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第373話 出産
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ベビー用品や玩具作りで俺達が盛り上がっていたある日の晩、部屋に戻っていたはずのアミルが血相を変えて俺の自室に飛び込んで来た。枕元にある時計を見れば夜中の一時過ぎだ。何事かと思ったが、アミルの表情を見て大体事情を把握できた。
「エスト!レ、レレーナ!レレーナが!うま、うまれ、うまれ!うまうま…!」
「落ち着け!レレーナが産気づいたんだな?」
喋る余裕もないのか、アミルは首を激しく縦に振るだけだ。今のアミルが使い物にならないと判断した俺は、両隣と向かいの部屋に寝ていたクレア達を叩き起こし、すぐ手伝うように指示する。
「クレア達は予定通り出産の準備を進めてくれ。湯を沸かし道具を揃えてレレーナの側に待機。俺は産婆さんと神官達を連れてくる」
「わかりました!」
「承知した!」
「わかったわ!母様にも見ててもらうから!」
指示を受けて駆け出していくクレア達の横で、一人アミルはオロオロと取り乱していた。俺はそのケツを容赦なく蹴り飛ばすと、動揺するアミルの頬を両側からビンタする。
「しっかりしろ!お前が取り乱してどうする!後の事は俺達に任せて、お前はレレーナの側に居てやれ!」
「わ、わかった…!」
少しは正気を取り戻したアミルが、急いで今来た道を戻って行く。俺はそれを見届けた後、転移を使って産婆さんの家の前に現れた。夜中で近所迷惑なのはわかっていたが今はそれどころでは無い。ドアを力いっぱい叩きまくると、大きな声で呼び出し始めた。
「すいません!すいません!レレーナに子供が生まれそうなんです!起きてください!」
ある程度加減しているとは言え俺の力でバンバン叩くものだから、次第にドアが変形し始めた。突然の騒ぎに隣近所は窓やドアの隙間から何事が起きたのかと覗き見ている。このままではドアどころか壁が崩壊するんじゃないかと思ったその時、勢いよく目の前のドアが開き、見覚えのある婆さんが立っていた。
「うるさいね!そんなに叩かなくても聞こえてるよ!」
「す、すいません…」
小柄な婆さんの一喝に思わず気圧されてしまった。訪ねて来た俺の顔を一瞥した婆さんは、挨拶もそこそこに質問してくる。
「それより、あのお嬢ちゃんの陣痛が始まったんだね?いつからだい?」
「ついさっきのはずです。すぐ来てくれますか?」
「あたしは身一つで十分だよ。道具も要らないからこのままでいいよ」
本人の了解を得たので、産婆さんの腕を掴んだ俺は瞬時に転移を発動し、アミル達の部屋へと現れた。ベッドの上では苦しそうな表情でうんうん唸っているレレーナが寝ており、クレア達が彼女の汗を拭ってやったり、沸かして来たお湯をタライに移し替えた後魔石で保温したりと言う作業に追われていた。初めて転移を体験した産婆さんは一瞬面食らっていたもののすぐに気を取り直すと、クレア達に向けて矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「そっちの嬢ちゃん、もっとお湯を持ってきな。消毒用の熱湯と産湯に使うぬるま湯の二つだよ!そっちの耳の長い嬢ちゃんは綺麗な布を集めて来な!あんたは旦那かい?オロオロしてないで手の一つも握ってやんな!」
ベッドの周りで右往左往していたアミルは、俺に蹴られたのと反対側のケツを産婆さんに蹴り上げられる。俺は当事者じゃないから比較的冷静でいられるが、アミルの立場ではそうもいかないのだろう。こんな時、男は本当に役に立たないよな。産婆さんが来てくれたのでひとまず安心だが、俺にはまだやる事がある。再び転移を使って今度は街中にある教会へと飛んだ。
まだ新築の匂いがする教会の扉は、夜中でも施錠されずに誰でも入る事が出来る。急な病や人目をはばかる相談事などで訪れる人々を受け入れる為だ。ほとんど音のしないドアを開けて中に入った俺は、奥に進むと神官達が寝泊まりする部屋のドアをノックする。今度はさっきみたいに怒られたくなかったので、音も控えめだ。
それほど間を置かずに内側から開けられたドアの向こうには、俺と面識のある年老いた神官ファデーレではなく、四十代中盤ぐらいと思われるふくよかな女性が立っていた。
「あら領主様。こんばんは。治療が必要ですか?それとも相談かしら?」
「ああいえ、どちらでもありません。一応以前お話しさせていただいているんですが、実は今知人が出産の最中でして…」
「まあ大変!では急いで応援に駆け付けないといけないわね。すぐ他の者を起こしてきます!」
察しの良い人で助かった。急ぎ足で奥へと引っ込んだ女神官が再び現れた時、背後には二人の若い女の神官が控えていた。今この教会には他に男の神官も居るはずだが、場合が場合なので女性を選んでくれたのだろう。
「領主様、こちらは準備出来ましたわ。早く行きましょう」
「はい。では転移を使いますんで、皆さん俺に掴まって下さい」
初めて体験する転移での移動に、彼女達は恐る恐る俺の体に手を添える。そして一瞬後には四人ともレレーナの居る部屋へと移動していた。期待していたところ申し訳ないが、本当に一瞬だからな。いきなり違う所に連れて来られた三人は戸惑っていたが、ベッドの上で苦しむレレーナを見るとすぐ駆け寄って行った。
「さあ二人とも、母体の負担を減らすために、交代で回復魔法をかけ続けますよ!」
『はい!』
これで俺の出来る事は終わりだ。夫でもない男がその場に居る訳にもいかないので、俺は一人部屋の外へと出ていく。ドアを閉める時少し後ろを振り返ると、出産に立ち向かうレレーナやそれを懸命に支える女性達、そしてレレーナの手を握りながら必死に励ますアミルの姿が見えた。
「エスト!レ、レレーナ!レレーナが!うま、うまれ、うまれ!うまうま…!」
「落ち着け!レレーナが産気づいたんだな?」
喋る余裕もないのか、アミルは首を激しく縦に振るだけだ。今のアミルが使い物にならないと判断した俺は、両隣と向かいの部屋に寝ていたクレア達を叩き起こし、すぐ手伝うように指示する。
「クレア達は予定通り出産の準備を進めてくれ。湯を沸かし道具を揃えてレレーナの側に待機。俺は産婆さんと神官達を連れてくる」
「わかりました!」
「承知した!」
「わかったわ!母様にも見ててもらうから!」
指示を受けて駆け出していくクレア達の横で、一人アミルはオロオロと取り乱していた。俺はそのケツを容赦なく蹴り飛ばすと、動揺するアミルの頬を両側からビンタする。
「しっかりしろ!お前が取り乱してどうする!後の事は俺達に任せて、お前はレレーナの側に居てやれ!」
「わ、わかった…!」
少しは正気を取り戻したアミルが、急いで今来た道を戻って行く。俺はそれを見届けた後、転移を使って産婆さんの家の前に現れた。夜中で近所迷惑なのはわかっていたが今はそれどころでは無い。ドアを力いっぱい叩きまくると、大きな声で呼び出し始めた。
「すいません!すいません!レレーナに子供が生まれそうなんです!起きてください!」
ある程度加減しているとは言え俺の力でバンバン叩くものだから、次第にドアが変形し始めた。突然の騒ぎに隣近所は窓やドアの隙間から何事が起きたのかと覗き見ている。このままではドアどころか壁が崩壊するんじゃないかと思ったその時、勢いよく目の前のドアが開き、見覚えのある婆さんが立っていた。
「うるさいね!そんなに叩かなくても聞こえてるよ!」
「す、すいません…」
小柄な婆さんの一喝に思わず気圧されてしまった。訪ねて来た俺の顔を一瞥した婆さんは、挨拶もそこそこに質問してくる。
「それより、あのお嬢ちゃんの陣痛が始まったんだね?いつからだい?」
「ついさっきのはずです。すぐ来てくれますか?」
「あたしは身一つで十分だよ。道具も要らないからこのままでいいよ」
本人の了解を得たので、産婆さんの腕を掴んだ俺は瞬時に転移を発動し、アミル達の部屋へと現れた。ベッドの上では苦しそうな表情でうんうん唸っているレレーナが寝ており、クレア達が彼女の汗を拭ってやったり、沸かして来たお湯をタライに移し替えた後魔石で保温したりと言う作業に追われていた。初めて転移を体験した産婆さんは一瞬面食らっていたもののすぐに気を取り直すと、クレア達に向けて矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「そっちの嬢ちゃん、もっとお湯を持ってきな。消毒用の熱湯と産湯に使うぬるま湯の二つだよ!そっちの耳の長い嬢ちゃんは綺麗な布を集めて来な!あんたは旦那かい?オロオロしてないで手の一つも握ってやんな!」
ベッドの周りで右往左往していたアミルは、俺に蹴られたのと反対側のケツを産婆さんに蹴り上げられる。俺は当事者じゃないから比較的冷静でいられるが、アミルの立場ではそうもいかないのだろう。こんな時、男は本当に役に立たないよな。産婆さんが来てくれたのでひとまず安心だが、俺にはまだやる事がある。再び転移を使って今度は街中にある教会へと飛んだ。
まだ新築の匂いがする教会の扉は、夜中でも施錠されずに誰でも入る事が出来る。急な病や人目をはばかる相談事などで訪れる人々を受け入れる為だ。ほとんど音のしないドアを開けて中に入った俺は、奥に進むと神官達が寝泊まりする部屋のドアをノックする。今度はさっきみたいに怒られたくなかったので、音も控えめだ。
それほど間を置かずに内側から開けられたドアの向こうには、俺と面識のある年老いた神官ファデーレではなく、四十代中盤ぐらいと思われるふくよかな女性が立っていた。
「あら領主様。こんばんは。治療が必要ですか?それとも相談かしら?」
「ああいえ、どちらでもありません。一応以前お話しさせていただいているんですが、実は今知人が出産の最中でして…」
「まあ大変!では急いで応援に駆け付けないといけないわね。すぐ他の者を起こしてきます!」
察しの良い人で助かった。急ぎ足で奥へと引っ込んだ女神官が再び現れた時、背後には二人の若い女の神官が控えていた。今この教会には他に男の神官も居るはずだが、場合が場合なので女性を選んでくれたのだろう。
「領主様、こちらは準備出来ましたわ。早く行きましょう」
「はい。では転移を使いますんで、皆さん俺に掴まって下さい」
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「さあ二人とも、母体の負担を減らすために、交代で回復魔法をかけ続けますよ!」
『はい!』
これで俺の出来る事は終わりだ。夫でもない男がその場に居る訳にもいかないので、俺は一人部屋の外へと出ていく。ドアを閉める時少し後ろを振り返ると、出産に立ち向かうレレーナやそれを懸命に支える女性達、そしてレレーナの手を握りながら必死に励ますアミルの姿が見えた。
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