ煩わしく思って、ある日、全妖力を神様にぶつけたらしい。何てことだ。
でもそこは、さすがにもう貫禄のある神様だ。シンがババア呼ばわりするだけあって、古くからの神様らしい。神様はあっさりとその全妖力を本人に返した。更に倍にして。少しは懲りて、他人の痛みを分かるようになりなさいと諌められたらしい。
「しかも、妖力が戻れば傷なんて治るのに、妖力を押さえる結界に入れられてなかなか治せなくてな」
「ああ……本当に叱られたのね……」
「頭に来たから、少し回復した力を使って、結界をこじ開けて出ようと思ったのだ」
「きゃあ、何をしてるの?!」
「……さすがに無理をしたらしい。結界は出られたようだが、その後の覚えがない。傷が広がったのは分かったが……そして気づいたら、はるかの部屋にいた」
「……あの傷は、無理をしたからなのね」
結界やら何やらが絡まって、この時代に飛んできてしまったのだろうな、と、シンは軽く言う。
「シンは、近くの神社で倒れていたのよ。酷い傷で……」
「ああ、ババアの神社だな?だいぶ気配は薄いが……場所はたぶん、千年前と一緒なのかもしれんな。……それにしても、千年後とは……」
「ふふっ、信じられない?じゃあ、外を見てみて」
「外?」
「実は今、夜だからね!」
「夜?こんなに明るいのにか?」
シンは電気の存在に気づき、感心しきりだ。妖力を流そうとするので、はるかは慌てて止めた。そしてベランダに出て、二人で夜の景色を見る。
「これは……すごいな。美しい」
「でしょう?もっとすごい所もたくさんあるけど、ここからの景色もなかなかなんだ」
賑やか過ぎない、生活の灯り。この夜景をはるかは気に入っていた。
少しの間、二人でそれを堪能して、また部屋に戻る。
「納得できた?」
「ああ。千年後か……こうも変わるのか。そういえば、もののけの気配をあまり感じぬな。こう、明るいと難しくなるのか……」
シンが難しい顔をしている。はるかも本で読んだことがある。暗闇と共に、もののけが消えてきたーーーと。
「寂しい?」
「そう、だな。しかし淘汰されるのならそれは仕方のないことでもあるしな」
「結構悟っているのね」
「そりゃあの。俺は九尾の狐候補だと言ったろうが」
それがどう繋がるかは、はるかには分からなかったが、もしかしたら自分達が想像する九尾の狐とは何かが違うのかも、と漠然と思った。顔は本当に綺麗だけれど。
「それで?シンはこれからどうするの?元の時代に帰れるの?」
「いや、知らん」
「知らんて……」
「意識がなく飛ばされたからなあ。しばらく様子を見るしかなかろうな。この時代は分からぬし、はるか、しばし世話になるぞ」
「軽っ!まあ、いいけど……」
口はまあ、あれだけど、可愛いし。想像していた妖怪より全然怖くないし。
「よし、そうと決まればいろいろ教えろ。はるかは治癒師なのか?あのババアの守り人か?なぜ俺の力が効かない」
「全くわからないわ」
「嘘……ではないな」
「分かるの?」
「ああ、嘘は見抜ける。それに……ああ、男運がないようだな、はるか」
「ちょ!何?記憶とか見れるの?それ、ダメなやつ!」
はるかの猛抗議は、シンに笑って流される。見た目5歳児の美少年に弄られるのは、かなり痛い。
「もう、そんなことするなら、出て行って!!」
「えっ、僕がいたらダメなの?はるかお姉ちゃん……」
美少年が泣き落としをしてきた。いや、騙されるな、はるか。狐よ、狐。50年生きてる奴なのよ。
「もうしないよ……ね?」
うるうるとした瞳で見つめられ、首をコテンとされたら、あっという間に陥落だ。
「っ、次は無いからね!」
「分かった!」
うう、ぱあっとした笑顔のなんて神々しいことか。これは騙される。被害者の気持ちが痛いほど分かるはるかであった。
なんのかんので、こうして二人は同居することになった。
「何だそれ?水か?何かの妖術か?!」
「違うわよ。……片付けが終わったら説明するから」
「うむ。承知した」
意外にも素直にシンは引き下がり、キラキラとした目で片付けを見ている。将来の?大物妖怪には思えないくらいだ。
(そりゃあ、平安時代時代からしたら、魔法みたいに見えるわよね、ちょっと蛇口を捻れば水が出るとか)
ふふふっ、と、はるかはつい顔が緩む。本人が妖怪だ!と騒いでも、はるかにはあんまり邪気を感じ取れなくて、微笑ましく見てしまう。耳と尻尾は付いているのだが。逆にそれが幼稚園の発表会とかを連想してしまって、和んでしまうのだ。
はるかはいつもよりも楽しい気分で片付けを終えた。
◇
「さて、改めて状況確認をします」
「おう」
二人はリビング兼寝室で、テーブルの挟んで座っている。
「私の憶測だけれど。今のここは、シンがいた時代ではないわ。何があったのかは分からないけど、シンが生きていた時代から千年以上飛ばされていると思う」
「は?!千年?……チッ、あのババア……」
「思い当たることがあるの?」
「……まあ、たぶん……」
シンは濁しながら、ゴニョゴニョと言いづらそうに説明を始めた。
要約すると。九尾の狐候補こと、妖狐のシンは、他の妖狐に越されぬよう、早く強くなりたかった。
手っ取り早いのは、妖力をあげること。彼は一帯の守り神様のお社の結界を壊してみたり、人に化けて人間を騙して食べ物を奪ったり、迷わせたり、喧嘩させたりと、好き放題やっていた。
神様はそんな彼を何度も説教してくれたが、強くなりたいシンには届かず。寧ろ煩わしく思って、ある日、全妖力を神様にぶつけたらしい。何てことだ。
でもそこは、さすがにもう貫禄のある神様だ。シンがババア呼ばわりするだけあって、古くからの神様らしい。神様はあっさりとその全妖力を本人に返した。更に倍にして。少しは懲りて、他人の痛みを分かるようになりなさいと諌められたらしい。
「しかも、妖力が戻れば傷なんて治るのに、妖力を押さえる結界に入れられてなかなか治せなくてな」
「ああ……本当に叱られたのね……」
「頭に来たから、少し回復した力を使って、結界をこじ開けて出ようと思ったのだ」
「きゃあ、何をしてるの?!」
「……さすがに無理をしたらしい。結界は出られたようだが、その後の覚えがない。傷が広がったのは分かったが……そして気づいたら、はるかの部屋にいた」
「……あの傷は、無理をしたからなのね」
結界やら何やらが絡まって、この時代に飛んできてしまったのだろうな、と、シンは軽く言う。
「シンは、近くの神社で倒れていたのよ。酷い傷で……」
「ああ、ババアの神社だな?だいぶ気配は薄いが……場所はたぶん、千年前と一緒なのかもしれんな。……それにしても、千年後とは……」
「ふふっ、信じられない?じゃあ、外を見てみて」
「外?」
「実は今、夜だからね!」
「夜?こんなに明るいのにか?」
シンは電気の存在に気づき、感心しきりだ。妖力を流そうとするので、はるかは慌てて止めた。そしてベランダに出て、二人で夜の景色を見る。
「これは……すごいな。美しい」
「でしょう?もっとすごい所もたくさんあるけど、ここからの景色もなかなかなんだ」
賑やか過ぎない、生活の灯り。この夜景をはるかは気に入っていた。
少しの間、二人でそれを堪能して、また部屋に戻る。
「納得できた?」
「ああ。千年後か……こうも変わるのか。そういえば、もののけの気配をあまり感じぬな。こう、明るいと難しくなるのか……」
シンが難しい顔をしている。はるかも本で読んだことがある。暗闇と共に、もののけが消えてきたーーーと。
「寂しい?」
「そう、だな。しかし淘汰されるのならそれは仕方のないことでもあるしな」
「結構悟っているのね」
「そりゃあの。俺は九尾の狐候補だと言ったろうが」
それがどう繋がるかは、はるかには分からなかったが、もしかしたら自分達が想像する九尾の狐とは何かが違うのかも、と漠然と思った。顔は本当に綺麗だけれど。
「それで?シンはこれからどうするの?元の時代に帰れるの?」
「いや、知らん」
「知らんて……」
「意識がなく飛ばされたからなあ。しばらく様子を見るしかなかろうな。この時代は分からぬし、はるか、しばし世話になるぞ」
「軽っ!まあ、いいけど……」
口はまあ、あれだけど、可愛いし。想像していた妖怪より全然怖くないし。
「よし、そうと決まればいろいろ教えろ。はるかは治癒師なのか?あのババアの守り人か?なぜ俺の力が効かない」
「全くわからないわ」
「嘘……ではないな」
「分かるの?」
「ああ、嘘は見抜ける。それに……ああ、男運がないようだな、はるか」
「ちょ!何?記憶とか見れるの?それ、ダメなやつ!」
はるかの猛抗議は、シンに笑って流される。見た目5歳児の美少年に弄られるのは、かなり痛い。
「もう、そんなことするなら、出て行って!!」
「えっ、僕がいたらダメなの?はるかお姉ちゃん……」
美少年が泣き落としをしてきた。いや、騙されるな、はるか。狐よ、狐。50年生きてる奴なのよ。
「もうしないよ……ね?」
うるうるとした瞳で見つめられ、首をコテンとされたら、あっという間に陥落だ。
「っ、次は無いからね!」
「分かった!」
うう、ぱあっとした笑顔のなんて神々しいことか。これは騙される。被害者の気持ちが痛いほど分かるはるかであった。
なんのかんので、こうして二人は同居することになった。
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