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連載
第387話 魔王城攻防戦
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トートの軍の後を追い、俺達はとうとう魔王城に辿り着いた。既にトート軍による魔王城への攻撃は開始されており、両軍による激しい戦闘が繰り広げられている。城壁の上から矢、槍、岩、熱湯、魔法など、様々な手段で攻撃してくる魔王軍に対して、トート軍は犠牲も厭わず果敢に攻撃を続けていた。お互い後がないから死に物狂いだ。
魔王城は俺の想像していた中世ヨーロッパの城にはあまり似ていなくて、複数の塔が連なる姿はパッと見た感じ真っ黒に塗りつぶされたサグラダファミリアのようだった。そんな芸術品のような城の周囲では多くの兵や魔物が骸を晒し、血生臭さを漂わせている。
「ご主人様、決着がつくまでここで待機するんですか?」
「完全に終わってからだと内部に入りにくくなると思うから、トートの軍が城門を突破してなだれ込んだ時が狙い目かな?それまでのんびり観察してよう」
激戦を繰り広げる魔族達を尻目に、俺達は魔王城を一望できる小高い丘の上で休憩していた。この数日野宿が続いていたから全員疲れが溜まっていたのだ。俺とクレアの後ろではディアベル達が毛布にくるまったまま寝息を立てている。城攻めがそう簡単に終わる訳もないし、あと数時間寝かせておいても問題ないだろう。
俺達が見守る中、いつ果てるともなく魔族達は一進一退の攻防を続けている。やはり魔王軍側は想像通り兵力が少ないのか、トートの軍勢に押され気味だ。装備が統一されていない所を見ると各地域からの寄せ集めである可能性が高い。あれならトートの軍と練度に差が無いだろうから、単純に数の多い方が有利だろう。
「お、ようやく城門を突破できそうだな」
「本当ですね。そろそろ壊れそうです」
干し肉を齧りながらすっかり観戦モードの俺とクレアの視線の先では、破壊槌による何度目かの突撃を受けた魔王城の城門がひしゃげ、地響きをあげながら内側に向けて倒れ込んだ。ここぞとばかりにトート軍が城内へとなだれ込み、至る所で乱戦が始まる。敵も味方も同じような格好と人相をしているせいか、こんな状況だと誰が誰だかわからなくなるな。
「そろそろかな。おーいみんな。そろそろ準備しようか」
俺の言葉にディアベル達はのそのそと毛布から這い出て来て、大きく背伸びをし始める。まだ寝ぼけ眼のシャリーに水筒の水を飲ませながら装備をつけてやり、干し肉を口に咥えさせる。シャリーの頭の上でおこぼれを期待していたドランにも一欠けらを与えた後、自分の装備を確認し始めた。
「いつ城門が突破されたの?」
「ついさっきですよ。そろそろ中に入っても問題ないってご主人様が」
身支度をしながら問いかけるレヴィアにクレアが答えている。仮眠を取った事で全員疲れが取れて万全になっているようだ。これなら魔王城に乗り込んでも問題ないだろう。準備万端整えたみんなを見回しながら、俺は引率の先生のように出発前の訓示を述べる。
「えー、今から魔王城に乗り込む訳だけど、その前にやるべき事を確認しておこう。まず俺達の目的は魔族に奪われた黒の指輪を取り返す事。邪神の力を増幅し、魔族に力を与え続けるあの指輪を回収すれば、指輪の影響下にある魔族達は弱体化する…はずだ」
ファフニルの説明では確かそうだったと思う。前大戦の生き残りである彼女が言うなら確実だろうし、不安ではあるがここは信じるしかないだろう。
「主殿、指輪が何処にあるか見当がついているのか?闇雲に探すのは無理だと思うが」
当然の疑問をディアベルが口にする。俺も最近まで考えていた事だが、この魔王城と間近の距離に近づいたらその不安は無くなった。口では上手く説明できないのだが、白の指輪を身に着けた俺には何となく黒の指輪が何処にあるかわかる。波長と言うか、瘴気の濃さと言うか、嫌な感じのする方向に進めば、たぶんあっさりと見つかるはずだ。
「指輪のありかは俺が感じ取れるから心配ない。この感じなら恐らく魔王城の地下だろう。上でトート達が騒いでいる間に俺達は指輪を回収して、さっさとずらかる予定だ」
「魔王を討ちとらないの?今の私達ならやれそうだけど」
挙手しながらレヴィアが質問してくる。そんな動作どこで覚えたんだと疑問に思ったが、戦争前はたまに学校に通ってたみたいだしその影響だろう。
「戦う予定はないよ。わざわざ危ない橋を渡る必要は無いし、回避できる戦いなら回避するべきだ。トートと潰しあって弱ってるならついでに殺すけど、ピンピンしてるなら無視しよう。指輪を取り返して南下した魔族達を排除するのが最優先だから、魔族領を占領するつもりなら援軍を引き連れてから改めてここに来て、その時弱くなった魔王と戦えばいい」
何も敵が元気いっぱいの時に戦ってやる義理は無いのだ。やる事だけやってさっさと帰る方が良いに決まってる。
「やる事は今言った事だけ、簡単に見えても敵の本拠地だから常に警戒を怠らないように。以上だ。さあ、出発するぞ!」
『はい!』
さあ、魔族に関する長い旅もこれでやっと終わりになる。世界を平和に戻してのんびり生活するためにも、気合入れて行くとしよう。
魔王城は俺の想像していた中世ヨーロッパの城にはあまり似ていなくて、複数の塔が連なる姿はパッと見た感じ真っ黒に塗りつぶされたサグラダファミリアのようだった。そんな芸術品のような城の周囲では多くの兵や魔物が骸を晒し、血生臭さを漂わせている。
「ご主人様、決着がつくまでここで待機するんですか?」
「完全に終わってからだと内部に入りにくくなると思うから、トートの軍が城門を突破してなだれ込んだ時が狙い目かな?それまでのんびり観察してよう」
激戦を繰り広げる魔族達を尻目に、俺達は魔王城を一望できる小高い丘の上で休憩していた。この数日野宿が続いていたから全員疲れが溜まっていたのだ。俺とクレアの後ろではディアベル達が毛布にくるまったまま寝息を立てている。城攻めがそう簡単に終わる訳もないし、あと数時間寝かせておいても問題ないだろう。
俺達が見守る中、いつ果てるともなく魔族達は一進一退の攻防を続けている。やはり魔王軍側は想像通り兵力が少ないのか、トートの軍勢に押され気味だ。装備が統一されていない所を見ると各地域からの寄せ集めである可能性が高い。あれならトートの軍と練度に差が無いだろうから、単純に数の多い方が有利だろう。
「お、ようやく城門を突破できそうだな」
「本当ですね。そろそろ壊れそうです」
干し肉を齧りながらすっかり観戦モードの俺とクレアの視線の先では、破壊槌による何度目かの突撃を受けた魔王城の城門がひしゃげ、地響きをあげながら内側に向けて倒れ込んだ。ここぞとばかりにトート軍が城内へとなだれ込み、至る所で乱戦が始まる。敵も味方も同じような格好と人相をしているせいか、こんな状況だと誰が誰だかわからなくなるな。
「そろそろかな。おーいみんな。そろそろ準備しようか」
俺の言葉にディアベル達はのそのそと毛布から這い出て来て、大きく背伸びをし始める。まだ寝ぼけ眼のシャリーに水筒の水を飲ませながら装備をつけてやり、干し肉を口に咥えさせる。シャリーの頭の上でおこぼれを期待していたドランにも一欠けらを与えた後、自分の装備を確認し始めた。
「いつ城門が突破されたの?」
「ついさっきですよ。そろそろ中に入っても問題ないってご主人様が」
身支度をしながら問いかけるレヴィアにクレアが答えている。仮眠を取った事で全員疲れが取れて万全になっているようだ。これなら魔王城に乗り込んでも問題ないだろう。準備万端整えたみんなを見回しながら、俺は引率の先生のように出発前の訓示を述べる。
「えー、今から魔王城に乗り込む訳だけど、その前にやるべき事を確認しておこう。まず俺達の目的は魔族に奪われた黒の指輪を取り返す事。邪神の力を増幅し、魔族に力を与え続けるあの指輪を回収すれば、指輪の影響下にある魔族達は弱体化する…はずだ」
ファフニルの説明では確かそうだったと思う。前大戦の生き残りである彼女が言うなら確実だろうし、不安ではあるがここは信じるしかないだろう。
「主殿、指輪が何処にあるか見当がついているのか?闇雲に探すのは無理だと思うが」
当然の疑問をディアベルが口にする。俺も最近まで考えていた事だが、この魔王城と間近の距離に近づいたらその不安は無くなった。口では上手く説明できないのだが、白の指輪を身に着けた俺には何となく黒の指輪が何処にあるかわかる。波長と言うか、瘴気の濃さと言うか、嫌な感じのする方向に進めば、たぶんあっさりと見つかるはずだ。
「指輪のありかは俺が感じ取れるから心配ない。この感じなら恐らく魔王城の地下だろう。上でトート達が騒いでいる間に俺達は指輪を回収して、さっさとずらかる予定だ」
「魔王を討ちとらないの?今の私達ならやれそうだけど」
挙手しながらレヴィアが質問してくる。そんな動作どこで覚えたんだと疑問に思ったが、戦争前はたまに学校に通ってたみたいだしその影響だろう。
「戦う予定はないよ。わざわざ危ない橋を渡る必要は無いし、回避できる戦いなら回避するべきだ。トートと潰しあって弱ってるならついでに殺すけど、ピンピンしてるなら無視しよう。指輪を取り返して南下した魔族達を排除するのが最優先だから、魔族領を占領するつもりなら援軍を引き連れてから改めてここに来て、その時弱くなった魔王と戦えばいい」
何も敵が元気いっぱいの時に戦ってやる義理は無いのだ。やる事だけやってさっさと帰る方が良いに決まってる。
「やる事は今言った事だけ、簡単に見えても敵の本拠地だから常に警戒を怠らないように。以上だ。さあ、出発するぞ!」
『はい!』
さあ、魔族に関する長い旅もこれでやっと終わりになる。世界を平和に戻してのんびり生活するためにも、気合入れて行くとしよう。
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