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第385話 アイギス城のゴーレム
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エストの領地にある二つの城の内の一つ、アイギス城にもグラン・ソラス城同様敵の手が迫りつつあった。兵達を指揮するのはエストの配下の中でアミルの次に強いリセだ。アイギス城の中で名目上はエドが一番上だが、彼には実戦経験が無いので実際の指揮はリセが行う事になっている。彼女の指揮の下、防壁で守りに着く兵達は段々と近寄ってくる魔物に武器を構えて放つ準備に入っていた。
「リセ様、あのゴーレム…本当に役に立つんですかね?」
「役に立つに決まっています!エスト様がわざわざダンジョンマスターから勝ち取って来たゴーレムですよ?役に立たないはずがありません!」
エストに対する妄信と言ってもいいリセの言動に、配下の兵士達はやれやれと肩をすくめる。普段あらゆる事で優秀な彼女だが、エストが関わると疑うと言う事をしなくなる。まるで神の神託を鵜呑みにする教会の神官の様に、エストの言動を全肯定するのだ。しかし他人には単純そうに見えるリセだったが、内心では自分で言う程ゴーレムを信用してはいなかった。
ある日、街の門の前に巨大なゴーレムが現れて、新たな守り神だとエストに説明された時は面食らったものだ。なにせ普通のゴーレムの二、三倍は大きいのだから。起動実験を直接目にした事のないリセ達からすれば、この巨大なゴーレムが実際に動くかどうか半信半疑だった。
(攻撃されると自動で反撃するから誰にも触れさせるなとエスト様は言っていたけど…ちゃんと動くの?)
そうこうしている間に魔物達は目前まで迫って来ている。まだリセの指示は出ていないと言うのに焦った味方の兵が勝手に攻撃を始めてしまい、それにつられて他の兵も攻撃を始めた。それに反撃するため魔物の群れが遠距離武器で攻撃してくるが、それらは射程の外だったために防壁に届く事無く手前の大地に全て落ちていった。無駄に終わったかに見えた魔物の攻撃だったが、彼等は自らの手で地獄の窯の蓋を開いてしまった事に気がついていなかった。
魔物の放った矢は防壁に届かなかったが、その中のいくつかがゴーレムに接触していたのだ。その瞬間、門の前で身動き一つしなかったゴーレムが突然姿を消した…いや、それは正確ではない。消えたかのように見える速度で動いたかと思ったら、目の前に居る魔物の軍勢に対して突っ込んでいったのだ。
「なっ…!」
「なんだあの動きは!」
ゴーレムと言えばギクシャクとした動きしか知らないリセ達は、あまりに人間そっくりに動くゴーレムに驚愕するしかなかった。しかし敵の立場になれば驚いたで済む筈がなく、驚異的な速度で迫るゴーレムは恐怖の対象でしかなかっただろう。凄まじい速度で魔物の軍勢に突撃したゴーレムは、まるで無人の野を駆けるようにそのままあらゆる魔物を踏み潰しながら最後尾まで走り抜けると、再び同じ速度で戻ってくる。ただ行って戻ってくると言う行為であっても、全長十五メートルほどある巨人がやれば話は別だ。ゴーレムが足を上げるだけで蹴り上げられた魔物が天高く跳ね飛ばされ、大型の魔物ですらその質量による体当たりに耐え切れずに全身の骨を砕かれながら倒れ込む。
『ギャアアァッ!』
『グガアアッ!』
「………」
あまりの光景、あまりの一方的な虐殺に、リセ達は攻撃するのも忘れて一言も言葉を発する事が出来ないでいた。辺りに響くのは戦の怒号ではなく魔物の断末魔だけだ。自分達が置物扱いしていた彫像が、これほど危険な存在だったなんて欠片も思わなかった。なんて危険な物を人通りの多い所に置くんだと、エストに対して抗議したい気持ちだった。そんなリセ達の心情を他所に、ゴーレムは怯えて逃げ始めた魔物達を逃がさないように更に走る速度を上げて周囲をグルグルと回りながら、徐々に回転半径を狭めていく。それはつまり、外側から順番に踏み潰していき、最終的には一番内側の敵まで殲滅する狡猾な戦法だった。
逃げる事も出来ずに怯えたまま数を減らしていく魔物達。ただのゴーレムとは思えない戦い方に、その場に居た誰もが戦慄した。あんな方法誰が考えつくと言うのだろう。あれは事の始めから戦いらしい戦いなどしていない。ただ周囲を走り回っているだけで敵を殲滅していくのだ。ただの一度も拳を突き出す事も無く、蹴りの一つも放たないまま、ゴーレムはとうとう一万近く居た敵集団を全滅させてしまった。
「ば、化け物…」
全身を魔物の返り血で染め上げながらゆっくりと戻ってくるゴーレムの姿を見て、誰かがそうつぶやいた。誰もが同じ気持ちだったろう。あれこそ正真正銘の化け物。ひょっとすると、あれの主である勇者達にすら止める事が出来ないかもしれない凶悪な強さを見せつけたゴーレムは、戦いが始まる前と同じ場所、同じ姿勢を取った後、さっきまでと同じく身動き一つしなくなった。
「う、動かなくなりましたね…」
「え、ええ…もう敵も居なくなったみたいだし…」
敵は一匹残らずいなくなった。味方は誰一人傷つく事無く、恐怖を撒き散らしたゴーレムも完全に活動を停止した。良いことだらけの様だが、彼女達には重大な仕事が残されている。それは何かといえば…
「この潰れた死体全部、片付けなきゃいけないの…?」
押し潰されて地面に同化した物や半分潰されて残っている物など、全て片付けなければならない。放っておけばアンデッド化する危険性があるし、何より街道を死体で埋め尽くしたままだと人や物資の行き来が止まる。後の事も考えて、是非ともやっておかなければならない仕事だった。
「戦って怪我するよりマシだけど、正直気が滅入るわね…」
ため息をつくリセに同意しながら、アイギス城の兵達は後始末のために門の外へと出て行くのだった。
「リセ様、あのゴーレム…本当に役に立つんですかね?」
「役に立つに決まっています!エスト様がわざわざダンジョンマスターから勝ち取って来たゴーレムですよ?役に立たないはずがありません!」
エストに対する妄信と言ってもいいリセの言動に、配下の兵士達はやれやれと肩をすくめる。普段あらゆる事で優秀な彼女だが、エストが関わると疑うと言う事をしなくなる。まるで神の神託を鵜呑みにする教会の神官の様に、エストの言動を全肯定するのだ。しかし他人には単純そうに見えるリセだったが、内心では自分で言う程ゴーレムを信用してはいなかった。
ある日、街の門の前に巨大なゴーレムが現れて、新たな守り神だとエストに説明された時は面食らったものだ。なにせ普通のゴーレムの二、三倍は大きいのだから。起動実験を直接目にした事のないリセ達からすれば、この巨大なゴーレムが実際に動くかどうか半信半疑だった。
(攻撃されると自動で反撃するから誰にも触れさせるなとエスト様は言っていたけど…ちゃんと動くの?)
そうこうしている間に魔物達は目前まで迫って来ている。まだリセの指示は出ていないと言うのに焦った味方の兵が勝手に攻撃を始めてしまい、それにつられて他の兵も攻撃を始めた。それに反撃するため魔物の群れが遠距離武器で攻撃してくるが、それらは射程の外だったために防壁に届く事無く手前の大地に全て落ちていった。無駄に終わったかに見えた魔物の攻撃だったが、彼等は自らの手で地獄の窯の蓋を開いてしまった事に気がついていなかった。
魔物の放った矢は防壁に届かなかったが、その中のいくつかがゴーレムに接触していたのだ。その瞬間、門の前で身動き一つしなかったゴーレムが突然姿を消した…いや、それは正確ではない。消えたかのように見える速度で動いたかと思ったら、目の前に居る魔物の軍勢に対して突っ込んでいったのだ。
「なっ…!」
「なんだあの動きは!」
ゴーレムと言えばギクシャクとした動きしか知らないリセ達は、あまりに人間そっくりに動くゴーレムに驚愕するしかなかった。しかし敵の立場になれば驚いたで済む筈がなく、驚異的な速度で迫るゴーレムは恐怖の対象でしかなかっただろう。凄まじい速度で魔物の軍勢に突撃したゴーレムは、まるで無人の野を駆けるようにそのままあらゆる魔物を踏み潰しながら最後尾まで走り抜けると、再び同じ速度で戻ってくる。ただ行って戻ってくると言う行為であっても、全長十五メートルほどある巨人がやれば話は別だ。ゴーレムが足を上げるだけで蹴り上げられた魔物が天高く跳ね飛ばされ、大型の魔物ですらその質量による体当たりに耐え切れずに全身の骨を砕かれながら倒れ込む。
『ギャアアァッ!』
『グガアアッ!』
「………」
あまりの光景、あまりの一方的な虐殺に、リセ達は攻撃するのも忘れて一言も言葉を発する事が出来ないでいた。辺りに響くのは戦の怒号ではなく魔物の断末魔だけだ。自分達が置物扱いしていた彫像が、これほど危険な存在だったなんて欠片も思わなかった。なんて危険な物を人通りの多い所に置くんだと、エストに対して抗議したい気持ちだった。そんなリセ達の心情を他所に、ゴーレムは怯えて逃げ始めた魔物達を逃がさないように更に走る速度を上げて周囲をグルグルと回りながら、徐々に回転半径を狭めていく。それはつまり、外側から順番に踏み潰していき、最終的には一番内側の敵まで殲滅する狡猾な戦法だった。
逃げる事も出来ずに怯えたまま数を減らしていく魔物達。ただのゴーレムとは思えない戦い方に、その場に居た誰もが戦慄した。あんな方法誰が考えつくと言うのだろう。あれは事の始めから戦いらしい戦いなどしていない。ただ周囲を走り回っているだけで敵を殲滅していくのだ。ただの一度も拳を突き出す事も無く、蹴りの一つも放たないまま、ゴーレムはとうとう一万近く居た敵集団を全滅させてしまった。
「ば、化け物…」
全身を魔物の返り血で染め上げながらゆっくりと戻ってくるゴーレムの姿を見て、誰かがそうつぶやいた。誰もが同じ気持ちだったろう。あれこそ正真正銘の化け物。ひょっとすると、あれの主である勇者達にすら止める事が出来ないかもしれない凶悪な強さを見せつけたゴーレムは、戦いが始まる前と同じ場所、同じ姿勢を取った後、さっきまでと同じく身動き一つしなくなった。
「う、動かなくなりましたね…」
「え、ええ…もう敵も居なくなったみたいだし…」
敵は一匹残らずいなくなった。味方は誰一人傷つく事無く、恐怖を撒き散らしたゴーレムも完全に活動を停止した。良いことだらけの様だが、彼女達には重大な仕事が残されている。それは何かといえば…
「この潰れた死体全部、片付けなきゃいけないの…?」
押し潰されて地面に同化した物や半分潰されて残っている物など、全て片付けなければならない。放っておけばアンデッド化する危険性があるし、何より街道を死体で埋め尽くしたままだと人や物資の行き来が止まる。後の事も考えて、是非ともやっておかなければならない仕事だった。
「戦って怪我するよりマシだけど、正直気が滅入るわね…」
ため息をつくリセに同意しながら、アイギス城の兵達は後始末のために門の外へと出て行くのだった。
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