ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第378話 画策

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魔族動く。この急報は光竜連峰に常駐していたドラゴンライダー達によって各国にもたらされ、知らせを受けた国々は出撃の準備に追われていた。防壁を維持管理している三カ国に常駐している軍はともかく、万が一防壁が突破された場合敵を食い止めるための軍を派遣しなければならないからだ。

応援としてバックス、グリトニル、リオグランドに派遣される各国の陣容は以下の通り。シーティオからは一万、ミレーニアからは二万、ガルシアからは三万、ヴルカーノからは五千とドラゴンライダー達、そしてアルゴスからは四万、計十万五千と言う大軍だった。

もちろんこの全てが戦えるわけではない。食事や医療、それに付随する雑務をこなすための人材も含まれているため、実際の戦力はもっと少ない。これらの軍は最前線の国々に新たに建設された砦に集結し、防壁を突破してきた敵の迎撃を任される事になる。大挙して出陣した各国の軍は、長い列を維持しながら北へ北へと向かって行った。

ちょうど同じころ、エスト達勇者一行も行動を開始する。後の事を信頼する仲間に任せて旅支度を整えた彼等は、魔族領第三の街へと姿を現していた。

------

魔族の街ナールまで転移してきた。予想通りこの街に住む多くの魔族がトートと呼応して街から出払っているため、今は人通りが極端に少なくなっている。マップで周囲を確認してみたが、ちらほらと人の反応が出るだけでまとまった数は居ない。流石に重要拠点は別としても、今俺達が居る貧民街は無人に近い有り様だった。

「ご主人様、これからどうするんですか?」
「とりあえずは出来る限り暴れて混乱を増幅させる。まずはこの街の要所を襲撃した後、北上するぞ」
「腕が鳴るわね!」
「シャリーがんばる!」

騒ぎを大きくするため変装せずにいる俺達は、以前入手した地図を片手に人気の無い街を進んで行く。トートがこの街で挙兵したと言うならこの街の人間はトートの配下と見ていいだろう。意気揚々と魔王城目指して進むトートに、足元で火事が起きたと知らせてやるのだ。

俺の予想では反旗を翻したトートを倒すため、南下した魔族の一部が引き返してくるはず。トートは奴等が戻ってくるまでに魔王の首を取るつもりだろうが、俺がこの街で騒ぎを起こせば敵が思ったより近くに居ると認識する。警戒心の強いトートの事だ、背後からの攻撃を警戒して進撃の速度は鈍り、上手くいけば引き返して来た軍とぶつける事が出来るかも知れない。

「あそこだな」
「あれは…武器庫か?」

少数の兵士が警備している施設は、この街の兵士達の武器庫のようだった。贅沢を言えば食糧庫などを燃やしてトートの軍の継戦能力を削ぎたいところだが、流石に自分達の食料は自分達で運んでいるだろう。ならせめて街の防衛力を削いでおくぐらいはさせてもらう。俺達は静かに攻撃の準備を整えると、隠れていた路地から飛び出し一斉に攻撃を開始した。

「くらえ!」

俺が放った複数の爆発魔法の光球は施設の何か所かに直撃し、あちこちで大爆発を起こす。突然の攻撃に悲鳴を上げながら逃げ惑う魔族達に、クレア、レヴィア、シャリーの放つ矢や投石、水の槍などが襲い掛かり次々と打ち倒していく。混乱が極限にまで達した時、ディアベルの召喚したイフリートが施設内に現れて、蓄えてあった武具の類を纏めて燃え上がらせた。

ここまでやればもう消火など不可能。燃え上がる施設を呆然とした表情で見上げる魔族達を他所に、俺達はさっさとその場を後にした。お次は街の北にある関所だ。あの鬱陶しいドラゴン達を今の内に排除しておこう。そう思って転移で北の関所まで移動した俺達だったが、目的である関所自体が無くなっている事に気がついた。

「…トート達が倒したのか?その割には戦いの跡も死体の一つも無いな」
「最初からグルだったか、それとも後になってトートに同調したかではないか?ドラゴンが道を塞いでいれば、大軍の通行など不可能だろうし」
「なるほどな。確かにその可能性が高いだろう」

関所が無いなら好都合。遮る者の無くなった街道を北へと歩き続ける。その時、影が差したのでふと上を見て見ると、空飛ぶ魔物に騎乗した兵が北へ向かって飛んで行くのが見えた。おそらくさっきの街からトートへの伝令だろう。その伝令を追うように北上していくと、多くの魔族や魔物の姿が遠目に見えて来た。今の魔族領の状況から考えて、あれは間違いなくトートの軍だ。奴等は大軍をもって都市を取り囲み、攻撃の真っ最中のようだった。

「さてどうするかな…」

このまま決着がつくのを眺めていてもいいんだが、あまり時間がかかるとトートの軍が背中をつかれる事になる。上手く潰しあってもらうためにも、トートにはもう少し生き残っていてもらいたいんだよな。俺が行動を決めかねている時、ディアベルが口を開いた。

「主殿、ここは奴等に協力してみてはどうだろう?」
「うん、何か理由があるの?」
「背後をつかれた軍と言うのは脆いものだ。特に寄せ集めの軍隊などはな。今の様に自分達が攻める立場で居る時は調子に乗るが、一旦不利になると一気に潰走する危険がある。今後もトートを利用するつもりなら、今は勝たせておいた方が良い」

確かにディアベルの言う通り、トートの軍は数こそ多いものの寄せ集めと言っていい。今引き返しているはずの正規軍に背後をつかれるとお終いだ。トートには魔王を殺すまでの露払いをさせたいし、今死なれると困る。なら方針は一つだな。

「よし、トート達に協力して街を落とそう。その後引き返してくる軍勢を奇襲して、トート達が勝てるように細工する」

やる事が決まれば俺達の行動は早い。さっそく指輪で姿を変えて、トートの軍勢に近寄って行くのだった。
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