242 / 258
連載
第389話 ネメシス
しおりを挟む
一瞬で間合いを詰めたトートの一撃を魔王の側近達は数人がかりで受け止めたかと思ったら、逆に剣や槍など複数の武器で一斉に反撃してくる。トートは舌打ちしながらそれらを躱し一旦間合いをとった。再び飛び掛かるかと思ったトートだったが、数人がかりで攻撃に備えている側近達に向けて手をかざすと、手のひらに灯った爆発魔法の光球を放ち、それと同時に自分も突っ込んだ。
魔法の直撃を避けるために密集を解いた側近の一人に、トートの鋭い一撃が容赦なく襲い掛かった。彼は咄嗟に剣で受け流そうとするが、もとより実力差があり過ぎる両者だ。一対一で対抗できる訳もなく、武器を持つ腕を切断されると苦痛の声を上げる間もなく、返す刀でその体を両断された。
「くそっ!」
「おのれ!」
「仇は取る!」
仲間がやられる光景を目にした残りの側近達が口々に怒りの声を上げる。だがトートは彼等を小馬鹿にするような笑みを浮かべ、分散した彼等を次々と攻撃し始めたのだ。魔王の側近達はよく戦った。トートの軍勢に対しては圧倒的戦力差を覆すために連携を密にして隙を無くし、まるで一個の生物の様に戦い続けていたのだが、それもトートの様に強烈な個の力を前には通用せず、次々と屍を晒す事になっただけだ。
「ま…魔王様の下へは…いかせ…」
「さっさと死ね」
最後の力を振り絞り、倒れ込みながらも震える手でトートの足を掴む最後の一人の首を、トートは無慈悲に刎ね飛ばした。これで邪魔者は全て居なくなった。もうトート達を阻む者は一人もおらず、残すは魔王ただ一人となったのだ。トートを先頭に大通路を一歩ずつ確実に進んで行くトート軍。先に進むにつれて配下の者達は次第に無口になり、その身に緊張感を漂わせている。謁見の間から伝わる威圧感が彼等の歩みを遅くしているのだ。
やがてトート達は魔王城の最奥にある謁見の間に辿り着いた。そこには外界との接触を閉ざす巨大な門があり、今もトート達の侵入を拒むように閉ざされたままだった。
「開けろ」
トートの指示を受け、全ての色を混ぜて凝縮したような黒一色の扉を、トートの配下が数人がかりで押し開いていく。部屋一面に血のように真っ赤な絨毯が広がる謁見の間、その奥には他者を見下ろすために数段高い台座があり、禍々しい形の玉座があった。その玉座には、つい最近まで彼等が主と崇めていた一人の男が静かに座っていた。あれこそが今代の魔王。わずか百年ほど前に今の地位についた年若い魔王だが、力は歴代でも最も強いと噂される男だ。その魔王は、特に焦った様子もなく冷めた目で侵入してきたトート達を見下ろしていた。
「…魔王…」
しんと静まり返った謁見の間に、誰かがゴクリと唾を飲み込む音が響く。トートですらその目に一瞬気圧されて一歩後ろに下がりそうになったが、彼はグッと腹に力を籠めると無理に笑顔を浮かべ、一人魔王に近づいていく。するとトートに釣られるように、彼の配下も金縛りから解かれたように奥へと進み始めた。
魔王までわずか数メートルと言う所まで近づいたトートは足を止め、ニヤけた表情のまま魔王に視線を向ける。相変わらず魔王は微動だにせず、冷たい目で彼等を見下ろしたままだ。仮にその光景をエストが見れば『小者が背伸びしているようにしか見えない』と感想を漏らしただろう。
「いよいよ終わりだな魔王。いや、ネメシス!今日この場でお前の首をねじ切って、俺がその椅子に座ってやるよ」
挑発するトートの言葉にネメシスは反応しない。相変わらず反応も無く冷たい目で見下ろすだけのネメシスに苛立ったトートは無理に作っていた笑顔などやめて、顔に怒りを貼り付ける。
「どうした?ビビッて声も出ないのか?…何か言ったらどうなんだ?……何か言えよ。………言ってみろ!!」
トートの言葉に反応し、一斉に武器を構える兵士達。後は玉座に殺到してそれぞれの武器を魔王に突き立てるだけで全てが終わる…ただそれだけに思えたが、ここにきて初めて魔王ネメシスが動いた。彼は座ったまま怠そうに片手を上げたかと思うと、いきなり信じられない程の熱量を持った赤い光線をその手の平から放ったのだ。
「うおおっ!?」
咄嗟に危険を察知して飛び退くトートとその側近達だったが、彼等と大きく力の差がある兵士達は避ける事すら出来ずにその光の中へと姿を消した。赤い光は謁見の間にあった扉を一瞬で融解させ、そのまま大通路を焼き焦がしながら直進すると魔王城に直撃して大爆発を起こす。その魔法のあまりの威力に城全体が激しく揺れ、まるで地震でも起きたかのようだった。
「て、てめえ…!」
「…身の程をわきまえない小僧が。お前、軍勢がいなければ俺に勝てると思っているようだが…そんな訳があるまい。俺が魔王城を空にしたのは守りが必要ないからだ。俺一人居れば、お前達がいくら攻め寄せようが撃退できるからなんだよ」
いきなりの不意打ちに唇を噛みしめるトートを見下ろし、ネメシスは玉座から立ち上がると一歩ずつゆっくりと台座を下へと降り始める。それと同時にネメシスの身体から恐ろしいほどの魔力が漏れ出し、トート達はその圧力に負けて後ろに下がり始めた。
「舐めるなよ…俺はもうお前の力を越えてるんだからな…!」
「なら証明してみせろ。お前の実力が本物なら、望み通り魔王の座をお前に譲ってやろう」
剣を構えるトートと対峙するネメシスは、腰に差した剣をゆっくりと抜き放つ。その刀身からは黒い瘴気が漏れ出し、敵対する者に多大なプレッシャーを与えている。
「ふん…その言葉、後悔するなよ!」
踏みしめた床にひびが入るほどの勢いでトートが一気に跳躍し、ネメシスに向けて斬りかかった。ここに魔族の頂点を決める戦いがついに始まったのだった。
魔法の直撃を避けるために密集を解いた側近の一人に、トートの鋭い一撃が容赦なく襲い掛かった。彼は咄嗟に剣で受け流そうとするが、もとより実力差があり過ぎる両者だ。一対一で対抗できる訳もなく、武器を持つ腕を切断されると苦痛の声を上げる間もなく、返す刀でその体を両断された。
「くそっ!」
「おのれ!」
「仇は取る!」
仲間がやられる光景を目にした残りの側近達が口々に怒りの声を上げる。だがトートは彼等を小馬鹿にするような笑みを浮かべ、分散した彼等を次々と攻撃し始めたのだ。魔王の側近達はよく戦った。トートの軍勢に対しては圧倒的戦力差を覆すために連携を密にして隙を無くし、まるで一個の生物の様に戦い続けていたのだが、それもトートの様に強烈な個の力を前には通用せず、次々と屍を晒す事になっただけだ。
「ま…魔王様の下へは…いかせ…」
「さっさと死ね」
最後の力を振り絞り、倒れ込みながらも震える手でトートの足を掴む最後の一人の首を、トートは無慈悲に刎ね飛ばした。これで邪魔者は全て居なくなった。もうトート達を阻む者は一人もおらず、残すは魔王ただ一人となったのだ。トートを先頭に大通路を一歩ずつ確実に進んで行くトート軍。先に進むにつれて配下の者達は次第に無口になり、その身に緊張感を漂わせている。謁見の間から伝わる威圧感が彼等の歩みを遅くしているのだ。
やがてトート達は魔王城の最奥にある謁見の間に辿り着いた。そこには外界との接触を閉ざす巨大な門があり、今もトート達の侵入を拒むように閉ざされたままだった。
「開けろ」
トートの指示を受け、全ての色を混ぜて凝縮したような黒一色の扉を、トートの配下が数人がかりで押し開いていく。部屋一面に血のように真っ赤な絨毯が広がる謁見の間、その奥には他者を見下ろすために数段高い台座があり、禍々しい形の玉座があった。その玉座には、つい最近まで彼等が主と崇めていた一人の男が静かに座っていた。あれこそが今代の魔王。わずか百年ほど前に今の地位についた年若い魔王だが、力は歴代でも最も強いと噂される男だ。その魔王は、特に焦った様子もなく冷めた目で侵入してきたトート達を見下ろしていた。
「…魔王…」
しんと静まり返った謁見の間に、誰かがゴクリと唾を飲み込む音が響く。トートですらその目に一瞬気圧されて一歩後ろに下がりそうになったが、彼はグッと腹に力を籠めると無理に笑顔を浮かべ、一人魔王に近づいていく。するとトートに釣られるように、彼の配下も金縛りから解かれたように奥へと進み始めた。
魔王までわずか数メートルと言う所まで近づいたトートは足を止め、ニヤけた表情のまま魔王に視線を向ける。相変わらず魔王は微動だにせず、冷たい目で彼等を見下ろしたままだ。仮にその光景をエストが見れば『小者が背伸びしているようにしか見えない』と感想を漏らしただろう。
「いよいよ終わりだな魔王。いや、ネメシス!今日この場でお前の首をねじ切って、俺がその椅子に座ってやるよ」
挑発するトートの言葉にネメシスは反応しない。相変わらず反応も無く冷たい目で見下ろすだけのネメシスに苛立ったトートは無理に作っていた笑顔などやめて、顔に怒りを貼り付ける。
「どうした?ビビッて声も出ないのか?…何か言ったらどうなんだ?……何か言えよ。………言ってみろ!!」
トートの言葉に反応し、一斉に武器を構える兵士達。後は玉座に殺到してそれぞれの武器を魔王に突き立てるだけで全てが終わる…ただそれだけに思えたが、ここにきて初めて魔王ネメシスが動いた。彼は座ったまま怠そうに片手を上げたかと思うと、いきなり信じられない程の熱量を持った赤い光線をその手の平から放ったのだ。
「うおおっ!?」
咄嗟に危険を察知して飛び退くトートとその側近達だったが、彼等と大きく力の差がある兵士達は避ける事すら出来ずにその光の中へと姿を消した。赤い光は謁見の間にあった扉を一瞬で融解させ、そのまま大通路を焼き焦がしながら直進すると魔王城に直撃して大爆発を起こす。その魔法のあまりの威力に城全体が激しく揺れ、まるで地震でも起きたかのようだった。
「て、てめえ…!」
「…身の程をわきまえない小僧が。お前、軍勢がいなければ俺に勝てると思っているようだが…そんな訳があるまい。俺が魔王城を空にしたのは守りが必要ないからだ。俺一人居れば、お前達がいくら攻め寄せようが撃退できるからなんだよ」
いきなりの不意打ちに唇を噛みしめるトートを見下ろし、ネメシスは玉座から立ち上がると一歩ずつゆっくりと台座を下へと降り始める。それと同時にネメシスの身体から恐ろしいほどの魔力が漏れ出し、トート達はその圧力に負けて後ろに下がり始めた。
「舐めるなよ…俺はもうお前の力を越えてるんだからな…!」
「なら証明してみせろ。お前の実力が本物なら、望み通り魔王の座をお前に譲ってやろう」
剣を構えるトートと対峙するネメシスは、腰に差した剣をゆっくりと抜き放つ。その刀身からは黒い瘴気が漏れ出し、敵対する者に多大なプレッシャーを与えている。
「ふん…その言葉、後悔するなよ!」
踏みしめた床にひびが入るほどの勢いでトートが一気に跳躍し、ネメシスに向けて斬りかかった。ここに魔族の頂点を決める戦いがついに始まったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,307
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。