ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第383話 グリトニルでの戦い

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防壁を突破した魔王軍は人間の領域になだれ込んだ。戦いが始まる前に最前線の三カ国は住民の疎開を進めていたので、今の時点で救出に向かう必要のある集落のは存在しない。もっとも、どこの世界にも人の話を聞かない愚か者は存在する為、一般市民の人的被害が皆無と言う訳にはいかなかった。火事場泥棒に赴く盗人やこの機に乗じて略奪を始めようとする野盗達。それらは真っ先に魔王軍の餌食となった。

南下する魔王軍は三つに別れて南下を始めている。当初の予定ではブレイド、ランス、フューリがそれぞれの部隊を率いる予定だったのだが、ブレイドが引き返したためにそのうちの一つは別の者が指揮をしていた。グリトニルに侵入した中央の軍の指揮官は四天王の一人ランス。彼の率いる部隊は魔王軍の中で最も数が多く、総勢七万にも及ぶ大軍だった。その大半がゴブリンやコボルトと言った小型の魔物だが、今の彼等は以前と違って侮れない力を持っている。邪神の影響力は魔物の力を高め、彼等を一人前の兵士にしていたのだ。

地を埋め尽くす勢いで悠々と迫る魔王軍に対して、あらかじめ砦を出て身を潜めていたリムリック王子率いる連合軍が横合いから突如として襲い掛かった。リムリックはまず五万の軍勢を二つに分け、自ら率いた部隊で突撃を開始したのだ。時刻はちょうど深夜であったため奇襲はこれ以上なく上手くいき、魔王軍を大混乱に陥れる事に成功した。

所詮力をつけたとは言っても知能まで上がる訳では無く、魔物の群れは一度混乱し始めると立て直すのが容易ではない。勢いに乗る連合軍に分断された魔王軍の半分は、新たに攻撃に加わった連合軍の別動隊に襲い掛かられ、完全包囲されてしまった。

「よし!上手くいった!まずはそいつらから殲滅するんだ!」
『おおー!』

リムリックの号令一下、連合軍は包囲した魔王軍を情け容赦なく攻撃していく。天を覆いつくすほどの矢を射かけ、夜空が明るく染まるほどの攻撃魔法を叩き込む。今まで一方的に守勢に回っていた人間側のストレスをここで発散でもするかのように、魔物や魔族の血で大地を染め上げていった。

もちろん魔王軍も指をくわえて見ていた訳では無い。南下するために縦に伸びきっていた部隊を急いで引き返らせ、包囲している味方を助けようと連合軍に攻撃を仕掛けていく。だが魔王軍を分断している地点には連合軍の中でも最も高い耐久力を誇るグリトニルの騎士団が陣取っていたために、容易に突破する事が出来なかった。他の国の騎士に比べると若干戦闘力が劣るものの、回復魔法の使い手が多いために多少の負傷ならすぐに完治してしまうグリトニルの聖騎士達だ。壁役にはもってこいの人選だったろう。

「ええい!何をしている!その程度の敵に何を手こずる事があるか!」

先頭付近に居た魔王軍指揮官ランスはすぐに取って返し、自ら槍を振るって味方を鼓舞する。だがこの状況では魔王軍の数の多さが裏目に出る事になった。純粋に魔族だけなら彼の指示に従ってすぐ体勢を立て直せただろうが、魔物の場合はそうはいかない。規律正しく行進する事は出来ても深い夜の闇と味方の断末魔の悲鳴を耳にした彼等は混乱し、本能のまま逃げ出そうとするために少なくない数の同士討ちまで始めてしまった。

深夜に始まった戦いは二時間ほど続いた後、連合軍が引いた事によって終結した。分断され包囲された魔王軍の大半が討ち取られ、数多くの魔物が逃亡した事で連合軍が当初の目的を達成したためだ。魔王軍の被害は魔物ばかりがかなりの数に及び、二万以上の骸を晒す事になった。対する連合軍も無事では済まない。四天王の一人でもあるランスの活躍もあって、壁役として奮戦していたグリトニルの騎士達が多く倒れる結果となったのだ。連合軍側の被害は死者二千、重軽傷者五千にも及んだ。

「大戦果…と言いたいところだが、我が国の騎士達の被害が酷いな。これでは同じ作戦は二度と使えん」

戦場から離れつつあったリムリックの表情が歪む。奇襲によって魔王軍にダメージを与えはしたものの、未だ敵の数は圧倒的。一旦兵を引かせたリムリックはアイロン砦に戻る事はせず、再び襲撃する機会を窺ってそのまま野外へと姿を消した。

だがこの奇襲作戦、大局的に見れば敵を分断して各個撃破すると言う上手い手ではあったが、後で問題を引き起こす事になる原因にもなった。戦場から逃れた多くの魔物は魔族の指揮を離れ、本能の赴くままグリトニル国内で暴れ始めたのだ。散り散りになった数十数百の魔物は次第に集まり始め、歩きやすい街道に沿って移動し始めた。

グリトニルの王都から遥か西にあるアイロン砦。その更に南で集まった魔物達は、グリトニル国内で最も整備された街道…つまりエストの手によって造られた街道を南西へと進み始める。その先にはグリトニル、ガルシア、アルゴス三国を結ぶ交易の要所でもあり、将来的には独立国になる予定のエストの領地、グラン・ソラス城の姿があったのだ。

そしてもう一つのエストの領地にも危機が迫る。バックス領内では国王リギンを中心にした連合軍と魔王軍が正面から激突し、互いに痛み分けに終わった。だがこちらでも逃亡した魔物が数千単位で自由に行動を始め、同じように街道にそって移動し始めたのだ。その先にあるのは最近双子城とも呼ばれる事もあるグラン・ソラス城そっくりの城、アイギス城の姿があった。

厳戒態勢で街を守るエストの仲間達に危機が迫る。
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