ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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5巻

5-1

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 邪神封印の装備を探索する使命を受けた勇者――エスト達が領地で休暇を過ごしている頃、魔族領では一人の魔族が王城に呼び出されていた。
 魔王城。全ての魔族をべる魔王の居城であり、神話の時代に邪神が封印された場所でもある。
 黒一色の外壁は禍々まがまがしく、魔族以外がこの城に足を踏み入れれば、生きては出られないと本能的に感じるだろう。
 ただ通路を歩くだけで息苦しい王城の中を、その魔族は王の待つ謁見えっけんの間を目指し歩いていた。トートだ。
 リオグランドでの闘技会で神の力を宿す盾を奪取しようとしてエストにはばまれ撤退した彼は、その経緯を説明するために魔王のもとへ向かっていた。

「第二階級魔族トート、お呼びにより参上いたしました!」
「入れ」

 謁見の間と外界がいかい遮断しゃだんする巨大な扉の前まで来たトートが、声を張り上げて来訪を告げると、低く威圧感のある声が入室を許可した。内側に開く扉をくぐれば、血のように真っ赤な絨毯じゅうたんが伸びる先にある玉座ぎょくざに、頭に二本のつのを生やした、がっしりした体躯たいくの男が座っているのが見えた。
 気だるそうに玉座に片肘かたひじをつくその男から、圧倒的な威圧感がただよってくる。あれこそが全ての魔族の頂点に立つ存在、魔王だ。
 その厳しい視線から目をらさずにぐ歩いて行くと、近づくたびに背中に何本もの氷柱つららを突っ込まれたような気分になるが、気圧けおされないように腹に力をめる。
 玉座の横には、魔王を守るために控える四人の男女の姿があった。彼等こそ魔王の腹心である四天王してんのうと呼ばれる者達だ。
 剣をきわめたブレイド、槍を極めたランス、弓を極めたアルク、精霊魔法を極めたフューリ、それぞれが武器や魔法の達人で、他の追随ついずいを許さない。魔王を頂点とした階級制度のある魔族領では、彼等四人のみが第一階級という地位にあるのだった。
 そんな彼等の視線を受けながら、玉座の前に辿たどり着いたトートはその場にひざまずいた。許可なく頭を上げる事は許されない不敬ふけいであり、四天王をのぞいては、この場に来る誰もが魔王に深々と頭を下げなければならなかった。

「トートよ、盾の入手に失敗したそうだな」
「……申し訳ございません、陛下。盾を直接手に入れる好機をみすみす逃してしまいました。……勇者を自称する人間の手によって」

 勇者という単語に場の空気が変わる。かかった……! と、トートは内心ほくそ笑む。彼は考えなしにこの場に現れたのではない。いかに自分の身の安全と地位の維持をはかるか、そのための切り札がこれだ。
 ただ謝罪するだけなら厳罰はまぬがれない。そこで、勇者の話を持ち出せば流れが変わると踏み、それがねらい通りにハマったのだ。

「勇者か……その者、確か腕輪の時も我等の前に立ちはだかったと聞いたが」
「陛下、グリトニル聖王国で我等の手先として動いていた教皇きょうこう討伐とうばつしたのもその者です」

 魔王のつぶやきに四天王の一人、ブレイドが補足する。勇者とはな……と、四天王達は興味を引かれたようにささやき合う。神話の時代より、彼等魔族の不倶戴天ふぐたいてんの敵と言えば勇者なのだ。

「それほどの者ならば、お前には荷が重かったか。ならば今回の失敗は不問にしよう。ランス、アルク」
「「はっ!」」

 魔王の言葉に、四天王の内二人、槍のランスと弓のアルクが即座に反応する。その場に跪くと、一言も聞き漏らすまいというようにこうべれる。

「貴様等は配下を引き連れて、勇者を自称する人間共を討伐せよ。これ以上邪魔されるのは目障めざわりだ」
「「承知しました」」
「以上だ。は疲れた。下がれ」

 新たな任務を与えられた四天王や、叱責しっせきを免れたトートが謁見の間から退室する。極度の緊張から解放されたトートはその場に座り込みたくなるのをこらえ、城内にある自室へ足早に帰ると、扉を閉めて人の気配が無いのを確認した途端、叫び始めた。

「なぁにぃが、四天王だ馬鹿馬鹿しい! 昔のゲームじゃあるまいし、自分で言ってて恥ずかしくならんのか、あの馬鹿共は!」

 ――と、確かにトートは口走った。
 そう、彼の正体はエストと同じ上位世界から落ちてきた転生した元人間なのだ。
 彼がアーカディアの世界に生まれ落ちたのはエストより十年以上昔であり、転生した時の条件や環境も違う。
 彼は特殊なスキルを望まない代わりに、最も強靭きょうじんな種族に生まれる事を希望したのだ。その結果、この世界で最も力を持つがきらわれる魔族に転生し、ただひたすら魔王の地位を求めて奮闘ふんとうしてきた。
 散々わめき散らした事で少しは気が晴れたのか、トートはベッドに飛び乗ると大の字になって寝ころんだ。

「だがまあいい。最初から全力でいくならともかく、わざわざ戦力の逐次ちくじ投入なんて愚かな真似まねをしてくれたんだ、高みの見物をさせてもらおうじゃないか」

 彼は魔王や四天王達に、敬意など欠片かけらも持ち合わせていない。彼にとって全ての魔族は、自分がのし上がるための踏み台でしかないのだ。

「それにしてもあのエストって男……あの若さであの強さ、ほぼ間違いなく俺と同類だな。でなきゃあんな強くなる訳が無い。奴なら上手く四天王達を削ってくれるだろうし、その間に俺は力をつけるとするか」

 そう呟き、ニヤリと笑うトート。エストが領地でのんびり休暇を楽しんでいる間に、彼等を狙う魔族の動きが活発化していた。


         ‡


「兄様、私空を飛べるようになったわ!」
「……は?」

 俺――エストの妹分である海竜のレヴィアが、突然訳のわからない事を言い出した。
 シーティオでの戦いの後、俺達は領地で冒険者学校の生徒に授業をしたり、ダンジョンに潜ってレベルアップしたりと、自由に過ごしていた。
 先日ダンジョンを攻略した際に、レヴィアが新たな姿に進化した。どうやらその時に、以前には無かった力を得たようだ。
 なんでも空中を海の中と同様に泳ぐ事が出来るんだとか。どう考えても眉唾物まゆつばものだったので、実演してもらう事にした。
 領主館の裏に回ったレヴィアはいそいそと服を脱ぎ、竜の姿で再び俺達の前に現れた。
 進化した彼女の姿は、東洋の伝承にある黄竜そのものだ。口から生えた長いひげに鹿のような角、金色に光るうろこ。改めて見ても、その変化には驚かされる。
 レヴィアはその巨大な頭を地面につけ、犬で言うところの伏せの姿勢を取った。

「みんな私の背中に乗って!」

 以前、光竜連峰でドラゴンの背中に乗った事はあるが、あの時は風の抵抗と冷気で随分酷い目にった。確かに高速で空を移動できるメリットははかり知れないが、決して乗り心地のいものでは無かった。
 そしてあの時同様、ディアベルは蒼白そうはくな顔でレヴィアの背中に乗るのを躊躇ちゅうちょしていた。やはり高い所は駄目なのかディアベル……。

「レ、レヴィア……私は遠慮しておくよ……」
「えぇ~なんでなんで!? お姉ちゃんも乗ってよ!」
「いやしかし……」
「ディアベル、俺が落ちないように支えててあげるから。それなら大丈夫だろ?」

 実際レヴィアの背中は西洋風のドラゴンと違い、大きな角やたてがみなどつかめる部分が多いので、そこまで不安定でもなさそうだ。しぶい顔をするディアベルを俺とレヴィアの二人がかりで説得する。
 覚悟を決めたディアベルはレヴィアの背中に登り、頭の角を掴んだ。これなら落ちる事も無い……はず。思い思いの場所に腰を下ろしたクレア達は鱗や鬣を掴んで体を固定する。

「じゃあ行くわよ!」

 レヴィアがそう言うと、視界が徐々に上昇してビルの三、四階相当の高さにまで持ち上がった。体を起こしただけでこの高さとか、一回り以上は大きくなってないか?
 俺の驚きを他所よそにレヴィアの体は更に上昇を続ける。羽ばたきもしないので、まさに浮くという表現がぴったりだ。体をうねらせながら徐々に上昇したレヴィアは、一声上げるとそのまま大空へ向けて泳ぎ出した。

「すごーい!」
「物凄い速さです!」
「クワー!」

 シャリーやクレア、ドランなどは大喜びでその速さに驚いている。
 そう、今回は驚く余裕があったのだ。どういう仕組みかわからないが、なぜかレヴィアの背中に乗っていると風の抵抗をほとんど受けないので、飛行を楽しむ余裕が生まれる。最初は固く目をつむっていたディアベルが、あまりの静けさに驚いて辺りを見回すほどだった。

「なんで風が……どうなってるんだ?」
「たぶんレヴィアの力だと思うよ」

 きょろきょろしているディアベルはレヴィアの頭の上に立ち上がり、角を両方掴んで景色を楽しみ始めた。恐怖でガチガチになっていた顔に笑みが浮かぶ。
 その微笑ましい光景を見ながら俺は全く違う事を考えていた。

(こんな光景をどっかで見たな……。昔話的なアニメのオープニングがこんな感じだった。あと二頭身ロボットのコクピットとか……。こいが滝を登り切ると竜になるとかいう伝説があったが、レヴィアの場合は海竜から黄竜になったからそれには当てはまらないのか?)

 そんなどうでもいい事を思い浮かべているうちに、遊覧ゆうらん飛行は終わりを告げた。段々と高度を下げたレヴィアは出発地点の領主館前に着地する。降りる途中で村人達が大騒ぎしているのが見えたから、また噂が広がれば村の良い宣伝になるかもしれない。

「到着~」

 レヴィアの背から飛び降りた俺達が口々にたたえると、彼女はとてもわかりやすく有頂天うちょうてんになり、背中をらして得意げになっていた。その巨体で背中を反らすと領主館を直撃しそうだったのでハラハラした。
 今回はディアベルも人の手を借りずに自力で降りる事が出来たようだ。これで高所恐怖症がよくなるといいのだが。このレヴィアの飛行能力を使えば、次の国に入国するのは簡単かもしれない。


 次に向かおうと思っている国……ヴルカーノはけわしい山々に囲まれた天然の要害ようがいだ。周囲の国とほとんど交流の無いこの国に勝手に侵入すれば、敵とみなされて排除される危険があった。
 しかし、だからと言って行かないという選択肢は取れない。指輪が眠る可能性がある以上、調べる必要があるのだ。
 今回探すのは、神の力を宿す装備の最後の一つ、黒と白の一対いっついの指輪だ。具体的な能力は不明だが、一つだけで他の装備に対抗できるらしい。最後にして最強の装備という訳だ。
 姿を変える偽りの指輪は連続で使えないし、ちょっとした衝撃で変身がバレてしまう恐れがあるので最初から考慮に入れてない。あくまでもいつもの姿で入国する必要があった。
 ヴルカーノの住民のほとんどはトカゲ人間……所謂いわゆるリザードマンと呼ばれる人種で構成されている。独特の文化を築く彼等は、翼竜よくりゅうを手なずけているので他国に比べて空戦能力が高い。ドラゴンライダーと呼ばれる兵種は脅威だが、今のレヴィアがいれば大丈夫だろう。

「ヴルカーノに向かうのは明日にしよう。ガルシア王国まで転移して、そこからはレヴィアの背中に乗って山越えだ。陸路は封鎖ふうさされているし、空から行くしかない。頼んだぞ、レヴィア」
「任せて! 世界中どこでも連れてってあげるわ!」

 集まってきた野次馬達に見せつけるように、巨体を誇らしげに反らすレヴィア。若干不安はあるものの、今はその自信を信じよう。
 変身を解こうと館裏に引っ込んだレヴィアのために、俺は野次馬達を追い返すのだった。


 ガルシア王国に転移した俺達は、レヴィアに変身してもらって空の上から南下を始めていた。遥か先には険しい山脈が続いている。あれを徒歩で越えるのは相当な困難に見える。
 出発した後しばらくは、ガルシア王国のペガサスライダーなどにも見つからずに快適に進めていたのだが、ヴルカーノの領土である山脈上空を通過した時から様子が変わってきた。
 遠目に見えていた米粒ほどの点がみるみる近寄ってくると、レヴィアと並んで飛行し始めたのだ。
 隣に飛んでいるのは小型のワイバーンにまたがったリザードマン。これがヴルカーノご自慢のドラゴンライダーなのだろう。
 リザードマンが何やらこちらに向かって叫んでいるが、風切り音が凄くて何を言っているのかわからない。手を上下にバタバタと動かしているので、鳥の物真似ものまねでもしているのだろうか?

「主殿、あれは下に降りろと言っているのではないのか?」
「そう……なのかな? でも下は岩山しか無いし、降りられそうな所なんか無いんだが……」

 そのうちに諦めたのか、リザードマンはレヴィアから離れると俺達と同じ方向に先行し始めた。流石さすがに飛ぶために生まれてきた竜だけあって、飛行速度はレヴィアよりも速いみたいだ。
 あっと言う間に見えなくなったドラゴンライダーだったが、しばらくすると再び姿を現した。今度は大勢で、しかも緑色の巨大なドラゴンを引き連れて。
 おつむの方はどうか知らないが、大きさで言えばファフニルに匹敵ひってきするぐらいだ。あれに攻撃されてはレヴィアとて無事ではいられまい。

「……なあ、あれってこっちを攻撃するつもりなのかな?」
「そうとしか思えないんだが……」
「ご主人様、戦いになりますか?」
「シャリーもパチンコで戦えるよ?」

 ひょっとしてさっきのは、領空侵犯するやから穏便おんびんに誘導するためにやっていたのか? だとしたらマズい事になる。
 前世でも一部の国では、領空や領海を侵犯した者達には警告なしの撃墜げきつい撃沈げきちんが行われていた。彼等からすれば、俺達は見た事も無い形状のドラゴンに乗った不法侵入者でしかなく、迎撃げいげきするのは当然の流れに思えた。

「やばいな……レヴィア、すぐに高度を落として地上に降りてくれ! このままじゃ攻撃されるかもしれない!」
「えぇっ!? そんな事急に言われても……。じゃあ……あの辺でいいかな」

 レヴィアは急速に高度を落として少し開けた場所を目指すが、その時にはドラゴンライダー達がレヴィアの巨体に殺到さっとうしていた。手にした槍を金色の鱗に叩きつけ、彼等が騎乗きじょうしているワイバーンも鉤爪かぎづめや牙で攻撃を開始する。

「ちょっと! いたた! やめてよね!」

 以前よりも頑丈になっているレヴィアの体に、彼等の攻撃はほとんど通用しない。繰り出された槍は簡単に跳ね返され、牙や爪は鱗を少し削る程度だ。
 反撃したいところだが、ここで彼等を蹴散けちらすと話がややこしくなって、指輪の探索はおろか入国さえ困難になる。守りを固めて耐えるしかない。
 攻撃を受けているのはレヴィアだけでなく、彼女の上に乗っている俺達も同様だ。あちこちから飛来してくる槍を剣で弾き盾で防ぐ。
 全く攻撃が通用しない事に焦ったのか、ドラゴンライダー達が離れると、その間をうように先ほどの巨大ドラゴンが急速に近づいて来た。いよいよ親玉の出番って訳か。しかしこれはまさか……。

「ヤバい! レヴィア!」
「え? きゃっ!?」

 なんとドラゴンはその巨体を止める事無く加速させ、そのままレヴィアに体当たいあたりをしてきたのだ。これには流石のレヴィアもなすすべ無く吹き飛ばされる。バランスを崩して地上にさかさまだ。
 そうなれば、当然レヴィアの背に乗る俺達もタダで済むはずがなく、レヴィアと共に地上に向かって落ちて行った。

「おわああっ!」
「きゃああー!」
「きゃはははは!」
「ん~~~!」

 こんな所から落ちたら、いくら俺達が高レベルでも良くて大怪我おおけが、悪くすれば死ぬかもしれない。
 レヴィアは落ちたところで大したダメージはなさそうだからこの際放っておくとして、問題はレヴィア以外の面子メンツだ。この状況で爆笑できるシャリーはともかく、クレアは何とかレヴィアに掴まろうと手を伸ばしているが、ディアベルに至っては目を瞑ったまま固まっている。
 俺は瞬時に腕輪に魔力を流すと、連続転移で彼女達の回収に入った。
 まずディアベルの横に転移して片手で抱えると、クレアの下に転移する。俺の意図を正確に理解したクレアが俺の肩に手を添えるのを待って次の転移を行い、シャリーを掴まえた。そして落下中のレヴィアの背中に転移してその鱗にしがみつく。後はレヴィアの目をませば終わりだ。

「レヴィア! レヴィアー!」
「うー……えっ? 嘘!」

 体当たりの衝撃で前後不覚ぜんごふかくおちいっていたレヴィアは地上すれすれで正気しょうきを取り戻し、何とか軌道修正きどうしゅうせいを図るが間に合うはずもなく、落下の衝撃を少し減らすのが精一杯だった。
 レヴィアの巨体が、轟音ごうおんを立てながら岩肌いわはだを削り地面をすべる。その様はまるで削岩機さくがんきか何かのようだ。

「きゃああああ!」

 必死でしがみついていたのだが、あまりの衝撃にレヴィアの背から振り落とされてしまう。大部分の衝撃はレヴィアの体が緩和してくれたとはいえ、背中から地面に叩きつけられて息が出来なくなる。ゴロゴロと地面を転がり続け、岩にぶち当たる事でようやく止まれた。

「みんな無事か!?」
「いたた……」
「地面……地面だ……」
「面白かった~」

 あちこちいたりぶつけたりで体中が痛い。だがそんな傷をやすひまもなく、上空で攻撃を仕掛けてきたドラゴンライダー達が俺達を取り囲んだ。

「貴様等! どこの国の者だ!?」
「武器を捨てろ!」
「抵抗するなら容赦ようしゃなくるぞ!」

 これはまたややこしい事態になってしまった。槍を構えて包囲を狭めるリザードマン達。俺は手を上げながら、どうやってこの事態を切り抜けようかと頭を捻るのだった。

「敵意は無い! まずは話を聞いてくれ!」

 戦う気は無いとアピールするが、リザードマン達は槍を構えたまま敵意に満ちた視線を向けてくるばかりだ。レヴィアに体当たりしてきた緑色のドラゴンは上空を旋回せんかいしていて、いつでも攻撃できる態勢を維持している。
 このままでは戦闘になる。そう思った時、リザードマンの一人が口を開いた。

「ならばまず武器を捨てろ! 話を聞くのは武装を解いてからだ!」
「出来るか! 武器を捨てたら、誰が俺達の身の安全を保証するんだ!」
「ならば敵とみなすだけだ!」

 じりじりと包囲を狭めるリザードマン達と呼吸を合わせるように、上空のドラゴンも徐々に高度を下げてくる。
 これは一度叩きのめしてから力ずくで言う事を聞かせるしかないか? 我ながら短絡たんらく的だと思うが、それが一番ばやい気がする。
 彼等を迎撃するために俺達も武器を構え、なし崩しに戦闘が始まりかけた瞬間、シャリーの頭に乗っていたドランが隠密おんみつを解くと、おおかみ遠吠とおぼえをするように一声大きく鳴いた。
 それが山々にこだましてリザードマン達の動きを止める。そしてその声に反応するように、上空のドラゴンが地上に降りてきた。
 舞い上がる砂埃すなぼこりに俺達が顔をしかめていると、ドラゴンの巨大な口から渋い男の声が漏れてきた。

「お前達、ファフニル殿の関係者か? その子ドラゴンの叫びはあの方と瓜二うりふたつ。その子ドラゴンを連れておるなら敵ではないとわかるが、一体何の目的でこの地を訪れたのか、説明してもらおう」

 助かった……ドランのおかげで戦いにならずに済んだか。
 ドラゴンの敵意が無くなったのを敏感びんかんに察知したリザードマン達も、構えていた槍を下ろして話を聞く姿勢になってくれたようだ。
 やれやれ、一時はどうなるかと思ったが何とかなった。と、安心ばかりもしていられないので俺はドラゴンの前に出て説明を始める。
 俺達の旅の目的、ファフニルからの依頼で神の力を宿す装備を探している事や魔族達の暗躍あんやく、そして邪神復活の可能性など。リザードマン達は何を言っているんだコイツはという態度だったが、唯一ドラゴンだけは真剣に聞いていた。

「グルーン様、こいつ等の話を信じるんですか?」
「邪神の復活など、ありえないに決まっている」
「この場を逃れるために適当な事を言っているだけでしょう」

 口々に言いつのるリザードマン達だったが、グルーンという名のドラゴンはそんな言葉を聞き流して、俺達一人一人をゆっくりと観察する。特に俺の持つ神の装備を念入りに観察したかと思えば、その横でいつでも飛び掛かれるように姿勢を低くしているレヴィアをじっと見て一つ頷いた。

「言っている言葉に嘘は無い。その人間が持っている装備はいにしえの勇者の物と同じであるし、何よりそこの風変ふうがわりなドラゴンは知っている者達の気配によく似ている。信じても良いだろう」
「なんと!」
「本当ですかそれは!」
「勇者と同じ装備とは……」

 リザードマン達は半信半疑といったところだが、自分達の親玉であるグルーンに言われて渋々納得したようだ。
 しかし今の口ぶりからすると、このドラゴンはファフニルどころかレヴィアの関係者とも旧知きゅうちの仲だと考えられる。古の勇者とも面識があるようだし、ひょっとしたら彼女の母親とも知り合いだろうか?

「いつまでもこんな場所で立ち話でもあるまい。我等のみやこまで案内しよう。付いて来るがいい」

 そう言うと、グルーンはこちらの返事も待たずに飛び立ち、ドラゴンライダー達も後に続く。俺達も置いて行かれないようにレヴィアの背に飛び乗ると、その後を追いかけた。


 俺達が案内されたのは城の中の一室で、簡素ではあるが品の良い調度品ちょうどひんが並べられた部屋だ。椅子いすに腰掛けようとしたら、全ての椅子が背もたれのない、所謂いわゆる丸椅子だった。彼等の場合尻尾が邪魔になるのでこれが普通なのだろう。
 メイドがお茶を入れてくれるのを何となく眺めていると、人の姿になったグルーンが口を開いた。

「さて、お前達の言っていた指輪の話だが、我々には心当たりがある」
「本当ですか!」

 いきなりビンゴだ。ようやく手がかりを得られて興奮した俺は思わず身を乗り出すが、グルーンはそれを手で制して言葉を続ける。

「指輪はある火山の火口かこう付近の洞窟どうくつの中にある。だが、そこへ辿り着くのは少々困難な状況でな。お前達さえ良ければ是非力を貸して欲しい」

 やはり今回もゴタゴタに巻き込まれるのか。なかば覚悟していたとはいえ毎度毎度疲れるが、これも未来の平和な生活への投資だと考えよう。俺は椅子の上で姿勢を正し、グルーンがどんな無茶を言っても驚かないように、ひそかに覚悟を決めた。

「お前達はあの指輪の能力を知っているか? あれは黒い方が力を増幅し、もう一つの白い方がそれを暴走しないように抑える力があるのだ。原因はわからんが、現在白の指輪が安置している場所から失われているようでな。抑えを失った黒の指輪の力によって周囲の精霊達が暴走し、火山の活動が活発になっているのだ」

 指輪の力については初耳だが、火山活動が活発になっているというのは大事おおごとじゃないのか? 噴火ふんかなどしたら、人里が近いと大惨事だいさんじになる。
 流れ出る溶岩ようがんも恐ろしいが、もっと怖いのは火砕流かさいりゅうだ。人の足では絶対に逃げられない速度で、何百度もある熱風に襲われては、普通の人間なら死ぬしかない。

くるう火の精霊達にはばまれて、人の姿の私や我が国の兵士達では近づく事すら困難だ。そこでお前達の力を借りたい。頼みたいのは二つ。失われた白の指輪を回収するのが一つ。もう一つは黒の指輪を台座だいざから外して持ち帰る事。黒の指輪を火山から遠ざければ、自然と活動は穏やかになるはずだ」

 要は当初の目的と同じ。指輪を回収して帰ってこいという訳だ。だが一つ気がかりな事がある。黒の指輪が火山から離れれば、火山の活動が穏やかになるという部分だ。
 不測の事態が起きたら噴火の危険性が高まるというなら、最初から安全な場所に置いておけばいいのではないだろうか?
 俺がそれを指摘すると、グルーンは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「それが出来ればとっくにやっている。お前達は知らないだろうが、我が国のように耕作面積が少ない土地では、火山の熱を利用して作物さくもつ栽培さいばいする。黒の指輪で火山を活性化させつつ白の指輪で抑え込み、作物の栽培に適した温度にしていたのだ。だがここ数日、指輪を守護していたびとからの連絡が途絶え、様子を見に行った者達も帰って来なかった。大規模な部隊を送り込もうと準備している間に、精霊達が暴れ出してどうにもならなくなったという訳だ」
「仮に片方しか回収できなかった場合はどうなります?」
「……その場合はこの地を去るか、他国に援助を求めるしかあるまい。ここに留まったところで収穫量は減って行くだけなのだから、え死にしたくなければそのどちらかを選択するさ」

 黒の指輪だけを回収した場合は地熱が失われ、遠からずヴルカーノは衰退する。白の指輪が見つからなければ火山が噴火してどの道終わり。思ったより事態は深刻なようだ。


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【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

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