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第362話 城の名前
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水堀を造り終えて二月ほど経った後、ついに防壁が完成したとの連絡が寄越された。既に現地では各国から集まった多くの兵が防壁内に武器などの備蓄物資を持ち込み、実戦に備えて訓練を重ねていると言う。その間俺達は自分の領地にある二つの城の周りに水堀を堀り、こちらも同じように訓練を重ねていた。
既に何度かの仕官希望の人間や使える奴隷を増やし、俺の領地は飛躍的に戦力を増強させている。増えているのは領地を守る兵だけではなく、領民も同じだ。今や俺が将来独立して王になると言う話は公然の秘密となっており、勇者の治める国の国民になろう、伸びしろのある国で一旗揚げようという人々が他国から続々と流入していた。
「今のところ、二つの領地を合わせた人口は総勢で一万に届くか届かないぐらいです。そして各領地にそれぞれ配置されている兵の数は千ずつ。今後人口が増えてきた場合更に兵の数を増やす必要がありますが、今はこれが適性の人数と思われます」
城の上階にある一室で、俺はルシノアの報告に静かに耳を傾けている。人口五千の街に千人の兵士は多いような気もしたが、警察と防衛戦力を兼任しているのだから多くも無いのかと思い直す。この世界では警察と軍と言った分け方をせず、両方の仕事を兵士達が兼任するのが一般的なようなのだ。彼等は災害時の復旧作業に駆り出される事もあるし、ルシノアの言うようにこれが適性人数なのだろう。
「各領地では新たに指揮官に任命されたアミル殿の下、連日模擬戦が繰り返されています。そのために練度は以前と比較にならない程高まっていると報告を受けました」
「アミルがねぇ…あいつに指揮官が務まるのか正直不安だったが、やらせてみたら出来るもんなんだな」
「はい。経験の浅い彼の補佐には、新たに仕官してきた経験者をつけていますから。それにもともと才能があったのかも知れません」
流石にこれだけ人が増えてくると女の子だけを選んで雇い入れる訳にはいかなくなった。どうやっても人数が足らなくなるし、人を教育できる人材を求める場合、男を選ばざるをえないのだ。その甲斐あってか、アミルは引退した元軍の指揮官経験者にマンツーマンで教えを受ける事が出来る様になっている。
「税収も右肩上がりですし、領地の発展は順調です」
「何よりだね。これで魔族の侵攻が無ければ最高なんだが…」
「まったくです。ところでエスト様、一つ提案したい事があるのですが…」
改まったルシノアの態度に気を引き締める。彼女は手に持っていたいくつかの書類を机に並べ、赤丸で印を入れている部分を見るように言ってきた。そこには『グリトニル側』『アルゴス側』と書かれている。意味が解らず彼女の顔を見ると、彼女は申し訳なさそうに説明を始めた。
「実はですね。エスト様の領地にある二つの街…中でも城の名前が未だに決まっていない為、書類上ではこんな曖昧な書き方になってしまうのです。口で説明する時も「アルゴス側の~」とか「グリトニル側の~」とか、なかなか説明が面倒くさい事になってまして…」
「なるほど、つまり名前をつければいいんだな?」
「はい。そうしていただけると非常に助かります」
街や城の名前か…この世界では国名がそれぞれ王城の名前になり、首都の場合はそのまま街の名前にもなるのが当たり前らしい。グリトニルしかり、アルゴスしかり。今のところ俺の領地は国として独立した訳では無いので、城の名前だけを考えておけば十分だろう。
「城の名前か…何がいいかな…」
姫路城、熊本城、大阪城、謎の村雨城、あき竹城…数多くある日本の城の名前からパクるなら簡単だが、せっかくの自分の城だ。自分で考えた名前を使いたい。
「じゃあ、俺の使っている武具の名前をそのまま拝借しようか。グリトニル側がグラン・ソラス城でグラン・ソラスの街。アルゴス側がアイギス城でアイギスの街って事で。俺だけでなく昔の勇者にも縁が深い名前だし、リーベ達にも関係がある。これでよくないかな?」
「大変良い名前だと思います。早速布告を出しておきましょう」
懸念の一つが解消された事で上機嫌になったルシノアは、満足気に一礼して部屋を去って行く。その背を見送り、俺は椅子の背もたれに体重をかけながら大きく背伸びをした。
「やれやれ、国を造るのは色々と大変そうだな…今の内に慣れておかないと…」
防壁も完成した事だし、魔族に対する備えは完全になりつつある。後は各国が建設している砦の完成を待つばかりだ。その間、こっちはこっちで出来る事をしておこう。
「よし、ちょっと試してみるか」
ある事を思いついた俺は、クレア達の力を借りるべく彼女達が居る城の外へと足を向ける。以前魔族達が襲撃してきたトンネル…あれを逆に利用できないかと考えたのだ。むこうがあれを使って奇襲してきたなら、こっちの奇襲にも使えるかも知れない。早速あのトンネルに行ってみる事にしよう。
既に何度かの仕官希望の人間や使える奴隷を増やし、俺の領地は飛躍的に戦力を増強させている。増えているのは領地を守る兵だけではなく、領民も同じだ。今や俺が将来独立して王になると言う話は公然の秘密となっており、勇者の治める国の国民になろう、伸びしろのある国で一旗揚げようという人々が他国から続々と流入していた。
「今のところ、二つの領地を合わせた人口は総勢で一万に届くか届かないぐらいです。そして各領地にそれぞれ配置されている兵の数は千ずつ。今後人口が増えてきた場合更に兵の数を増やす必要がありますが、今はこれが適性の人数と思われます」
城の上階にある一室で、俺はルシノアの報告に静かに耳を傾けている。人口五千の街に千人の兵士は多いような気もしたが、警察と防衛戦力を兼任しているのだから多くも無いのかと思い直す。この世界では警察と軍と言った分け方をせず、両方の仕事を兵士達が兼任するのが一般的なようなのだ。彼等は災害時の復旧作業に駆り出される事もあるし、ルシノアの言うようにこれが適性人数なのだろう。
「各領地では新たに指揮官に任命されたアミル殿の下、連日模擬戦が繰り返されています。そのために練度は以前と比較にならない程高まっていると報告を受けました」
「アミルがねぇ…あいつに指揮官が務まるのか正直不安だったが、やらせてみたら出来るもんなんだな」
「はい。経験の浅い彼の補佐には、新たに仕官してきた経験者をつけていますから。それにもともと才能があったのかも知れません」
流石にこれだけ人が増えてくると女の子だけを選んで雇い入れる訳にはいかなくなった。どうやっても人数が足らなくなるし、人を教育できる人材を求める場合、男を選ばざるをえないのだ。その甲斐あってか、アミルは引退した元軍の指揮官経験者にマンツーマンで教えを受ける事が出来る様になっている。
「税収も右肩上がりですし、領地の発展は順調です」
「何よりだね。これで魔族の侵攻が無ければ最高なんだが…」
「まったくです。ところでエスト様、一つ提案したい事があるのですが…」
改まったルシノアの態度に気を引き締める。彼女は手に持っていたいくつかの書類を机に並べ、赤丸で印を入れている部分を見るように言ってきた。そこには『グリトニル側』『アルゴス側』と書かれている。意味が解らず彼女の顔を見ると、彼女は申し訳なさそうに説明を始めた。
「実はですね。エスト様の領地にある二つの街…中でも城の名前が未だに決まっていない為、書類上ではこんな曖昧な書き方になってしまうのです。口で説明する時も「アルゴス側の~」とか「グリトニル側の~」とか、なかなか説明が面倒くさい事になってまして…」
「なるほど、つまり名前をつければいいんだな?」
「はい。そうしていただけると非常に助かります」
街や城の名前か…この世界では国名がそれぞれ王城の名前になり、首都の場合はそのまま街の名前にもなるのが当たり前らしい。グリトニルしかり、アルゴスしかり。今のところ俺の領地は国として独立した訳では無いので、城の名前だけを考えておけば十分だろう。
「城の名前か…何がいいかな…」
姫路城、熊本城、大阪城、謎の村雨城、あき竹城…数多くある日本の城の名前からパクるなら簡単だが、せっかくの自分の城だ。自分で考えた名前を使いたい。
「じゃあ、俺の使っている武具の名前をそのまま拝借しようか。グリトニル側がグラン・ソラス城でグラン・ソラスの街。アルゴス側がアイギス城でアイギスの街って事で。俺だけでなく昔の勇者にも縁が深い名前だし、リーベ達にも関係がある。これでよくないかな?」
「大変良い名前だと思います。早速布告を出しておきましょう」
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「やれやれ、国を造るのは色々と大変そうだな…今の内に慣れておかないと…」
防壁も完成した事だし、魔族に対する備えは完全になりつつある。後は各国が建設している砦の完成を待つばかりだ。その間、こっちはこっちで出来る事をしておこう。
「よし、ちょっと試してみるか」
ある事を思いついた俺は、クレア達の力を借りるべく彼女達が居る城の外へと足を向ける。以前魔族達が襲撃してきたトンネル…あれを逆に利用できないかと考えたのだ。むこうがあれを使って奇襲してきたなら、こっちの奇襲にも使えるかも知れない。早速あのトンネルに行ってみる事にしよう。
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