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第325話 報告
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捕らえられたネムルはデゼルの言う『別荘』に連行されたようだ。別荘と言っても自由は無く、常に監視がつけられるので実際の所豪華な牢獄と言っていいだろう。今まで誰も体験した事の無い贅沢な暮らしをしてきたんだから、残りの余生を質素に暮らすぐらいで帳尻が合うんじゃないだろうか。
正式な戴冠はしばらく先になりそうだが、デゼルは早速女王としての仕事に取り掛かった。今まで不正なやり方で私腹を肥やしていた貴族の私財を没収して国庫に戻し、その一部を景気対策として国民に無料で配布したのだ。露骨な点数稼ぎではあるが、人と言うのは目の前に現金をちらつかされれば口を紡ぐ。このために国民から不満の声はほとんど出なかった。
それと同時に、彼女はすぐ他国に対して国王が変わった事の事情を説明する使者を送り、ミレーニアに滞在していたクロウ達にグリトニル国王宛ての親書を託した。読んだ訳ではないが、何が書いてあるのかは大体想像がつく。今回の顛末とクロウ達を監禁し事に対する謝罪、そして今後グリトニルといい関係を築きたいとでも書かれているのだろう。
「バタバタしてすみませんエスト殿。今回は本当にありがとうございました。近いうちに改めてお礼をさせていただきますね」
「お気になさらず。それでは失礼します」
ミレーニアでの騒動はこれで終わり、要塞線に関する交渉もデゼルが女王になる事で簡単に話がついた。役目を果たした俺はクロウ達と共に無事グリトニルに帰国したのだった。親書を受け取り、クロウの口から事の顛末を聞いたリムリック王子は何度も読み返し、うんと大きく頷く。
「ご苦労だったな二人とも。今回もよくやってくれた。これで全ての国が魔族に対して一致団結できると決まった訳だ。まずはそれを喜ぼう」
王子の言う通り、紆余曲折はあったがこれで人間側の国家は魔族の侵攻に対して力を合わせる事になった。後は実際に俺が主導で要塞線の構築に取り掛かり、各国の魔法使い達がそれに続く形になる。
「とりあえず、まず最初にするのは各国の代表を招いての会議だ。場所はここグリトニル。一か月後を目途にして、明日にでも知らせの使者を各国に派遣しよう。その間エストは自由にしてくれていい」
「わかりました。何か変化があった場合知らせを寄越してください」
各国間の交渉では俺の出る幕は無い。後は国の利害の調整なので偉い人同士で話し合う以外ないのだ。王子の下を後にした俺は城に戻り、ちょうど帰って来ていたクレア達と再会した。食堂ではなぜか疲れた表情のクレアやディアベルがつっぷしていたので、手ずからお茶を入れてやり、その向かいに腰を下ろす。
「二人とも、アルゴス側の仕官希望者はどうだった?いい子は居た?」
俺がそう問いかけると、二人は困ったように顔を見合わせる。ひょっとして希望者が居なかったとか全員不合格とかだろうか?
「ほとんどの人は採用になりました。七割ぐらいが合格したと思います」
「態度の悪い者などは我らの判断で不合格にしておいた。まだ雇ったばかりだが、将来的には全員領地の役に立ってくれる人材だと思う」
報告を聞く限りいい人材を大量に確保できたようだ。大変喜ばしい事なのだが、しかしそれでは彼女達が困惑顔をしている説明になっていない。俺が首をかしげていると、クレア達は渋々と言った様子で話し始めた。
「実は…エドさんが新たに編成した部隊の隊長になった人なんですが…」
「熱狂的な主殿の信奉者らしくてな。是非直接会って話がしたいと言っていたのだ」
「へぇ、別にいいんじゃないの?」
物好きも居たものだなと思いながらコップのお茶に口をつけたが、次にクレアの口から出た言葉に固まってしまうのだった。
「…もの凄く美人なんです。たぶんご主人様が好みそうな容姿の方です」
ガタッと言う音を立てて俺は思わず立ち上がっていた。俺好みの美人が俺のファンで、更に直接お話がしてみたいと言うではないか。これは早速アルゴスに出向いてその女の子に挨拶せねば…と思ったが、クレア達が冷たい目を向けている事に気がついて正気を取り戻した。俺は何事も無かったかのようにその場でゆっくりと背伸びをし、クレア達から目を逸らして席に着く。
「いや~、急に背伸びをしたくなって…クレア達もそんな気分の時あるでしょ?」
「…私は一度もありませんけど」
「…私もだな」
「そうですか…」
気まずい沈黙がその場を支配する。どうやって事態を打開しようか、冷や汗をかきながら必死で考えている俺を見て気が晴れたのか、二人の表情がふと緩んだ。あ、これは赦してもらえそうだ。
「別に怒ってませんよ。それより、シャリーちゃんの事なんですが」
「…シャリーがどうかしたの?」
「実はな、主殿が留守の間にこんな事があったのだ」
俺がクロウ達と共にミレーニアに出向いている間、シャリーが急に凶暴になって周囲に攻撃的になったと聞かされた。大騒ぎしたもののリーベの協力もあって、無事シャリーの件は解決したらしい。あの愛くるしいシャリーが凶暴になった場面を少し見て見たかった気もするが、シャリーが元気でいてくれる事に比べれば些細な事だ。
「そんな事があったのか…でも、シャリーはもう平気なんだろう?」
「大丈夫みたいですよ。今日も勉強が終わってから村の子供達と遊んでます」
「ああ、そうだ。その勉強の事なんだが。ルシノア話があると言っていたぞ。学校の話と言ってたが」
「お!いよいよか。じゃあちょっと行ってくるよ」
前に王子と話していた学校建設の目途がついたのだろう。これでこの村の子供達にちゃんとした教育を施す事が出来る。すぐに目に見えた効果など出ないが、十年二十年と続けていくうちに必ず領地の利益になるはずだ。前世であれほど学校嫌いだった俺がこの世界では教育熱心になる…その落差に自嘲しながら、俺はルシノアの居る執務室を目指した。
正式な戴冠はしばらく先になりそうだが、デゼルは早速女王としての仕事に取り掛かった。今まで不正なやり方で私腹を肥やしていた貴族の私財を没収して国庫に戻し、その一部を景気対策として国民に無料で配布したのだ。露骨な点数稼ぎではあるが、人と言うのは目の前に現金をちらつかされれば口を紡ぐ。このために国民から不満の声はほとんど出なかった。
それと同時に、彼女はすぐ他国に対して国王が変わった事の事情を説明する使者を送り、ミレーニアに滞在していたクロウ達にグリトニル国王宛ての親書を託した。読んだ訳ではないが、何が書いてあるのかは大体想像がつく。今回の顛末とクロウ達を監禁し事に対する謝罪、そして今後グリトニルといい関係を築きたいとでも書かれているのだろう。
「バタバタしてすみませんエスト殿。今回は本当にありがとうございました。近いうちに改めてお礼をさせていただきますね」
「お気になさらず。それでは失礼します」
ミレーニアでの騒動はこれで終わり、要塞線に関する交渉もデゼルが女王になる事で簡単に話がついた。役目を果たした俺はクロウ達と共に無事グリトニルに帰国したのだった。親書を受け取り、クロウの口から事の顛末を聞いたリムリック王子は何度も読み返し、うんと大きく頷く。
「ご苦労だったな二人とも。今回もよくやってくれた。これで全ての国が魔族に対して一致団結できると決まった訳だ。まずはそれを喜ぼう」
王子の言う通り、紆余曲折はあったがこれで人間側の国家は魔族の侵攻に対して力を合わせる事になった。後は実際に俺が主導で要塞線の構築に取り掛かり、各国の魔法使い達がそれに続く形になる。
「とりあえず、まず最初にするのは各国の代表を招いての会議だ。場所はここグリトニル。一か月後を目途にして、明日にでも知らせの使者を各国に派遣しよう。その間エストは自由にしてくれていい」
「わかりました。何か変化があった場合知らせを寄越してください」
各国間の交渉では俺の出る幕は無い。後は国の利害の調整なので偉い人同士で話し合う以外ないのだ。王子の下を後にした俺は城に戻り、ちょうど帰って来ていたクレア達と再会した。食堂ではなぜか疲れた表情のクレアやディアベルがつっぷしていたので、手ずからお茶を入れてやり、その向かいに腰を下ろす。
「二人とも、アルゴス側の仕官希望者はどうだった?いい子は居た?」
俺がそう問いかけると、二人は困ったように顔を見合わせる。ひょっとして希望者が居なかったとか全員不合格とかだろうか?
「ほとんどの人は採用になりました。七割ぐらいが合格したと思います」
「態度の悪い者などは我らの判断で不合格にしておいた。まだ雇ったばかりだが、将来的には全員領地の役に立ってくれる人材だと思う」
報告を聞く限りいい人材を大量に確保できたようだ。大変喜ばしい事なのだが、しかしそれでは彼女達が困惑顔をしている説明になっていない。俺が首をかしげていると、クレア達は渋々と言った様子で話し始めた。
「実は…エドさんが新たに編成した部隊の隊長になった人なんですが…」
「熱狂的な主殿の信奉者らしくてな。是非直接会って話がしたいと言っていたのだ」
「へぇ、別にいいんじゃないの?」
物好きも居たものだなと思いながらコップのお茶に口をつけたが、次にクレアの口から出た言葉に固まってしまうのだった。
「…もの凄く美人なんです。たぶんご主人様が好みそうな容姿の方です」
ガタッと言う音を立てて俺は思わず立ち上がっていた。俺好みの美人が俺のファンで、更に直接お話がしてみたいと言うではないか。これは早速アルゴスに出向いてその女の子に挨拶せねば…と思ったが、クレア達が冷たい目を向けている事に気がついて正気を取り戻した。俺は何事も無かったかのようにその場でゆっくりと背伸びをし、クレア達から目を逸らして席に着く。
「いや~、急に背伸びをしたくなって…クレア達もそんな気分の時あるでしょ?」
「…私は一度もありませんけど」
「…私もだな」
「そうですか…」
気まずい沈黙がその場を支配する。どうやって事態を打開しようか、冷や汗をかきながら必死で考えている俺を見て気が晴れたのか、二人の表情がふと緩んだ。あ、これは赦してもらえそうだ。
「別に怒ってませんよ。それより、シャリーちゃんの事なんですが」
「…シャリーがどうかしたの?」
「実はな、主殿が留守の間にこんな事があったのだ」
俺がクロウ達と共にミレーニアに出向いている間、シャリーが急に凶暴になって周囲に攻撃的になったと聞かされた。大騒ぎしたもののリーベの協力もあって、無事シャリーの件は解決したらしい。あの愛くるしいシャリーが凶暴になった場面を少し見て見たかった気もするが、シャリーが元気でいてくれる事に比べれば些細な事だ。
「そんな事があったのか…でも、シャリーはもう平気なんだろう?」
「大丈夫みたいですよ。今日も勉強が終わってから村の子供達と遊んでます」
「ああ、そうだ。その勉強の事なんだが。ルシノア話があると言っていたぞ。学校の話と言ってたが」
「お!いよいよか。じゃあちょっと行ってくるよ」
前に王子と話していた学校建設の目途がついたのだろう。これでこの村の子供達にちゃんとした教育を施す事が出来る。すぐに目に見えた効果など出ないが、十年二十年と続けていくうちに必ず領地の利益になるはずだ。前世であれほど学校嫌いだった俺がこの世界では教育熱心になる…その落差に自嘲しながら、俺はルシノアの居る執務室を目指した。
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