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第351話 守り神

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翌日、俺は早速マルバスから貰ったゴーレムの起動実験を試みた。街や街道から離れた平原で周りに誰も居ない事を確認した後、ゴーレムを地面において魔力を流し込んでみる。最初は何も変化が無かったので騙されたのかと一瞬焦ったが、徐々に変化が訪れた。目の錯覚を疑うような小さな変化だが、ゴーレムの体が大きくなってきているのだ。

「おおっ!?」

そこからは早かった。俺の魔力を注がれているゴーレムの体は瞬きする間に大きくなり、ものの数分で俺の身長を越える大きさになっていく。この時点で普通のゴーレムぐらいの大きさなのだが、面白くなってきた俺はどこまで巨大化するのか試してみたくなり、後先考えずに全力で魔力を流し込む。その結果、俺の目の前には見た事も無いほど巨大なゴーレムが姿を現していた。

「これは…モビ〇スー〇ぐらいはあるんじゃないのか?」

堂々とした体躯で屹立するゴーレムを見たところ、その大きさは城壁よりも少し高いぐらいだ。全高で十五メートル以上はあるだろうか?二メートル半のゴーレムの一撃でも軽く岩を砕く力があるので、いったいこれほどの巨体から繰り出された攻撃はどれだけ強力なのだろう。

早速戦闘力を確かめたいところだが、先にこいつが命令を聞くかどうかを確かめる必要がある。誰の言う事も聞かずに自立行動などされようものなら大惨事になる事が確実なので、ここで破壊しなくてはならない。若干緊張しながら唾を飲み込み、俺は最初の命令を口にしてみた。

「歩け」

俺の命令が届いたのか、ゴーレムはゆったりとした動きで足を前に繰り出し、地響きを立てながら前進していく。ふむ、どうやらバットラーの言っていた通り、魔力を注入した者の命令を聞くようだ。

「走れ」

歩きがゆっくりだったので走る速度も知れているだろう。そんな軽い考えで命令してみたのだが、ゴーレムは俺の予想を遥かに上回る猛烈な速度で何も無い平原を走り始めた。その走りは鉱物で出来ているとは思えないほど滑らかで、遠目に見れば走りの得意な人間が走っているとしか思えないだろう。

「やべっ!」

あっさり置いていかれそうになった俺は全力で駆け出し、横を並走しながら止まるように命令する。するとゴーレムは右足を前にしたスライディングのような姿勢で地面に足をめり込ませると、大地を隆起させながらその場に停止した。

「あぶねー…あのまま放っておいたら街に突っ込んでるとこだった」

こんな巨体が人口密集地に突っ込んだら交通事故どころの騒ぎでは無い。起動実験で大惨事を引き起こすとか、どこの人造人間だって話だ。

「それにしても、まるで人間みたいな動きなんだな」

こいつにはダンジョンに潜んでいるようなゴーレムらしさが無い。さっきの走りや止まる動作と言い、人間がそのまま大きくなったかのように動くので驚かされる。こいつが普通のゴーレムより遥かに俊敏なのは今の実験で確認できた。次は肝心の戦闘力を調べてみる事にしよう。俺は動きを止めたゴーレムの周囲に土魔法で造り上げた標的…様々な大きさの案山子を造りだした。大きさが一定でないのは実戦を想定してだ。細かい標的に攻撃を当てられないのでは運用方法も変わってくる。

「よし、ゴーレムよ、周囲にある案山子を全て撃破しろ!」

かなりアバウトな命令だったが、ゴーレムはすぐに動き出して周囲の案山子に攻撃を始めた。武器を持たないので攻撃方法は蹴りやパンチがほとんどだが、一発も外さず大小様々な目標を次々に破壊していく。それはまるで熟練の拳法使いのような動きだった。ある程度予想していたためにそれ程驚きはしなかったが、今のでゴーレムの能力は大体解った。門番程度に使えればいいかと思っていたのだが、これは嬉しい誤算だ。この能力があれば相当な数の敵に攻められてもこいつだけで蹴散らせるだろう。

起動実験を終了し、俺はゴーレムと共にアルゴスの城に転移した。そして街を守る城壁の外にゴーレムを立たせ、一つの命令を下す。

「ゴーレムよ。この街を攻撃してくる者があればお前が撃退しろ。それまでそこで待機だ」

命令が通じているのかどうなのかいまいち不安だが、さっきの実験でも目標物を自分で判断していたので問題あるまい。これでアルゴス側の領地の守りは完璧になった。グリトニル側にはリーベが常駐してくれているが、こちらだけ何も無かったから不安だったのだ。

「領主様?それ…ゴーレムなんですか?物凄く大きいんですけど…」

突然街の外に巨大ゴーレムが現れたものだから、城で見張りをしていた部隊が慌てて駆けつけたらしい。彼女達は見上げる程大きいゴーレムにビビっているものの、責任感からか逃げ出したりせず間近でゴーレムを調べている。

「今日からこいつはこの地の守り神になった。街を攻撃する者に対しては無条件で攻撃するから、城の皆はもちろん街を出入りする人達にも周知徹底してくれ。いたずらで事故が起きては遅いからな」
「承知しました。では早速城の皆や住民達に知らせてまいります。街道にも念のために立て札を立てておきましょう」
「頼む」

駆けて行く彼女達の背中を見送りながら、俺は側に立つゴーレムを見上げた。戦争が始まって俺達が留守にしている間、こいつには頑張って街を守ってもらうとしよう。
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