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第379話 開門
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「トート様、ご無沙汰しております」
「ズーマーか…久しぶりだな。加勢でもしにきたか?」
開戦までに何度か物資の支援で魔族領に訪れた事はあるが、トート本人に会ったのは最初の一回だけだ。久しぶりに見るトートは相変わらず偉そうな態度であり、以前にも増して力が増している印象があった。レベルを確認しようと目を凝らしてみても、名前以外ハッキリと見る事が出来ない。何らかの力で阻害されているようだ。
「まさにその通り。我が主の手の者が掴んだ情報では、南下した軍勢の一部がトート様を討つために引き返しているそうです。ここは早めに街を落としませんと、厄介な事になるでしょう」
「やはり来たか。お前の言う通り早目に落とすべきなんだが…奴らめ、思いの外抵抗が激しい。俺が出れば簡単だが、王になるべき人間が軽々に動く訳にはいかんからな」
そう言うと、トートは陣中だと言うのにわざわざ用意させたと思われる豪華な椅子の背もたれに、ひっくり返りそうなほど背中を預けてのけぞった。お前が出て解決するなら勿体ぶってないでさっさと動けと言いたくなる。どれだけ力を増しているのか知らないが、一番強い奴が一番後ろに控えててどうするんだ。考え方や行動が俺と正反対な奴だな。だがこんなアホでも上手く誘導してやらねば後で困る事になる。ため息をつきたい気持ちをぐっと抑えながら、俺はトートに提案した。
「では街を閉ざす門を我々で開けて来ましょう。転移の使える我等にとって、その程度の事は造作もありません。その代り…」
「わかっている。俺が魔王の座に就いた暁には、お前とお前の主に褒美をやる。さっさと行ってこい」
もともとそんな物に期待している訳では無い。しかし、この手のタイプの奴は無償の手伝いなど申し入れると素直に好意とは受け取らず、何か魂胆があるのではないかと疑ってくるものだ。それを防ぐためにも露骨な褒美の要求をしておく必要がある。しっしっと犬でも追い払うように俺達を遠ざけようとするトートに頭を下げ、俺達は街を取り囲む外壁近くまで接近すると、転移で一気に城壁の上に移動した。
「なっ!?どうやってここまで!」
「て、敵が!誰か応援を!」
城壁の上に居た敵兵が突如現れた俺達を見て騒ぎ出す。それに走り寄って一刀の下に斬り捨てた後、閉ざされている門目がけて走り出した。城壁の上にはトートの軍を迎撃する為多くの敵兵で溢れていたが、それを片っ端から排除して突き進んでいく。進行方向の敵は俺やシャリー、クレアやレヴィアで倒して行き、後ろは敵が近寄れないようにディアベルの精霊魔法で広範囲を攻撃する。
「あれだ!」
やがて視界の先に門が見えて来た。門は全面を分厚い鉄で覆っており、重量だけでも相当な物に見える。一瞬爆発魔法で吹き飛ばす事も考えたが、下手に曲がった状態で固定されたら目も当てられない。ここは素直に開けた方がいい。俺達は城壁の上から一気に飛び降り門を守る敵兵を蹴散らしていく。雑魚の相手はクレア達に任せ、俺はドランをつれて制御室へと向かった。制御室と言っても滑車を人力で回すだけで造りは原始的だ。慌てて部屋への扉を閉めようとする魔族にドランがブレスを吐きつけ、無力化した隙に扉を蹴破って中に入り込んだ。
中では滑車自体を使えなくしようと魔族が武器を振り上げた瞬間だったようで、大慌てでそいつを斬り捨てて破壊を阻止する。邪魔者が居なくなったところで滑車に飛びついた俺は、力一杯回し始めた。
ズズズと重い音を立てながら、閉ざされた門が少しづつ上にせり上がっていく。本来なら数人がかりで回す滑車も、俺の腕力なら一人でも余裕だ。まるで船の舵を切るかのようにグルグルと勢いよく滑車が回る事で、街を閉ざす扉が開ききるまでさほど時間はかからなかった。
「ご主人様!」
「よし、仕事は終わりだ!逃げるぞ!」
扉が開いた事で、街の外で待機していたトートの軍が雪崩れ込んでくる。巻き添えを喰らわないよう制御室に避難してきたクレア達と一緒に、俺達は街を遠く眺める位置にまで転移で避難していた。
「上手くいくかな?」
「ま、大丈夫だろう。街の中にはそれほど兵隊の数も居なかったみたいだし、負ける要素が無いよ」
不安げに問うてくるレヴィアの頭を撫でながら、俺は自分に言い聞かせるようにそう言い切る。唯一心配なのは連中が略奪に夢中になり過ぎて、背後の軍の存在を忘れる事だ。ゴロツキの多いトート軍の事だ、街で乱暴狼藉の限りを尽くすと簡単に予想できる。敵同士の内輪もめだから止めはしないが、いつまでもやってないでさっさと終わって欲しいものだな。
「さて、じゃあ一旦ナールの街に戻ってから南下しようか。南に進んでいれば引き返してくる連中と鉢合わせするだろう」
そして見つけ次第奇襲をかけてやるとしよう。俺は内心ほくそ笑みながら、次の地点まで転移するのだった。
「ズーマーか…久しぶりだな。加勢でもしにきたか?」
開戦までに何度か物資の支援で魔族領に訪れた事はあるが、トート本人に会ったのは最初の一回だけだ。久しぶりに見るトートは相変わらず偉そうな態度であり、以前にも増して力が増している印象があった。レベルを確認しようと目を凝らしてみても、名前以外ハッキリと見る事が出来ない。何らかの力で阻害されているようだ。
「まさにその通り。我が主の手の者が掴んだ情報では、南下した軍勢の一部がトート様を討つために引き返しているそうです。ここは早めに街を落としませんと、厄介な事になるでしょう」
「やはり来たか。お前の言う通り早目に落とすべきなんだが…奴らめ、思いの外抵抗が激しい。俺が出れば簡単だが、王になるべき人間が軽々に動く訳にはいかんからな」
そう言うと、トートは陣中だと言うのにわざわざ用意させたと思われる豪華な椅子の背もたれに、ひっくり返りそうなほど背中を預けてのけぞった。お前が出て解決するなら勿体ぶってないでさっさと動けと言いたくなる。どれだけ力を増しているのか知らないが、一番強い奴が一番後ろに控えててどうするんだ。考え方や行動が俺と正反対な奴だな。だがこんなアホでも上手く誘導してやらねば後で困る事になる。ため息をつきたい気持ちをぐっと抑えながら、俺はトートに提案した。
「では街を閉ざす門を我々で開けて来ましょう。転移の使える我等にとって、その程度の事は造作もありません。その代り…」
「わかっている。俺が魔王の座に就いた暁には、お前とお前の主に褒美をやる。さっさと行ってこい」
もともとそんな物に期待している訳では無い。しかし、この手のタイプの奴は無償の手伝いなど申し入れると素直に好意とは受け取らず、何か魂胆があるのではないかと疑ってくるものだ。それを防ぐためにも露骨な褒美の要求をしておく必要がある。しっしっと犬でも追い払うように俺達を遠ざけようとするトートに頭を下げ、俺達は街を取り囲む外壁近くまで接近すると、転移で一気に城壁の上に移動した。
「なっ!?どうやってここまで!」
「て、敵が!誰か応援を!」
城壁の上に居た敵兵が突如現れた俺達を見て騒ぎ出す。それに走り寄って一刀の下に斬り捨てた後、閉ざされている門目がけて走り出した。城壁の上にはトートの軍を迎撃する為多くの敵兵で溢れていたが、それを片っ端から排除して突き進んでいく。進行方向の敵は俺やシャリー、クレアやレヴィアで倒して行き、後ろは敵が近寄れないようにディアベルの精霊魔法で広範囲を攻撃する。
「あれだ!」
やがて視界の先に門が見えて来た。門は全面を分厚い鉄で覆っており、重量だけでも相当な物に見える。一瞬爆発魔法で吹き飛ばす事も考えたが、下手に曲がった状態で固定されたら目も当てられない。ここは素直に開けた方がいい。俺達は城壁の上から一気に飛び降り門を守る敵兵を蹴散らしていく。雑魚の相手はクレア達に任せ、俺はドランをつれて制御室へと向かった。制御室と言っても滑車を人力で回すだけで造りは原始的だ。慌てて部屋への扉を閉めようとする魔族にドランがブレスを吐きつけ、無力化した隙に扉を蹴破って中に入り込んだ。
中では滑車自体を使えなくしようと魔族が武器を振り上げた瞬間だったようで、大慌てでそいつを斬り捨てて破壊を阻止する。邪魔者が居なくなったところで滑車に飛びついた俺は、力一杯回し始めた。
ズズズと重い音を立てながら、閉ざされた門が少しづつ上にせり上がっていく。本来なら数人がかりで回す滑車も、俺の腕力なら一人でも余裕だ。まるで船の舵を切るかのようにグルグルと勢いよく滑車が回る事で、街を閉ざす扉が開ききるまでさほど時間はかからなかった。
「ご主人様!」
「よし、仕事は終わりだ!逃げるぞ!」
扉が開いた事で、街の外で待機していたトートの軍が雪崩れ込んでくる。巻き添えを喰らわないよう制御室に避難してきたクレア達と一緒に、俺達は街を遠く眺める位置にまで転移で避難していた。
「上手くいくかな?」
「ま、大丈夫だろう。街の中にはそれほど兵隊の数も居なかったみたいだし、負ける要素が無いよ」
不安げに問うてくるレヴィアの頭を撫でながら、俺は自分に言い聞かせるようにそう言い切る。唯一心配なのは連中が略奪に夢中になり過ぎて、背後の軍の存在を忘れる事だ。ゴロツキの多いトート軍の事だ、街で乱暴狼藉の限りを尽くすと簡単に予想できる。敵同士の内輪もめだから止めはしないが、いつまでもやってないでさっさと終わって欲しいものだな。
「さて、じゃあ一旦ナールの街に戻ってから南下しようか。南に進んでいれば引き返してくる連中と鉢合わせするだろう」
そして見つけ次第奇襲をかけてやるとしよう。俺は内心ほくそ笑みながら、次の地点まで転移するのだった。
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