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第377話 防壁での戦い①
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「見えたぞ。奴等、すぐそこまで迫っている」
グリトニル国内にある防壁の中にたたずむファータのダークエルフ、アミスターはつぶやいた。防壁の覗き穴から眺める彼の視線の先には光竜連峰があり、その山々からは目視で確認できる距離まで魔物の大軍勢が迫りつつあった。
防壁の防御区画は大きく分けて三つ。西からバックス、グリトニル、リオグランドだ。防壁内部は繋がっているため問題なく行き来できるが、あまりにも長大な建造物の為に各国で指揮管理する方針でまとまっていた。バックスでは国王リギン自らが防壁に常駐し、迫りくる魔族達を手ぐすね引いて待っている。
リオグランドでは王子であるフォルザが指揮官に収まり、各国の兵士達がその指揮下に入っている。ドワーフと獣人と言う戦闘力の高い種族が主力を務める彼等にかかれば、並大抵の魔物など歯が立たないだろう。
光竜連峰に面する参加国の中で唯一人間が主力であるグリトニルは、他の二国には劣るが魔法使いの多さでその不利をカバーしていた。お国柄信仰心が篤い人間が多いため、回復魔法の使い手が多いのだ。それに対策会議では予定に無かったファータからの援軍も加わり、グリトニルが一番多く配置される事になっている。精霊魔法の援護が得られれば、他の二国以上に戦えるだろう。
グリトニルの防御指揮官は当初王子であるリムリックが務める予定だったが、貴族達の猛反発によってそれを断念する事になった。理由は他の国と違い、グリトニルでは王子以外に後継ぎが居ないからだ。バックスは国王リギンが戦死しても城に王女スフィリが居るし、リオグランドは妹であるティグレが残っている。グリトニルは仮にリムリックが出撃しても国王が残る形にはなるのだが、現国王は最近病で臥せっており、今更後継ぎなど作れそうになかった。それでも自国と世界の危機に対して立ち上がらないのでは、各国に対して申し訳が立たないとリムリック王子が主張した結果、最も危険な防壁の指揮ではなく、防壁に一番近い位置にある砦の指揮官に収まる事で妥協する事となった。
そんな事情で、現在グリトニルにある防壁の指揮官は、防壁の建設に多大な貢献がある上ファータの副代表でもあるアミスターが務める事になっていた。
「そろそろ射程に入るな。いいか!訓練通りにやれ!手を早くしても冷静さを忘れるなよ!攻撃開始だ!」
山から溢れ出した魔物達は奇声を上げながら防壁に殺到してくる。地表を埋め尽くすほど無数の魔物に対して、アミスターの指示を受けた後方部隊が攻撃を開始した。唸りを上げながら次々と打ち出されたのはバックス製の新型投石器だ。撃ちだされる弾の飛距離が今までより延長されていて、尚且つ特殊な弾なので大軍相手には無類の強さを誇る。燃え盛りながら魔物の群れのど真ん中に着弾した投石器の弾は一瞬で砕け散り、周囲に油と炎を撒き散らす。
『グギャアアアッ!!』
炎に巻かれた複数の魔物が絶叫を上げながら転がり回り、あちこちで混乱に陥っていた。続けて防壁の中から撃ちだされた槍が何匹かの魔物をまとめて貫き、その場で絶命させる。間断なく打ち出される槍や矢の雨に対して、多くの魔物がろくな抵抗も出来ずに倒されていった。
それでも数の多さを活かした魔物の群れは、激しい抵抗を受けながらも防壁と目と鼻の先にまで到達する。だが次に彼等の行く手を阻んだのは、エスト達の造った巨大な水堀だ。海竜リヴァイアサンの力を借りて造った水堀は激しい流れを常に維持しており、大型の魔物ですら押し流す勢いだ。試しに飛び込んだゴブリンやオークなど知能の低い魔物共など、瞬く間に姿が見えなくなる。その間にも防壁からは絶え間のない攻撃が繰り返され、彼等はなす術もなく打倒されていった。
「今のところ順調だな。このまま動きが止まってくれればいいんだが…むっ!?」
戦況を見守るアミスターの眼前では、水堀の前で動きを止めていた魔物達が一斉に行動を開始した。なんと魔物達は自分が水の中に沈むのも構わず、次々と自ら水堀の中に身を投げていく。中には抵抗しようとした魔物の姿もあったが、後ろから押されて水の中に消えていった。最初はただの集団自殺にしか見えなかったその行為も次第に意味を持ち始める。魔物達は仲間の死骸で水堀を埋めて足場を作り、直接防壁を攻撃する暴挙に出たのだ。
「正気か奴等!?」
多くの仲間を犠牲にし、手の届く範囲に辿り着いた魔物達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。防壁の北側であふれ出た水が辺り一帯を泥沼の様に変える中、魔物達は仲間を踏みつけてでも前進するのを止めようとしない。鋼の強度を誇る防壁も、繰り返される魔物の攻撃によって次第にその防御力を削られつつあった。
防壁に籠る兵士達は必至で戦っていた。槍を突き出す隙間から覗く無数の魔物の姿に怯えながらも、彼等は攻撃の手を休める事は無かった。防壁が完成してから半年近くの間、毎日毎日怒鳴られながらも厳しい訓練をして来たのは伊達ではないのだ。それは彼等の後ろに控える兵士達も同様だ。防壁を越えて飛来する敵の翼竜やハーピーなど、飛行能力を持つ敵の襲撃にも訓練通り猛然と反撃しつつ壁の向こう側への攻撃を続けていく。
「今のところはもってるが…いつまで耐えられるか…」
部下たちの奮戦を見ながら、アミスターは不安げにそうつぶやくのだった。
グリトニル国内にある防壁の中にたたずむファータのダークエルフ、アミスターはつぶやいた。防壁の覗き穴から眺める彼の視線の先には光竜連峰があり、その山々からは目視で確認できる距離まで魔物の大軍勢が迫りつつあった。
防壁の防御区画は大きく分けて三つ。西からバックス、グリトニル、リオグランドだ。防壁内部は繋がっているため問題なく行き来できるが、あまりにも長大な建造物の為に各国で指揮管理する方針でまとまっていた。バックスでは国王リギン自らが防壁に常駐し、迫りくる魔族達を手ぐすね引いて待っている。
リオグランドでは王子であるフォルザが指揮官に収まり、各国の兵士達がその指揮下に入っている。ドワーフと獣人と言う戦闘力の高い種族が主力を務める彼等にかかれば、並大抵の魔物など歯が立たないだろう。
光竜連峰に面する参加国の中で唯一人間が主力であるグリトニルは、他の二国には劣るが魔法使いの多さでその不利をカバーしていた。お国柄信仰心が篤い人間が多いため、回復魔法の使い手が多いのだ。それに対策会議では予定に無かったファータからの援軍も加わり、グリトニルが一番多く配置される事になっている。精霊魔法の援護が得られれば、他の二国以上に戦えるだろう。
グリトニルの防御指揮官は当初王子であるリムリックが務める予定だったが、貴族達の猛反発によってそれを断念する事になった。理由は他の国と違い、グリトニルでは王子以外に後継ぎが居ないからだ。バックスは国王リギンが戦死しても城に王女スフィリが居るし、リオグランドは妹であるティグレが残っている。グリトニルは仮にリムリックが出撃しても国王が残る形にはなるのだが、現国王は最近病で臥せっており、今更後継ぎなど作れそうになかった。それでも自国と世界の危機に対して立ち上がらないのでは、各国に対して申し訳が立たないとリムリック王子が主張した結果、最も危険な防壁の指揮ではなく、防壁に一番近い位置にある砦の指揮官に収まる事で妥協する事となった。
そんな事情で、現在グリトニルにある防壁の指揮官は、防壁の建設に多大な貢献がある上ファータの副代表でもあるアミスターが務める事になっていた。
「そろそろ射程に入るな。いいか!訓練通りにやれ!手を早くしても冷静さを忘れるなよ!攻撃開始だ!」
山から溢れ出した魔物達は奇声を上げながら防壁に殺到してくる。地表を埋め尽くすほど無数の魔物に対して、アミスターの指示を受けた後方部隊が攻撃を開始した。唸りを上げながら次々と打ち出されたのはバックス製の新型投石器だ。撃ちだされる弾の飛距離が今までより延長されていて、尚且つ特殊な弾なので大軍相手には無類の強さを誇る。燃え盛りながら魔物の群れのど真ん中に着弾した投石器の弾は一瞬で砕け散り、周囲に油と炎を撒き散らす。
『グギャアアアッ!!』
炎に巻かれた複数の魔物が絶叫を上げながら転がり回り、あちこちで混乱に陥っていた。続けて防壁の中から撃ちだされた槍が何匹かの魔物をまとめて貫き、その場で絶命させる。間断なく打ち出される槍や矢の雨に対して、多くの魔物がろくな抵抗も出来ずに倒されていった。
それでも数の多さを活かした魔物の群れは、激しい抵抗を受けながらも防壁と目と鼻の先にまで到達する。だが次に彼等の行く手を阻んだのは、エスト達の造った巨大な水堀だ。海竜リヴァイアサンの力を借りて造った水堀は激しい流れを常に維持しており、大型の魔物ですら押し流す勢いだ。試しに飛び込んだゴブリンやオークなど知能の低い魔物共など、瞬く間に姿が見えなくなる。その間にも防壁からは絶え間のない攻撃が繰り返され、彼等はなす術もなく打倒されていった。
「今のところ順調だな。このまま動きが止まってくれればいいんだが…むっ!?」
戦況を見守るアミスターの眼前では、水堀の前で動きを止めていた魔物達が一斉に行動を開始した。なんと魔物達は自分が水の中に沈むのも構わず、次々と自ら水堀の中に身を投げていく。中には抵抗しようとした魔物の姿もあったが、後ろから押されて水の中に消えていった。最初はただの集団自殺にしか見えなかったその行為も次第に意味を持ち始める。魔物達は仲間の死骸で水堀を埋めて足場を作り、直接防壁を攻撃する暴挙に出たのだ。
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多くの仲間を犠牲にし、手の届く範囲に辿り着いた魔物達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。防壁の北側であふれ出た水が辺り一帯を泥沼の様に変える中、魔物達は仲間を踏みつけてでも前進するのを止めようとしない。鋼の強度を誇る防壁も、繰り返される魔物の攻撃によって次第にその防御力を削られつつあった。
防壁に籠る兵士達は必至で戦っていた。槍を突き出す隙間から覗く無数の魔物の姿に怯えながらも、彼等は攻撃の手を休める事は無かった。防壁が完成してから半年近くの間、毎日毎日怒鳴られながらも厳しい訓練をして来たのは伊達ではないのだ。それは彼等の後ろに控える兵士達も同様だ。防壁を越えて飛来する敵の翼竜やハーピーなど、飛行能力を持つ敵の襲撃にも訓練通り猛然と反撃しつつ壁の向こう側への攻撃を続けていく。
「今のところはもってるが…いつまで耐えられるか…」
部下たちの奮戦を見ながら、アミスターは不安げにそうつぶやくのだった。
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