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2巻
2-1
しおりを挟むガルシア王国でパーティーを組んだ冒険者、アミルやレレーナと別れた翌日。
俺――エストはクレア、ディアベル、シャリーを連れ、ガルシア王国の王都を出発した。乗合馬車に乗り、ここから半月ほど北上する予定だ。
出発前には商人ギルドに立ち寄り、地図を購入しておいた。地図によると、ガルシア王国は大陸の中ほどに位置している。
その北西にあるのがアルゴスという帝国だ。国力はこのガルシア王国よりもやや低いようだが、長い歴史を誇る由緒ある国らしい。
かつての戦乱の折、このアルゴス帝国だけは他国から侵略を受けなかったとか。だが最近は皇帝の継承争いで揉めている、とギルドで聞いた。
なぜそんな国を目指しているかというと、アルゴス帝国には数多くのダンジョンが存在し、未だ発見されていない伝説級の武器や防具が眠っている、と小耳に挟んだからだ。
未発見なのになぜ眠っているとわかるんだとか、突っ込みたい部分は多い。だが急ぐ旅でもないので、ゆっくりと探索するつもりでいる。
初めての長旅なので、当初シャリーは大喜びしていたが、行けども行けども代わり映えしない景色と不味い簡易食、そして振動による尻へのダメージという三重苦に、みるみるテンションが下がっていった。尻尾が力なく垂れ、耳はペタンと倒れている。
そんな彼女を見ていると、なんだかこちらまで胸が苦しくなってきた。
なんとか気晴らしをさせなければと頭を捻って考え出したのが、木を削って作るフリスビーだった。我ながらなかなかの出来で、シャリーも喜んでくれた。
ただ、最初はお互いに投げ合っていたのに、いつの間にか、俺が投げた円盤をシャリーが取って来る、という遊びに変化していた。犬族だからだろうか?
本人が嬉しそうなので飽きるまで付き合う。体を動かしたことで満足したのか、その後は見違えるほど元気になったので安心した。
長い旅もそろそろ終盤を迎え、アルゴス帝国の首都まであと半日に迫った。
その時、表示しっぱなしにしていたマップスキルに反応があった。
先行する青い光点を、いくつもの光点が追従している。状況や移動速度から考えて、誰かが何者かに追われているようだ。
放っておく訳にもいかず、御者に様子を見てくると告げて、俺達は馬車を飛び出した。
「ご主人様、敵ですか?」
「わからん、だが油断するなよ」
ゴールドランクの冒険者となるまでレベルの上がった俺達は、馬並みとは言わないまでも、かなりの速度で走ることが出来る。重い荷物を載せた馬車なら軽々追い抜けるほどだ。
その速度を生かして駆けると、一台の馬車が黒ずくめの集団に襲われているのが見えた。
俺達に対しては敵意が無いため、マップ上ではまだ敵と判定されていない。
だがこの状況で黒ずくめを正義の味方と思う奴は居ないだろう。とりあえず日本人的な判官びいきで、弱そうな方に味方する事にした。
そのまま馬車に近づいて行くと、近寄る者は全て敵とばかりに黒ずくめが矢を放ってきて、ようやく判定が敵になった。
敵の数は全部で十人ほどか。当てるつもりで放ったのだろうが、俺達相手ではそんな攻撃は威嚇にもならない。
走る速度を落とさずに魔力を練り上げた俺は、炎の槍を黒ずくめ達に向かって放つ。
突然の乱入に混乱した様子を見せた黒ずくめ達も、飛んでくる炎の槍を避けると、半分ほどが剣を抜いて襲い掛かってきた。
「主殿、ここは私が」
「シャリーもやる~」
ディアベルが瞬時に詠唱を終えると、黒ずくめ達の足元の地面が隆起して鞭状に変化した。
土の鞭は黒ずくめ達を捕らえようと激しく動くが、奴らの動きも機敏だ。二人ほど拘束しただけで後は砕かれてしまった。
仲間を救助しようとする黒ずくめ達に、俺とシャリーが迫る。
子供と思って侮っているのか、顔に笑みを貼り付けて剣を構えた黒ずくめ。
しかしその剣が弾き飛ばされ、驚きで固まっている内に、側頭部にシャリーの剣の柄を叩き込まれて意識を刈り取られた。
俺に向かってきた二人のうち、一人は突きを放ち、もう一人は俺の足を斬りつけてきた。避けにくい箇所を狙って一気に片を付けるつもりなのだろう。
だが俺の余裕は崩れない。足に迫る剣を踏みつけて折り、突きをかわすと、その男の顔面を拳で捉えた。重い一撃を顔に受けた男は悲鳴も上げずに崩れ落ちる。
剣を無くした男が目を狙って抜き手を放ってくるが、それをかいくぐり、ひじを鳩尾にめり込ませる。男は胃の中身をぶちまけて地を転がった。
それを見て不利を悟ったか、黒ずくめの男達は仲間を見捨てて撤退を始めた。やれやれ、なんとか馬車を助けられたようだ。
馬車の護衛と思われる騎士らしき男が二人、剣を抜いたままこちらを警戒していた。
警戒するのはわかるが、敵だったら助けたりしないだろうに。
「ルシウス、マルクス、助けてくださった方に対して失礼ですよ。武器を下げなさい」
「はっ」
馬車の中から軽やかな声が聞こえて、二人の騎士は不承不承ながら武器を収めた。
少し軋んだ音を立てて馬車の扉が開かれると、一人の美しい少女が降りてきた。
よほどの金持ちなのか、旅路には似つかわしくない金糸の入った豪華なドレスを着ている。
明るい金髪を腰まで伸ばし、キリリとした顔からは利発そうな印象を受ける。そして服の上からでもわかる見事なプロポーションだった。
洗練された物腰なので、かなり裕福な貴族なのだろう。だが、続く言葉に俺は絶句した。
「初めまして旅のお方。助けていただいてありがとうございます。私の名はクロノワール・ビュザオ・アルゴス。このアルゴス帝国の第二皇女です」
……皇女様と来たもんだ。まさか本物のお姫様にお目にかかる日が来るとは思っていなかった。
この国では揉め事を起こさないつもりだったが、さっそくこれじゃ難しそうだな。
「助けていただいたのに何の御礼もしないのは失礼に当たりますが、何分今は持ち合わせがございません。そうだわ! 城へ同行していただけないでしょうか? そうすればお礼をお渡しする事が出来ますので」
「いえ、その、間に合ってますんで。お気持ちだけで結構です。それでは」
皇女なんて身分の人間、トラブルのにおいしかしない。この場はさっさと立ち去るのが正解だろう。
回れ右してそそくさと乗合馬車に戻ろうとする俺達の前に、さっき武器を構えていたお付きの騎士二人が回りこんできた。『しかし回り込まれてしまった!』というやつだ。
何が気に入らないのか、彼らの表情は非情に険しい。
「貴様! 姫様のお誘いを断るとは何事だ!」
「そうだ! 貴様の意思などどうでもいい。言われたとおりに城まで付いて来れば良いのだ」
……何なんだろうな、こいつらは。これだけ高圧的な物言いをすれば、反感を買うというのがわからないんだろうか?
皇女のお付きに手を上げるのはどうかと思ったが、他に護衛も居ないみたいだし、ここは遠慮なしに行こう。俺は基本的に礼には礼で、無礼には無礼で返す方針の人なのだ。
「そこまで言うなら付き合ってもいいが、お前ら二人の態度が気に入らん。無礼を詫びて頭を下げろ」
人差し指を地面に向け、土下座を要求する。
俺の台詞に姫様は少し驚いた表情をしていたが、お付きの二人はそうではなかった。皇女の護衛ともなれば、腕はもちろん家柄もそれなりというのは簡単に予想がつく。
今まで俺のように反抗してきた人間が居なかったのだろう、彼らは顔を真っ赤にして剣を抜き放った。人の事は言えないが、瞬間湯沸かし器みたいな奴らだな。
「貴様! 我らにそんな口を利いて無事で済むと思っているのか!?」
「そうだ! 先ほどは刺客を撃退したようだが、所詮不意を突いただけ。我らの負ける道理がない!」
いちいちセットでしゃべるなよ鬱陶しい。
二人はよほど頭にきているのか、姫様の事などお構いなしに斬りかかって来た。こんな単純な護衛しかいないなんて、この姫様も苦労してそうだな。
「はあっ!」
「くらえ!」
二人のレベルは18と19だ。これならシャリーが一人で戦っても余裕で勝てるだろう。
左側に居る男のあくびが出るほど鈍い斬撃をひらりとかわし、素早く後ろに回り込んで、両膝に蹴りを入れてやった。いわゆるヒザカックンというやつだ。
驚いた表情で尻餅をついた男を放置し、もう一人と向き合う。
俺の頭を狙った剣を少しだけ体を捻ってかわし、剣を振り下ろした状態の男に喉輪をかまして、そのまま地面にひっくり返してやった。
軽くあしらわれたのがショックだったのか、尻餅をついた男は呆然とした表情で固まっていて、地面に倒された方はまともに息も出来ないのか激しく咳き込んでいる。
売られた喧嘩を買っただけとは言え、姫様の護衛相手にやらかしてしまったかな、と少し気になったが、どうやら杞憂だったようだ。当の姫様はクスクスと笑っていたのだから。
「凄いですねあなた。その二人が子供扱いされるなんて初めて見ました。申し訳ありません。その者達の無礼はお詫びします。どうかここは怒りを収めて、私について来ていただけないでしょうか?」
そう言うと、姫様はペコリと頭を下げた。護衛達が何やら喚いていたが、俺はそれを聞き流す。
この手の貴族は人を人とも思わない高慢ちきな連中ばかりだと思っていたので、他人に頭を下げるなんて意外だった。部下の不始末を認めて謝罪したとなると、姫様の評価を少し変える必要がある。礼儀正しく頼まれたのであれば、こちらも礼儀をもって応えるだけだ。
「そこまで仰られるならご同道しましょう。その前に、あそこで伸びている刺客を捕らえてはどうですか?」
「ありがとうございます。ほらあなた達、いつまでも呆けてないであの者達を捕らえてきなさい」
姫様の言葉で護衛の二人は弾かれたように動き出した。その間、俺達は乗合馬車に戻り、姫様達と同行することを伝えに行く。
残念な事に、俺達の都合で馬車を降りた場合、代金の差額はもらえないようだった。
乗り込んだ姫様の馬車はかなり頑丈で立派な造りをしており、乗合馬車より一回りは大きい。座り心地もかなり良く、窮屈な思いはしないで済みそうだ。
片側に俺達パーティーが座り、反対側に姫様と護衛達が座った。御者は専門の者が外で引いている。捕らえた刺客達は馬車後部の荷物置き場に縛り上げて放置していた。
道中姫様との話は途切れる事無く続いた。俺達の目的やランクの事が主な話題だった。全員子供のような年齢でゴールドランクだと言ったら随分驚いてたな。
護衛の二人は俺達のレベルと称号を知ると急に顔を青くして俯いていた。自分達の態度次第で俺達が敵対した場合、姫様がどうなっていたかを想像したのだろう。これに懲りて態度を改めてもらいたいものだ。
そして俺は一番気になる事を質問した。なぜあんな場所で襲われていたのか、だ。
「簡単に言えばお家騒動です。私には兄がいるのです。自分で言うのも気恥ずかしいのですが、私は臣民から人気があります。帝位継承順位は兄のクラウディスが上とはいえ、兄は自分より臣民に支持される私が邪魔なのでしょう。過去に何度も危ない目に遭っているのですよ」
姫様は何でもないように答えた。しかしさっき、第二皇女と言っていた。つまり、一人お姉さんが居るって事になる。
「姉は既に他国へ輿入れしておりますから、帝位継承権は消失しています」
なるほどね。皇子様にとって邪魔者は一人だけなのか。
しかし、お家の事情を知り合ったばかりの俺達に話してもいいのかね? そこを聞いてみると、彼女はクスクスと笑いながら答えてくれた。
「もはや公然の秘密となっていますから、臣民なら子供でも知っています」
何度も命を狙われているというのに、なかなか豪胆だ。貴族社会ってのはこれぐらい神経が図太くないと生きていけない世界なのかもね。
そうやって俺達が話している間に馬車は門をくぐり、帝国首都アルゴスに到着した。
初めて訪れる街並みを馬車の窓から観察すると、人の流れはガルシア王国と大差ないが、町並みは少し違う。趣があるというか歴史を感じるというか、古い建築物が多いのだ。
それでもボロいという印象は受けない。どれも綺麗に整備されていて、清潔さを保っている。
跳ね橋を降ろして堀を渡り、城の中に入る。馬車を降りた俺達は、豪奢だがそれほど広くない部屋に通された。
しばらく待つとメイド達が数人、移動式トレイにお菓子と紅茶を載せて現れた。ほぼ時を同じくして、ラフな格好に着替えた姫様が入室する。ラフとは言っても生地からして高級品だとわかる。一体金貨何枚分か予想もつかない。
「お待たせして申し訳ありません。さあ、召し上がってください」
言われて俺達はお茶に手を伸ばす。シャリーなどは初めて食べるお菓子に興奮したのか、おいしいおいしいと連呼していた。
それを微笑みながら見ていた姫様が、小さな袋を差し出してきた。
「これは?」
「助けていただいたお礼です。些少ですがお納めください」
中を確認すると金貨が十枚以上はある。ちょっと助けただけなのに大盤振る舞いだな。だが、帝族を助けた対価とすればこんなものかもしれない。
もらえる物はガラクタと病気以外はもらっておく方針なので、遠慮なく受け取る。
「ありがとうございます。では遠慮なく……」
「ところで、あなた達を腕の立つ冒険者と見込んで頼みがあるのです」
金貨の袋を懐に収めている最中に、さも当然とばかりに姫様が口を開いた。
ほら来たよ。やっぱり裏があったか。これで金貨十枚以上は話がうま過ぎると思ったんだよな。
「我が国に古くからあるダンジョンに潜って、あるアイテムを回収してもらいたいのです」
ダンジョンと聞いてピクリとした俺の反応が気に入ったのか、姫様がニコリと微笑む。
しょうがない、お礼だけもらっておさらばしようと思っていたが、話だけでも聞いてやるか。
「アイテムの回収ですか。それは具体的にはどんな物なんです?」
「継承の指輪です。実は、正統な帝位継承権を得るにはその指輪が欠かせないのです――」
姫様の説明によるとこんな理由だった。
アルゴス帝国の帝位継承の際には、毎回そのダンジョンから持ち帰った指輪を継承者の証として、貴族や臣民の前で提示しなければならないそうだ。この指輪は膨大な魔力で生成され、現皇帝が持つ指輪の魔力が切れると、ダンジョン内に新たに出現する仕組みらしい。
魔力を感知できる人間ならひと目で本物か偽物かわかるほど強力な魔力を秘めているようだから、誤魔化そうとしてもすぐにバレる。
一応継承順位は決められているが、それは暫定でしかなく、決められた期間内に先に指輪を持って帰ってきた者に、第一帝位継承権が与えられるようだ。
決められた期間は現皇帝が退位を発表してから一ヶ月間だけ。その間に誰も指輪を持ち帰ることが出来なければ、暫定の継承順位が優先される。
指輪を取って来る者は代理人でも認められるが、人数は五人までとされる。
つまり、順位の高い皇子側からすればわざわざダンジョンに潜る手間をかけなくても、姫様側の妨害をするか、姫様の命を奪ってしまえば帝位が転がり込んでくるという訳だ。
姫様側からすれば一発逆転と自身の身の安全のために、指輪を確保して皇子を排除するしかない。
そのために腕の良い冒険者を探していたが、帝都やその周辺のギルドには皇子一派の妨害工作が及び、姫様に協力する冒険者は見つからなかったようだ。姫様自身が足を運んで説得しても上手くいかず、あげく帰り道に襲われた。そこを俺達が助けたという訳だ。
「……話はわかりました。ただ、気になる点がいくつかあります」
「何でも聞いてください」
「まず、冒険者に拘る必要は何ですか? 劣勢に立たされているとは言え、皇女ともなれば自分の配下……例えばそこに立っている護衛の二人でも良いんじゃないですか?」
当然とも言える俺の指摘に、姫様より強く反応したのが後ろの騎士達だった。
一瞬口を開きそうになるのをグッとこらえ、顔を真っ赤にして黙り込む。悔し気に唇を噛むその様子を見て、そんなに気に障る事を言っただろうかと俺は首を傾げた。
「恥ずかしながら、私に仕えている騎士達では兄が雇った冒険者達の相手は荷が重いでしょう。聞くところによると、兄の雇った冒険者のランクはアダマンタイトであるとか。この国には僅か数人しか居ない強者達です」
アダマンタイト……今までには見たことの無い、最高ランクの冒険者だな。
アダマンタイトに昇格する条件はかなり厳しいようで、ドラゴンやそれに匹敵する魔物の討伐実績と、ギルドに対する貢献度も重要になるらしい。俺達でも正面から戦えば危ないかもしれないな。
ヤバい相手ならなるべく遠慮したいが……断るのは早計だ。まだ気になる点はある。
「そのダンジョンには、指輪以外に何か特別な装備が隠されているという話はありませんか? 例えば伝説の武器とか防具とか」
俺達にとっては指輪よりそっちの方が重要だ。強力な装備はパーティーの戦力アップと生存率アップに繋がるからな。少々危険を冒しても手に入れる価値がある。
「何代か前の帝位継承の試練の時に、出現したダンジョンマスター達が強力な装備を落としたという話なら聞いたことがありますが……なにぶん古い話ですので、確証はありません。父の時はそもそも一人っ子だったので誰とも争わず、指輪だけさっさと回収したと聞いています」
ふむ、無い可能性の方が高いのか。それにしても、今気になる事を言ったな。
「ダンジョンマスター達? 複数なのか?」
「このダンジョンに現れるダンジョンマスターは、最低二体から三体だと記録に残っています。でもダンジョンマスターと戦わなくても指輪を持ち帰ることは出来ますので、あえて戦わなくてもいいと思いますが」
そうは言うが冒険者にとってお宝は何より大事なものだ。せっかくダンジョンに潜るなら、必ず回収しておきたい。きっと皇子側の冒険者も同じように考えるはずだ。冒険者とはお宝を求めてダンジョンに挑む人間なのだから。
とりあえず聞きたい情報は聞けた。危険があり難易度は高いが、それを上回る報酬とお宝が手に入るなら、この話を受けよう。
「では具体的な報酬の話をしましょう。俺達をどんな条件で雇ってくれますか?」
自分達を安く売るつもりは無い。期待したほどの報酬が出なければ、このまま席を立っておさらばするまでだ。姫様には悪いが、ボランティアで手伝ってやる義理も無い。
「報酬は金貨百五十枚。前金で金貨五十枚をお渡しします。指輪を持ち帰った場合に残りの百枚を。働き次第では追加報酬も考えています」
金貨百五十枚か……日本円で何億ぐらいだろう? どうやらこの姫様、俺達をかなり高く評価してくれているようだ。
ふと横を見ると、あまりの金額の大きさにクレアやディアベルが固まっていた。無理も無い。普通の人なら一生遊んで暮らせる金額だろうからな。日本で言えばジャンボ宝くじの当選金を提示されたようなものだ。
この条件なら悪くない。皇子側の妨害や相手の冒険者も気になるが、勝利した場合のメリットはかなり大きい。金銭面だけでなく、次期皇帝とのつながりを持てるのは後々色々と便利そうだ。ここは賭けに乗ってみるか。
「わかりました。ではその条件で仕事をお引き受けします」
「良かった! あなた達ほどの冒険者が味方してくれるのであれば、勝ち目が出てきます」
姫様の顔がパアっと明るくなった。味方となる冒険者が見つからなくて、実は結構追い詰められていたのかもしれないな。だがまあ、俺が味方についたからには大船に乗ったつもりで安心してくれ。タイタニックや戦艦大和のように、とても安定した航海を約束しよう。
‡
姫様から依頼されたダンジョンは、ガルシア王国のものとは違い、誰でも入れる気軽な場所ではなかった。入口にはこの国の兵士達の詰め所があって、人や動物、魔物などが入り込まないように鉄柵で囲われている。
どうやらここに居る兵士は入場者の管理だけでなく、万が一ダンジョンから魔物が溢れてきた場合に時間を稼ぐ役割もあるようだ。その兵士達と、俺達に同行してきた姫様が話しているのを横目で眺めながら、俺は周囲を観察していた。
今回、俺達はろくに準備する事も無く直接ダンジョンに来ていた。と言うのも、既に皇子側の冒険者はダンジョンに潜っており、出遅れている姫様側には一刻の猶予も無かったからだ。
ただでさえ向こうの方がランクが高いのに、先手まで奪われている。状況はかなり悪い。
念のためにマップスキルで、周囲に居る兵士達の敵意の有無、森の中に伏兵が居ないかを確認してみたが、特に反応はなかった。
話はついたのか、ダンジョン前のバリケードが退けられる。良かった。皇子派の妨害でダンジョンに入る事すら出来ないって事態は回避できたか。
まあ考えてみれば全ての兵士が皇子派ではないだろうし、中には皇女派や中立派も居るだろう。
「では、行って来ます」
「あなた達ならやり遂げられると確信しています。吉報をお待ちしていますよ」
さっそく中に入ろうとする俺達に姫様が……いつまでも姫様じゃ可哀想だな。クロノワールが笑顔で手を振り送り出してくれた。
護衛の騎士ルシウス達が用意してくれた携帯食料と地図を道具袋に詰め込み、俺達はダンジョンの入口へと進んだ。
「へえ……」
「ガルシアとは随分印象が違いますね」
「精霊も多いな」
「ここ、あんまりくさくないよ」
中に入ってしばらく進むと、俺、クレア、ディアベル、シャリーと、思い思いの感想が口から出て来る。
以前行ったところと同じく、ジメジメした上にかび臭くて暗い場所だと思っていたが、このダンジョンは少し違った。ある程度整備されていて、壁にはかがり火用の入れ物が等間隔で並んでいる。昔は別の用途で使われていたのかもしれないな。
アミル達が抜けて四人となり、パーティーの戦力はかなり落ちている。
特に回復役が俺一人になったのがキツイ。仮に俺が敵にかかりっきりになった時に誰かが負傷すると、最悪回復する暇もなくやられてしまう。今まで以上に慎重に行動する必要があった。
前衛は俺とシャリー、後衛はクレアとディアベル。アミル程ではないが、今の成長したシャリーなら十分前衛を務められるだろう。
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