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第343話 吹雪

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翌日以降、俺とディアベルは更に数日かけてアルゴス側の領地に城壁を作る事に成功した。アルゴス側はエド主導の下、城壁の内側で耕作地を増やす計画を進行中だ。魔族の侵攻までに間に合えばいいのだが…。

そして俺達パーティーは本格的に自分達を鍛えるため、ガルシアにあるダンジョンの中に現れていた。現在の階層は地下十四階、ちょうどサイクロプスを倒した階層だ。ここに来るのは随分久しぶりだだからか、俺達とサイクロプスの戦った跡が綺麗さっぱり消えていた。

「ご主人様、レベルアップが目的なら片っ端から見かけた魔物を狩って行くんですか?」
「いや、それだと時間がかかる上に効率が悪い。この際雑魚は無視してフロアマスターぐらいの大物だけをやろう」
「つまり…襲い掛かって来ても突っ切って進むと言う訳か。上手くいくかな?」
「最悪転移で逃れる事も考えてるよ。そこは臨機応変にいこう」

幸いな事に辺りに魔物の気配は無い。これなら逃げるまでも無く戦いは起こらないはずだ。周囲の安全を確認した後、俺達パーティーは以前サイクロプスが現れた方向に向けて歩き始めた。あっち側はまだ未探索だからだ。見渡す限り荒野が広がり木の一本も生えていないこのフロアには目印となる目標物が無い。そのために自分達が今現在どこを移動しているのか解らず、下に降りる階段を探すだけでも一苦労だ。

「ねえ兄様。ダンジョンて退屈なのね」

初めて本格的なダンジョンに潜るレヴィアが大きな欠伸をしながら俺に話かけてきた。彼女とシャリーはすでに飽きているらしく、ダンジョンに入った時に比べてみるみるテンションが下がって来ている。

「二人とも、ダンジョンはダンジョンで良い事があるんだぞ?例えばここでしか食べられない料理とかがある」

料理と言う言葉に二人の耳がピクリと動き一言も聞き漏らすかとばかりに俺の口を注視している。その食欲に苦笑しながら、俺は肩に担いでいる道具袋をパンパンと叩いてみせた。

「普段ならリーリエ達が作ってくれるだろうけど、ダンジョンの中では主に俺が調理担当なんだ。晩飯は城に帰って食べるから昼飯分しか持って来てないけど、ダンジョンに通ってる間は毎日珍しい料理を食べさせてやるよ」
「兄様が料理するの!?」
「やったー!」

途端にはしゃぎ始めた二人は最後尾から先頭に居る俺の前に躍り出て、そのままダッシュで走り出す。おいおい、いくらなんでも現金すぎるだろう。

「兄様早く!さっさと下に降りてご飯にしよう!」
「はやくはやくー!」

やれやれ…別に下に降りたからってすぐ飯にする訳でもないってのに、二人とも元気な事だ。だがせっかくのやる気に水を差す訳にもいかないので急いで二人の後を追う。目的地も解らずがむしゃらに走っているだけなので、本当にただ走るだけになりそうだが…。

だが俺の予想に反して、二人はすぐに地下十五階に下りる階段を探し当てた。いったいどう言う方法で見つけたのか不明だが、見つかったからには降りるだけだ。手招きする二人に釣られるように階段へと足を踏み入れ、一段ずつ確実に降りて行く。

「二人とも凄いな。いったいどうやって見つけたんだ?」
「私は勘かな?」
「シャリーは違う匂いがしたから来たの」

勘と匂いって…それだけで俺のマップスキルを上回るとか自信無くしそうだ。下の階層への階段は相変わらず長く、かなり下ってきたと言うのに先が見えてこない。これだけの規模のダンジョンになると階層間の距離も他と比べて長くなってしまうのだろう。特に造ったばかりの家のダンジョンなど比べ物にならない。

長い時間をかけて降りた先には上の荒野と違い、凍えるような寒さの雪原が広がっていた。相変わらず何でもありだなこのダンジョンは…。ふと見ると、あまりの気温の落差にクレア達が自分の体を抱きしめてガタガタと震えていた。無理も無い。なにせこの階層に辿り着いた途端、身を切るような猛吹雪に襲われたのだ。

「さむい~!」
「これは…身が持たないぞ」
「兄様何とかして!」
「ご主人様、どこかに避難した方がいいんじゃ?」

確かにこのままでは戦うどころではない。身に着けている金属製の物が肌に張り付き始め、指も上手く動かせなくなってきた。冗談ではなく凍死する。瞬時に判断した俺はディアベルに対して鋭く指示を出す。

「ディアベル!サラマンダーを呼び出すんだ!俺は火炎魔法を使う!」
「了解した主殿!」

みんなが寒さに凍える中、俺とディアベルは意識を集中させて即座に魔法を発動させる。先に魔法を完成させたのは俺だ。人の頭大の火炎球を作りだした俺は、普段なら一直線に飛ばすだけの火炎球にアレンジを加え、自分達の周りをぐるぐると周回させ始める。何かにぶつかっても炎を撒き散らさないイメージを練っているので俺の魔力が続く限り浮遊し続けるだろう。

そしてディアベルが召喚したサラマンダーが俺達の目の前に出現する…が、一瞬出現して地面の雪を融かした後すぐに消滅してしまった。その光景に俺達は思わず目が点になる。

「すまない!やはりここで火の精霊を呼び出すのは一瞬が限界だ!周りが氷の精霊だらけでどうにもならない!」

吹雪にかき消されないようディアベルが大声で怒鳴る。そう言えば以前場所によって呼び出すのが難しい事もあるって言ってたっけ。俺の魔法でさっきよりはマシになっているが焼け石に水だ。吹雪の勢いにわずか数個の火炎球が何の役にたとうか。そうこうしている内にみんなの体に雪が積もり始めた。こりゃグズクズしてられないぞ。俺は火炎球の魔力を維持しながら意識を集中させ、土魔法を発動させた。

「一旦避難する!あの中に飛び込め!」

一瞬の後、土で出来たかまくらに全員が飛び込む。最後に飛び込んだ俺は急いで部屋の中央にさっき浮かべていた火炎球を集め、即席の暖房器具を作りだす。吹雪から解放された事に安心したのか、全員その場に座り込んでしまった。

「酷いですね…。こんなに吹雪いてると探索どころじゃないですよ」
「視界も悪いから先も見通せない。どっちに進んで良いのかも解らんぞ」
「防寒着を持って来れば良かったー!」

彼女達の言う通り、これでは探索どころでは無く先に進む事すら困難だ。防寒着を着たところでそれほど効果があるとも思えないが、無いよりマシだ。一旦取りに戻るのも良いかも知れない。

「どうしたもんかな…」

久しぶりのダンジョンだと言うのになんとも幸先の悪い事だ。自分の運の悪さにため息をつきながら、この後どうするか、揺らめく炎を眺めながら俺は思案に暮れた。
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