ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第352話 ゴールデンノーム

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レベルアップも頭打ちになり、俺達は要塞線の構築に協力する事になった。と言っても参加するのは俺とディアベルの二人だけで、残りのメンバーは領地での練兵や耕作に力を入れてもらう事になる。

俺が自分の領地で城壁を造ったりダンジョンに籠っている間、要塞線はかなりの勢いで拡張していたようだ。その証拠にスタート地点から東西に視線を向けても防壁の切れ目が見えてこない。そしてふと防壁の後ろに目を向けてみると、バックスで見た新型の投石器やバリスタを備える土塁が多く築かれているのが解った。多くの兵士が人力で作業しているので魔法程早くは無いが、それでも数多くの兵器がいつでも戦闘出来る状態で鎮座していた。

「なるほど、あの炎と油を撒き散らす投石器で壁越しに攻撃して、空から襲ってくる敵にはバリスタで迎撃する訳だ」
「これだけの兵器が並ぶと壮観だな。この戦力と防壁があれば、そうやすやすと突破する事は出来まい」

グリトニル国内だと言うのに、作業している兵士はグリトニル兵だけではない。獣人や褐色の肌を持つ男達も数多く混じっていた。どうやらこれは各国合同で行っている作業の様だ。

「じゃあ早速手伝うとするか。行くぞディアベル」
「承知した」

彼女が俺の肩に手を置いたのを確認してから、俺は建設途中である防壁の端を目指し西に向かって転移を繰り返していく。しばらくそうして移動して国境付近に差し掛かった時、ようやく視界の端に防壁の切れ目が見えてきた。わずか数週間でグリトニルの防壁を造り上げるなんて、構築部隊は物凄く頑張ってくれているようだ。

「お、勇者君じゃないか。久しぶりだね」
「ご無沙汰してますリリエラさん」

グリトニルのギルドマスターである彼女は、今回西向きの構築部隊を纏める立場にある。本当は一番多く魔法使いを出しているファータから指揮官を派遣した方が良いのだが、生憎と今のファータにはレベリオとアミスター以外指揮官向きの人材が居なかった。あまり魔法使いを出していない他国の軍人が上に立つと揉める場合があるので、やむなく国の枠に縛られないギルドマスターの彼女に声がかかったのだ。

「もうそろそろグリトニル国内での作業は終わりだと思うよ。報告を受けている東向きの部隊も似たような進捗状況らしいから、全部造り終えるのはそう先の事でもなさそうだ」
「なによりです。俺達も手が空いだので手伝いますよ」
「…その様子だとレベルアップは済んだようだね。信じられんほど強くなってるみたいだし」

ジッと俺達を観察してリリエラが言う。彼女が先頭に立って働いているおかげなのか、働いている連中は誰一人として手を抜いたりしていないようだ。これもギルドを纏められる人望のなせる業なのか、それとも手を抜くと罰が与えられるのかは不明だが。

「じゃあすまないが、しばらく君達二人に任せていいかな?我々の疲れも溜まっているし、ここらで休憩して体力魔力共に回復させておきたいんだ」
「ええ。後は俺達に任せて皆さんは休んでてください。始めようかディアベル」
「うむ。レベルアップした力を早速試してみよう」

そう言うと、俺はいつものように大地に両手をついた後精神を集中させていく。だが防壁の形や内部構造をイメージする時間が以前と比べて半分以下だ。これには自分でも驚いた。それに造り上げる事が出来る範囲や流し込める魔力量が比較にならない程大きく、この調子だと領地にある城も難なく建てられそうだ。

「よし、これで!」

俺が魔法を発動させると、いつものように地面が隆起してリリエラ達の造ってきた防壁と同じ物が出来上がる。そして防壁はそのまま西の方へとどんどん伸びていき、魔法が尽きる頃には一キロ以上の長大な壁が完成していた。

「おお!これは凄い!」
「これが勇者の力なのか…!」
「信じられない…本当に人間なの?」

地面に座り込んで休憩していた魔法使い達が驚きの声を上げている。だがこの程度で驚いてもらっては困る。まだディアベルの出番が終わっていないのだ。

「主殿の後ではやりにくいな…しかしまぁ…出でよノーム!」

ディアベルの呼びかけに応じ、土の中からモグラに似た精霊ノームが現れた…が、いつもと様子が違う。普段見かけるノームは茶色い体毛で本物のモグラと大差ない外見なのだが、今ディアベルが呼び出したノームの体毛は明らかに金色だ。なんだこれは?こいつが何なのかディアベルに聞こうと思ったが、召喚した本人も驚いた顔でこちらを見ていた。いや、俺の方が聞きたいんだけど…

「へえ!これは珍しい!ゴールデンノームじゃないか。私も見るのは初めてだよ」

俺の魔法でも驚かなかったリリエラが、変わり種のノームを見た途端に驚いている。にしてもゴールデンノームって…まんまなネーミングだな。

「何か特別なノームなんですか?」
「一説によるとノームの長とも言われている精霊だよ。精霊魔法に精通した巨大な魔力の持ち主じゃないと呼び出せないって話だ。ディアベルさんにはそれだけの実力が備わっていると言う事だね」

今の説明を聞いていた魔法使い達、特にファータの精霊使い達が物珍しそうにノームに近づいて、その姿をつぶさに観察していた。見られる方は居心地が悪そうだが、ディアベルの指示が無いので逃げる事すら出来ないでいる。長寿を誇るエルフ達ですら知らないような事を知っているなんて、やはりリリエラはただ者では無いな。

「ま、まあ…気を取り直して。ノームよ!その防壁と同じ物を西に向かって造り続けろ!」

ディアベルの指示を受けたノームが地中に姿を消した瞬間、俺の魔法など比較にならない勢いで地面が隆起し、次々と防壁が築かれていく。呆気に取られて見ている中、ディアベルの造った防壁は俺の物より遥か遠くまで造りだされたようだった。

「おおお…!」
「凄いな。勇者以上か!」
「もう私達いらないんじゃないの…?」

声にこそ出してないが、俺も彼等と似たような心境だ。単純に魔力量だけなら俺と大差無いはずなのにここまで差が出るって事は、相性とかの問題なのだろうか?気になる所だ。

「君と彼女の差は、自分の力のみで造り上げるか大地の力を借りて造り上げるかの違いだよ。君や私が使う魔法は自身の魔力を元にしているから環境の影響を受ける事は無い。しかし彼女達の使う精霊魔法は環境によって威力が増したり減ったりするんだ。ここは大地の力が強いから、同じような事をしても彼女の方が大きな物を造れるのさ」

疑問が顔に出ていたのか、俺を見たリリエラが丁寧に説明してくれる。なるほどね。確かにフェンリルと戦った時ディアベルは炎の精霊を召喚出来ていなかったな。

「しかしまぁ、君達二人のおかげで予定より随分早く防壁が出来上がりそうだ。この調子で一気に終わらせようじゃないか…いつまでも野宿はご免だし」
「…そうですね。さっさと終わらせましょう」

ボソリと呟いた本音は聞かなかった事にして、俺はリリエラに同意する。この調子で作業を進めていけば、そう遠くない内に全ての作業は終わるだろう。
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