ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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1巻

1-2

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 とりあえず拠点を確保したので、食料を探すついでに周囲の敵を始末しておこう。そうしないと、夜安心して寝られないしな。
 まずマップ上で一番近くに表示された赤く点滅する丸に向かって進むと、そこに居たのはスライムではなく小型犬ほどの大きさの魔物だった。
 ピットブルをさらに不細工ぶさいくにしたような外見だ。歯は口からはみ出ているし、体もゴツゴツしているので、ピットブルのような愛嬌あいきょうは皆無だった。
 しかも目が赤く鈍く光っているので、まともな生物じゃないのは一目でわかる。
 マップ上でも敵として表示されているので、倒してしまっても問題ないだろう。
 大きさは小型犬並みだとしても、あの牙に噛まれたくはないので、不意を突くべく背後から音を立てずに忍び寄って行く。
 ステータスを確認してみると『赤犬:レベル3』と出ていた。十分勝てる範囲だ。
 一足で飛びかかれる距離まで近づいた俺は、あらかじめ抜いておいた剣を構えて思い切り駆けた。
 今度は斬るのではなく突いてみる。短剣を腰だめに構え、体ごとぶつかる勢いで突進していく。
 体が硬そうなこともあるし、一撃で致命傷を与えようと考えたのだ。
 刃が刺さる直前に、こちらに気づいた赤犬が避けようとしたがもう遅い。短剣はそのまま深々と赤犬の背に突き立てられた。

「ギャワンッ!」

 短く悲鳴を上げて赤犬は倒れ込んだ。体からどくどくと血を流してしばらく痙攣けいれんしていたが、やがて動かなくなる。
 魔物とはいえ初めて血のかよった生き物を殺したので少し罪悪感が芽生めばえたが、これも生き抜くためだと割り切った。
 死体はスライムのように消え去ったりはしなかった。食べられるかもしれないので、首に切れ込みを入れて逆さづりにして血抜きをする。
 実際に動物の解体などやった事は無かったが、以前見たテレビで猟師がやっていたのを思い出して再現してみた。出血が収まってから、食べられそうな部分を切り分ける。

「うええ……気持ちわる……」

 かなりのグロさだったので途中何度かきそうになったが我慢がまんできた。
 これ毒とかないよな? 人間が食べても大丈夫なら良いんだけど。
 解体していると、スライムの時と同じように体内から核が出てきた。若干材質が違う。これも念のために確保しておく事にした。
 集中して解体していたから気がつかなかったけど、赤犬を倒してレベルアップしていたようだ。


 ●エスト:レベル4
  HP 38/38
  MP 25/25
  筋力:レベル1
  知力:レベル1(+1)
  幸運:レベル1

 ▼所持スキル
 『経験値アップ:レベル1』『剣術:レベル1』
 『知力アップ:レベル1』『マッピング:レベル1』

 新たなスキルを獲得できます。次の中から選んでください。

 『HPアップ』
 『MPアップ』
 『筋力アップ』
 『知力アップ:レベル2』
 『幸運アップ』
 『剣術:レベル2』

 『知力アップ:レベル1』のおかげか、ステータスの知力にプラス1の補正がかかっている。
 剣術スキルのレベルアップにも魅力を感じたが、ここは更に知力を上げておきたい。どうもそこから派生スキルを獲得できる気がするのだ。
 直接的な強さより、まずは色々と試せるようになりたい、という事で『知力アップ:レベル2』を取ることにした。


『「知力アップ:レベル2」を獲得したので、「火炎魔法:レベル1」を獲得しました』

 おお! とうとう魔法が使えるようになったのか。
 火打石を手に入れたところだけど、これが使えれば火も起こせるし、お湯で体も洗える。これならなんとか生活できそうだ。


 他の魔物を探す前に、火炎魔法を試す事にした。
 周囲に燃え広がると困るので、川辺に下りて水に向けて撃ってみる。

「炎よ!」

 何と唱えたものか迷ったが、ここはオーソドックスな感じでいこう。
 ゴウッという音と共に、かざした手のひらの先から炎が噴き出す。
 炎は数秒で消えたが、なかなかの熱量だった。
 射程は一メートルぐらいだ。火力の調整は出来ないのかな?
 今度は小さい火をイメージして唱えてみる。すると指先から、ライターより少し大きいぐらいの火が出た。火力の調整は問題なく出来るみたいだ。
 少し疲れる感じがしたのでMPを確認してみると、今の二回の魔法で六ポイント減っていた。
 一回唱えると三ポイント減るのか。今のMPだと連発するのは厳しいな。
 次に球体をイメージして唱えてみた。するとサッカーボール大の炎の玉が手のひらから出現した。
 維持する分にはMPの消費は無さそうだ。
 落ち着いて水面目掛けて発射するイメージを思い浮かべると、なかなかの速度で飛び水面に激突した。
 炎が散乱し、同時に水蒸気が立ち込める。速度は中学生のピッチャーほどだろうか。
 とにかく、ひとつの魔法でも色々と応用が利くのがわかったことは大きい。
 最後に詠唱無し、いわゆる無詠唱というやつに挑戦することにした。頭の中で火の玉をイメージして作り出すところまでは成功したが、飛ばす途中で火が消えてしまった。
 何度かやってる内に成功したが、それでわかった事がある。
 イメージが鮮明でないと成功しないのだ。つまりは想像力が豊かなほど魔法は成功するし、威力も上がる。
 少し疲れたので休憩することにした。干し肉をかじりながらステータスを確認してみる。


 ●エスト:レベル4
  HP 38/38
  MP 16/25
  筋力:レベル1
  知力:レベル1(+2)
  幸運:レベル1

 ▼所持スキル
 『経験値アップ:レベル1』『剣術:レベル1』
 『知力アップ:レベル2』『マッピング:レベル1』
 『火炎魔法:レベル1』『無詠唱:レベル1』

 休憩したおかげか、MPが少し回復している。どうやら時間経過で回復するみたいだ。
 それより気になったのが『無詠唱:レベル1』というスキルが付与されていたことだ。これをきたえていけば、より簡単に魔法が発動できるかもしれない。


 休憩も終わったので、マップに点在する敵を残らず狩りつくす事にした。
 拠点である小屋を中心に、確認できた敵の数は全部で六。
 実戦で魔法を試してみたかったが、森の中で炎の魔法は危険すぎるので全て剣で始末しておいた。
 スライム三匹と赤犬三匹を倒すと、またレベルが上がった。やっとレベル5だ。
 HPやMPには大きな変化が無かったので、今度は筋力アップを取ってみる。
 すると思いがけず特殊なスキルが手に入った。


『「筋力アップ:レベル1」を獲得しました。特典として「隠密:レベル1」を獲得しました』

 隠密? よくわからないが、忍者みたいに動けるって事だろうか?
 ものは試しとその場で剣の素振りをしたりダッシュをしたりしてみたが、レベルが上がりステータスも強化されているので、特別スキルの恩恵を感じない。
 次にゆっくり動いてみると、装備品の音や足元の枯れ葉や枯れ枝を踏み潰す音が小さくなっているのが確認できた。なるほど、これはたぶん気配を消して隠れたい時に使えるスキルなんだな。

「疲れたな……」

 周囲の安全も確保したし、今日はこの辺で休むとするか。その前に解体した赤犬の肉が食べられるか試してみよう。
 小屋の周りで枯れ枝を集め囲炉裏に組み上げる。普通なら枯れ葉などの燃えやすい物に火をつけてから火力を大きくするんだろうけど、俺には魔法があるのでその手間は必要ない。
 裏の川でんで来た水を鍋にそそぎ、小さく切った肉を投入して煮てみる。
 鍋の横では枝に突き刺した肉を火であぶる。串焼きだ。調味料が何も無いので他の調理法が無いのが残念だ。
 火で炙られた肉からだんだん良い匂いがしてきたので、そちらから食べてみる。
 硬い歯ごたえはあるものの、十分食べられる。味は鶏肉に近いだろうか。焼いただけなのにまあまあ美味しい。
 何本かあった串焼きを綺麗きれいたいらげた後、火を消してから鍋の中の肉を食べてみた。
 こっちは肉がすごく柔らかくなっていた。食べやすいが、旨みが流れ出てしまったのだろうか? あまり味がしなかった。

「ふぅー……ま、何とかなりそうかな?」

 すべて平らげて一服する。次の日に腹を下したりしないように祈ろう。
 ステータスを確認してから、その日は寝る事にした。初日だから精神的にも肉体的にも疲れていたんだろう。横になった途端意識が無くなった。


 ●エスト:レベル5
  HP 45/45
  MP 40/40
  筋力レベル2(+1)
  知力:レベル1(+2)
  幸運:レベル1

 ▼所持スキル
 『経験値アップ:レベル1』『剣術:レベル1』
 『知力アップ:レベル1』『マッピング:レベル1』
 『火炎魔法:レベル1』『無詠唱:レベル1』
 『隠密:レベル1』

         ‡


 一週間が過ぎた。その間、湧いて出た魔物を狩ってスキルを獲得し、肉を食って腹を満たすというルーチンワークが出来上がっていた。


 ●エスト:レベル10
  HP 120/120
  MP 90/90
  筋力レベル2(+2)
  知力:レベル3(+2)
  幸運:レベル1

 ▼所持スキル
 『経験値アップ:レベル1』『剣術:レベル1』
 『マッピング:レベル1』『火炎魔法:レベル1』
 『無詠唱:レベル1』『筋力アップ:レベル2』
 『隠密:レベル1』『知力アップ:レベル2』
 『盾:レベル1』『氷結魔法:レベル1』

 筋力が上がると、予想通り攻撃力と防御力に反映された。
 赤犬との戦闘中、素肌の部分に噛みつかれたのに、少しへこんだだけで血が出なかったのには驚いた。俺の体は想像以上に頑丈がんじょうになっているらしい。
 盾スキルを獲得できたのはいいが、肝心の盾を持っていないから現状その有用性は確認できない。どこかで街に降りて盾を入手した時のお楽しみにしよう。
 火炎系とは別系統の氷結魔法が使えるようになったのは大きかった。
 試してみると、小さめの吹雪ふぶきで相手を凍らせるタイプと、鋭い氷の塊を飛ばして攻撃するタイプの二種類があった。
 吹雪はレベルが低いせいか、凍らせるまでに長時間魔法を発動しないといけなかったので、あまり実戦的ではない。これはレベルを上げないかぎり、冷蔵庫代わりにしか使えないだろう。
 氷の塊を出すタイプは、氷を任意の場所に置く事も出来た。
 これを火炎魔法と併用すれば飲み水で困らなくなるはずだ。
 魔物から採れる核も結構溜まってきた。価値のある物なら換金なりなんなりしないと勿体もったい無い……という事で、今度こそ人里を目指す事にした。
 マップのおかげで周辺の地形ならだいたい把握できる。
 それによるとマップ上では単なるスジに見えるが、実際のところ街道とおぼしき地形があったので、まずはそこを目指して歩いて行く。
 レベルアップのおかげか、以前なら息切れしていたような距離も問題なく歩き続けられる。
 たまに御馴染みの魔物が襲撃してきたが、片手間に倒せるぐらいには強くなっていた。
 そうこうしてる内に街道に辿り着く。
 マップから、森を東西に分断する一本の大きな道だとわかった。恐らくどちらに向かっても人里には辿り着けるだろう。
 少し悩んだが南に行く事にした。やはり寒いより暖かい所が良い。
 歩き続けている内に、俺は重要な事実を見落としていたことに今更気がついた。
 人と接触したとしても言葉の問題があるだろう。異世界の言葉は話せないし、読み書きも出来ない。何とかならないのかと思ってステータスを開いてみると、メッセージが表示された。


『特典として、言語能力を付与します』

 このタイミングでこのメッセージ。もしかして監視されているのだろうか? 
 転生した時、世界間のシステムを自称するあの声が、各世界には神と呼ばれる管理者が存在すると言っていたしな。
 見世物みせものになるのは正直面白くないが、気にしていてもしょうがない。今は言葉がわかる事をありがたく思おう。
 それにしても、これで裕福な家庭などの環境を望んでいたら、言葉は自分で学習しないといけなかったんだろうか? そう思うと一人だけで頑張った甲斐があるというものだ。
 道中、魔物や盗賊に遭遇する事は無かった。比較的治安が良いのだろうか。
 だんだん見えてきた少し大きめの集落は、簡単なさくで囲われている。戦闘で役に立つとも思えないので家畜かちくを逃がさないようにするためのものだろう。
 農作業をしている大人が何人か見えた。その近くでは子供達が家畜の世話をしている。
 彼らの外見は普通の人間だった。特に耳がとがっていたり肌の色が違ったりはしない。
 畑にいる五十歳前後のおっちゃんに話しかけてみよう。この世界に来て初めて人と会話するので若干緊張したが、警戒心を与えないようにフレンドリーな感じを心がけた。

「こ、こんにちは~」
「こんにちは。あんた冒険者さんかい? こんな何も無い村に何の用だい?」

 良かった! ちゃんと通じた。
 話している口元を見ると声と合っていないが、ちゃんと日本語として聞こえる。まるで吹き替えの映画を見ているような感覚だ。
 それよりこの人、今重要なキーワードを口にしたぞ。冒険者? やはり定番の冒険者ギルドとかが存在するのだろうか? これはもう少し情報を引き出さねば。

「ええ、そんなとこなんです。ちょっと近くで修業してて。ここにはギルドとかありませんか?」

 ギルドがある前提でカマをかけてみた。

「いや、この村にはないなぁ。ここから更に南下すると、コペルっていう大きな街があるから、そこに行くといい」

 やった! ギルドがあった。当面は冒険者として生活していくことを目標にすれば良いだろう。

「そうですか。ありがとうございます。ところで、雑貨屋とかありません?」
「ああ、あるよ。宿屋の一階が雑貨屋になってる」
「助かりました。行ってみます」

 礼を言うと、おっちゃんは手を振って農作業に戻っていった。
 まずは核を買い取ってくれる商店を探さないとな。
 ぽつぽつと家屋が立ち並ぶ中、他より少しだけ大きい建屋があった。これが宿屋兼雑貨屋だろう。
 ギイィときしんだ音を立てて扉を開けると、中にはいくつかのテーブルとカウンターがあった。この様子だと酒場も兼ねているんだろう。
 それらを横目で見ながら、カウンターの中で仕込みをしているおばちゃんに声をかける。

「こんにちは。雑貨屋をやってるって聞いたんですが」
「やってるよ。何か入用かい?」
「これって買取できますか?」

 俺は今まで魔物の残骸から回収してきた核を道具袋から取り出した。

「魔石だね。結構な量じゃないか! この純度なら……そうだね、全部で小銀貨三枚と銅貨六枚で買うよ。泊まるならここから差し引いておくよ。一泊銅貨八枚。食事付なら小銀貨一枚。どうする?」
「じゃあ食事ありで一泊します。魔石は全部買い取ってください」

「あいよ」と言いながら、魔石というらしい核を回収するおばちゃんから貨幣を受け取る。
 小銀貨って事は普通のサイズや大きいサイズもあるみたいだな。

「部屋は二階の一番奥。鍵は内側からしかかけられないし、貴重品は持ち歩いておくれよ。食事はここですませとくれ」

 まだ明るいので寝るには早い。部屋で仮眠でも取るかと思ったが、その前にこれだけは聞いておかないと。

「あの……魔石って何に使うんですか?」

 俺の言葉を耳にしたおばちゃんは唖然として口を開けている。あれ? そんなに常識ハズレな事を言ったんだろうか。

「本気で言ってんのかい? 魔石ってのは色んな物の燃料として使うんだよ。明かりをともしたり火を起こしたり。武器に使われることもあるね。あんたどんな田舎いなかから出てきたんだい? こんな事子供でも知ってるじゃないか」

 知らないんだからしょうがないだろうと思ったが、このおばちゃんにそれを言うのは筋違すじちがいってもんだ。

「すいません、度忘れしてました」

 とりあえず愛想笑いを返して部屋に向かうことにした。今は久しぶりのまともなベッドを堪能たんのうするとしよう。


 ちょっと仮眠を取るつもりが、気がついたらもう夜になっていた。
 腹が減ったので一階に下りると、仕事の終わった村人達が食事や酒を楽しんでいるのが見えた。いているテーブルに腰掛けておばちゃんに晩飯を頼む。
 しばらくすると羊肉の入ったシチューとかした芋が出てきた。羊肉はちょっとくさみがあるが、やはり調理された料理は物凄く美味おいしく感じる。

「足りねえ……」

 あっと言う間にうつわからにして、追加料金を払って二杯目を頼む。
 ついでに周りの人達が木のジョッキで飲んでいる酒が気になったので、それも注文してみた。
 運ばれてきたエール酒は、炭酸の抜けたビールだった。正直あまり美味しいと思わないが、疲れた体にエールの冷たさが心地よかった。
 冷蔵庫も無いのにどうやって冷やしているのか厨房ちゅうぼうを観察してみると、エールを注文された時だけたるの入った木箱を開けて酒をそそいでいた。
 おばちゃんの言ってた、魔石を利用して冷やす道具なのかもしれない。
 黙々と食事している俺に、酔っ払った一人のおっちゃんが話しかけてきた。

「よお! 冒険者の兄ちゃん。飲んでるか!?」

 赤ら顔でかなり酒が回ってるようだ。この近距離でその声のボリュームはおかしいだろう。

「ええ、飲んでますよ。ここの食事は美味しいですね」
「そうだろそうだろ。全部この村で採れたモノなんだ。不味いはず無いんだよ」

 めるつもりは無かったが、結果的に気分を良くさせたみたいだった。おっちゃんは更に言葉を続ける。

「兄ちゃんはこれからコペルに向かうのか? あそこは冒険者にとっちゃ、暮らしやすいだろうな」
「なんでですか?」
「なんだ、知らないのか? あそこにはダンジョンがある。まだ誰も最下層に到達してないみたいだから、色んな冒険者が挑戦しに行くんだよ」

 ダンジョンときたよ。いよいよ俺にも本格的な冒険の機会が巡ってきたな!
 死んでその場にはかが出来たり、いしのなかにいるって状態にならないように気をつけないと。
 その後おっちゃんは一方的に身の上話を続け、気がすむと自分の席に戻って行った。酔っ払いの相手は疲れるな。
 俺は食事を終えて部屋に戻り、明日に備えて眠ることにした。
 翌朝、宿を出る前におばちゃんに携帯食料はないかと尋ねると、カチカチのパンをいくつか渡された。
 保存食として大丈夫かと思ったが、コペルの街までは徒歩で三日ほどらしい。その間持てばいいか。
 村を後にして街道を南に向かう。途中で他の街道とも合流し、段々道が広く快適になってきた。
 街が近づいて来ている証拠だろう。
 そのまましばらく歩いていると、後ろから追いついてきた馬車と並走する形になった。

「よお兄ちゃん、街まで行くなら乗せてってやろうか? 小銀貨一枚でどうだ?」
「そうですね……じゃあ乗せてもらおうかな」

 このままだとどのぐらい時間がかかるかわからないし、何より歩くのに飽きた。
 すぐ決断してふところから貨幣を取り出し御者ぎょしゃに渡すと、彼は笑顔で後ろに乗るよう指示して来た。

「お邪魔じゃまします……」

 乗り込んだ馬車の中には、襤褸ぼろをまとった裸同然の人間が数人いた。
 何者かと思ったら、御者の男がそいつらはコペルの街で売る予定の奴隷だと言った。
 どうやらこの御者は奴隷商のようだ。この世界には奴隷制度があるのかよ。
 決してやましい気持ちは無いが、他にする事もなく彼らを観察した。
 全員生気が無く、死んだ魚のような目をしている。
 これからの悲惨な生活を想像して生きる気力を失っているのだろうか。絶望するのも仕方ないだろう。
 彼らの年齢は、俺の親ぐらいから同じ歳ぐらいまで様々だ。
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 彼女は猫族の獣人らしい。外見もいいし健康だし、今回の目玉商品だと自慢げに話していた。
 人を商品として扱うのには抵抗があったが、異世界だからと無理矢理自分を納得させる。
 ちなみに値段は金貨十枚との事だった。買えるか!

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書籍第1~4巻が発売中です。
感想 107

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