ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第330話 アミルからの報告

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新たに回復魔法を使える人材が五人もそろったので、彼女達にはローテーションで仮設教会の手伝いをしてもらう事になった。今でも街道の警備がてら各班がグリトニルの城まで行き、代わりに向こうからも一班寄越す様になっているため、それに同行する形だ。流石に女の子を一人歩きさせる訳にはいかないからな。

これで領地にある教会の人材不足はひとまず解決する事になったので、後は学校の給食や給付金をルシノアに相談するだけだ。アルゴスの城から転移した俺はグリトニルの城まで転移し、執務中のルシノアを尋ねた。相変わらず忙しそうで声をかけ辛いが、黙っている訳にもいかないので彼女だけを手招きする。俺に気づいたルシノアは一つ頷くと、近くで仕事をしていた女性に何事かささやき席を立つ。執務室の隣に場所を移した俺達は、早速学校の件を相談する事にした。

「実はなルシノア、俺がこの前学校を視察して来た時にいくつか問題点が見つかったんだ。まず一つ目なんだが…」

対面に腰かけたルシノアは俺の話をメモし続け、時に質問して足りない情報を引き出しながら話をまとめていく。口下手な俺からしたら、彼女の様に相手から上手く情報を引き出す人と話すのは気分が良い。聞き上手と言う言葉があるが、ルシノアは正にそれだろう。

「…と言う訳なんだ」
「エスト様のご要望は理解しました。給食制度自体はそれほど時間をかけずに開始できるでしょう。調理の人でも村で募集すればすぐに集まるでしょうし…ただ、問題は給付金の方です」

やはりか。労働力としての子供の代わりとは言え、実質ばら撒きに近い物があるから、下手をすれば子供のいない家庭と居る家庭の間で諍いが起きるかも知れない。それに給付金が少なければ働かせた方がマシだと思われる可能性もあるし、多ければ子供だけ作って働かなくなると言う事態も考えられる。バランスを取るのが非常に難しい制度だろう。

「幸い財政的には問題ありません。領地の開発が盛んに行われているので税収は右肩上がりですし」
「難しいと思うが、俺としてはルシノアに頼るしかないんだ。何とか出来るかな?」
「何とかなる…いえ、してみせます。ご心配には及びません。私はそのためにここに居るのですから」

生真面目なルシノアの性格から言って安請け合いなど絶対にしないはず。なのにこう言い切るからには勝算があると言う事だ。

「そうか。じゃあこの件はルシノアの裁量で全て決めてしまってくれ。何か必要な物があったら言ってくれよ。何でも揃えるから」
「ありがとうございます。何かありましたらご相談しますね」

俺の出来る事はここまで。後はルシノア達の領分だ。執務室に戻るルシノアの背を見送り、次にするべき事を考える。闘技会がそろそろ始まるからアルゴスの領地に宿泊施設を造ろうか、それとも来るべき戦いに備えて配下の女の子達を強引にレベルアップでもさせようか。後少ししたら各国の代表が集まって会議を始めるし、その後は要塞線の構築に忙殺される事になる。…時間に余裕があるようであまり無いな。

そんな事を考えながら歩いていると、廊下の先からアミルが歩いて来るのが見えた。随分と薄汚れた格好をしているので、ダンジョンにでも籠っていたのかも知れない。むこうも俺に気がついたらしく、手を上げて近寄ってきた。

「よう。随分やつれてるな」
「ああ、今生徒達とダンジョンから帰ってきたとこだ。丸三日は潜ってたから疲れたよ」

俺とパーティーを組んでいた頃はダンジョンの中でも風呂に入れたが、今は魔法使いも同行してないし汚れ放題なのだろう。そのため、アミルの体からは少し酸っぱい臭いが漂っていた。

「生徒達はどんな調子だ?」
「順番に深く潜らせるようにしてあるから、平均レベルは随分上がってきたな。自主的に潜る奴も居るようだし、この調子で行けば全員シルバーランクまで上がるのに、そんなに時間はかからないと思う」

思ったより順調なようだ。経験値アップの補助が無いのによく頑張っていると思う。そう言えば前から気になっていたのだが、俺が沢山の生徒とパーティーを組んで一気に全員レベルアップと言う方法は取れないのだろうか?そうすれば苦労せずに強くなれる気がするのだが。俺がそんな考えを述べると、アミルは難しそうな顔をして首をかしげてしまった。

「…うーん、絶対とは言い切れないけど、それはたぶん無理だと思うぞ。パーティーの人数には上限があるし、何よりお前と生徒達じゃレベル差があり過ぎて生徒達に経験値が入らないと思うぞ。シャリーの時はお前もレベル低かったから上手くいったんだよ」

パーティーを組んだメンバーがクレア達とアミル達しか経験の無い俺と違い、アミル達はいくつかのパーティーを渡り歩いた経験がある。そのアミルが言うなら間違いなさそうだ。それにしても、レベル差があり過ぎると経験値が入らないとか、パーティーの人数に上限があるとか初めて聞いた。やっぱり一度ぐらいギルドで話を聞いておくべきだったか。

「まあ、お前が半殺しにした魔物の止めを刺すだけって方法もあるだろうけど、あんまりオススメしないな。死にかけた魔物は最後の悪あがきをする事が多いから、実力不足の生徒を連れて行ったら思わぬ反撃で死ぬかもしれん」
「なるほどね。じゃあズルは止めといた方が良いか」
「それが良い。それにそんなに焦らなくても、一年も鍛えれば立派な冒険者に成長してるよ。やはりダンジョンが身近にあると違うからな」

アミルの言う通り、王都などで燻っている冒険者に比べると冒険者学校の生徒達は随分と恵まれている。衣食住の心配も無く、雑事に追われる事も無い。純粋に自分を鍛える事が出来るのだ。駆け出しの冒険者見習いにとって、これほどありがたい環境は無い。

「とりあえず生徒達はそんな感じだ。俺はこれからひと眠りするけど、時間があるようなら学校に顔を出してやってくれ。例の仕官希望の生徒達がお前の出した条件を達成してるから」
「お、そうか。ならすぐにでも行ってみるよ」

手を上げて去って行くアミルと別れ、俺は学校へと足を向けた。この短期間にあの三人がどれほど腕を上げたのか見てみようじゃないか。俺は少しワクワクしながら足早に城を後にした。
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