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第390話 ネメシス対トート
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「はああああ!」
気合の乗ったトートの一撃をネメシスは軽々と受け止め、剣ごとトートを弾き飛ばす。吹っ飛ばされたトートは空中で体勢を入れ替えて柱に着地すると、再びネメシスに向けて斬りかかる。柱や天井を足場にしたトートが縦横無尽に襲い掛かるが、トートがいく度攻撃しようとネメシスは涼しい顔で反撃するだけであった。このままでは埒が明かないと、接近戦に方針を切り替え怒涛の勢いでネメシスに剣を打ち込むが、未だ彼の体に攻撃は届かない。それどころかその場から動かないネメシスの打ち込みに防戦一方となり、体にいくつもの傷を負う始末だ。
「ちっ!」
頭を狙って振り下ろされた一撃を弾き返したトートは一瞬の隙をついて後方へと跳び、荒れた息を整え始める。それを黙って見ていたネメシスはつまらなそうにため息をつくと、構えていた剣を下ろした。
「大言壮語するからどんな物かと期待してみれば…期待外れも良い所だ。確かに貴様は以前に比べて遥かに強くなった。四天王を務める程度の実力を得ているのは認めよう。だが…俺には遠く及ばんな」
そう言うと、ネメシスが玉座に座っていた時と同じようにゆっくり手を上げ、それをトートにかざす。
「つまらん奴。貴様はここで死ねトート」
ネメシスの手に赤い光が灯りトートを消し去ろうとした瞬間、トートの姿が掻き消えネメシスの懐に現れた。その速さはネメシスでさえ捉える事が出来ず、この戦いが始まって初めて彼が驚愕に顔を歪める。そしてトートが手にした剣を一閃させると、突き出されたネメシスの腕を音もなく切断したのだった。
「なに!?」
「死ぬのは貴様だネメシス!」
いきなり動きの速さが倍以上になったトートがさっきと立場を入れ替えたかのようにネメシスを圧倒する。片腕を失ったネメシスは傷を癒す暇もなく片手一本でトートの相手を余儀なくされ、トート同様無数の傷を体に作っていく。両者のあまりの剣速に圧倒され、取り巻きは誰一人として手を出す事が出来ない。次第に追い詰められたネメシスは事態を打開するために、接近戦を演じるトートとの間に突如光の光球を発生させ、自爆覚悟で爆発させた。
「ぐっ!」
「がはっ!」
至近距離の爆発で両者は吹き飛ばされ、共に壁にめり込むほどの勢いで叩きつけられる。先に体勢を立て直したのはネメシスだ。彼は傷みに顔をしかめながらも回復魔法で傷を塞ぎ、切断された片腕をあっと言う間に治療する。遅れて復活したトートも自らの魔法でみるみる傷を治していき、余裕の表情でネメシスを見据える。
「おいおいどうしたんだネメシスさんよ。さっきまでの余裕はどこに消えたんだ?随分と苦しそうじゃないか」
「貴様………俺相手に実力を隠していたと言う訳か」
「その通り!さっきまでのは小手調べだ。魔王様の強さがどの程度か確かめるために加減してたんだが…思ったより弱かったみたいだな」
勝利宣言ともとれるトートの言葉に側近たちが沸き上がる。だがネメシスは先ほどまでと同じようにため息をつくと、静かにトートへと歩き始めた。ネメシスが最後の抵抗を試みようとしている…そう判断し、一気に距離を詰めて首を両断しようと両足に力を籠め、正に地を蹴ろうとしたその時…トートはなぜか直前で動きを止める。
どう言う訳か、ゆっくりとこちらに歩いて来るネメシスから感じる威圧感が先ほどの比ではないのだ。一歩歩く毎にネメシスの身体から魔力と瘴気が溢れ、今やその威圧感だけで謁見の間に居る彼以外の者の動きを封じているほどだった。
そして何気なく振り下ろしたネメシスの一撃はトートのすぐ脇を通り抜け、謁見の間にそびえ立っていた分厚い柱を一撃で粉砕したのだ。
「な、なに…?」
さっきまでとは段違いの攻撃力にトート達は度肝を抜かれる。今の一撃とまともに打ち合っては数合も持たずに殺されてしまう。それを理解したトートは一筋の汗を垂らし、ネメシスとの距離を取ろうとする。
「まさか俺同様、お前も実力を隠していたとは驚いたぞトート。だがお前と俺では隠していた実力に差があり過ぎたようだな」
ネメシスの圧力に押されジリジリと後ろに下がるトート。再び追い詰められる立場になった彼は厳しい表情のまま壁まで追い詰められ、逃げ道を無くす。トートの側近達も何とか主を助けようとネメシスの隙を探るが、斬りかかったところで即死する未来しか予測できなかった。魔王を夢見た彼等の主は無残にもこの場で殺され、直後に自分達も後を追う事になる。彼等がそう思った時、異変は起こった。
「諦めたか?では今度こそ…死ねトート!」
ネメシスが剣を腰だめに構え、溜めた力を一気に開放しようと踏み出した瞬間、彼の背中に何者かが放った爆炎が直撃する。不意の一撃に思わずたたらを踏んだネメシス目がけて、隙をうかがっていたトートが全力で爆発魔法を放った。謁見の間全体に爆発の衝撃波が走り、巻き上がる粉塵と細かな破片が視界を遮った。その一瞬の隙を突いてトートが出口目がけて走りだし、その後を側近達が追う。
「助かったぞラガン!よくやってくれた!」
大通路を全力疾走するトートの頭上を飛ぶのは小型の黒いドラゴン、ラガンだ。グリトニルの闘技会決勝でドランと死闘を演じた彼は、ドランと同様常にトートと共にあったのだ。
「トート様!どうされるおつもりですか!?」
トートの後を追う側近が悲壮な声で問いかけてくる。なにせ彼等が無敵と信じていたトートは、本気を出した魔王ネメシスにまるで歯が立たなかったのだ。今更逃げ出す場所など存在しないし、後は最後まで戦って死ぬか、降伏して殺されるかのどちらかしか道は残されていないように思えた。だが前を走るトートはまだ諦めておらず、ある場所を目指して走り続ける。
「指輪だ!地下深くに埋められている黒の指輪を掘り起こし、俺の力を倍増させる!そうすれば、いかに魔王とて俺の敵ではないはずだ!」
追い詰められた彼等が求めているのは魔王城地下にある黒の指輪。そう、エスト達がわざわざ魔族領まで追い求め、今回起きた戦乱の原因ともなった呪われた指輪だった。自分達が生き残るため、傾いた形勢を一気に逆転させるため、彼等は走る。その先に誰が居るのかもわからずに。
気合の乗ったトートの一撃をネメシスは軽々と受け止め、剣ごとトートを弾き飛ばす。吹っ飛ばされたトートは空中で体勢を入れ替えて柱に着地すると、再びネメシスに向けて斬りかかる。柱や天井を足場にしたトートが縦横無尽に襲い掛かるが、トートがいく度攻撃しようとネメシスは涼しい顔で反撃するだけであった。このままでは埒が明かないと、接近戦に方針を切り替え怒涛の勢いでネメシスに剣を打ち込むが、未だ彼の体に攻撃は届かない。それどころかその場から動かないネメシスの打ち込みに防戦一方となり、体にいくつもの傷を負う始末だ。
「ちっ!」
頭を狙って振り下ろされた一撃を弾き返したトートは一瞬の隙をついて後方へと跳び、荒れた息を整え始める。それを黙って見ていたネメシスはつまらなそうにため息をつくと、構えていた剣を下ろした。
「大言壮語するからどんな物かと期待してみれば…期待外れも良い所だ。確かに貴様は以前に比べて遥かに強くなった。四天王を務める程度の実力を得ているのは認めよう。だが…俺には遠く及ばんな」
そう言うと、ネメシスが玉座に座っていた時と同じようにゆっくり手を上げ、それをトートにかざす。
「つまらん奴。貴様はここで死ねトート」
ネメシスの手に赤い光が灯りトートを消し去ろうとした瞬間、トートの姿が掻き消えネメシスの懐に現れた。その速さはネメシスでさえ捉える事が出来ず、この戦いが始まって初めて彼が驚愕に顔を歪める。そしてトートが手にした剣を一閃させると、突き出されたネメシスの腕を音もなく切断したのだった。
「なに!?」
「死ぬのは貴様だネメシス!」
いきなり動きの速さが倍以上になったトートがさっきと立場を入れ替えたかのようにネメシスを圧倒する。片腕を失ったネメシスは傷を癒す暇もなく片手一本でトートの相手を余儀なくされ、トート同様無数の傷を体に作っていく。両者のあまりの剣速に圧倒され、取り巻きは誰一人として手を出す事が出来ない。次第に追い詰められたネメシスは事態を打開するために、接近戦を演じるトートとの間に突如光の光球を発生させ、自爆覚悟で爆発させた。
「ぐっ!」
「がはっ!」
至近距離の爆発で両者は吹き飛ばされ、共に壁にめり込むほどの勢いで叩きつけられる。先に体勢を立て直したのはネメシスだ。彼は傷みに顔をしかめながらも回復魔法で傷を塞ぎ、切断された片腕をあっと言う間に治療する。遅れて復活したトートも自らの魔法でみるみる傷を治していき、余裕の表情でネメシスを見据える。
「おいおいどうしたんだネメシスさんよ。さっきまでの余裕はどこに消えたんだ?随分と苦しそうじゃないか」
「貴様………俺相手に実力を隠していたと言う訳か」
「その通り!さっきまでのは小手調べだ。魔王様の強さがどの程度か確かめるために加減してたんだが…思ったより弱かったみたいだな」
勝利宣言ともとれるトートの言葉に側近たちが沸き上がる。だがネメシスは先ほどまでと同じようにため息をつくと、静かにトートへと歩き始めた。ネメシスが最後の抵抗を試みようとしている…そう判断し、一気に距離を詰めて首を両断しようと両足に力を籠め、正に地を蹴ろうとしたその時…トートはなぜか直前で動きを止める。
どう言う訳か、ゆっくりとこちらに歩いて来るネメシスから感じる威圧感が先ほどの比ではないのだ。一歩歩く毎にネメシスの身体から魔力と瘴気が溢れ、今やその威圧感だけで謁見の間に居る彼以外の者の動きを封じているほどだった。
そして何気なく振り下ろしたネメシスの一撃はトートのすぐ脇を通り抜け、謁見の間にそびえ立っていた分厚い柱を一撃で粉砕したのだ。
「な、なに…?」
さっきまでとは段違いの攻撃力にトート達は度肝を抜かれる。今の一撃とまともに打ち合っては数合も持たずに殺されてしまう。それを理解したトートは一筋の汗を垂らし、ネメシスとの距離を取ろうとする。
「まさか俺同様、お前も実力を隠していたとは驚いたぞトート。だがお前と俺では隠していた実力に差があり過ぎたようだな」
ネメシスの圧力に押されジリジリと後ろに下がるトート。再び追い詰められる立場になった彼は厳しい表情のまま壁まで追い詰められ、逃げ道を無くす。トートの側近達も何とか主を助けようとネメシスの隙を探るが、斬りかかったところで即死する未来しか予測できなかった。魔王を夢見た彼等の主は無残にもこの場で殺され、直後に自分達も後を追う事になる。彼等がそう思った時、異変は起こった。
「諦めたか?では今度こそ…死ねトート!」
ネメシスが剣を腰だめに構え、溜めた力を一気に開放しようと踏み出した瞬間、彼の背中に何者かが放った爆炎が直撃する。不意の一撃に思わずたたらを踏んだネメシス目がけて、隙をうかがっていたトートが全力で爆発魔法を放った。謁見の間全体に爆発の衝撃波が走り、巻き上がる粉塵と細かな破片が視界を遮った。その一瞬の隙を突いてトートが出口目がけて走りだし、その後を側近達が追う。
「助かったぞラガン!よくやってくれた!」
大通路を全力疾走するトートの頭上を飛ぶのは小型の黒いドラゴン、ラガンだ。グリトニルの闘技会決勝でドランと死闘を演じた彼は、ドランと同様常にトートと共にあったのだ。
「トート様!どうされるおつもりですか!?」
トートの後を追う側近が悲壮な声で問いかけてくる。なにせ彼等が無敵と信じていたトートは、本気を出した魔王ネメシスにまるで歯が立たなかったのだ。今更逃げ出す場所など存在しないし、後は最後まで戦って死ぬか、降伏して殺されるかのどちらかしか道は残されていないように思えた。だが前を走るトートはまだ諦めておらず、ある場所を目指して走り続ける。
「指輪だ!地下深くに埋められている黒の指輪を掘り起こし、俺の力を倍増させる!そうすれば、いかに魔王とて俺の敵ではないはずだ!」
追い詰められた彼等が求めているのは魔王城地下にある黒の指輪。そう、エスト達がわざわざ魔族領まで追い求め、今回起きた戦乱の原因ともなった呪われた指輪だった。自分達が生き残るため、傾いた形勢を一気に逆転させるため、彼等は走る。その先に誰が居るのかもわからずに。
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