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第401話 指輪と花束
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「魔石で作る自作の指輪ですか?素敵ですね! きっとクレアさん達も喜んでくれるでしょう!」
バックスを訪れた俺は、俺の顔を覚えていた門番にスフィリ王女への取り次ぎを頼んだ。魔族の侵攻時王都まで攻め込まれたバックスは街の至る所が崩壊し、未だ復興途中の段階だ。特に被害の大きかった城壁などはこの際造り直す事が決まっているらしく、真新しい部分は周囲の物と比べて高く頑丈になっている。戦争特需とも言える好景気に沸く街並みの様子を眺めていると、スフィリ王女自ら出迎えてくれた。彼女は今回の戦いでドワーフ達の装備の脆弱さを痛感したらしく、現在は新型の武器や鎧を考案中なのだとか。俺の鎧ほどではないが魔石を埋め込むアイデアがあるらしい。ひょっとしたら、将来はそれが当たり前になるのかも知れないな。
個人的な事で彼女の手を煩わせるのは心苦しかったのだが、他に当てが無いので仕方ない。バックスの王都に居る装備屋親子に頼む手もあったが、流石に男に女性が喜びそうなデザインを期待出来なかったのでパスだ。スフィリなら他のドワーフに負けず劣らずの鍛冶や細工の腕があるし、女性なのでセンスも良いだろう。恐縮する俺を快く迎えてくれたスフィリは、俺のアイデアに全面的に賛成してくれた。
「魔石を材料に使うと何らかの能力が発動するのは、バリエの鎧の件もあって今の研究段階でわかっている事です。でも今のところどの魔石がどんな能力を持っているのかは不明なので、見た目で選ぶしかないですね」
贅沢を言えば魔力を流すと身を守る効果とかが発揮されると嬉しかったんだけど、世の中そんなに上手くいかない。作ってみてから試すしかないだろう。幸い最近出来たばかりのスフィリ専用工房には実験に使われる予定だった各種様々な魔石が保管されていたため、この中から自由に持って行っていいとの事だ。獲りに行く手間が省けたので大変ありがたい。
「すいません、突然押し掛けたのに魔石までいただいて……」
「気にしないでください。あなた達が成し遂げた事を考えれば、ここの魔石を全て渡しても全然足りませんから」
笑顔でそう言ってくれるスフィリに頭を下げ、俺は魔石の選定に入る。今回選ぶ魔石に大きさは関係ないので、どれだけ美しいかが重要だ。そうなると必然的に純度の高い魔石を選ぶ事になり、魔石を大量に保管してある工房の中でも数は限られてくる。いくつか目星をつけたものを手に取り、実際に並べて比べてみる。うんうん唸りながらじっくりと時間をかけ、最終的に一つの魔石を選びだした。その魔石は淡い緑色の光を放っており、前世で言うペリドットに似ていた。
「あ、それは二角獣の魔石ですね。流石エストさん、お目が高い」
「二角獣? 一角獣ではなく?」
「ええ、二角獣です。見た目は普通の馬なんですが、頭に二本の角が生えた魔物でして、つがいで動く習性があるんですよ。一度夫婦になった二角獣は、相手が死ぬと寂しさでもう一匹も死んでしまう情の深い魔物なんです」
二角獣……ユニコーンの派生みたいな魔物なんだろうか? それにしてもつがいで動く上に片方が死んだら自分も死ぬ魔物の魔石って、結婚指輪の材料にはピッタリじゃないか? その上ペリドットに似ているのもポイントが高い。あれの宝石言葉は確か、『夫婦の幸福』だったはずだ。もうこれは、俺達のためにあるような魔石だろう。
「決めました。これにします」
「はい。じゃあ早速細工を作りましょうか。何か希望の模様とかありますか?」
「そうですね……」
何にしようか迷ったが、思い浮かんだのは俺達を結び付けていた奴隷紋の形だ。今後は俺の国の旗にもなる模様だし、王妃になる予定の彼女達にはピッタリだろう。簡単な絵を羊皮紙に書くと、スフィリ自身も見覚えがあったらしく俺の下手くそな絵をすぐに上手く書き直してくれた。指輪は魔石の部分を紋章が目立つように浮き彫りにして、リングの部分を金で、紋章周辺を銀の細工で飾り付けてくれるようだ。まだ絵の段階だと言うのに驚く様な完成度なのは、流石ドワーフと言ったところか。
「完成まで丸一日ってところですね。ここで待ってるのも退屈でしょうし、明日同じ時間にまた来ていただけますか?」
「承知しました。では明日、改めて伺います。このお礼はいつか必ず」
「期待しています。ではまた明日」
スフィリに礼を言い、俺はその場を後にした。次に向かったのはガルシア王国の王都だ。多くの人で賑わう大通りを人を掻き分けて進みながら目的の店舗を探す。すると露店が立ち並ぶ地区に辿り着いた時、ちょうど目の前に次の目的地である花屋を見つける事が出来た。
「いらっしゃいませお兄さん! お花はいかがですか?」
愛想よく接客してくれる若い女の店員に釣られるように店先に辿り着いた俺は、早速目を皿にして飾られている花を一つ一つ吟味していく。
「何か特別なお花が必要ですか? それならご相談に乗りますけど」
「じゃあ手伝ってもらおうかな。実は……」
プロポーズに使いたい花を探していると言うと、心得たとばかりに店員は一つの花を進めてくる。それはバラに似た深紅の花で、うっすらと良い匂いを漂わせる上品な花だった。バラと違うのは棘が無いのと花びらの数が少し少ない事、そして花自体がバラより少し大きい事だ。
「結婚を申し込まれる男性なら、この花を買っていく人が多いですよ。匂いもきつくないし色も鮮やかだし、何よりこの花の花言葉は永遠の愛なんです」
この世界にも花言葉がある事に少し驚かされたが、なるほど、この花ならクレア達も満足してくれるに違いない。普通は両手で抱えられるぐらいの花束にするらしいんだが、この際だから奮発しよう。高くても銀貨一枚にならない花なのに、金貨を取り出して店員に握らせる。花屋では滅多に見る機会の無い大金をいきなり押し付けられた店員は、目を白黒しながら戸惑っていた。
「あ、あの……?」
「このお金で、明日までに出来る限りこの花を集めておいてくれる?お釣りは取っといていいから。明日の同じぐらいの時間に取りに来るからね」
「えっと……金貨一枚分だとかなりの量になりますけど、いいんですか?」
「構わない。それじゃ頼んだよ」
指輪と花束、プロポーズに必要な物の準備は完了した。後は翌日二つを回収してクレア達に結婚を申し込むだけだ。何か気のきいたセリフの一つでも言えるように、今から頭を悩ませておこう。
バックスを訪れた俺は、俺の顔を覚えていた門番にスフィリ王女への取り次ぎを頼んだ。魔族の侵攻時王都まで攻め込まれたバックスは街の至る所が崩壊し、未だ復興途中の段階だ。特に被害の大きかった城壁などはこの際造り直す事が決まっているらしく、真新しい部分は周囲の物と比べて高く頑丈になっている。戦争特需とも言える好景気に沸く街並みの様子を眺めていると、スフィリ王女自ら出迎えてくれた。彼女は今回の戦いでドワーフ達の装備の脆弱さを痛感したらしく、現在は新型の武器や鎧を考案中なのだとか。俺の鎧ほどではないが魔石を埋め込むアイデアがあるらしい。ひょっとしたら、将来はそれが当たり前になるのかも知れないな。
個人的な事で彼女の手を煩わせるのは心苦しかったのだが、他に当てが無いので仕方ない。バックスの王都に居る装備屋親子に頼む手もあったが、流石に男に女性が喜びそうなデザインを期待出来なかったのでパスだ。スフィリなら他のドワーフに負けず劣らずの鍛冶や細工の腕があるし、女性なのでセンスも良いだろう。恐縮する俺を快く迎えてくれたスフィリは、俺のアイデアに全面的に賛成してくれた。
「魔石を材料に使うと何らかの能力が発動するのは、バリエの鎧の件もあって今の研究段階でわかっている事です。でも今のところどの魔石がどんな能力を持っているのかは不明なので、見た目で選ぶしかないですね」
贅沢を言えば魔力を流すと身を守る効果とかが発揮されると嬉しかったんだけど、世の中そんなに上手くいかない。作ってみてから試すしかないだろう。幸い最近出来たばかりのスフィリ専用工房には実験に使われる予定だった各種様々な魔石が保管されていたため、この中から自由に持って行っていいとの事だ。獲りに行く手間が省けたので大変ありがたい。
「すいません、突然押し掛けたのに魔石までいただいて……」
「気にしないでください。あなた達が成し遂げた事を考えれば、ここの魔石を全て渡しても全然足りませんから」
笑顔でそう言ってくれるスフィリに頭を下げ、俺は魔石の選定に入る。今回選ぶ魔石に大きさは関係ないので、どれだけ美しいかが重要だ。そうなると必然的に純度の高い魔石を選ぶ事になり、魔石を大量に保管してある工房の中でも数は限られてくる。いくつか目星をつけたものを手に取り、実際に並べて比べてみる。うんうん唸りながらじっくりと時間をかけ、最終的に一つの魔石を選びだした。その魔石は淡い緑色の光を放っており、前世で言うペリドットに似ていた。
「あ、それは二角獣の魔石ですね。流石エストさん、お目が高い」
「二角獣? 一角獣ではなく?」
「ええ、二角獣です。見た目は普通の馬なんですが、頭に二本の角が生えた魔物でして、つがいで動く習性があるんですよ。一度夫婦になった二角獣は、相手が死ぬと寂しさでもう一匹も死んでしまう情の深い魔物なんです」
二角獣……ユニコーンの派生みたいな魔物なんだろうか? それにしてもつがいで動く上に片方が死んだら自分も死ぬ魔物の魔石って、結婚指輪の材料にはピッタリじゃないか? その上ペリドットに似ているのもポイントが高い。あれの宝石言葉は確か、『夫婦の幸福』だったはずだ。もうこれは、俺達のためにあるような魔石だろう。
「決めました。これにします」
「はい。じゃあ早速細工を作りましょうか。何か希望の模様とかありますか?」
「そうですね……」
何にしようか迷ったが、思い浮かんだのは俺達を結び付けていた奴隷紋の形だ。今後は俺の国の旗にもなる模様だし、王妃になる予定の彼女達にはピッタリだろう。簡単な絵を羊皮紙に書くと、スフィリ自身も見覚えがあったらしく俺の下手くそな絵をすぐに上手く書き直してくれた。指輪は魔石の部分を紋章が目立つように浮き彫りにして、リングの部分を金で、紋章周辺を銀の細工で飾り付けてくれるようだ。まだ絵の段階だと言うのに驚く様な完成度なのは、流石ドワーフと言ったところか。
「完成まで丸一日ってところですね。ここで待ってるのも退屈でしょうし、明日同じ時間にまた来ていただけますか?」
「承知しました。では明日、改めて伺います。このお礼はいつか必ず」
「期待しています。ではまた明日」
スフィリに礼を言い、俺はその場を後にした。次に向かったのはガルシア王国の王都だ。多くの人で賑わう大通りを人を掻き分けて進みながら目的の店舗を探す。すると露店が立ち並ぶ地区に辿り着いた時、ちょうど目の前に次の目的地である花屋を見つける事が出来た。
「いらっしゃいませお兄さん! お花はいかがですか?」
愛想よく接客してくれる若い女の店員に釣られるように店先に辿り着いた俺は、早速目を皿にして飾られている花を一つ一つ吟味していく。
「何か特別なお花が必要ですか? それならご相談に乗りますけど」
「じゃあ手伝ってもらおうかな。実は……」
プロポーズに使いたい花を探していると言うと、心得たとばかりに店員は一つの花を進めてくる。それはバラに似た深紅の花で、うっすらと良い匂いを漂わせる上品な花だった。バラと違うのは棘が無いのと花びらの数が少し少ない事、そして花自体がバラより少し大きい事だ。
「結婚を申し込まれる男性なら、この花を買っていく人が多いですよ。匂いもきつくないし色も鮮やかだし、何よりこの花の花言葉は永遠の愛なんです」
この世界にも花言葉がある事に少し驚かされたが、なるほど、この花ならクレア達も満足してくれるに違いない。普通は両手で抱えられるぐらいの花束にするらしいんだが、この際だから奮発しよう。高くても銀貨一枚にならない花なのに、金貨を取り出して店員に握らせる。花屋では滅多に見る機会の無い大金をいきなり押し付けられた店員は、目を白黒しながら戸惑っていた。
「あ、あの……?」
「このお金で、明日までに出来る限りこの花を集めておいてくれる?お釣りは取っといていいから。明日の同じぐらいの時間に取りに来るからね」
「えっと……金貨一枚分だとかなりの量になりますけど、いいんですか?」
「構わない。それじゃ頼んだよ」
指輪と花束、プロポーズに必要な物の準備は完了した。後は翌日二つを回収してクレア達に結婚を申し込むだけだ。何か気のきいたセリフの一つでも言えるように、今から頭を悩ませておこう。
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