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第348話 マルバス
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男の後に続いた俺達は、三度ほど階段を上らされた後城の最上階にある部屋の前へと案内された。
「この謁見の間に我が主はおられる。これから戦うとはいえ、最低限の礼儀はわきまえよ」
ゴクリと喉を鳴らしながら開いていく扉を見つめる。今から会うのは恐らくこの巨大なダンジョンで一番強い魔物だ。少しでも油断すればこちらの命は無いだろう。一体どんな奴が玉座でふんぞり返っているのかと正面を睨み付けていると、驚いた事に部屋の一番奥にある玉座には誰の姿も無かった。
不思議に思って前に居る男に目をやると、男は困ったように頭を振り、そのまま部屋の奥へと進んで行く。そして空の玉座を無視して玉座の後ろにあるボロボロの赤いカーテンを勢いよく引き剥がす。するとそこには、四十代にみえる壮年の男が困ったような顔をして立っていた。男は俺達が使うような普段着を身に纏い、腰には短剣の一つも無い。よほどこの城が安全か、それとも自分の実力に自信があるかのどちらかだろう。
「マルバス様、お客人です。そんな所に隠れていないで、堂々としてください」
「…分かっている。ちょっとふざけてみただけだ」
あれがダンジョンマスターか?マルバスと呼ばれたあの男、見た目は普通の人間だが、あれも俺達を案内してきた男同様人間では無いのだろう。その証拠に、近くに居るだけで冷や汗が流れるほどのプレッシャーを感じていた。
「で、何の用だ?」
「久しぶりにマルバス様に戦いを挑む者が現れました。ダンジョンマスターに挑むだけの実力は持ち合わせているかと」
男の言葉に、面倒くさそうに玉座に腰かけていたマルバスは、そこで改めて俺達一人一人を舐め回す様に観察を始める。その目はさながら獲物を吟味する猛禽類のように鋭く、見つめられただけでも思わず身を固くするほどだ。
「ほう。レベルが百を超えているってのは凄いじゃないか。昔俺と戦った勇者と同じか、少し低いぐらいだな」
…昔の勇者って強かったんだな。まさか今の俺のレベルを超えているとは思わなかった。俺と同じように経験値アップなんて反則スキルを持っていたのか、それとも地道に力をつけたのか、今となっては知りようが無いが大したものだと感心する。
「いいぞ。じゃあ久しぶりに一戦交えようじゃないか。なかなか面白い戦いになりそうだ!」
「あ、その前に確認したい事があるんですが」
一人で盛り上がる男を手を上げて制する俺を、男は興が削がれたとばかりにつまらなそうな表情で見る。だが戦う前にどうしても確認しておかなければならない事があったのだ。それを忘れては思い切りやれない。
「なんだ?言ってみろ」
「それじゃ…まず一つ目、あなたを倒すって事は殺す事になると思うんですが、それは問題ないのかと言うのが一つ。次に倒した後確実に転移が使えるのかと言うのが一つ。そして最後に、何か報酬はあるのかと言う点です」
一つ目二つ目までは単なる確認だが、三つめは図々しいと言うか喧嘩を売っていると思われても仕方が無い。案の定、マルバスは不機嫌そうに顔を歪めていた。だが仮にもダンジョンを統べる王としての矜持があるのか、質問には素直に答えてくれる。
「…俺とそこのバットラーは他の魔物と違い、例えここで死んでもしばらくすれば復活する。ダンジョンコアがある限り不死身と言える存在なのだ。なので気にせず挑んでくるがいい。そして俺を倒せばこの場を覆っている俺の魔力が途絶え、転移も可能になる。そして最後だが…そうだな、お前の希望も解らんでもない。冒険者なら何か報酬を求めるのは当然だ。…しばらく待て」
そう言うとマルバスは奥の部屋へと引っ込み、一つの彫像を手にして謁見の間に戻って来た。手に持つ彫像は直径三十センチほどの武骨な人型のデザインで、およそ観賞用とは思えない。あれが宝だと言うのか?
「お前達が俺に勝ったら、これを持って行くがいい。こんなに小さくてもこれはゴーレムでな。契約者の命令を忠実に守り敵を蹴散らす良い守り手となってくれる」
その大きさの物が戦闘で役に立つかどうか怪しかったが、仮にもダンジョンマスターと名乗る者が騙す様な姑息な真似をするとは考えにくい。仮に嘘だとしても文句は勝ってから言うとしよう。なぜなら、目の前のマルバスはもう待ちきれないとばかりに体から闘志を溢れさせているのだから。
「もう聞きたい事は無いな?では始めよう。ああ、それとこの城の事なら気にしなくていい。俺同様に勝手に修復するからいくら壊しても構わんぞ」
「お気遣いどうも…」
いまいち緊張感に欠けるやり取りの間にも、マルバスの体は徐々に変化を始めている。既に顔の作りは人間の物では無くなり、フォルザのような獣人の物に…ライオンそのものに変化していた。そしてそれにつられるように四肢が服を突き破ると、凶悪な鉤爪のある足で赤い絨毯をしっかりと踏みしめる。尻尾の先は炎を灯した蛇の様にのたうち、頭や体からは鋭い棘が生えていた。
パッと見たところは角の生えたライオンでしかないが、その威圧感となるやライオンの比では無い。初めて戦った時のファフニルに匹敵するような緊張感だ。ちらりと横目でさっきの男…バットラーと呼ばれていた男を見ると、彼の方には変化が無い。どうやら参戦せずに傍観に徹するつもりらしい。
「よし、では始めようか。いつでもかかってくるがいい」
ライオンの口からマルバスの落ち着いた声が漏れる。相手の実力を確かめようとしたが、妨害でもされているのかステータスは確認できなかった。緊張の為武器を構えて動かない俺達をしばらく眺めていたマルバスだったが、しびれを切らしたように動き始める。
「来ないのか?慎重なのは結構だが、それではつまらんのでな。こちらから行かせてもらおう」
そう言うと、マルバスは謁見の間を震わせるような咆哮を一つ上げ、俺達に向けて突進してきた。いよいよ戦闘開始だ。
「この謁見の間に我が主はおられる。これから戦うとはいえ、最低限の礼儀はわきまえよ」
ゴクリと喉を鳴らしながら開いていく扉を見つめる。今から会うのは恐らくこの巨大なダンジョンで一番強い魔物だ。少しでも油断すればこちらの命は無いだろう。一体どんな奴が玉座でふんぞり返っているのかと正面を睨み付けていると、驚いた事に部屋の一番奥にある玉座には誰の姿も無かった。
不思議に思って前に居る男に目をやると、男は困ったように頭を振り、そのまま部屋の奥へと進んで行く。そして空の玉座を無視して玉座の後ろにあるボロボロの赤いカーテンを勢いよく引き剥がす。するとそこには、四十代にみえる壮年の男が困ったような顔をして立っていた。男は俺達が使うような普段着を身に纏い、腰には短剣の一つも無い。よほどこの城が安全か、それとも自分の実力に自信があるかのどちらかだろう。
「マルバス様、お客人です。そんな所に隠れていないで、堂々としてください」
「…分かっている。ちょっとふざけてみただけだ」
あれがダンジョンマスターか?マルバスと呼ばれたあの男、見た目は普通の人間だが、あれも俺達を案内してきた男同様人間では無いのだろう。その証拠に、近くに居るだけで冷や汗が流れるほどのプレッシャーを感じていた。
「で、何の用だ?」
「久しぶりにマルバス様に戦いを挑む者が現れました。ダンジョンマスターに挑むだけの実力は持ち合わせているかと」
男の言葉に、面倒くさそうに玉座に腰かけていたマルバスは、そこで改めて俺達一人一人を舐め回す様に観察を始める。その目はさながら獲物を吟味する猛禽類のように鋭く、見つめられただけでも思わず身を固くするほどだ。
「ほう。レベルが百を超えているってのは凄いじゃないか。昔俺と戦った勇者と同じか、少し低いぐらいだな」
…昔の勇者って強かったんだな。まさか今の俺のレベルを超えているとは思わなかった。俺と同じように経験値アップなんて反則スキルを持っていたのか、それとも地道に力をつけたのか、今となっては知りようが無いが大したものだと感心する。
「いいぞ。じゃあ久しぶりに一戦交えようじゃないか。なかなか面白い戦いになりそうだ!」
「あ、その前に確認したい事があるんですが」
一人で盛り上がる男を手を上げて制する俺を、男は興が削がれたとばかりにつまらなそうな表情で見る。だが戦う前にどうしても確認しておかなければならない事があったのだ。それを忘れては思い切りやれない。
「なんだ?言ってみろ」
「それじゃ…まず一つ目、あなたを倒すって事は殺す事になると思うんですが、それは問題ないのかと言うのが一つ。次に倒した後確実に転移が使えるのかと言うのが一つ。そして最後に、何か報酬はあるのかと言う点です」
一つ目二つ目までは単なる確認だが、三つめは図々しいと言うか喧嘩を売っていると思われても仕方が無い。案の定、マルバスは不機嫌そうに顔を歪めていた。だが仮にもダンジョンを統べる王としての矜持があるのか、質問には素直に答えてくれる。
「…俺とそこのバットラーは他の魔物と違い、例えここで死んでもしばらくすれば復活する。ダンジョンコアがある限り不死身と言える存在なのだ。なので気にせず挑んでくるがいい。そして俺を倒せばこの場を覆っている俺の魔力が途絶え、転移も可能になる。そして最後だが…そうだな、お前の希望も解らんでもない。冒険者なら何か報酬を求めるのは当然だ。…しばらく待て」
そう言うとマルバスは奥の部屋へと引っ込み、一つの彫像を手にして謁見の間に戻って来た。手に持つ彫像は直径三十センチほどの武骨な人型のデザインで、およそ観賞用とは思えない。あれが宝だと言うのか?
「お前達が俺に勝ったら、これを持って行くがいい。こんなに小さくてもこれはゴーレムでな。契約者の命令を忠実に守り敵を蹴散らす良い守り手となってくれる」
その大きさの物が戦闘で役に立つかどうか怪しかったが、仮にもダンジョンマスターと名乗る者が騙す様な姑息な真似をするとは考えにくい。仮に嘘だとしても文句は勝ってから言うとしよう。なぜなら、目の前のマルバスはもう待ちきれないとばかりに体から闘志を溢れさせているのだから。
「もう聞きたい事は無いな?では始めよう。ああ、それとこの城の事なら気にしなくていい。俺同様に勝手に修復するからいくら壊しても構わんぞ」
「お気遣いどうも…」
いまいち緊張感に欠けるやり取りの間にも、マルバスの体は徐々に変化を始めている。既に顔の作りは人間の物では無くなり、フォルザのような獣人の物に…ライオンそのものに変化していた。そしてそれにつられるように四肢が服を突き破ると、凶悪な鉤爪のある足で赤い絨毯をしっかりと踏みしめる。尻尾の先は炎を灯した蛇の様にのたうち、頭や体からは鋭い棘が生えていた。
パッと見たところは角の生えたライオンでしかないが、その威圧感となるやライオンの比では無い。初めて戦った時のファフニルに匹敵するような緊張感だ。ちらりと横目でさっきの男…バットラーと呼ばれていた男を見ると、彼の方には変化が無い。どうやら参戦せずに傍観に徹するつもりらしい。
「よし、では始めようか。いつでもかかってくるがいい」
ライオンの口からマルバスの落ち着いた声が漏れる。相手の実力を確かめようとしたが、妨害でもされているのかステータスは確認できなかった。緊張の為武器を構えて動かない俺達をしばらく眺めていたマルバスだったが、しびれを切らしたように動き始める。
「来ないのか?慎重なのは結構だが、それではつまらんのでな。こちらから行かせてもらおう」
そう言うと、マルバスは謁見の間を震わせるような咆哮を一つ上げ、俺達に向けて突進してきた。いよいよ戦闘開始だ。
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