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第395話 ドラン

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邪神の体が塵になり、空気に溶け出す様に消えていく。またすぐに再生するのかと身構えたものの、流石にこの一撃はそう簡単に回復できないようだ。邪神の体が消し飛んだ後、軽い音を立てて何かが地面に転がった。黒の指輪だ。指輪は変わらず瘴気を溢れさせ、それに呼応するかのように消し飛んだ体の破片が集まりだす。まずい! このままじゃまた振出しに戻るだけだ。何か手はないのかと思った俺は、自分の指にはめていた白の指輪が急に激しく光りだした事に気がついた。これは……黒の指輪の力を抑えようとしているのか?そう咄嗟に判断し、慌てて指から外して投げつけた。

「げっ!」

疲れなのか、それとも蓄積したダメージの影響か、俺が投げた白の指輪は見当はずれな所に飛んで行く。急いで取りに行こうにも魔力切れで足が言う事を聞かない。クレア達に視線を向けたが、本体が消し飛んだ影響なのか分身体の姿こそ見えないものの、戦いのダメージが酷いらしく全員倒れたままだ。そうこうしている内に黒の指輪の周辺に霧状の本体が集まり始めてだんだんと形を作っていく。これは駄目かと諦めかけたその時、鋭い鳴き声を上げて急降下してきたドランが白の指輪を咥え、力強く羽ばたいた。

「クアアアッ!」

白の指輪を咥えたドランは、一直線に黒の指輪を目指す。自分を封じる存在が近づいて来ている事を察知したのか、不完全な状態で実体化した邪神の腕からいくつもの魔法が放たれて、接近するドランを近づけまいとしている。小柄ですばしっこいドランは空中を縦横無尽に移動して懸命に攻撃を避けるが、邪神の放った一筋の雷がドランの小さな体を撃った。

「ドラン!」
「ガウッ!」

不完全とは言え邪神の一撃を受けて幼竜が無事で済む筈がない。死んだと思って絶望しかけた俺の呼びかけに答えるように咆哮すると、ドランは体から煙を上げ、破れかけた翼で再び羽ばたく。そして傷つきながらも辿り着いたドランが咥えた白の指輪ごと邪神に体当たりした瞬間、白の指輪から膨大な量の複数の光の筋が溢れ出した。

いや、これは筋ではない。触手だ。白の指輪から光で出来た触手が幾本も現れ、黒の指輪に巻き付き始めたのだ。俺はこの光景に見覚えがあった。以前ドラプニルの腕輪を魔族から奪還した時、グラン・ソラスから同じような触手が伸びて腕輪にまとわりつく瘴気を消し去った事があったのだ。

(て事は、これで黒の指輪から瘴気が無くなるか、封印されるって事か?)

俺の予想通り、光の触手に巻き付かれた黒の指輪は次第に吐き出す瘴気を薄めていく。同時に実体化していた腕も半透明になり、何かに助けを求めるように天に向けて腕を伸ばしてあがいていた。やれやれ、これで封印も成功かと思ったその時、強烈な衝撃に襲われた俺は倒れていた地面ごと吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられた。

「がはっ……!な、何が……?」

訳の解らないまま激痛に襲われた俺が混乱しながら周囲の様子を急いで探ると、そこには剣を振り抜いた姿勢のままのネメシスが立っていた。

「何を呑気に見物している勇者よ。邪神を倒すまでの共闘だと言っただろう?アレが消えた今、もうお前と協力する理由は無くなった!」

あの野郎、まだ封印が完全に終わらない内から仕掛けてきやがった。しかしそれを卑怯だとは全然思わない。俺達は殺し合いをしているのだし、一瞬でも油断した俺が間抜けなのだ。再びネメシスの大剣から放たれた衝撃波を身を捻って躱しながら、俺は何とか立ちあがる。

「立ったか。流石は勇者と言う所だが……今のお前が俺に勝てるか?」
「……どう言う事だ?」
「見てわからんか? 邪神が瘴気を集めていたと言う事は、貴様達人間より魔族である俺の方が早く回復するに決まっているだろうが」

言われてみれば、ネメシスはさっきまでの戦いで受けていたダメージが回復している。対する俺はスキルの恩恵があるとは言え、未だ体力精神力共に底に近い状態だ。おまけに今の攻撃で更にダメージを蓄積させ、剣や盾を持ち上げるのも辛い。仲間達は倒れたままだし、ドランは気絶でもしているのかピクリとも動かない。正に絶体絶命の状況だ。

「貴様らのおかげで我らが悲願は露と消えた。邪神から溢れる力の恩恵が無くなれば、今南下している軍勢も力を失うはずだ。そうなれば撤退以外に道は無くなる……ならせめて、再び力をためて侵攻する時の邪魔になるお前達の首ぐらい取っておかねばならんだろう?」

殺気の籠った眼で俺を睨みつけながら、ネメシスは大剣を振り下ろしてきた。アイギスの盾で咄嗟に障壁を張ろうとするも、魔力が足りずに一瞬盾が光っただけでまともに攻撃を受ける事になった。衝撃に吹き飛ばされた俺はゴロゴロと地面を転がり、手に持っていた盾を手放してしまう。

「やばいかな……これ」

これで防御する事も出来なくなった。まるで今までの激戦など無かったかのように元気な魔王を睨み付け、俺はこの状況を打開する策を必死に考えるのだった。
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