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第334話 挨拶
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いよいよアルゴスでの村おこし、闘技会の始まりだ。現在アルゴス側の領地は多くの観光客やそれを目当てにした商人、そしてその護衛達などで賑わっている。それらが集まる事によって起きるトラブルに目を光らせる為、グリトニル側の部下達も応援に駆け付けていた。
メインイベントである闘技会参加者は全部で百人にも達し、予選を行うだけでも一苦労だ。一対一ではやたらと日数がかかるため、五人ずつのバトルロワイヤルを行う予定だ。リオグランドの闘技会と違いコロッセオの中でのバトルロワイヤルは初めてなので、多くの人が観戦しようと観客席に詰めかけていた。
「エスト様、いよいよこの日が来ましたね」
「ああ、なんだか随分待ったような気がするよ」
開場が始まり、警備と列の整列を任された女の子達に先導され、観客達が一列ずつコロッセオに入って行くのを俺とエドが眺めている。一気に入場させたら怪我人が出る恐れがあるので、一度に入場するの少人数と決めてあるのだ。これは日本最大の某同人誌即売会を参考にさせてもらった。中には大人しく列に並ばない不届き者も居るようだが、よく訓練された女の子達がすぐに取り押さえている。彼女達で手に負えない奴は連絡を受けたアミルやクレア達が制圧する構えになっているので抜かりはない。
「参加者達の様子は?」
「興奮している者も居るようですが、今のところ問題ないかと。偏りが出ないようにレベルごとに五人に分け、控室にそれぞれ待機させています」
今回から始めるこの闘技会は、本場リオグランドと違い装備は各自の物を使用する事が許可されている。こちらで武器や防具を用意しても良かったんだが、それではリオグランドと差別化が図れない上に月一開催での費用が馬鹿にならない。そんな理由もあって戦い方は自由となっていた。武器が何でもありなら魔法の使用も許可しており、魔法使いの参加も見込まれている。だが当然対戦相手を殺害する事は許可しておらず、相手を殺せば即座に失格とする方針だ。
「報告します。エスト様、現在の所スリを三名、通りで喧嘩を始めた者を五名捕縛しました。それ以外異常はありません」
「ご苦労さん。引き続き警戒頼むよ」
「お任せください!」
今俺の下に報告に来たのはリセだ。彼女は相変わらず俺の事を尊敬しているようで、顔を合わせるたびに少し頬が上気しているのが解る。本人はキリリとした態度で誤魔化せていると思っているようだが、周囲にはバレバレだった。彼女がこの場を去った後、入れ替わる様にエルフの女が近づいてきた。プリムラだ。彼女は闘技会の宣伝でギルドに訪れた時相談に乗ってくれた人で、今回はギルド側から治安維持に協力する為派遣されている部隊のまとめ役としてここまで来ている。
「領主様。そろそろ一回戦が始まりますよ。共にまいりましょうか?」
「解りました。では行きましょう。エド、後は頼んだ」
「お任せください。コロッセオの外は私が見ておきます」
プリムラは観客席に立たせてあるギルド職員を統括するため、俺は闘技会開催の挨拶をするためにコロッセオに入る。既に中では戦いの開始を今か今かと待ちわびる人々の熱気が渦巻いていた。選手が戦いに赴く通路の途中でプリムラと別れ、俺はそのまま闘技場を目指して歩く。こうしていると、リオグランドでの戦いを思い出すな。
次第に大きくなってくる歓声と闘技場から差し込む光に目を細めながら、俺は通路を抜けて闘技場の真ん中へと足を運んだ。途端に歓声が一際大きくなる。そんな観客達の様子を見ながら立っていると、自分の周りに少しだけ風が吹き、さっき別れたばかりのプリムラの声が聞こえてきた。
「領主様。準備完了です。もう話していただいても大丈夫ですよ」
彼女と観客席に立っているギルド職員達は、風の精霊で声を増幅するスピーカー役だ。俺がするのは挨拶だけだが、試合の開始と終了はプリムラが行う事になっている。ギルドとしても定期的に行われる闘技会に積極的に協力し、自分達の地位を押し上げたい思惑があるのだろう。こちらとしても魔法の補助や治安維持の人出は有り難いので断る理由は無かった。彼女達の協力に感謝しながら、俺は腹から声を出し、コロッセオ中に聞こえるよう声を張り上げた。
「みなさん!本日はよくぞお越しくださいました!私はこの領地を治めるエスト、巷では勇者とも呼ばれている者です!」
「おおおー!」
「勇者様ー!」
「かっこいいー!」
初めて見る噂の人物に観客達は大喜びだ。多少客寄せパンダ的な扱いもあるだろうが、闘技会が盛り上がるならなんだっていい。
「闘技会は毎月一回定期的に開催する予定です!今回観戦して気に入ったなら、次は是非ご家族や友人を誘って訪れてください!では時間も押しておりますので、早速予選第一回戦を開始しましょう!」
『わああー!』
観客達の反応は上々だ。掴みとしては上出来だろう。深々と頭を下げて通路に戻る俺の耳に、プリムラの落ち着いた声が届いてきた。
「領主様、お疲れ様でした。段取り通り、選手達が闘技場に出払ったところで私が試合開始の合図を告げます」
「頼みます」
俺のやるべき事は終わった。後はコロッセオ最上階にある貴賓席で文字通り高みの見物といこうじゃないか。今回は自分も仲間も出ないから気楽に見る事が出来る。気合十分の表情で狭い通路をすれ違う選手達を見ながら、俺は闘技会の成功を願うのだった。
メインイベントである闘技会参加者は全部で百人にも達し、予選を行うだけでも一苦労だ。一対一ではやたらと日数がかかるため、五人ずつのバトルロワイヤルを行う予定だ。リオグランドの闘技会と違いコロッセオの中でのバトルロワイヤルは初めてなので、多くの人が観戦しようと観客席に詰めかけていた。
「エスト様、いよいよこの日が来ましたね」
「ああ、なんだか随分待ったような気がするよ」
開場が始まり、警備と列の整列を任された女の子達に先導され、観客達が一列ずつコロッセオに入って行くのを俺とエドが眺めている。一気に入場させたら怪我人が出る恐れがあるので、一度に入場するの少人数と決めてあるのだ。これは日本最大の某同人誌即売会を参考にさせてもらった。中には大人しく列に並ばない不届き者も居るようだが、よく訓練された女の子達がすぐに取り押さえている。彼女達で手に負えない奴は連絡を受けたアミルやクレア達が制圧する構えになっているので抜かりはない。
「参加者達の様子は?」
「興奮している者も居るようですが、今のところ問題ないかと。偏りが出ないようにレベルごとに五人に分け、控室にそれぞれ待機させています」
今回から始めるこの闘技会は、本場リオグランドと違い装備は各自の物を使用する事が許可されている。こちらで武器や防具を用意しても良かったんだが、それではリオグランドと差別化が図れない上に月一開催での費用が馬鹿にならない。そんな理由もあって戦い方は自由となっていた。武器が何でもありなら魔法の使用も許可しており、魔法使いの参加も見込まれている。だが当然対戦相手を殺害する事は許可しておらず、相手を殺せば即座に失格とする方針だ。
「報告します。エスト様、現在の所スリを三名、通りで喧嘩を始めた者を五名捕縛しました。それ以外異常はありません」
「ご苦労さん。引き続き警戒頼むよ」
「お任せください!」
今俺の下に報告に来たのはリセだ。彼女は相変わらず俺の事を尊敬しているようで、顔を合わせるたびに少し頬が上気しているのが解る。本人はキリリとした態度で誤魔化せていると思っているようだが、周囲にはバレバレだった。彼女がこの場を去った後、入れ替わる様にエルフの女が近づいてきた。プリムラだ。彼女は闘技会の宣伝でギルドに訪れた時相談に乗ってくれた人で、今回はギルド側から治安維持に協力する為派遣されている部隊のまとめ役としてここまで来ている。
「領主様。そろそろ一回戦が始まりますよ。共にまいりましょうか?」
「解りました。では行きましょう。エド、後は頼んだ」
「お任せください。コロッセオの外は私が見ておきます」
プリムラは観客席に立たせてあるギルド職員を統括するため、俺は闘技会開催の挨拶をするためにコロッセオに入る。既に中では戦いの開始を今か今かと待ちわびる人々の熱気が渦巻いていた。選手が戦いに赴く通路の途中でプリムラと別れ、俺はそのまま闘技場を目指して歩く。こうしていると、リオグランドでの戦いを思い出すな。
次第に大きくなってくる歓声と闘技場から差し込む光に目を細めながら、俺は通路を抜けて闘技場の真ん中へと足を運んだ。途端に歓声が一際大きくなる。そんな観客達の様子を見ながら立っていると、自分の周りに少しだけ風が吹き、さっき別れたばかりのプリムラの声が聞こえてきた。
「領主様。準備完了です。もう話していただいても大丈夫ですよ」
彼女と観客席に立っているギルド職員達は、風の精霊で声を増幅するスピーカー役だ。俺がするのは挨拶だけだが、試合の開始と終了はプリムラが行う事になっている。ギルドとしても定期的に行われる闘技会に積極的に協力し、自分達の地位を押し上げたい思惑があるのだろう。こちらとしても魔法の補助や治安維持の人出は有り難いので断る理由は無かった。彼女達の協力に感謝しながら、俺は腹から声を出し、コロッセオ中に聞こえるよう声を張り上げた。
「みなさん!本日はよくぞお越しくださいました!私はこの領地を治めるエスト、巷では勇者とも呼ばれている者です!」
「おおおー!」
「勇者様ー!」
「かっこいいー!」
初めて見る噂の人物に観客達は大喜びだ。多少客寄せパンダ的な扱いもあるだろうが、闘技会が盛り上がるならなんだっていい。
「闘技会は毎月一回定期的に開催する予定です!今回観戦して気に入ったなら、次は是非ご家族や友人を誘って訪れてください!では時間も押しておりますので、早速予選第一回戦を開始しましょう!」
『わああー!』
観客達の反応は上々だ。掴みとしては上出来だろう。深々と頭を下げて通路に戻る俺の耳に、プリムラの落ち着いた声が届いてきた。
「領主様、お疲れ様でした。段取り通り、選手達が闘技場に出払ったところで私が試合開始の合図を告げます」
「頼みます」
俺のやるべき事は終わった。後はコロッセオ最上階にある貴賓席で文字通り高みの見物といこうじゃないか。今回は自分も仲間も出ないから気楽に見る事が出来る。気合十分の表情で狭い通路をすれ違う選手達を見ながら、俺は闘技会の成功を願うのだった。
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