ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第380話 大嘘つき

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ナールの街から南下した俺達は、数時間歩き続けた後に問題の軍勢を発見する事が出来た。すれ違いになったらどうしようかと思っていたが、流石にあれだけ大勢の人数がまとまって動いていれば見失う事は無かったようだ。

斥候に見つからないように岩陰に身を潜め、奴らが目の前を通過するのを待つ。様々なタイプの魔物が整然と並びながら行進する様に思わず感心してしまった。洗脳か躾けかはわからないが、よくもこれだけ統率できているものだ。魔物の群れが通り過ぎ、軍勢の主力である魔族の兵士達が後に続く。こちらも私語をすることなく黙々と行進していて、練度の高さがうかがえた。

「これ…まともに戦ったらトート達に勝ち目がないな」
「同感だ。兵の質がまるで違う。チンピラと正規兵の戦いなど勝負にすらならないだろう」
「と言う事は、私達で出来るだけ被害を与えておく必要がありますね」

少し被害を与えるだけで撤収しようかとも考えていたのだが、目の前を通り過ぎる軍隊を観察して気が変わった。こうなったら出来る限りのダメージを与えて、出来れば指揮官クラスを仕留めておきたい。そこまでやってようやくトートの軍は互角ぐらいになるはずだ。

「よし…仕掛けるか。みんな準備は良いな?」

無言でうなずくみんなを見て、俺も魔力を高めていく。大軍相手ではとにかく初撃が重要だ。中途半端に攻撃して反撃されれば自分達の命が危うい。使うのは久しぶりのドラゴンブレス。俺の最大級の攻撃魔法で、敵の横っ腹にナイフを突き立ててやる。俺が集中している横では、ディアベルが同じように詠唱を開始し、クレアが矢を空に向かって構えている。シャリーはスリングショットを回転させていつでも放てる準備に入り、レヴィアは水の竜を使役する為魔力を高めていた。

「やるぞ!」

岩陰から飛び出した俺は、ためにためた魔力を一気に開放し、突き出した両手から光線として撃ち出した。レベルが極端に上がったためなのか、以前に使った時より倍近く太くなった赤い極光は無警戒だった敵集団の横っ腹に突き刺さり、多くの兵を一瞬で蒸発させながら遥か彼方まで伸びていく。

「ぐっ…!」

魔力の大量消費によって急速に体の力が抜けていき倒れそうになるのを踏ん張りながら、俺は光を撃ち出す両手をスライドさせ、敵の被害を拡大させていく。行進する正規兵の大半を消滅させた俺は、力尽きてその場に崩れ落ちた。

「な、何事だ!」
「敵襲ー!総員周囲を警戒しろ!どこかに敵が潜んでいるぞー!」
「俺の足が無い!足が無いんだ!」
「いてえー!誰か回復してくれ!助けてくれー!」

大混乱に陥る魔族の軍勢を見ながら肩で息をする俺の横に進み出たクレア達が、畳みかける様に攻撃を開始した。

「被害を拡大させます!」

クレアはいつもの強弓スキルではなく、広範囲に対する降らし撃ちを連射している。以前にも増して魔力の増えたクレアの放つ弓の雨は、その爆発する矢じりと相まってさながらクラスター爆弾の様な威力だった。天から降ってくる無数の爆発する矢を体に受けた兵士達は、原形を留めずに爆発四散する。猛烈な勢いで飛び散る肉片にぶつかった兵士達が次々と倒れ、戦場は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

「私もやるわ!」

レヴィアの両手から放たれた水の竜は、今や一匹ではなく二匹に数を増やしていた。どんな抵抗も無視して突き進む水の竜は、その巨大な口で多くの兵や魔物を噛み千切りながら敵陣の中で暴れ回る。剣も槍も効果が無い水の竜相手にろくな抵抗も出来ない兵士達は、なす術もなく倒れていった。

「やあっ!」

シャリーの投石紐は彼女の筋力や遠心力も相まって、砲弾の様な勢いで石を撃ち出す。右往左往している大型の魔物の頭蓋を一撃で粉砕したかと思ったら、多くの小型の魔物の体を何体かぶち抜いて倒してしまう。ただの投石とは思えない攻撃力だった。

「来い!フェニックス!」

ディアベルの召喚に応じた不死鳥は、一声鳴くとその恐ろしくも優美な翼を羽ばたかせて敵軍勢の上へと到達したかと思ったら、一瞬にしてその体を爆散させて多くの敵を炎の中へと沈めた。鉄をも融解させる高温の中、一瞬で死ねればまだ幸せな方で、中途半端な距離に居たものは熱波に肺を焼かれて倒れ込んだり、熱を持った鎧に体を焼かれ、苦しみながら死んでいく事になった。

これだけやれば十分かと思ったその時、殺気を感じた俺は背中に差した剣を抜き放つと頭上に向けて叩きつける。ガキンッ!と固い物同士がぶつかる鈍い音が辺りに響き、俺と襲撃者は距離を取って対峙した。

今襲撃してきたのは大剣を持った一人の魔族だ。ステータスを確認してみたが、名前以外はわからない。ブレイドと言うその名前に見覚えは無かったが、男から感じるプレッシャーは並大抵のものでは無かった。恐らくこいつがこの軍勢の指揮官だろう。

「…やってくれたな…まさかこんなところで人族の襲撃を受けるとは予想外だった。この恐るべき魔法の数々…貴様らは何者だ?」

怒りに燃える目でこちらを睨み付ける男はこちらのステータスを確認しようとしたようだが、生憎と今は指輪の力で確認する事が出来ない。こちらが無言でいると痺れを切らしたようにブレイドが大剣を構える。

「喋らんか…それならそれでもいい。名乗らずに死んでいけ」

爆発的な踏み込みと共にブレイドが距離を詰める。一瞬で俺に肉薄し振りかぶった大剣を全力で叩きつけてくるのを右に跳んで躱し、左足を蹴り上げて男の顔面を狙う。ブレイドは体勢を崩しながらもなんとか避け、一度体勢を立て直そうと距離をとるため大きく跳んだ。だがそれを見逃してやるほど俺は甘くない。さっきと立場を入れ替えたように鋭く踏み込んだ俺は、盾を前面に押し出したまま弾丸のような勢いで突進し、着地していないブレイドに対して体当たりを仕掛けた。

「ぐっ!」

接近する俺に対して空中に居ながら無理な姿勢で大剣を叩きつけようとしたブレイドだったが、それ以上に速く懐に飛び込まれて腹部を盾で殴りつけられることになった。地面をバウンドしながら転がっていくブレイドに追撃しようと踏み込みかけたその時、複数の矢が俺の目の前を通過する。どうやら他の敵も俺達の存在に気がついたようだ。

「逃げるぞ!みんな集まれ!」

これ以上この場に留まるのは危険だ。目的は果たしたし、今無理してまでこの男を倒す必要は無い。味方の兵士に助け起こされたブレイドは憎々し気に俺達を睨み付けている。

「待て貴様等!武人の端くれならせめて名乗るぐらいはしたらどうだ!」
「…エストだ。お前等の大嫌いな勇者様だよ」
「な、なに!?なぜ勇者がここに居る!…まさか!?トートと手を組んだのか?」

なかなか鋭い奴だ。実際にはお互いが利用し合うだけの関係でも、協力している事には間違いない。それに勘違いさせたままの方が色々と面白い事になりそうだし、ここはこいつの話にのっておくとしよう。

「その通り。よくぞ見破ったな!俺達人間とトートは以前から密かに手を結んでいたんだ。トートが魔族領全てを手に入れる為、俺達は南下を熱望する邪魔な魔族を一網打尽にするためにな!お前等はまんまと踊らされたんだよ!」
「な…なんだと…」

驚愕に顔を歪めるブレイド。全部嘘なんだがこれだけ異常な状況なら、あっさりと信じてしまうのかも知れないな。まあこれで生き残りは死に物狂いでトートを攻撃するだろうし、うまい具合に削り合ってくれるはずだ。呆然とするブレイドをその場に残し、俺達はその場を後にした。
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