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第394話 策
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クレアと対峙した分身体の一つは、本体と同じように体から複数の腕を生やし、彼女に襲いかかって来た。振り下ろされる剣を避け、突き出される槍を体をずらして回避し、撃ち出される魔法を弓矢で迎撃する。クレアの素早い攻撃は息つく暇もなく繰り返され、分身体の体を削り取っていく。しかしそれも一瞬の事、分身体は瞬時に体を再生させて再び彼女に攻撃を再開してくる。
「……キリがありません」
だが諦める訳にはいかない。自分達が時間稼げば、きっとエストが何とかしてくれる。普段やたらサボりたがる彼だが、やる時はやってくれる男だ。そう信じて額に汗をにじませながら、クレアは諦めずに攻撃を続行するのだった。
「やああ! やあ!」
クレアの横ではシャリーが分身体相手に接近戦を演じている。エストに次ぐ素早さを持つシャリーは多種多様な分身体の攻撃を紙一重で避けつつ、その両手に持った二振りの短剣でいく度も分身体を斬りつけた。傷口から短剣の追加効果である炎や精神汚染が始まるが、分身体は被害を受けた個所を切り離して肉体を再生させると、何事も無かったように攻撃を続けてくる。しかしいくら彼女が素早くても限界があった。確かに素早さではクレアやディアベルに勝るシャリーだが、そこは子供の体。すぐにスタミナ切れを起こしてペースが落ち始めたのだ。段々防ぎきれなくなった攻撃を腕輪の防御で何とかしのいでいるが、魔力切れはすぐそこまで迫っていた。荒い息を吐きながら、シャリーは歯を食いしばって短剣を振り続けた。
「出でよ! イフリート!」
ディアベルは立て続けに上位の精霊を召喚して、自分の代わりに分身体と戦わせていた。だからと言って彼女が楽をしていると言う訳では決してなく、むしろ精神面の消耗はクレアやシャリー以上に厳しい状況に立たされていた。並の精霊使いでは召喚する事すら難しい上位精霊を立て続けに召喚するのは膨大な魔力を必要とする行為だ。その上無限に再生を続ける分身体を攻撃する為、召喚した精霊を現世に維持し続ける必要がある。その間にも彼女の魔力は大量に消費されるため、分身体と戦う相性としては、ディアベルが一番悪いだろう。フェンリルやイフリートなどが現れては消えていく様子を厳しい表情で見据えながら、ディアベルは次の召喚の準備に入った。
「なんなのよコイツは!気持ち悪いったら!」
悪態をつきながら二匹の水竜を操るレヴィア。彼女の水竜はその鋭い牙で分身体の体を齧り取り、体で締め上げては細かな肉片へと変えていく。しかしいくらそれらの攻撃を加えようと分身体は瞬時に復活を遂げてしまう。その気持ち悪さとしつこさに、あまり我慢の得意でないレヴィアはイライラを募らせていた。一瞬本来の姿を取り戻して一気に殲滅する考えが脳裏をよぎるが、すぐに頭を振って思考を追い出す。確かに本来の姿なら今以上に楽に戦えるだろう。だがこの場でそれを行うのは無理があったのだ。広いとは言え巨大なドラゴンが全力で戦えるほど魔王城の地下は広くないし、下手に暴れれば仲間に被害が出る恐れもある。結果、彼女はもどかしさを感じながらも自分の操る水竜で戦うしかなかった。
彼女達が戦っている間、エストとネメシスも邪神の本体と戦い続けていた。巨大な腕から繰り出される攻撃を掻い潜りながら本体を切り刻んでいく。人族と魔族、現時点で最強の力を持つ彼等二人の猛攻をもってしても、邪神が衰弱している様子は皆無だった。
「おい! 何か手はないのか!?」
「そんな事こっちが聞きたいんだよ!」
焦りを浮かべるネメシスの問いかけにエストが怒鳴り返す。既に彼等の身体は傷だらけだ。スキルや魔法で回復するとは言え、それを上回る攻撃を受け続ければ消耗するのが当たり前。彼等以外なら即死するような攻撃を何度も受けて、土と血にまみれて全身がボロボロだった。
(とは言ってもこのままじゃジリ貧だし……何か手を考えないとな)
唸りを上げて振り下ろされた邪神の腕を切り裂きながら、エストは何かヒントにならないかと古の勇者の話を思い出してみる。
(マルバスの見立てでは、俺と勇者の強さは同じぐらいか、若干俺の方が強いぐらいだそうだ。なら俺にもコイツを何とかできる可能性は十分にある。そもそもトートがこんな状態になった原因は何だったか? 指輪だ。トートはあの指輪の力を取り込むつもりが逆に取り込まれる形になり、意志を持たない化け物になり果てた。なら、あの指輪さえどうにかすれば、倒せないまでも力を奪うぐらいは出来るんじゃないのか? ……やってみる価値はあるか)
「おい魔王! 指輪だ!あの指輪を取り除けば何とかなるかも知れない!」
「……! だがどうやって指輪を探し当てる!? 攻撃をしのぎつつこの巨体の中から指輪を探し当てるなど、そう簡単には出来んぞ!」
「今から一発デカいのをぶちかます! お前は時間を稼いでくれ!」
そう言うと、ネメシスの返事を待たずにエストはグラン・ソラスにつぎ込めるだけの魔力を籠め始めた。彼の魔力に呼応して、グラン・ソラスの刀身が次第に黒く染まっていく。火炎魔法の赤や爆発魔法の白、氷結魔法の青に土魔法の茶色。彼の持つ全ての属性魔法の力を併せ持った最強の武器が徐々に作り上げられていく。だがそんな無防備な状態を邪神が見逃してくれるはずもなく、動きの止まったエストに向けて複数の腕が同時に襲いかかった。
「うおおおおっ!」
エストの前に立ちはだかり、雄たけびを上げながら全力で魔力を放出するネメシス。自分の前面にのみ効果範囲を絞った彼の放った衝撃波は、目前に迫った邪神の腕を纏めて圧壊させるとその本体の大半を爆散させた。全ての魔力を使い切ったネメシスがその場に崩れ落ち、荒い息を吐く。
「よくやった! 後は任せろ!」
その横を走り抜けたエストの手には、真っ黒に刀身を変化させたグラン・ソラスの姿があった。瞬時に再生する邪神に向けて、エストは剣を振り下ろす。彼の持つ剣が邪神の本体に突き込まれ、邪神の全身は一瞬で黒い塵と化したのだった。
「……キリがありません」
だが諦める訳にはいかない。自分達が時間稼げば、きっとエストが何とかしてくれる。普段やたらサボりたがる彼だが、やる時はやってくれる男だ。そう信じて額に汗をにじませながら、クレアは諦めずに攻撃を続行するのだった。
「やああ! やあ!」
クレアの横ではシャリーが分身体相手に接近戦を演じている。エストに次ぐ素早さを持つシャリーは多種多様な分身体の攻撃を紙一重で避けつつ、その両手に持った二振りの短剣でいく度も分身体を斬りつけた。傷口から短剣の追加効果である炎や精神汚染が始まるが、分身体は被害を受けた個所を切り離して肉体を再生させると、何事も無かったように攻撃を続けてくる。しかしいくら彼女が素早くても限界があった。確かに素早さではクレアやディアベルに勝るシャリーだが、そこは子供の体。すぐにスタミナ切れを起こしてペースが落ち始めたのだ。段々防ぎきれなくなった攻撃を腕輪の防御で何とかしのいでいるが、魔力切れはすぐそこまで迫っていた。荒い息を吐きながら、シャリーは歯を食いしばって短剣を振り続けた。
「出でよ! イフリート!」
ディアベルは立て続けに上位の精霊を召喚して、自分の代わりに分身体と戦わせていた。だからと言って彼女が楽をしていると言う訳では決してなく、むしろ精神面の消耗はクレアやシャリー以上に厳しい状況に立たされていた。並の精霊使いでは召喚する事すら難しい上位精霊を立て続けに召喚するのは膨大な魔力を必要とする行為だ。その上無限に再生を続ける分身体を攻撃する為、召喚した精霊を現世に維持し続ける必要がある。その間にも彼女の魔力は大量に消費されるため、分身体と戦う相性としては、ディアベルが一番悪いだろう。フェンリルやイフリートなどが現れては消えていく様子を厳しい表情で見据えながら、ディアベルは次の召喚の準備に入った。
「なんなのよコイツは!気持ち悪いったら!」
悪態をつきながら二匹の水竜を操るレヴィア。彼女の水竜はその鋭い牙で分身体の体を齧り取り、体で締め上げては細かな肉片へと変えていく。しかしいくらそれらの攻撃を加えようと分身体は瞬時に復活を遂げてしまう。その気持ち悪さとしつこさに、あまり我慢の得意でないレヴィアはイライラを募らせていた。一瞬本来の姿を取り戻して一気に殲滅する考えが脳裏をよぎるが、すぐに頭を振って思考を追い出す。確かに本来の姿なら今以上に楽に戦えるだろう。だがこの場でそれを行うのは無理があったのだ。広いとは言え巨大なドラゴンが全力で戦えるほど魔王城の地下は広くないし、下手に暴れれば仲間に被害が出る恐れもある。結果、彼女はもどかしさを感じながらも自分の操る水竜で戦うしかなかった。
彼女達が戦っている間、エストとネメシスも邪神の本体と戦い続けていた。巨大な腕から繰り出される攻撃を掻い潜りながら本体を切り刻んでいく。人族と魔族、現時点で最強の力を持つ彼等二人の猛攻をもってしても、邪神が衰弱している様子は皆無だった。
「おい! 何か手はないのか!?」
「そんな事こっちが聞きたいんだよ!」
焦りを浮かべるネメシスの問いかけにエストが怒鳴り返す。既に彼等の身体は傷だらけだ。スキルや魔法で回復するとは言え、それを上回る攻撃を受け続ければ消耗するのが当たり前。彼等以外なら即死するような攻撃を何度も受けて、土と血にまみれて全身がボロボロだった。
(とは言ってもこのままじゃジリ貧だし……何か手を考えないとな)
唸りを上げて振り下ろされた邪神の腕を切り裂きながら、エストは何かヒントにならないかと古の勇者の話を思い出してみる。
(マルバスの見立てでは、俺と勇者の強さは同じぐらいか、若干俺の方が強いぐらいだそうだ。なら俺にもコイツを何とかできる可能性は十分にある。そもそもトートがこんな状態になった原因は何だったか? 指輪だ。トートはあの指輪の力を取り込むつもりが逆に取り込まれる形になり、意志を持たない化け物になり果てた。なら、あの指輪さえどうにかすれば、倒せないまでも力を奪うぐらいは出来るんじゃないのか? ……やってみる価値はあるか)
「おい魔王! 指輪だ!あの指輪を取り除けば何とかなるかも知れない!」
「……! だがどうやって指輪を探し当てる!? 攻撃をしのぎつつこの巨体の中から指輪を探し当てるなど、そう簡単には出来んぞ!」
「今から一発デカいのをぶちかます! お前は時間を稼いでくれ!」
そう言うと、ネメシスの返事を待たずにエストはグラン・ソラスにつぎ込めるだけの魔力を籠め始めた。彼の魔力に呼応して、グラン・ソラスの刀身が次第に黒く染まっていく。火炎魔法の赤や爆発魔法の白、氷結魔法の青に土魔法の茶色。彼の持つ全ての属性魔法の力を併せ持った最強の武器が徐々に作り上げられていく。だがそんな無防備な状態を邪神が見逃してくれるはずもなく、動きの止まったエストに向けて複数の腕が同時に襲いかかった。
「うおおおおっ!」
エストの前に立ちはだかり、雄たけびを上げながら全力で魔力を放出するネメシス。自分の前面にのみ効果範囲を絞った彼の放った衝撃波は、目前に迫った邪神の腕を纏めて圧壊させるとその本体の大半を爆散させた。全ての魔力を使い切ったネメシスがその場に崩れ落ち、荒い息を吐く。
「よくやった! 後は任せろ!」
その横を走り抜けたエストの手には、真っ黒に刀身を変化させたグラン・ソラスの姿があった。瞬時に再生する邪神に向けて、エストは剣を振り下ろす。彼の持つ剣が邪神の本体に突き込まれ、邪神の全身は一瞬で黒い塵と化したのだった。
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