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第376話 竜達、魔族達
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エスト達に知らせが届く少し前、光竜連峰に住むドラゴン達は迫る敵意に敏感に反応していた。アーカディア大陸の北にある魔族領の更に北。大陸最北端に住むドラゴン達の接近にだ。最も早くそれに気がついたのはドラゴン達の長でもあるファフニルだ。彼女は時折尋ねるエストの土産であるお茶にはまっており、この日も人の姿で優雅なひと時を楽しんでいた。
「…動きましたか。思ったより早かったですね…。魔族や魔物の相手はエスト達人間に任せるとして、我等は邪神に与した元同胞達を排除しましょう」
人の姿から本来のドラゴンの姿に戻った彼女は、大きく羽ばたくと連峰全てに響き渡るような咆哮を上げる。それに応えるため、光竜連峰の至る所からドラゴン達が姿を現した。無数の巨大なドラゴン達が空を飛ぶ様は圧巻で、山に住む動物達は怯えて我先にと逃げ出していたほどだ。
ファフニルを中心としたドラゴン達は、そのまま群れになって北の空を目指す。彼等ドラゴンはその巨体の為に鈍重なイメージがあるが、実際の飛行速度はかなり早い。瞬く間に連峰と魔族領の境目まで到達したドラゴン達は、同じように南下してきた漆黒のドラゴン達と激突する事になった。敵は遥か視界の先におり未だ豆粒のようにも見えるが、彼我の速度差を考えると会敵はあっと言う間だ。
「皆、準備はいいですか?今度こそ奴等を撃滅し、邪悪の根を断つのです」
敵との会話など彼等には必要ない。あるのは互いに互いを全滅させると言う硬い意志のみ。まず戦端を開いたのはファフニルだ。射程に入った敵集団に対して、挨拶代わりに彼女が放ったドラゴンブレスが敵ドラゴンの数体を纏めて薙ぎ払い、彼女の配下も同様にブレスでの攻撃を始める。すると反撃してきた敵ドラゴンの攻撃で、ファフニル側のドラゴンも同じように落とされていく。それに呼応した互いのドラゴンが次々とブレスを吐きだし、大空は様々な色のブレスで彩られる。それは美しくも恐ろしい光景だった。
遠距離からの攻撃が終われば後は互いに肉弾戦を展開していく。人間はおろか魔物でさえあっさりと噛み千切る巨大な口を開け、ドラゴン達は互いの体に牙を立て合った。血しぶきが舞い、切断された首や体の一部が地響きを上げながら大地に落下する。苦痛や断末魔の咆哮が響き渡る光竜連峰は、正に地獄絵図の様相を呈した。
そんなドラゴン達の戦いを尻目に、眼下の山々を魔物と魔族の大軍が南下している。時折ブレスの流れ弾で多数の死者が出るが、そんな事を気にも留めずに彼等はひたすら南を目指した。行く手を遮るドラゴンの死骸を谷底へと落とし、あるいは踏み越えながら先を急ぐ。彼等にとって多少の犠牲は織り込み済みだったのだ。彼等の望みはたった一つ。南下して人間の支配する領域を自分達の物とし、豊かな生活を手に入れる事。住むには過酷な環境である魔族領を捨てて新天地に移り住む事だった。
魔族達が南下し、ドラゴン達が激しい戦いを繰り広げている頃、もう一つの勢力も動き出した。かねてより反乱の機会を窺っていたトート率いる反魔王軍だ。ほぼ全勢力で南下を開始して空になった魔族領では、魔王のお膝元でもある魔族領第三の都市ナールでトートが挙兵する事となった。周辺の農村や貧民街、人目のつかない森の中などに潜伏していた反乱軍は開戦と共に集結し、あっと言う間に街に残った少数の正規軍を壊滅させた後、魔王城に向けて進撃を開始したのだった。
四天王の一角、トート反逆する!この知らせは瞬く間に魔族領全土へと広がっていき、当然進行中の軍勢を束ねる残った四天王の三人、ブレイド、ランス、フューリの知る所となった。
「あの小僧!何か企んでいるとは思ったが、まさか魔王様に弓引くとは!」
「我らが出払った隙を狙われたか。魔王様をお守りする守護役を買って出たのはこれが狙いだったようだな…」
「起きてしまった事を悔いても仕方ない。南下する事も重要だが、このままでは魔王様の御命が危うくなる。今魔族領ではまとまった数の軍勢がいないからな。ここは軍の一部を引き返させて、トートの討伐を行うべきだ」
と言ってもすんなりと決まるはずが無かった。大軍勢を率いたまま南下して人間達と戦うのは、彼等魔族の悲願でもあったからだ。ここで引き返すと言う事は、手柄を立てる機会を自ら捨てる事を意味していたのだから。そんな重苦しい沈黙が続く中、四天王を束ねる立場にあるブレイドが口を開いた。
「…俺が戻る。お前達二人はこのまま南下し、人間共を打ち滅ぼしてくれ」
「ブレイド!」
「…いいのか?」
「仕方あるまい。無念ではあるが、この怒りはトート自身にぶつけてやるさ。必ずあの小僧の首を取り、魔王様に献上すると約束しよう」
静かに怒りを漂わせるブレイドに、ランスとフューリの二人は思わず気圧された。トートは遠からずブレイドによって殺害される。二人がそう確信した瞬間だった。上空で激戦の続く光竜連峰の中ほどまで進んだ魔族の軍勢は、ブレイドによって総勢二万程が魔族領に向けて引き返し始め、その数を大きく減らす事になる。だがそれでも引き連れた魔物の数は膨大であり、軽く人間側の軍を凌駕する数でもあった。
人間の築いた防壁は目前に迫っている。それぞれの戦いが始まろうとしていた。
「…動きましたか。思ったより早かったですね…。魔族や魔物の相手はエスト達人間に任せるとして、我等は邪神に与した元同胞達を排除しましょう」
人の姿から本来のドラゴンの姿に戻った彼女は、大きく羽ばたくと連峰全てに響き渡るような咆哮を上げる。それに応えるため、光竜連峰の至る所からドラゴン達が姿を現した。無数の巨大なドラゴン達が空を飛ぶ様は圧巻で、山に住む動物達は怯えて我先にと逃げ出していたほどだ。
ファフニルを中心としたドラゴン達は、そのまま群れになって北の空を目指す。彼等ドラゴンはその巨体の為に鈍重なイメージがあるが、実際の飛行速度はかなり早い。瞬く間に連峰と魔族領の境目まで到達したドラゴン達は、同じように南下してきた漆黒のドラゴン達と激突する事になった。敵は遥か視界の先におり未だ豆粒のようにも見えるが、彼我の速度差を考えると会敵はあっと言う間だ。
「皆、準備はいいですか?今度こそ奴等を撃滅し、邪悪の根を断つのです」
敵との会話など彼等には必要ない。あるのは互いに互いを全滅させると言う硬い意志のみ。まず戦端を開いたのはファフニルだ。射程に入った敵集団に対して、挨拶代わりに彼女が放ったドラゴンブレスが敵ドラゴンの数体を纏めて薙ぎ払い、彼女の配下も同様にブレスでの攻撃を始める。すると反撃してきた敵ドラゴンの攻撃で、ファフニル側のドラゴンも同じように落とされていく。それに呼応した互いのドラゴンが次々とブレスを吐きだし、大空は様々な色のブレスで彩られる。それは美しくも恐ろしい光景だった。
遠距離からの攻撃が終われば後は互いに肉弾戦を展開していく。人間はおろか魔物でさえあっさりと噛み千切る巨大な口を開け、ドラゴン達は互いの体に牙を立て合った。血しぶきが舞い、切断された首や体の一部が地響きを上げながら大地に落下する。苦痛や断末魔の咆哮が響き渡る光竜連峰は、正に地獄絵図の様相を呈した。
そんなドラゴン達の戦いを尻目に、眼下の山々を魔物と魔族の大軍が南下している。時折ブレスの流れ弾で多数の死者が出るが、そんな事を気にも留めずに彼等はひたすら南を目指した。行く手を遮るドラゴンの死骸を谷底へと落とし、あるいは踏み越えながら先を急ぐ。彼等にとって多少の犠牲は織り込み済みだったのだ。彼等の望みはたった一つ。南下して人間の支配する領域を自分達の物とし、豊かな生活を手に入れる事。住むには過酷な環境である魔族領を捨てて新天地に移り住む事だった。
魔族達が南下し、ドラゴン達が激しい戦いを繰り広げている頃、もう一つの勢力も動き出した。かねてより反乱の機会を窺っていたトート率いる反魔王軍だ。ほぼ全勢力で南下を開始して空になった魔族領では、魔王のお膝元でもある魔族領第三の都市ナールでトートが挙兵する事となった。周辺の農村や貧民街、人目のつかない森の中などに潜伏していた反乱軍は開戦と共に集結し、あっと言う間に街に残った少数の正規軍を壊滅させた後、魔王城に向けて進撃を開始したのだった。
四天王の一角、トート反逆する!この知らせは瞬く間に魔族領全土へと広がっていき、当然進行中の軍勢を束ねる残った四天王の三人、ブレイド、ランス、フューリの知る所となった。
「あの小僧!何か企んでいるとは思ったが、まさか魔王様に弓引くとは!」
「我らが出払った隙を狙われたか。魔王様をお守りする守護役を買って出たのはこれが狙いだったようだな…」
「起きてしまった事を悔いても仕方ない。南下する事も重要だが、このままでは魔王様の御命が危うくなる。今魔族領ではまとまった数の軍勢がいないからな。ここは軍の一部を引き返させて、トートの討伐を行うべきだ」
と言ってもすんなりと決まるはずが無かった。大軍勢を率いたまま南下して人間達と戦うのは、彼等魔族の悲願でもあったからだ。ここで引き返すと言う事は、手柄を立てる機会を自ら捨てる事を意味していたのだから。そんな重苦しい沈黙が続く中、四天王を束ねる立場にあるブレイドが口を開いた。
「…俺が戻る。お前達二人はこのまま南下し、人間共を打ち滅ぼしてくれ」
「ブレイド!」
「…いいのか?」
「仕方あるまい。無念ではあるが、この怒りはトート自身にぶつけてやるさ。必ずあの小僧の首を取り、魔王様に献上すると約束しよう」
静かに怒りを漂わせるブレイドに、ランスとフューリの二人は思わず気圧された。トートは遠からずブレイドによって殺害される。二人がそう確信した瞬間だった。上空で激戦の続く光竜連峰の中ほどまで進んだ魔族の軍勢は、ブレイドによって総勢二万程が魔族領に向けて引き返し始め、その数を大きく減らす事になる。だがそれでも引き連れた魔物の数は膨大であり、軽く人間側の軍を凌駕する数でもあった。
人間の築いた防壁は目前に迫っている。それぞれの戦いが始まろうとしていた。
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