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第357話 打開策

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防壁建設部隊が魔物の襲撃を受けた事によって、俺はリオグランドの王城で前後策を協議する場に臨んでいた。他の参加者はフォルザとその妹ティグレ。そしてグリトニル代表の文官、最後にファータのアミスターだ。

「ドラゴンライダーの報告によれば、奴等は光竜連峰の山々にトンネルを掘り、そこを抜けてきたそうだな」
「ええ。時々地上に出て来ていたようですが、そのほとんどの行程はトンネルを使ったと予想しています」

フォルザの確認に、アミスターが同意する。奴等魔族が妨害してくるのは誰もが予想できたことだった。だが今回の様な大規模な数で押し寄せるとまでは考えられておらず、人間側は後手に回ったと言わざるを得ない。思いもかけぬ大規模な襲撃に、フォルザ達は皆難しい顔をしていた。

「奴等がそれだけ土魔法に長けているとはな…これは色々と考え直さねばならんぞ」
「そうですね。ただ魔物が押し寄せるだけなら今造っている防壁でも何とかなるでしょうが、土魔法の得意な者が数多く居るなら防壁は意味を為さなくなります」

フォルザ達の言う通り相手が土魔法を得意とするなら、防壁と接触せずに地下にトンネルを掘って攻めてくる事も考えられる。

「相手が地下から来るなら、水を流し込みたいところですね。そうすれば戦わずに敵を全滅させる事が出来る」
「それはそうなんだが…水をどうやって用意するかだな」
「リオグランドとグリトニルの国境には大きな湖があったじゃない。確かマシュー湖と言う名前の。あそこから水路を引いて、地下からの襲撃に備えてはどうかしら?」

ティグレの言葉に皆が一様に考え始める。実現可能かどうかを頭の中でシミュレーションしているのだろう。それにしてもマシュー湖って…摩周湖かよ。時々地球と同じネーミングの物が出てくるな。それはともかく今は水路の話だ。フォルザ達の意見の穴を埋めるために、俺も口を開く。

「防壁もまだ完成していないのに、新たに水路まで造るとなると人手が足りなくなるんじゃ?」
「確かにエストの言う通り、今の人員では厳しいだろうな…それに、今回の一件で敵が土魔法に長けていると解ったし、地下以外にも直接魔法で防壁を破壊する事態が考えられる。一度魔法で造った物はそう簡単に崩せんが、数が集まれば話は別だ。一点突破されると、そこから敵がなだれ込んでくるぞ」
「て事は、魔法に対する備えをしておかなければならないって事ですか」

俺は自分の言葉に考え込む。何か魔法に対する絶対的な強さがあればいいんだが、そんなものが何処に…と、そこまで考えてある事を思い出した。以前シーティオで戦った時、国王の側近たちが使っていた鎧が魔法を完全に防いでいたのを思い出したのだ。

「俺に考えがあります。シーティオのフォルティス公爵を頼ってみましょう。シーティオの前国王は魔法を防ぐ鎧や魔導砲と呼ばれる超兵器の開発を進めていました。彼女は国王の敵側だったのでそれほど詳しくはないでしょうが、何か良い案を貰えるかも知れません」
「ふむ…話には聞いた事がある。確かにその技術を応用出来るなら、防壁の防御力は飛躍的に上昇するだろう。頼まれてくれるか?」
「任せてください。では早速行って来ましょう」

言うが早いか、俺は転移でその場から消えると、公爵の治める城の正門まで移動していた。突然現れた俺の姿に見張りの兵士が緊張するが、俺の顔を確認した途端安心した様に武器を下ろし、笑顔で近寄ってきた。

「お久しぶりです勇者殿。本日はどういったご用件で?」
「フォルティス公爵に面会したいんだが、取り次いでもらえるかな?」
「もちろんです。すぐに知らせを走らせますので、勇者殿は城内の貴賓室にてお待ちください」

俺の対応をしてくれた兵士が合図すると、詰め所に居た一人の兵士が城内に向かって走り出す。…兵士の後に続きながらその様子を見て、俺も偉くなったものだなぁと一人感慨にふけていた。

貴賓室で待つ事しばし、執務に追われているはずのフォルティス公爵は俺を呼びつける事無く、自ら足を運んで来てくれた。立ちあがって挨拶しようとする俺を手で制し、公爵は俺の向かいに腰かける。

「久しぶり…と言う程でもないかな。今日はどうしたんだい?」
「ちょっとご相談したい事がありまして。現在建設中の防壁についてなんですが…」

防壁への魔物の襲撃や、その後のフォルザ達との協議の内容と、その打開策になるかも知れないシーティオの技術について俺が話すと、公爵は納得いったと言う風に頷いた。

「なるほど。確かにあの技術ならある程度の魔法攻撃は防げるだろうな。しかし、協力するのは構わないんだが、防壁にあの鎧の技術を付け加えるとなると、鎧ほどの耐久力は期待できなくなる欠点があるんだ」
「…と、言いますと?」
「うん。説明するとだね…」

公爵の話によると、例の鎧は特殊な製法で作られた液体を何層にも重なるように鎧の表面に塗りつけた物らしい。鎧自体は特別なものではないが、その液体のおかげで魔法を無効化していると言う訳だ。ならその液体を壁に塗りたくればいいじゃないかと思うのだが、ここで技術的な問題が発生する。

あれは親衛隊の中の極少数の鎧に使用された技術であり、大量生産には向かないようだ。防壁のように巨大な物に応用する事が出来るなら、そもそも国王側はあの鎧を末端の兵にまで導入したはずなのだ。

製法を教えて大量生産したところで、防壁全てに液体を塗る事など何年かかるか解らない。仮に塗ったところで一発か二発の魔法を防げばお終いになる。つまり、労力の割にはまるで効果が期待できない代物なのだ。

「…と言う事は、その方法は無理ですね」
「うん。同じ労力を割くなら、突破された後の対処に回した方がマシだと思う。私としては水路の案に賛成だね。その方がずっと簡単だ」
「そうは言いますけど、水路もかなりの人手が必要ですよ?」
「いや、私はそうは思わないな。君の身近に打ってつけの人物がいるじゃないか。彼女達に協力してもらえばどうだい?」

フォルティス公爵の言葉にしばらく悩む。水路を造るのに打って付けの人物?彼女達?そんな奴いたっけ?なかなか答えに至らず、しきりに首をかしげる俺に苦笑しながらフォルティス公爵が答えを口にする。

「君の妹君だよ。レヴィアさんだったかな?彼女とその母親であるリーベ殿の協力を得られれば、水路など簡単に出来上がるんじゃないのかな?」
「そうか!なるほど…レヴィア達か」

自分の家族の事なのに、指摘されるまで気がつかないとは情けない。だが、確かに公爵の言うように、彼女達海の支配者なら水の扱いは誰よりも上手いはずだ。これはすぐにでも城に帰って、彼女達の協力を仰ごう。

「ありがとうございます公爵。おかげで打開策が浮かびました」
「お役に立てて何よりだよ。防壁の存在は人類の存続に関わるからね。是非完璧な物を仕上げてくれ」

結果的に鎧の技術は得られなかったが、その代わりになる手は思いついた。俺は礼もそこそこに、その場を後にする。自分の城に居るレヴィアとリーベ親子に早く話をしに行こう。
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