ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第364話 魔族の村

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次に俺達が現れたのはバックスの領土でもある大陸西端だ。ちょうど水堀を背にした位置に出現しているため、なんならこのまま歩いて光竜連峰に入ってもいいくらいだろう。しかし俺達が今から行うのは空からの侵入であり、山の方に行くつもりは無い。

「クレアお姉ちゃん、これ持ってて」
「はいはい」

さっさと脱ぎ捨てた服をクレアに押し付け、レヴィアは少し離れた場所で変身を始めている。もうレヴィアも慣れたものなのか、俺達が見守る中あっと言う間に黄金龍に姿を変えた。

「乗って乗って」

レヴィアに催促され、俺達は順番に彼女の背中によじ登る。もう何度も乗っているためか、上に上るとそれぞれの定位置に散らばっていた。怖がりのディアベルはレヴィアの角を掴める位置、つまり先頭に陣取り、シャリーとドランがその後ろ。少し離れてクレアは頭の真ん中ぐらいの位置に腰を下ろし、俺がその横だ。

「じゃあ出発するけど…兄様、どの方向から行くの?真っ直ぐ突っ切る?」
「いや、海側から行こうと思う。山側だと奴等も警戒しているだろうし、なるべく見つからないようにしよう」
「わかった。じゃあ一旦海側に出るね」

そう言うと、俺達を乗せたレヴィアは徐々に上昇を始める。ある程度高度を取った後は北西に飛行し始め、大陸から離れる形になった。眼下の海面が凄まじい速さで流れており、後ろにある陸地は瞬く間に見えなくなる。

「レヴィア、なんか前より速くなってないか?」
「そうみたい。自分じゃ気がつかなかったけど、一応成長してるのかな?」

俺達の様にレベル表示のないレヴィアだが、やはり行動を共にしているのは無意味じゃない様だ。レヴィアの背に乗って出発してから約二時間ほどが経ち、俺達の視界の先にはようやく大陸の影が見えてきた。一直線にいけばもっと速かっただろうが、こればっかりは仕方がない。

「気をつけろよレヴィア!どこに敵がいるかわからないぞ」
「うん!」

見る見る迫ってくる大陸を睨み据えてレヴィアはさらに高度を上げていく。見える範囲に空を飛んでいる鳥やワイバーンなどの存在が居ない為、急上昇した後人気の無い場所に降りるつもりなのだ。侵入する事はあっても侵入される事に対しては警戒心が薄いのか、幸い魔族達に見つかる事は無かった。

人の姿に戻ったレヴィアがいそいそと服を着こんでいる間、俺はざっと周囲の様子を窺う。つい二時間ほど前、目の前にあった光竜連峰だが、今は俺達の背後…つまり南側に存在している。巨大な山々に魔族領と人間側の支配地域は完全に分断されていて、こうして見ると何となく閉塞感と言うものが感じられる。それにバックスに居た時よりも肌寒く、気温が低い。周りの草木も数が少なく痩せ細っていて、耕作には向かない土地なのだと実感できた。奴らが執拗に南に向かいたがるのも理解できると言うものだ。

「ご主人様、これからどうするんですか?」
「とりあえず人の居る場所を目指してみようと思ってる。みんな指輪はちゃんと身に着けているよな?」

俺の言葉に全員が頷く。俺達の指には普段つける事のない偽りの指輪が装備されていた。レヴィアの分が無かったのでリムリック王子に掛け合ってみたら、諜報員が使っている分をこちらに回してくれたのだ。魔族領に乗り込むために必要だと言ったら驚いていたが…それはさておき、人に見つかりそうになったり街に忍び込む時には、この指輪が役に立ってくれるだろう。

とりあえず俺達は北に向かって歩き始めた。北に行けば敵の本拠地でもある魔王城に近づくはずだし、集落の一つや二つはあるだろう。敵の軍事施設や重要拠点でも見つけられればいいのだが。

マップに敵の反応は無い。魔族領だからと言ってその辺に魔物が徘徊している訳じゃないのか、それとも管理されているのかは不明だ。しばらく歩くと街道が見えてきたので、それに沿って北上する事にした。するといくらも経たない内に遥か視線の先ではあるが、小さな村らしきものが見えてきたので寄ってみる事にした。

指輪で一般的な魔族に姿を変え、村の中に足を踏み入れる。村自体がそんなに大きくないせいか人の数も少ないようだ。村では老人から子供までが何かしらの作業をしていて、人間の村の様に遊んでいる子供などは居ない。村人達は皆疲れ切った様子で、俺達を目にとめても特に反応しなかった。

「なんか…生気がないって言うか、みんな暗いわね」
「…こんな雰囲気の連中、よく知ってるぞ」
「奴隷…そっくりです」

そう。彼女達の言う通り、村人の様子は奴隷そのものだ。奴隷紋こそ見当たらないが、魔王を頂点とする政治体制のおかげで末端の彼等は搾取されるだけの存在なのだろうと簡単に予想できる。

「お前さん達…見ない顔だな。どこから来た?」

背後からかけられた言葉に振り向く俺達の視線の先に、一人の年老いた魔族の姿があった。一瞬身構えたものの特に敵意は感じられず、すぐに構えを解く。

「俺達は…ただの旅人ですよ。あてもなくあっちこっちをウロウロしてるだけです」
「…このご時世に物好きな事だな…徴兵もされずに優雅に旅ができると言う事は、お前さん方は三級以上ですかな?」

三級?よく解らない単語が出て来た。貴族なら解るが級って何なんだ。戸惑う俺達を見た爺さんは何を勘違いしたのか知らないが、一人で納得した様に頷いている。

「ああ、何かお役目を仰せつかっているのでしょうな。ふむ、そんな方々をもてなしもせずに追い返したとあれば、後でどんな咎を受けるかわからない。この爺の家でお茶の一杯でもご馳走しましょう。ついて来なされ」

そう言うと、老人は返事も待たずに歩き出す。思わず顔を見合わせる俺達。妙な流れになったが、何か情報が得られるかも知れないチャンスだ。ここは大人しくついていく事にしよう。
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