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第388話 魔王城攻防戦②

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偽りの指輪で姿を変えた俺達は、転移を連続で使って魔王城の防壁を乗り越えると、その内部に侵入する事に成功した。トート軍が侵入した事で城内は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっており、姿を隠しながら奥へ奥へと進んで行く俺達を発見出来る者は存在しなかった。魔王城の中は神殿の様に荘厳な造りになってはいるものの、城内を漂う濃密な瘴気によって少しも神聖さなど感じさせず、むしろその造りは邪悪さを感じさせる原因にもなっていた。

「あまり長時間居たくない場所ね」
「同感だ。魔族なら力がみなぎるんだろうが、邪神の信徒でない我々だと体に悪い影響が出かねない。目的を遂げたらさっさと出るのが良いだろうな」
「ごしゅじんさま、したの方からすごく嫌なかんじがするよ」
「ああ。シャリーの言う通り地下で間違いなさそうだ」

魔王が居るのはどの辺りだろうか?仮にも王と名がつくなら恐らく城の最上階でトート達が来るのを迎え撃つつもりだと思うけど、地下で待ち受けていたりしないよな?だとしたら面倒な事になるんだが…考え事をしながら歩く俺の横で、クレアが何かに気がついた様に足を止める。

「ご主人様、あそこに階段が」

クレアの指さす方向に視線を向けると、確かに彼女の言うように下へと通じている階段を発見した。今まで歩いてきた城内と違い、視覚化できそうな程濃い瘴気がその階段の奥から漂っているのがわかる。どうやらあれが当たりみたいだな。

「よし、目的地は近いみたいだ。みんな気を引き締めろよ」

無言でうなずくみんなを引き連れ、俺は奈落の底へと通じている様な錯覚さえする地下への階段へと足をかけた。

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「魔王を探せ!雑魚はどうでもいい!魔王の首を取った奴は望むだけの褒美を与えてやるぞ!」

エストに遅れる事しばし、トートも自らの配下を引き連れて魔王城へと乗り込んでいた。既に魔王城の守備兵はその大半が討ち取られるか逃げ出すかしており、組織的な抵抗力は無くなっている。後は散発的に抵抗してくる輩に注意しながら魔王の下まで辿り着くだけの状態だ。

魔王に忠誠を誓う魔族が命懸けでトートに斬りかかろうとするも、トートの側近に阻止されてあっさりと返り討ちにあう。トートの身を守る側近は僅か数名と数こそ少ないものの、その動きは明らかに他の魔族と格が違っていた。彼等もトート同様邪神の力を多く取り込んで力を強化しているに違いない。

「トート様、謁見の間へと続く大通路に敵集団を確認しました。あの敵の集まり具合から見て、恐らく魔王はあの先に居ます。あれが最後の抵抗勢力でしょう」

まるで虫の死骸でも眺めるように魔族の死体を冷たく見下ろしていたトートに、伝令役の魔族が片膝をつきながら報告してきた。その報告を聞いた途端、トートの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。ようやく魔王を追い詰める事が出来たのだ。いよいよ長年追い求めていた玉座が近づいてきた事で、彼は王になった自分を想像するのを抑えられなくなっていたのだ。

魔王城の奥、天へと伸びそうな断崖絶壁の先には謁見の間兼魔王の住処が存在する。そこには侵入者に備えて結界が張られていて、例えドラゴンと言えど空からの侵入は不可能だった。唯一そこに至るには魔王城から伸びる一本の通路を通るしかなく、トート達にとっては最後の難関となる場所でもあった。

トート達の行く手を遮るのは魔王城に残る最後の戦力だ。流石に魔王の側近くに仕える彼等は今までと違い、押し寄せるトート軍の雑兵達を物ともせずに切り払っていく。十人足らずのその戦力相手にトート軍は次々と死体を量産する羽目になり、褒美に目がくらんで血気に逸る連中を怯えさせ、その場に釘づけにしていたのだ。

「…この場合、敵ながら天晴れとか言った方が良いのか?」

配下である魔族達の不甲斐ない戦いぶりに、トートは苦虫を噛み潰した様な表情になる。そして怯える味方を蹴り飛ばして道を開けると、抵抗を続ける魔王軍を睨み付けた。

「一応最後だから忠告しておいてやるが…降伏するなら今の内だぞ。正直言って、お前達ほどの手練れを皆殺しにするのは惜しい。今降伏すれば、俺が王の座に就いた後も今と同じだけの地位と財産を保障しようじゃないか。…どうするね?」
「笑止!」
「愚かな!この場に貴様になびく臆病者が居ると思うか!?」
「貴様なんぞが王になれるものか!例え我等が倒れようと、魔王様一人に殲滅されるのがオチよ!」
「身の程をわきまえるがいい!この成り上がりの三流魔族が!」

のぼせ上がったトートに冷水をぶっかけるような罵倒の数々は、トートを激怒させるのに十分だった。彼は褒められる事はあっても罵倒される事に慣れていない。力を得ても精神の未熟さまでは改善する事が出来ず、あっさりと挑発に乗せらてしまった。

表情を一変させたトートはゆっくりと剣を鞘から抜き放ち、一歩ずつ彼等に近寄って行く。その双眸は鋭く細められ、気の弱い者なら睨み付けられただけでも絶命しそうな殺気が溢れ出していた。

「…せっかく生き残る機会を与えてやったと言うのに…馬鹿共が。新たな王に向かっての暴言、万死に値する。死を持って償うがいい!」

迫るトートを決死の覚悟で迎え撃とうとする魔王軍の生き残り達。そんな彼等に剣を抜いたトートは一気に跳び、その首を刎ね飛ばすべく剣を振り下ろす。魔王に至る最後の攻防が、今始まったのだ。
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