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第363話 壁
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「こっちから奇襲をかけるんですか!?」
「奇襲って言うか偵察。ぶっつけ本番で乗り込むより、ある程度魔族領の地理を把握しておいた方がいいだろ?ヤバくなったら逃げればいいし」
魔族領に乗り込むと伝えた俺の言葉にクレアが驚きの声を上げる。確かに奴等に見つかったら大事になるだろう。しかしそれだけ向こうが混乱してくれるなら、こちらにとって有利になると言う事だ。俺達が魔族領をウロウロする事で敵は常に警戒の手を緩める事が出来なくなり、その分侵攻に割く戦力を減らせる。やっておいて損はないはずだ。
「主殿が決めたのなら、我等としては付き合うだけだ。せいぜい奴等の本拠地をかき回してやろうじゃないか」
「面白そうね。もちろん私も行くわよ!」
「シャリーもやるー!」
「グワーッ!」
全員で集まって冒険するのはマルバスと戦って以来数か月ぶりだ。その間各自訓練や畑仕事に忙しかったからな。危険はあるが、今回の魔族領行きは良いリフレッシュになりそうだ。久しぶりに旅支度を整えた俺達は、城の皆に見送られながら以前魔族達が襲撃してきた防壁の外側に転移した。
上空には警戒中のドラゴンライダーが数騎舞っており、防壁の内部と後ろ側には多数の人の反応が見られる。連合軍も訓練で忙しいようだな。
「よし、じゃあ行くとするか」
防壁を背にした俺達は光竜連峰に向けて歩き出す。だが出発していくらも歩かない内に、上空からドラゴンライダー達が急降下してきた。どうやら敵か何かと疑われたようだ。特に攻撃する素振りも無いので黙ってその場に立っていると、地上に降りてきた小型のワイバーンの背から飛び降りたリザードマンが、恐る恐るこちらに近寄ってきた。
「ご苦労さん。俺の事わかるかな?」
「ああ!誰かと思えば勇者殿でしたか!突然現れたから何者かと思いましたよ」
心底ほっとした様に言うリザードマン。彼の立場からしたら、例え何者だろうと正体を確かめない訳にはいかなかったのだろう。せっかく目の前に光竜連峰の地理に詳しい人物が現れたのだから、俺はちょうどいいとばかりに魔物が大挙して通ってきたトンネルの位置を聞く事にした。すると彼は少しだけ思い出す様な仕草をすると、自ら案内役を買って出てくれたのだ。
「魔族領に乗り込むなんて、流石に勇者殿は度胸がありますね。トンネルの場所は俺が知ってるんで、上空からお知らせしますよ」
当てもなく山の中を探し回る手間が省けたので非常にありがたい。ここはお言葉に甘えよう。再びワイバーンに騎乗した彼は空高くへと一気に駆け上がり、北の空へと羽ばたいた。俺達も置いて行かれないように、それを追って駆け出す。流石にワイバーンと自分達の足では速度差があるために、追いつくまで何度か彼を上空で旋回させることになったのだが…おかげでトンネルの位置まで簡単に辿り着く事が出来た。後の案内は必要ないため、ドラゴンライダーに手を振り俺達はトンネルの中に足を踏み入れる。
流石にかなりの数の魔物が通り抜けてきただけあって、トンネルの中はかなりの広さだ。五人と一匹で通るには十分すぎる幅で、これなら戦うのに不都合はないだろう。
「かなり広いわね」
「ひろいねー」
「ガウ」
マップ上危険が無いのが解っているので、レヴィアやシャリー、ドランには好きにさせている。日の光が届かないせいか、外に比べると中はかなりひんやりとしている。それに内側の壁面を観察してみた所、凹凸のない綺麗な面をしていたのがわかった。土魔法で必死で削ってきた証拠だ。防壁を造った俺達同様、魔族も色々と苦労していたようだ。
「このまま歩いて行くとして、どれぐらいの距離があるんだろうな?」
「光竜連峰を突っ切るはずですから、歩きなら一週間や二週間はかかるんじゃないですか?」
久しぶりの冒険でディアベルもクレアもテンションが上がりっている。やはり城でじっとしているより外で体を動かしていた方が気持ちいいからな。そうやってしばらく呑気に歩いていたが、俺達はすぐに壁にぶち当たる事になった。そう…文字通りの壁だ。トンネルを完全に塞ぐ形で存在する壁を叩いてみると鈍い音が響く。これはかなり分厚い…と言いうか、全部埋まってるような感じがする。念のために全力で掘削してみたのだが、少し掘った先は同じように土壁が存在していた。これ以上続けても、やるだけ無駄に終わるだろう。
「参ったなこれは…何か対策しているだろうとは思ったけど、まさか全部埋めてくるとは思わなかった」
「ここを掘って進むとしても、かなりの月日を要するぞ」
「他の道を探した方が無難ですよね」
と言っても他にどんな道がある?俺が頭を悩ませていると、レヴィアが何でも無い事の様に口を挟んで来た。
「なら空から行けばいいんじゃない?私の背中に乗って、海側から潜入したらどうかしら?」
「おお!」
「なるほど!」
「頭いいなレヴィア!」
俺達に褒められて、ひっくり返りそうな程ふんぞり返るレヴィアをシャリーが支えている。その態度はともかくとして、名案なのは間違いない。早速引き返して空から侵入するとしよう。俺達は一塊に集まると、転移でこの場を後にした。
「奇襲って言うか偵察。ぶっつけ本番で乗り込むより、ある程度魔族領の地理を把握しておいた方がいいだろ?ヤバくなったら逃げればいいし」
魔族領に乗り込むと伝えた俺の言葉にクレアが驚きの声を上げる。確かに奴等に見つかったら大事になるだろう。しかしそれだけ向こうが混乱してくれるなら、こちらにとって有利になると言う事だ。俺達が魔族領をウロウロする事で敵は常に警戒の手を緩める事が出来なくなり、その分侵攻に割く戦力を減らせる。やっておいて損はないはずだ。
「主殿が決めたのなら、我等としては付き合うだけだ。せいぜい奴等の本拠地をかき回してやろうじゃないか」
「面白そうね。もちろん私も行くわよ!」
「シャリーもやるー!」
「グワーッ!」
全員で集まって冒険するのはマルバスと戦って以来数か月ぶりだ。その間各自訓練や畑仕事に忙しかったからな。危険はあるが、今回の魔族領行きは良いリフレッシュになりそうだ。久しぶりに旅支度を整えた俺達は、城の皆に見送られながら以前魔族達が襲撃してきた防壁の外側に転移した。
上空には警戒中のドラゴンライダーが数騎舞っており、防壁の内部と後ろ側には多数の人の反応が見られる。連合軍も訓練で忙しいようだな。
「よし、じゃあ行くとするか」
防壁を背にした俺達は光竜連峰に向けて歩き出す。だが出発していくらも歩かない内に、上空からドラゴンライダー達が急降下してきた。どうやら敵か何かと疑われたようだ。特に攻撃する素振りも無いので黙ってその場に立っていると、地上に降りてきた小型のワイバーンの背から飛び降りたリザードマンが、恐る恐るこちらに近寄ってきた。
「ご苦労さん。俺の事わかるかな?」
「ああ!誰かと思えば勇者殿でしたか!突然現れたから何者かと思いましたよ」
心底ほっとした様に言うリザードマン。彼の立場からしたら、例え何者だろうと正体を確かめない訳にはいかなかったのだろう。せっかく目の前に光竜連峰の地理に詳しい人物が現れたのだから、俺はちょうどいいとばかりに魔物が大挙して通ってきたトンネルの位置を聞く事にした。すると彼は少しだけ思い出す様な仕草をすると、自ら案内役を買って出てくれたのだ。
「魔族領に乗り込むなんて、流石に勇者殿は度胸がありますね。トンネルの場所は俺が知ってるんで、上空からお知らせしますよ」
当てもなく山の中を探し回る手間が省けたので非常にありがたい。ここはお言葉に甘えよう。再びワイバーンに騎乗した彼は空高くへと一気に駆け上がり、北の空へと羽ばたいた。俺達も置いて行かれないように、それを追って駆け出す。流石にワイバーンと自分達の足では速度差があるために、追いつくまで何度か彼を上空で旋回させることになったのだが…おかげでトンネルの位置まで簡単に辿り着く事が出来た。後の案内は必要ないため、ドラゴンライダーに手を振り俺達はトンネルの中に足を踏み入れる。
流石にかなりの数の魔物が通り抜けてきただけあって、トンネルの中はかなりの広さだ。五人と一匹で通るには十分すぎる幅で、これなら戦うのに不都合はないだろう。
「かなり広いわね」
「ひろいねー」
「ガウ」
マップ上危険が無いのが解っているので、レヴィアやシャリー、ドランには好きにさせている。日の光が届かないせいか、外に比べると中はかなりひんやりとしている。それに内側の壁面を観察してみた所、凹凸のない綺麗な面をしていたのがわかった。土魔法で必死で削ってきた証拠だ。防壁を造った俺達同様、魔族も色々と苦労していたようだ。
「このまま歩いて行くとして、どれぐらいの距離があるんだろうな?」
「光竜連峰を突っ切るはずですから、歩きなら一週間や二週間はかかるんじゃないですか?」
久しぶりの冒険でディアベルもクレアもテンションが上がりっている。やはり城でじっとしているより外で体を動かしていた方が気持ちいいからな。そうやってしばらく呑気に歩いていたが、俺達はすぐに壁にぶち当たる事になった。そう…文字通りの壁だ。トンネルを完全に塞ぐ形で存在する壁を叩いてみると鈍い音が響く。これはかなり分厚い…と言いうか、全部埋まってるような感じがする。念のために全力で掘削してみたのだが、少し掘った先は同じように土壁が存在していた。これ以上続けても、やるだけ無駄に終わるだろう。
「参ったなこれは…何か対策しているだろうとは思ったけど、まさか全部埋めてくるとは思わなかった」
「ここを掘って進むとしても、かなりの月日を要するぞ」
「他の道を探した方が無難ですよね」
と言っても他にどんな道がある?俺が頭を悩ませていると、レヴィアが何でも無い事の様に口を挟んで来た。
「なら空から行けばいいんじゃない?私の背中に乗って、海側から潜入したらどうかしら?」
「おお!」
「なるほど!」
「頭いいなレヴィア!」
俺達に褒められて、ひっくり返りそうな程ふんぞり返るレヴィアをシャリーが支えている。その態度はともかくとして、名案なのは間違いない。早速引き返して空から侵入するとしよう。俺達は一塊に集まると、転移でこの場を後にした。
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