ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第384話 グラン・ソラスの街

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「アミル様!敵が接近してきます!」
「わかった!聞いての通りだみんな!射程に入り次第攻撃開始!」

グラン・ソラスの街を取り囲む防壁には、領地内にあるダンジョンで日々訓練を続けている精鋭達が守りについている。その数総勢千余り。アミルの指示の下、彼等は武器を構えたまま魔物共が近づいて来るのをジリジリと待った。

要塞線と同じ造りの全高十五メートルにも達する街を守る防壁から遥か街道の先を見ると、明るくなり始めた空の下、黒い波が近寄って来るのが解る。一匹一匹が醜悪な形をした魔物の群れが、新たに見つけた獲物に襲い掛かろうとしているのだ。

「すげえ数だな…数千どころじゃないだろこれ」

アミルの言う通り、次々と合流する魔物の数は南に進むほど膨れ上がり、一万近い軍勢が出来上がっていた。普通の魔物なら魔族の統率を外れた場合各自バラバラで動くのだが、彼等は南下する為に特別な洗脳を施されているため、それが無い。魔族が彼等に命令したのは集団で動く事のみ。単純な命令しか理解できない魔物に与えた命令が、戦場から逃亡した後に厄介な状況を作りだす原因になっていたのだ。

「射程に入りました!」
「よし、攻撃開始だ!」

バックス製の投石器と特殊な弾は、エストを気に入ったバックス王リギンの好意で要塞線の次に多く配備されていた。その投石器から撃ち出される弾が魔物の群れに着弾して油と炎を巻き上げる。広範囲にわたる攻撃で多数の魔物が火達磨になり、絶叫を上げながら倒れていく。だが防壁で同じ攻撃を受け多くの仲間を失った経験のある魔物共は、その攻撃に怯えるどころか猛りくるって行軍速度を速めた。足を止めると無様に殺されるのがわかっているからだ。それを迎え撃つため防壁から間断なく矢の雨が降りそそいでいった。

防壁に加えて水堀まであるグラン・ソラスの街は今や城塞都市と言ってもいい。いかに魔物の数が多くとも日ごろの訓練で力をつけたアミル達の守りは突破できないと誰もが思った…が、邪神の力の影響だろうか、魔物共は闇雲に攻撃する事無く、防壁の一点突破を狙って来た。

「おいおい!嘘だろ!」

アミルが悲鳴を上げ、誰もが目を疑うような光景がそこに展開されていた。魔物共は矢や槍、そして投石器の炎によって絶命した仲間の死体を担いだかと思ったら、その亡骸を次々と水堀に投げ捨てて足場を造り始めたのだ。そして水堀を徒歩で渡れる水深にした後、再び仲間の亡骸を足掛かりにして防壁に取りつき始めた。中には生きている魔物も居たようだが、後ろから押し寄せる仲間に踏みつけられ、重さに耐えきれずに圧死していく。それでも魔物共は仲間の身体をよじ登り、お構いなしに上へ上へと登って行く。仲間の体を使って足場を造る。その単純で効果的な方法は鉄壁を誇る防壁をあっさり無力化する事に成功した。そしてついに最上部へと到達した魔物の一匹が、防壁の向こう側へと飛び降りようとしたのだ。

だが次の瞬間、壁を乗り越えた魔物の体が消し飛んだ。いや、正確に言えば圧倒的な勢いで水流をぶつけられて爆散したため、消し飛んだように見えただけだ。敵も味方も呆気にとられる中突如として姿を現したのは巨大な水竜。海の支配者リヴァイアサン、リーベの本来の姿だった。彼女は娘と共に新たな住処となったこの街を守るため、その巨大な力を振るうと決断したのだ。

『ガアアアアッ!!』

その場に居る者全てを震え上がらせるのに十分な咆哮を上げたリーベは巨大な体の半分を直立させ、遥か高みから防壁に取りついていた魔物の群れを静かに見下ろす。圧倒的に格上の巨大な生物に睨み付けられ、本能的な恐怖を感じた魔物共は身動きすらできないでいる。リーベはそんな彼等に構う事無く口を開けたかと思ったら、喉の奥から真っ白い光線の様なブレスを吐き出した。

一瞬で視界を染めた白い光は防壁に取りついた魔物の群れを消滅させ、そのまま水堀の底の土砂を巻き上げつつ敵集団へと突き刺さった。リーベのブレスは他のドラゴンと違い、超高圧の水を吐き出したものだ。着弾地点を大爆発させたり融解させたりはしないが、触れたものを削り取っていく貫通力がある。その為ブレスの効果範囲ギリギリに居た魔物はその体を両断させ、力なくその場に崩れ落ちた。

その圧倒的な力を前にした魔物はさっきまでの威勢は何処へやら、我先にと先を争って逃げ出そうとする。しかしリーベは無情にもブレスを立て続けに吐き出して、それらを容赦なく殲滅していくのであった。

「これ…俺達いらなかったんじゃ…?」
「ですよね…」

アミル達守備兵は象に蹴散らされる蟻の群れでも見る気分で、リーベと魔物共の戦いを呆然と眺めていた。あてにしていなかったリーベの活躍により、グラン・ソラスの街はほぼ無傷で勝利を収めつつあったのだ。
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