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第331話 卒業
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学校まで足を運ぶと、この間話をした仕官希望の三人が運動場で模擬戦をしているところだった。少し彼等の動きを観察してみたところ、以前一緒にダンジョンに潜った時と比べて随分洗練された動きになっているのが解った。レベルも随分上がっているようだし、かなり努力してきたのだろう。
「あ、勇者様!」
「こんにちは領主様」
「こんにちは。ひょっとして私達を見に来てくれたんですか?」
「ああ。随分腕を上げたとアミルから聞いたからね。直接見に来たよ」
その言葉を聞いた三人が緊張した面持ちで俺の前に並ぶ。彼等は全員俺の出した条件であるレベル12に到達している。双剣使いのリーサは14、槍使いのブラウンが15、弓使いのメイアが13だった。出された課題を上回る成果だが、俺のお眼鏡に叶わなければ採用は無いので不安なのかも知れない。
「見た所、全員条件は満たしているようだな。この短期間でよくここまで腕を上げたもんだ。感心するよ」
三人の顔に希望が灯る。自分達の努力が認められた事が素直に嬉しいのだろう。そんな彼等一人一の顔を見ながら、俺は問いかける。
「一つ聞いておく。今の君達ならこの先冒険者として成功するかも知れない。その可能性を捨てても俺の領地で働きたいか?仕事は忙しいと思うし、良い事ばかりでも無いはずだ。それでも後悔しないか?」
「しません!俺、領主様の下で働きたいんです!」
「私は、移住してきたばかりの私を一人前にしてくれた学校のみんなや、色々と助けてくれた村の人達に恩返しがしたい」
「お父さんやお母さんの住むこの村を自分の手で守りたい。ですから後悔なんてしません」
俺の目を正面から見ながら、彼等は真剣な面持ちで自分達の決意を述べた。これだけ気持ちが固まっているなら、俺から言う事は何も無い。彼等なら我が事の様にこの領地に尽くしてくれるだろう。
「解った。なら全員採用だ。君達は今この瞬間から冒険者学校の生徒ではなく、俺の配下として扱う」
「あ、ありがとうございます!」
「やった…やったー!」
「…頑張った甲斐があった…」
ブラウンは直角に腰を曲げて頭を下げ、リーサは両手を天に突き上げて喜びをあらわにしている。メイアは瞳にうっすらと涙を浮かべて控えめに喜んでいた。これだけ喜んでくれると、こっちも嬉しくなってしまう。彼等の努力が実を結んだ瞬間だった。
「ノイジ達には俺から話しておくから、明日の朝城に出向いて来ると良い。みんなに紹介するよ」
『はい!』
元気よく返事をした三人は仲間の居る運動場に駆け出していく。採用された事を報告しに行ったのだろう。驚いた様子の生徒達は喜びを浮かべる三人をもみくちゃにしていた。この学校初の卒業生誕生だから彼等も興奮しているに違いない。自分も負けてられないと奮い立ってくれればいいのだが。そんな彼等を横目で見ながら、俺はノイジの姿を探して校舎の中に足を延ばしていた。
結構広い校舎の中を無駄に歩き回りたくなかったので、マップスキルで目星をつけて目的地を目指す。どうやらノイジは珍しく職員室で事務仕事を行っていたようだ。ドアをノックして訪れた俺に、彼はにこやかに挨拶してくる。
「これは領主様。何か私に御用でも?」
「ええまあ。ブラウン達の事なんですが」
それだけでピンときたのか、ノイジは空いてる席を俺にすすめて自分は席を立ち、お茶を入れ始める。無言でそれを見守る俺に、彼は一つのコップを差し出した。
「その様子ですと、ブラウン達は領主様に雇われる事になったのでしょうか?」
「ええ。全員条件を満たしていますから、今日から俺の配下として雇いました。明日からは領地の為に働いてもらいます」
「そうですか…」
ノイジは満足げに笑顔を浮かべているが、どこか寂し気な様子だった。彼としてもブラウン達は最初に受け持った生徒だけあって、色々と思うところがあるのかも知れない。ノイジは気を取り直したように俺に向き直り、その場で深々と頭を下げた。
「領主様、どうかあいつらの事、よろしくお願いします。危なっかしい奴らですから、命を粗末にしないか心配で…」
「安心してください。責任をもって面倒見ますよ」
実際の所、俺の言葉が気休めでしかないのはノイジも十分理解しているはずだ。ブラウン達は既に独り立ちしたのだから、その行動に対する責任は全て自分で負う事になる。それが解っていても言わずにはいられなかったのだろう。
ノイジへの挨拶を済ませた俺がその場を後にしようとした時、ふと彼が気になる事を口にした。
「そう言えば、この学校には卒業した証と言う物がりませんでしたね。王立の士官学校とかなら儀礼用の剣が有名ですが、領主様は作ったりしないんですか?」
言われて初めて気がついた。学校と言う形を取っているのに卒業した証を卒業生に渡せないのは大問題だ。仮に将来この学校の卒業生が活躍して学校の名が広まっても、それを証明する方法が無いではないか。それどころか自称卒業生を名乗る輩が出て来て悪事に利用されかねない。これは思ったより重大な問題だった。
「それは…正直考えてませんでした。何かいい案あります?」
冷や汗をかきながら丸投げするようにノイジに問うと、彼はしきりに頭を左右に振りながら必死に考えを絞りだそうとしていた。
「うーん…やはり冒険者学校と言うからには、冒険に役立ちそうな物が良いですね。剣…だと他の武器を使う生徒に邪魔になるだろうし…鎧は各自体格差がある。盾だと両手持ちの武器使いには邪魔になるし…あ、短剣でどうですか?冒険中は肉を捌いたり草を刈ったりと短剣を使う場面は多いですし、短剣なら誰でも必要だと思うんですが」
「なるほど、短剣か…確かにいいですね。ありがとうノイジさん。早速伝手を頼って卒業生用に作ってもらう事にします」
「良いものが出来たら一度拝見したいですね。お気をつけて」
思わぬところでノイジに助けられた。学校に通ってある程度鍛えて、はいさようならでは味気が無さすぎる。やはり将来を期待して入学してきた人達には何かしらの手助けをしてやりたい。俺は早速短剣を作ってもらうべく転移の準備に入った。目的地はバックス、ドワーフの国だ。幸いあの国には懇意にしている職人親子が居るので、彼等に製作を頼むとしよう。
俺は道具袋にある金貨の数を確認した後、バックスに向けて転移した。
「あ、勇者様!」
「こんにちは領主様」
「こんにちは。ひょっとして私達を見に来てくれたんですか?」
「ああ。随分腕を上げたとアミルから聞いたからね。直接見に来たよ」
その言葉を聞いた三人が緊張した面持ちで俺の前に並ぶ。彼等は全員俺の出した条件であるレベル12に到達している。双剣使いのリーサは14、槍使いのブラウンが15、弓使いのメイアが13だった。出された課題を上回る成果だが、俺のお眼鏡に叶わなければ採用は無いので不安なのかも知れない。
「見た所、全員条件は満たしているようだな。この短期間でよくここまで腕を上げたもんだ。感心するよ」
三人の顔に希望が灯る。自分達の努力が認められた事が素直に嬉しいのだろう。そんな彼等一人一の顔を見ながら、俺は問いかける。
「一つ聞いておく。今の君達ならこの先冒険者として成功するかも知れない。その可能性を捨てても俺の領地で働きたいか?仕事は忙しいと思うし、良い事ばかりでも無いはずだ。それでも後悔しないか?」
「しません!俺、領主様の下で働きたいんです!」
「私は、移住してきたばかりの私を一人前にしてくれた学校のみんなや、色々と助けてくれた村の人達に恩返しがしたい」
「お父さんやお母さんの住むこの村を自分の手で守りたい。ですから後悔なんてしません」
俺の目を正面から見ながら、彼等は真剣な面持ちで自分達の決意を述べた。これだけ気持ちが固まっているなら、俺から言う事は何も無い。彼等なら我が事の様にこの領地に尽くしてくれるだろう。
「解った。なら全員採用だ。君達は今この瞬間から冒険者学校の生徒ではなく、俺の配下として扱う」
「あ、ありがとうございます!」
「やった…やったー!」
「…頑張った甲斐があった…」
ブラウンは直角に腰を曲げて頭を下げ、リーサは両手を天に突き上げて喜びをあらわにしている。メイアは瞳にうっすらと涙を浮かべて控えめに喜んでいた。これだけ喜んでくれると、こっちも嬉しくなってしまう。彼等の努力が実を結んだ瞬間だった。
「ノイジ達には俺から話しておくから、明日の朝城に出向いて来ると良い。みんなに紹介するよ」
『はい!』
元気よく返事をした三人は仲間の居る運動場に駆け出していく。採用された事を報告しに行ったのだろう。驚いた様子の生徒達は喜びを浮かべる三人をもみくちゃにしていた。この学校初の卒業生誕生だから彼等も興奮しているに違いない。自分も負けてられないと奮い立ってくれればいいのだが。そんな彼等を横目で見ながら、俺はノイジの姿を探して校舎の中に足を延ばしていた。
結構広い校舎の中を無駄に歩き回りたくなかったので、マップスキルで目星をつけて目的地を目指す。どうやらノイジは珍しく職員室で事務仕事を行っていたようだ。ドアをノックして訪れた俺に、彼はにこやかに挨拶してくる。
「これは領主様。何か私に御用でも?」
「ええまあ。ブラウン達の事なんですが」
それだけでピンときたのか、ノイジは空いてる席を俺にすすめて自分は席を立ち、お茶を入れ始める。無言でそれを見守る俺に、彼は一つのコップを差し出した。
「その様子ですと、ブラウン達は領主様に雇われる事になったのでしょうか?」
「ええ。全員条件を満たしていますから、今日から俺の配下として雇いました。明日からは領地の為に働いてもらいます」
「そうですか…」
ノイジは満足げに笑顔を浮かべているが、どこか寂し気な様子だった。彼としてもブラウン達は最初に受け持った生徒だけあって、色々と思うところがあるのかも知れない。ノイジは気を取り直したように俺に向き直り、その場で深々と頭を下げた。
「領主様、どうかあいつらの事、よろしくお願いします。危なっかしい奴らですから、命を粗末にしないか心配で…」
「安心してください。責任をもって面倒見ますよ」
実際の所、俺の言葉が気休めでしかないのはノイジも十分理解しているはずだ。ブラウン達は既に独り立ちしたのだから、その行動に対する責任は全て自分で負う事になる。それが解っていても言わずにはいられなかったのだろう。
ノイジへの挨拶を済ませた俺がその場を後にしようとした時、ふと彼が気になる事を口にした。
「そう言えば、この学校には卒業した証と言う物がりませんでしたね。王立の士官学校とかなら儀礼用の剣が有名ですが、領主様は作ったりしないんですか?」
言われて初めて気がついた。学校と言う形を取っているのに卒業した証を卒業生に渡せないのは大問題だ。仮に将来この学校の卒業生が活躍して学校の名が広まっても、それを証明する方法が無いではないか。それどころか自称卒業生を名乗る輩が出て来て悪事に利用されかねない。これは思ったより重大な問題だった。
「それは…正直考えてませんでした。何かいい案あります?」
冷や汗をかきながら丸投げするようにノイジに問うと、彼はしきりに頭を左右に振りながら必死に考えを絞りだそうとしていた。
「うーん…やはり冒険者学校と言うからには、冒険に役立ちそうな物が良いですね。剣…だと他の武器を使う生徒に邪魔になるだろうし…鎧は各自体格差がある。盾だと両手持ちの武器使いには邪魔になるし…あ、短剣でどうですか?冒険中は肉を捌いたり草を刈ったりと短剣を使う場面は多いですし、短剣なら誰でも必要だと思うんですが」
「なるほど、短剣か…確かにいいですね。ありがとうノイジさん。早速伝手を頼って卒業生用に作ってもらう事にします」
「良いものが出来たら一度拝見したいですね。お気をつけて」
思わぬところでノイジに助けられた。学校に通ってある程度鍛えて、はいさようならでは味気が無さすぎる。やはり将来を期待して入学してきた人達には何かしらの手助けをしてやりたい。俺は早速短剣を作ってもらうべく転移の準備に入った。目的地はバックス、ドワーフの国だ。幸いあの国には懇意にしている職人親子が居るので、彼等に製作を頼むとしよう。
俺は道具袋にある金貨の数を確認した後、バックスに向けて転移した。
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