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第336話 厳戒態勢
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いよいよ各国の代表による魔族の侵攻に対する会議が行われる事になった。会場となるのはグリトニル聖王国の王城。今の国々にとって、国の代表が一堂に会して一つの議題を話し合うと言うのは初めての試みだそうだ。
そんなイベントがあるせいか、今グリトニルの王都は物々しい雰囲気に包まれている。街の至る所に騎士や兵士の姿が見られ、少しでも怪しい動きをしようものなら問答無用でしょっ引かれてしまうのだ。王都に住む人々はそれに不満を感じているようだが、表立って口に出す者は居なかった。王国側も民の不満を解ってはいてもやらずにはいられない。何しろここでテロでも発生すれば国の威信にかかわるのだから。
「前世で言いうところのサミットってやつかな」
「サミットってなんですか?」
となりを歩いていたクレアが俺のつぶやきを聞き逃さず、首をかしげて質問してきた。その仕草はとても可愛らしく、最近別行動が多かった俺に改めて彼女の魅力を気づかせてくれる。
「サミットっていうのは…えーと、主要国首脳会議って意味だったっけ?俺の居た国とは別の国でそう呼ばれてた…はず。俺も詳しくは知らないんだけど」
「へー、ご主人様が居た世界では国によって言語が違うんですね。凄く不便そうです」
珍しい事を聞いたとばかりにクレアが驚いていた。確かに彼女の言う通り、この世界の住民は全て共通の言葉を話している。田舎だと訛りが酷い場合もあるが、理解出来ない程でもない。前世では神様が罰として言語をバラバラにしたって話もあったが、この世界の神様はきっと良い奴だったんだろうと思う。
俺達パーティーが談笑しながら歩いているのは城に続く大通りだ。今回要塞線の発案者である俺も一応呼ばれていて、会議の末席に着く事になっていた。それぞれの国によって拠出する兵や資金、食料や武器などの細かい話を各国の代表が行っている間俺にする事など無いので、本当にお飾りとして座っているだけになるだろう。出来るなら辞退したかったが、発案者が居ないのでは話が進まなくなるとリムリック王子に押し切られてしまった。
クレア達は念のため変事に備えて俺に同行してくれていた。ちなみにリーベは領地の城に留守番だ。彼女が居てくれたら仮に何者かの襲撃を受けたところで問題なく対処できるだろう。
今回俺は転移で直接グリトニル王城内に転移する事を遠慮している。厳戒態勢で城内を警備している兵士達にとって、味方とは言えいきなり現れたり消えたりされるといささか具合が悪い。俺が勝手にに城内を歩き回ると、なぜ通したんだと担当の人間がお咎めを受ける可能性があるためだ。俺としても無用なトラブルは起こしたくない為、今回は徒歩での登城となる。
「エスト様、ようこそお越しくださいました。リムリック王子から連絡は受けています。先導しますので、後ろをついて来ていただけますか?」
「解った。よろしく頼む」
正門まで辿り着くと、予め連絡を受けていた兵士が数人俺達が来るのを待っていたようだ。まるで護衛でもされているかのように俺達の周りをぐるりと取り囲んだ兵士達は、周囲を警戒しながら静かに人気の無い廊下を歩いて行く。いや、これは護衛されているのか。時折すれ違う兵士の一団と誰何の声を掛け合いながら、俺達は城内にある一室に通された。
「ここでしばらくお待ちください。すぐにお茶をお待ちしますので」
パタリと閉められたドアを見て俺達は一斉に大きくため息をつく。城に入ってからと言うもの、どうにも堅苦しくて疲れてしまう。仕事だから仕方ないと解っているが、人がすれ違うたびに足を止めて人相の確認までやるのは正直やり過ぎじゃないかと思えた。
「この後主殿だけ呼び出されて、我等はここで待機するのだったかな?」
「ああ。いったい何時間かかるか解らないから、皆は交代で寝てていいよ」
「暇つぶしの方法も無さそうだしね。シャリー、ドラン、おいで。おやつ持って来てるから一緒に食べよ」
「おやつ?」
「グア?」
レヴィアが自分で背負っていた道具袋の中身を備え付けられたベッドの上にぶちまけ、シャリーとドランを手招きする。あれだけパンパンに膨れ上がっていた袋の中身が全ておやつだと言う事実に驚愕したが、レヴィアならありかなと妙に納得してしまう。すぐにベッドに駆け寄るシャリーと、パタパタと翼を羽ばたかせながら移動するドランを目で追っていたら、ドアをノックする音がして部屋の中に何者かが入ってきた。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
数人のメイドが兵士を伴い、カートを押しながらテーブルの側までしずしずと歩いて来る。彼女達も普段と違う緊張感を肌で感じ取っているようで、その額にはうっすらと汗が滲んでいた。誰も一言も発する事の無い部屋の中で彼女達が触る食器の音だけが響く。やがて彼女達が退室し、ようやくお茶の一杯を楽しもうとカップに手を伸ばした瞬間、再びドアがノックされて兵士達が顔を出した。
「失礼します。エスト様、会議の準備が整いましたので会議室までお越しください。私が先導いたします」
「………」
「頑張ってくださいね。ご主人様」
「しっかりな、主殿」
「兄様、飽きたら帰ってもいいんじゃない?」
「ばいばーい」
「グア」
こうなっては仕方が無い。俺は無言で席を立ち兵士の後に続いて歩く。部屋を出る時にチラリと後ろを見たが、皆俺が出ていく事など興味無さそうに自分の趣味に没頭していた。クレアは編み物、ディアベルは街で買った詩集を読み、レヴィア達三人はおやつに夢中だ。家庭で冷遇されるお父さんの気分を味わいながら、俺は会議室へと急いだ。
そんなイベントがあるせいか、今グリトニルの王都は物々しい雰囲気に包まれている。街の至る所に騎士や兵士の姿が見られ、少しでも怪しい動きをしようものなら問答無用でしょっ引かれてしまうのだ。王都に住む人々はそれに不満を感じているようだが、表立って口に出す者は居なかった。王国側も民の不満を解ってはいてもやらずにはいられない。何しろここでテロでも発生すれば国の威信にかかわるのだから。
「前世で言いうところのサミットってやつかな」
「サミットってなんですか?」
となりを歩いていたクレアが俺のつぶやきを聞き逃さず、首をかしげて質問してきた。その仕草はとても可愛らしく、最近別行動が多かった俺に改めて彼女の魅力を気づかせてくれる。
「サミットっていうのは…えーと、主要国首脳会議って意味だったっけ?俺の居た国とは別の国でそう呼ばれてた…はず。俺も詳しくは知らないんだけど」
「へー、ご主人様が居た世界では国によって言語が違うんですね。凄く不便そうです」
珍しい事を聞いたとばかりにクレアが驚いていた。確かに彼女の言う通り、この世界の住民は全て共通の言葉を話している。田舎だと訛りが酷い場合もあるが、理解出来ない程でもない。前世では神様が罰として言語をバラバラにしたって話もあったが、この世界の神様はきっと良い奴だったんだろうと思う。
俺達パーティーが談笑しながら歩いているのは城に続く大通りだ。今回要塞線の発案者である俺も一応呼ばれていて、会議の末席に着く事になっていた。それぞれの国によって拠出する兵や資金、食料や武器などの細かい話を各国の代表が行っている間俺にする事など無いので、本当にお飾りとして座っているだけになるだろう。出来るなら辞退したかったが、発案者が居ないのでは話が進まなくなるとリムリック王子に押し切られてしまった。
クレア達は念のため変事に備えて俺に同行してくれていた。ちなみにリーベは領地の城に留守番だ。彼女が居てくれたら仮に何者かの襲撃を受けたところで問題なく対処できるだろう。
今回俺は転移で直接グリトニル王城内に転移する事を遠慮している。厳戒態勢で城内を警備している兵士達にとって、味方とは言えいきなり現れたり消えたりされるといささか具合が悪い。俺が勝手にに城内を歩き回ると、なぜ通したんだと担当の人間がお咎めを受ける可能性があるためだ。俺としても無用なトラブルは起こしたくない為、今回は徒歩での登城となる。
「エスト様、ようこそお越しくださいました。リムリック王子から連絡は受けています。先導しますので、後ろをついて来ていただけますか?」
「解った。よろしく頼む」
正門まで辿り着くと、予め連絡を受けていた兵士が数人俺達が来るのを待っていたようだ。まるで護衛でもされているかのように俺達の周りをぐるりと取り囲んだ兵士達は、周囲を警戒しながら静かに人気の無い廊下を歩いて行く。いや、これは護衛されているのか。時折すれ違う兵士の一団と誰何の声を掛け合いながら、俺達は城内にある一室に通された。
「ここでしばらくお待ちください。すぐにお茶をお待ちしますので」
パタリと閉められたドアを見て俺達は一斉に大きくため息をつく。城に入ってからと言うもの、どうにも堅苦しくて疲れてしまう。仕事だから仕方ないと解っているが、人がすれ違うたびに足を止めて人相の確認までやるのは正直やり過ぎじゃないかと思えた。
「この後主殿だけ呼び出されて、我等はここで待機するのだったかな?」
「ああ。いったい何時間かかるか解らないから、皆は交代で寝てていいよ」
「暇つぶしの方法も無さそうだしね。シャリー、ドラン、おいで。おやつ持って来てるから一緒に食べよ」
「おやつ?」
「グア?」
レヴィアが自分で背負っていた道具袋の中身を備え付けられたベッドの上にぶちまけ、シャリーとドランを手招きする。あれだけパンパンに膨れ上がっていた袋の中身が全ておやつだと言う事実に驚愕したが、レヴィアならありかなと妙に納得してしまう。すぐにベッドに駆け寄るシャリーと、パタパタと翼を羽ばたかせながら移動するドランを目で追っていたら、ドアをノックする音がして部屋の中に何者かが入ってきた。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
数人のメイドが兵士を伴い、カートを押しながらテーブルの側までしずしずと歩いて来る。彼女達も普段と違う緊張感を肌で感じ取っているようで、その額にはうっすらと汗が滲んでいた。誰も一言も発する事の無い部屋の中で彼女達が触る食器の音だけが響く。やがて彼女達が退室し、ようやくお茶の一杯を楽しもうとカップに手を伸ばした瞬間、再びドアがノックされて兵士達が顔を出した。
「失礼します。エスト様、会議の準備が整いましたので会議室までお越しください。私が先導いたします」
「………」
「頑張ってくださいね。ご主人様」
「しっかりな、主殿」
「兄様、飽きたら帰ってもいいんじゃない?」
「ばいばーい」
「グア」
こうなっては仕方が無い。俺は無言で席を立ち兵士の後に続いて歩く。部屋を出る時にチラリと後ろを見たが、皆俺が出ていく事など興味無さそうに自分の趣味に没頭していた。クレアは編み物、ディアベルは街で買った詩集を読み、レヴィア達三人はおやつに夢中だ。家庭で冷遇されるお父さんの気分を味わいながら、俺は会議室へと急いだ。
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