ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第355話 不意打ち

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敵の襲来を告げるドラゴンライダーの連絡を受けて、俺とディアベルは東に向かって急いで移動していた。途中までは転移を使い、そこからは全力で走る。今の身体能力なら馬より圧倒的に速く走る事が出来るのだ。防壁の切れ目が視界の端に映ってきた頃、大勢の兵士と魔物の群れが戦闘を開始しているのも同時に確認できた。

「俺はこのまま本陣に向かう!ディアベルは魔物を蹴散らせ!」
「承知した!」

ディアベルが居ればあの程度の数の魔物は問題なく排除できる。任せておけば安心だ。それより今重要なのは魔物になだれ込まれている本陣の救出だった。俺は更に走る速度を上げながら目の前に立ちはだかる魔物を蹴散らし、勝ち誇った顔でアミスター達に向けて手を向ける魔族を見つけると、勢いを殺さずそいつの顔面を殴りつけた。

不意の一撃により魔族は声も上げずに吹っ飛んで行く。地面をバウンドしながら転がっていくその様は、どこかコミカルさを感じさせた。

「エスト!」
「おお!勇者殿!」
「なんとかギリギリ間に合った…か?」

どうやら間一髪だったようで、アミスターを守る護衛の何人かは地面に倒れてこんでいる。ピクリとも動かない上に血だまりが出来ているので、もう死んでいるのだろう。

「くっ!くそがああっ!誰だ!今俺を殴った奴は!」

ふと見ると、今殴り倒した魔族が鼻を歪めながらなにやら罵声を上げている。結構力を入れて殴ったというのに、まだ生きているとはなかなか頑丈なやつだ。魔族はふらついた足取りでこちらに戻ってくると、血の濁った眼で俺を睨みつけてくる。

「お前か今殴ったのは!俺を誰だと思ってやがる!次期四天王候補のシャヴォール様だぞ!」

…たまに居るんだよ、この手のタイプは。周りの人間が全て自分の事を知ってる前提で話す奴。俺も前世ではほとほと手を焼かされたもんだ。魔族は恐れるどころか苦笑している俺の態度が気に障ったらしく、顔を真っ赤にして金切り声を上げ続ける。

「聞いてるのか!今お前は確実に寿命を縮めたぞ!今の俺の魔力なら、お前の存在など一瞬で…!」
「やかましい!聞いても無い事ベラベラ喋るな!」

俺に一喝されて口を金魚の様にパクパクさせるシャヴォールと言う名の魔族。どうもこいつ、高圧的な物言いをされるのに慣れていないらしい。喧嘩の基本は、内容はともかく相手より大きな声を出す事だ。威嚇した方が精神的有利に立てる。

「お前こそ俺を誰だと思ってやがる!お前等魔族が恐れる勇者様だぞ!頭が高い!ヘッドイズハイ!控えおろう!」

なんか間違った英語の様な気もするが、細かい事は気にしない。気持ちが伝わればいいのだ。勇者を名乗った事で目の前の魔族が目の色を変えた。まじまじと俺を観察したと思ったら、気持ちの悪い笑みを浮かべたのだ。

「わざわざ勇者の方から出向いてくれるとは、やはり俺はツイてる!これは神からの啓示だ!勇者の首を取って四天王になれという天啓なのだ!」
「…訳の解らん事言ってないでさっさとかかって来い。ボヤボヤしてるとお前より先に手下の魔物が全滅するだろ。後ろを見てみろ間抜け」

俺の指摘で今更気がついたのか、シャヴォールは後ろを振り向き、その顔を驚愕に歪める。奴の背後では大量の魔物が宙にはね上げられたり、雨あられと降りそそぐ氷の槍で体を貫かれたりしながら凄まじい勢いで数を減らしている。その原因となっているのがディアベルに召喚されたフェンリルだ。フェンリルはまるで無人の野を行くが如く、縦横無尽に魔物の群れの中を走り回り被害を拡大させていた。

「な、なんだあれは!どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって!俺のために足止めする事すらできんのか!」

味方を蹴散らすフェンリルと、それに抗う事すらできない魔物の両方に罵声を浴びせるシャヴォール。随分興奮しているためか、敵地のど真ん中だというのに無防備な姿を晒している。そんな状況を見過ごすはずもない俺は無言でその背に近寄ると、静かに剣を抜き放つ。

「ええい!何をしている!その狼を狙うより術者を探した方が早いだろうが!まったく、そんな事もわからな……ぐっ!」

周りを気にせず罵声を上げていたシャヴォールの腹から、俺の刺した剣の刀身が生えていた。ギギギと音がしそうなぎこちない動きで後ろを振り向いたシャヴォールは、自分に剣を突き立てている俺を見て心底驚いたような表情を浮かべた。

「き…さま…不意打ちとは…!…それでも勇者か…!!」
「戦いの最中によそ見するお前が悪い」
「お…の…れ…!」

最期の抵抗を試みようとするシャヴォールだったが、俺はそのまま刀身に火炎魔法を流し込んでシャヴォールの体を内側から焼却する。哀れな魔族は悲鳴を上げる暇もなく一瞬にして灰と化し、散った。悪意を持って襲い掛かってくる輩に礼儀など不要。正々堂々戦う必要などないのだ。

「エスト…助かったぞ。それにしても噂以上に容赦の無い戦いぶりだな」
「まあな。それより俺は魔物の掃除に加わる。アミスターは兵を立て直せ」

命が助かった事で礼を言うアミスターに後の事を任せて、俺は魔物の群れに向けて駆け出した。敵の大将は討ち取った事だし、すぐに兵士達も盛り返すだろう。奴らが全滅するのは時間の問題だ。
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