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第386話 光竜連邦の戦い
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エストの領地はリーベやゴーレムの活躍で魔物による被害は皆無だったが、他の地域ではそうはいかなかった。大軍同士がぶつかるたびに戦場を逃げ出した魔物が集まりだし、徒党を組んで目についた街や村を襲い始める。中規模の街では魔物の襲撃に対して何とか持ちこたえる事が出来ているが、小規模な街ではろくに防衛戦力も無いために多数の犠牲が生まれていた。
生きたまま魔物に食われる親子や小型の魔物に嬲り殺しにされる子供。繁殖力の強い低俗な魔物に集団で犯される女など、あちこちで地獄のような光景が見られた。その光景はグリトニルだけにとどまらず、同じく最前線にあるバックスとリオグランドも同様だ。昨日まで平和を享受していたのに突然理不尽な暴力にそれを壊され、助けてくれない国王や神を呪いながら死んでいく。その地獄は、他国の本格的な援軍が到着するまで続けられることになった。
一方、リムリック率いるアイロン砦の軍勢も度重なる戦いで疲弊しきっている。最初の奇襲以降何度か戦いを仕掛けて優位に戦況を進めていたリムリックだったが、ここに来て敵が大幅に方針転換した事により、今までのやり方が全く通用しなくなったのだ。
三つに別れた魔王軍の内一つを率いるランスは、自身の野戦下手を認めると早々に対抗する手段を諦め驚くべき手段に出た。彼は自分の持つ戦力を配下の魔族それぞれに千ほど分け与え、それぞれ違うルートで南下させ始めたのだ。当然戦力を小分けにすれば各個撃破の対象になるが、そんな事はランスも十分承知している。彼は砦や城などの重要施設を狙うのを止め、不正規戦によるゲリラ活動に切り替えたのだった。
これには人間側の軍も大いに困らされる事になった。なにせ数自体は魔王軍の方が多いのだし、疎開させようにも国民全てを収容できるほど王都や砦は大きくない。その上領地全てを守れるほどの戦力も無かったのだ。結果、残酷だと十分承知しながら助ける順位を決める事となった。とても正規軍の取る方法とは思えない行動をし始めた魔族に対し、リムリックは唇を噛み切るほど悔しさを露わにしていた。
「おのれ…まさかこんな汚い手を思いつくとは…。こちらも手をこまねいている訳にはいかん。すぐに出撃だ!」
アイロン砦に帰還したリムリックは負傷した兵を砦を守備するために残し、自ら大軍を率いて何度目かの出撃に望んだ。度重なる戦闘でアイロン砦の兵力は激減している。まともに戦える兵は総勢五万。彼はこれを一万ずつ五つに分けて、各方面へと進撃させていった。当然機動力は数の少ない魔王軍に負けるものの、一旦戦いが始まれば殲滅するのは容易い。彼等は領内に目を光らせ魔物の群れを発見しては、一つ一つ確実に潰していくのだった。
------
人間の領域では激しい戦いが続いているが、ここ光竜連峰でもそれは同じだった。大空を覆いつくすほど居たドラゴン達の大半は現在半数以上が大地に倒れ、戦うどころかまともに立ち上がる事すら出来ない状態になっていた。ドラゴン達の長ファフニルの消耗も激しい。彼女は味方を鼓舞するために常に最前線で戦い続け、その体には自分と敵の返り血がこびりついている。美しかった翼の膜は多くが千切れ、その体は所々鱗が剥がれ落ちていた。それでも彼女は戦う事を止めようとはせず、次の獲物を求めて大空を舞っていたのだ。
「まだです。まだ敵の首魁を討ち取ってはいません。それまで倒れる訳には…」
彼女がつぶやいたその時、上空から一筋のブレスが彼女目がけて降ってきた。彼女の頭上を飛んでいた味方のドラゴン達を貫通しながら殺到する漆黒のブレスをギリギリで躱し、反撃とばかりにブレスを直上へと放出する。すると今攻撃してきたであろうドラゴンがブレスを紙一重で躱し、ファフニルに牙を突き立てるべく大口を開けて襲い掛かって来た。すれ違いざまにお互いの肉を噛み千切り、ファフニルとドラゴンは距離を取って対峙する。
「ヴリトラ!ようやく現れましたか。今度こそあなたを倒して、邪悪の根を断ちます!」
「数千年ぶりだなファフニル!相も変わらず正義だの秩序だのとくだらん事を考えているのか?」
ファフニルと対峙しているドラゴンこそ太古の戦でファフニル達と袂を分かち、邪神に寝返ったドラゴン達の長ヴリトラだ。自ら望んで邪悪の力を取り込んだために、彼の身体は黒光りする鱗に覆われ、体の至る所から歪な角が生えていた。そしてファフニル同様、彼の身体も激戦で大きく傷ついている。
向かい合う両者に会話は必要無い。遥か昔に決別した時、お互いの存在は殲滅する対象でしかなくなっていたのだから。
「ガアアアアッ!」
「ゴアアアッ!」
並のドラゴンなら聞いただけでも逃げ出す様な咆哮を上げ、両者は全力のブレスをぶつけ合う。白と黒のブレスが空中で激突し、その余波は空中はおろか地上にまで甚大な被害をもたらしていく。空中戦を繰り広げていた何匹ものドラゴンがブレスの余波に撃ち落とされ、地上では山々が溶岩の海へと姿を変える。善と悪、頂点に立つ二匹のドラゴンの戦いによって、光竜連邦の戦いは更に激しさを増していくのだった。
生きたまま魔物に食われる親子や小型の魔物に嬲り殺しにされる子供。繁殖力の強い低俗な魔物に集団で犯される女など、あちこちで地獄のような光景が見られた。その光景はグリトニルだけにとどまらず、同じく最前線にあるバックスとリオグランドも同様だ。昨日まで平和を享受していたのに突然理不尽な暴力にそれを壊され、助けてくれない国王や神を呪いながら死んでいく。その地獄は、他国の本格的な援軍が到着するまで続けられることになった。
一方、リムリック率いるアイロン砦の軍勢も度重なる戦いで疲弊しきっている。最初の奇襲以降何度か戦いを仕掛けて優位に戦況を進めていたリムリックだったが、ここに来て敵が大幅に方針転換した事により、今までのやり方が全く通用しなくなったのだ。
三つに別れた魔王軍の内一つを率いるランスは、自身の野戦下手を認めると早々に対抗する手段を諦め驚くべき手段に出た。彼は自分の持つ戦力を配下の魔族それぞれに千ほど分け与え、それぞれ違うルートで南下させ始めたのだ。当然戦力を小分けにすれば各個撃破の対象になるが、そんな事はランスも十分承知している。彼は砦や城などの重要施設を狙うのを止め、不正規戦によるゲリラ活動に切り替えたのだった。
これには人間側の軍も大いに困らされる事になった。なにせ数自体は魔王軍の方が多いのだし、疎開させようにも国民全てを収容できるほど王都や砦は大きくない。その上領地全てを守れるほどの戦力も無かったのだ。結果、残酷だと十分承知しながら助ける順位を決める事となった。とても正規軍の取る方法とは思えない行動をし始めた魔族に対し、リムリックは唇を噛み切るほど悔しさを露わにしていた。
「おのれ…まさかこんな汚い手を思いつくとは…。こちらも手をこまねいている訳にはいかん。すぐに出撃だ!」
アイロン砦に帰還したリムリックは負傷した兵を砦を守備するために残し、自ら大軍を率いて何度目かの出撃に望んだ。度重なる戦闘でアイロン砦の兵力は激減している。まともに戦える兵は総勢五万。彼はこれを一万ずつ五つに分けて、各方面へと進撃させていった。当然機動力は数の少ない魔王軍に負けるものの、一旦戦いが始まれば殲滅するのは容易い。彼等は領内に目を光らせ魔物の群れを発見しては、一つ一つ確実に潰していくのだった。
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人間の領域では激しい戦いが続いているが、ここ光竜連峰でもそれは同じだった。大空を覆いつくすほど居たドラゴン達の大半は現在半数以上が大地に倒れ、戦うどころかまともに立ち上がる事すら出来ない状態になっていた。ドラゴン達の長ファフニルの消耗も激しい。彼女は味方を鼓舞するために常に最前線で戦い続け、その体には自分と敵の返り血がこびりついている。美しかった翼の膜は多くが千切れ、その体は所々鱗が剥がれ落ちていた。それでも彼女は戦う事を止めようとはせず、次の獲物を求めて大空を舞っていたのだ。
「まだです。まだ敵の首魁を討ち取ってはいません。それまで倒れる訳には…」
彼女がつぶやいたその時、上空から一筋のブレスが彼女目がけて降ってきた。彼女の頭上を飛んでいた味方のドラゴン達を貫通しながら殺到する漆黒のブレスをギリギリで躱し、反撃とばかりにブレスを直上へと放出する。すると今攻撃してきたであろうドラゴンがブレスを紙一重で躱し、ファフニルに牙を突き立てるべく大口を開けて襲い掛かって来た。すれ違いざまにお互いの肉を噛み千切り、ファフニルとドラゴンは距離を取って対峙する。
「ヴリトラ!ようやく現れましたか。今度こそあなたを倒して、邪悪の根を断ちます!」
「数千年ぶりだなファフニル!相も変わらず正義だの秩序だのとくだらん事を考えているのか?」
ファフニルと対峙しているドラゴンこそ太古の戦でファフニル達と袂を分かち、邪神に寝返ったドラゴン達の長ヴリトラだ。自ら望んで邪悪の力を取り込んだために、彼の身体は黒光りする鱗に覆われ、体の至る所から歪な角が生えていた。そしてファフニル同様、彼の身体も激戦で大きく傷ついている。
向かい合う両者に会話は必要無い。遥か昔に決別した時、お互いの存在は殲滅する対象でしかなくなっていたのだから。
「ガアアアアッ!」
「ゴアアアッ!」
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