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第368話 繋ぎ
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ルシノアに相談して四日後、ホベロとの約束の日に交渉用の武器となる現金と食料が手配出来た。武器は今城の兵達が使っている中古を新品に入れ替え、順次用意していく予定だ。こちらはそれほど急がなくてもいいだろう。
「エスト様、とりあえず金貨二十枚と食料を用意出来ました」
「ありがとう。急で悪いな」
「いいえ、お気になさらず。食料については城で備蓄している物からの余剰分ですし、金貨に関しては税収が上がっているので問題にならない金額です」
俺がホベロに数枚の金貨を与えた行為、後で聞いてみたら特に問題ないようだった。過去何度か行われた魔族の侵攻で連中は多くの財産を略奪し自国に持ち帰った。その際当然貨幣も持ち帰っている。何代か前の魔王の代で人間の貨幣を使う場合は大部分を一度鋳潰して作り直すと決めたようだが、職人の腕の差なのか蓄積された技術の差なのかはわからないが、元の貨幣より鋳潰した物の価値の方が落ちたらしい。これはいかんと言う事で、人間から略奪した貨幣はそのまま使うようにったんだとか。まあ、その方がお互い面倒がなくていいだろう。そんな訳で、魔族領では人間側の貨幣が問題なく流通している。
「じゃあ変身して…と」
馬車一台分程度に積み上げられた食料を前にした俺は、金貨のつまった袋を腰に結び付けた後、偽りの指輪を使い魔族に姿を変える。俺が変身した姿だと言うのにルシノアが反射的に身構えていた。この世界の人間にとって魔族がどう言う存在なのかがよくわかる反応だ。今回魔族領に行くのは俺だけだ。クレア達も行きたがったが遠慮してもらった。子供連れだと怪しすぎるからな。
「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
用意された食料に手を触れて俺は転移を発動させる。次に視界に現れたのは驚きの表情を浮かべていたホベロとその取り巻き達だ。見た所武装している様子はない。念のためにマップで確認してみたが敵意を現す赤い光点は確認されなかった。
「まさか本当に現れるとは…」
「そう言う話だったろ?とりあえず約束の食料だ。受け取ってくれ」
驚くホベロに促すと、彼の指示で取り巻き達が食料に群がり始めた。普段まともな物を食べてないから仕方ないが、奪い合いから小競り合いが発生している。無駄な体力使ってるな…
「お前等いい加減にしろ!それは均等に分配すると決めたはずだろうが!勝手に手を付けやがったら殺すぞ!」
ホベロの脅しが利いたのか、取り巻き連中の動きがピタリと止まる。こいつ、頼りない外見の割には思ったより統率力があるようだ。
「すまなかったなズーマーの旦那。食い物はありがたく頂戴しとくよ。それより調べものの件なんだが…」
「…ああ。何か解ったか?」
一瞬ズーマーってのは誰の事だろうと思い首を捻りそうになった。自分で名乗った名前だと言うのに、記憶から完全に消去されていたようだ。我ながら抜けていると言うか、不用心だな。
「まずこの街の重要拠点や賄賂に弱そうな役人についてだが、仲間の伝手を使って調べられたよ。いくつか判明したんでこの羊皮紙に簡易地図と共に示しておいた。後で確認しておいてくれ。それと、例の私兵を集めている奴等の事なんだが…」
ホベロが差し出して来た羊皮紙を懐に収めて俺は姿勢を正す。どちらかと言うと今から聞く情報の方が俺にとっては重要だ。なにせホベロの情報次第で、今後俺が取る行動指針が変わってくるのだから。
「俺の仲間が誘いにのってみたんだ。それでわかったんだが、奴等本気で反乱を企てているかも知れん。貧民街の人間だから給金は足元見られてるみたいだがな。他にも仲間になりそうな奴が居る場合、紹介してくれたら給金を弾むと何度も言われたらしい」
「…それだけじゃ理由として弱いな。何か確証はないのか?」
「奴等、魔王の事は呼び捨てのくせに、自分達の雇い主…確かトートって名前の奴には様づけなんだとよ。なんでも、次の近々四天王入り確実な男らしいぜ。怪しいだろ?」
意外な所で意外な名前が出て来た。トートって奴には俺も覚えがある。確か…リオグランドの闘技会決勝で俺にやられて小便漏らしてた奴のはずだ。あいつが関わっていたのか…にしても、四天王って…あいつ思ったより重要な地位に居たんだな。
「確かに怪しいな。ところで、そいつらに接触する事は出来るか?出来れば直に話をしたいんだが」
「…出来るとは思うぞ。あんたほどの腕前なら確実に仲間に引き入れようとするだろうしな。俺の仲間に繋ぎを取るよう連絡しておこうか?」
「頼む。じゃあ前払いだ。受け取ってくれ」
俺が差し出した袋を受け取り、中を確認したホベロの表情が一瞬だらしなく歪んだ。しかしすぐ表情を改めると平静を装って再び口を開く。
「ありがたい。仲間にはすぐ連絡して、明日の朝には案内出来る段取りをしておこう。他にも俺達に出来そうな仕事があったら、いつでも言ってくれ」
「期待してるよ。それじゃ、明日の朝またここに現れる。頼んだぞ」
面白くなってきた。トートが四天王入りしているのは意外だったが、奴に取り入って反乱をそそのかせば、俺達人間側は思った以上に楽に戦えるかも知れない。せいぜいおだて上げて上手く踊ってもらうとしよう。ニヤリと笑みを浮かべそうになるのを抑えて、俺はその場を後にした。
「エスト様、とりあえず金貨二十枚と食料を用意出来ました」
「ありがとう。急で悪いな」
「いいえ、お気になさらず。食料については城で備蓄している物からの余剰分ですし、金貨に関しては税収が上がっているので問題にならない金額です」
俺がホベロに数枚の金貨を与えた行為、後で聞いてみたら特に問題ないようだった。過去何度か行われた魔族の侵攻で連中は多くの財産を略奪し自国に持ち帰った。その際当然貨幣も持ち帰っている。何代か前の魔王の代で人間の貨幣を使う場合は大部分を一度鋳潰して作り直すと決めたようだが、職人の腕の差なのか蓄積された技術の差なのかはわからないが、元の貨幣より鋳潰した物の価値の方が落ちたらしい。これはいかんと言う事で、人間から略奪した貨幣はそのまま使うようにったんだとか。まあ、その方がお互い面倒がなくていいだろう。そんな訳で、魔族領では人間側の貨幣が問題なく流通している。
「じゃあ変身して…と」
馬車一台分程度に積み上げられた食料を前にした俺は、金貨のつまった袋を腰に結び付けた後、偽りの指輪を使い魔族に姿を変える。俺が変身した姿だと言うのにルシノアが反射的に身構えていた。この世界の人間にとって魔族がどう言う存在なのかがよくわかる反応だ。今回魔族領に行くのは俺だけだ。クレア達も行きたがったが遠慮してもらった。子供連れだと怪しすぎるからな。
「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
用意された食料に手を触れて俺は転移を発動させる。次に視界に現れたのは驚きの表情を浮かべていたホベロとその取り巻き達だ。見た所武装している様子はない。念のためにマップで確認してみたが敵意を現す赤い光点は確認されなかった。
「まさか本当に現れるとは…」
「そう言う話だったろ?とりあえず約束の食料だ。受け取ってくれ」
驚くホベロに促すと、彼の指示で取り巻き達が食料に群がり始めた。普段まともな物を食べてないから仕方ないが、奪い合いから小競り合いが発生している。無駄な体力使ってるな…
「お前等いい加減にしろ!それは均等に分配すると決めたはずだろうが!勝手に手を付けやがったら殺すぞ!」
ホベロの脅しが利いたのか、取り巻き連中の動きがピタリと止まる。こいつ、頼りない外見の割には思ったより統率力があるようだ。
「すまなかったなズーマーの旦那。食い物はありがたく頂戴しとくよ。それより調べものの件なんだが…」
「…ああ。何か解ったか?」
一瞬ズーマーってのは誰の事だろうと思い首を捻りそうになった。自分で名乗った名前だと言うのに、記憶から完全に消去されていたようだ。我ながら抜けていると言うか、不用心だな。
「まずこの街の重要拠点や賄賂に弱そうな役人についてだが、仲間の伝手を使って調べられたよ。いくつか判明したんでこの羊皮紙に簡易地図と共に示しておいた。後で確認しておいてくれ。それと、例の私兵を集めている奴等の事なんだが…」
ホベロが差し出して来た羊皮紙を懐に収めて俺は姿勢を正す。どちらかと言うと今から聞く情報の方が俺にとっては重要だ。なにせホベロの情報次第で、今後俺が取る行動指針が変わってくるのだから。
「俺の仲間が誘いにのってみたんだ。それでわかったんだが、奴等本気で反乱を企てているかも知れん。貧民街の人間だから給金は足元見られてるみたいだがな。他にも仲間になりそうな奴が居る場合、紹介してくれたら給金を弾むと何度も言われたらしい」
「…それだけじゃ理由として弱いな。何か確証はないのか?」
「奴等、魔王の事は呼び捨てのくせに、自分達の雇い主…確かトートって名前の奴には様づけなんだとよ。なんでも、次の近々四天王入り確実な男らしいぜ。怪しいだろ?」
意外な所で意外な名前が出て来た。トートって奴には俺も覚えがある。確か…リオグランドの闘技会決勝で俺にやられて小便漏らしてた奴のはずだ。あいつが関わっていたのか…にしても、四天王って…あいつ思ったより重要な地位に居たんだな。
「確かに怪しいな。ところで、そいつらに接触する事は出来るか?出来れば直に話をしたいんだが」
「…出来るとは思うぞ。あんたほどの腕前なら確実に仲間に引き入れようとするだろうしな。俺の仲間に繋ぎを取るよう連絡しておこうか?」
「頼む。じゃあ前払いだ。受け取ってくれ」
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