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第320話 袖すり合うも他生の縁
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「さっさと俺の店の前からどきやがれ!いつまで居るつもりだ!」
辺りに男の野太い怒声が響き渡る。人だかりをかき分けて最前列に顔を出してみると、店の軒先に座り込んだ三人の人間に店主がバケツで水をぶっかけたところのようだった。ずぶ濡れになっているのは中年の男に十歳ぐらいの少女、それに幼い男の子だ。どう言う事情でこうなったのだろうか?事態を見極めようと串焼きを口に頬張りながら、固唾をのんで見守る事にした。
「すいません旦那、ご迷惑なのは解ってますが、私もこんな体でして。ご覧の通りまともに働けないんですよ。少しで良いんです!この子らの分だけでも食べ物を分けてくださいませんか?」
水をかけられた三人の内の一人、中年の男が足を引きずりながらその場に頭を擦り付けて懇願している。あのオッサンの言動から察するに、どうやら三人組は親子らしい。それにしても、オッサンはともかくあんな子供にまで水をかけるなんて酷い事をする奴も居たもんだ。少し懲らしめてやろうかと思ったその時、俺の周りに居る野次馬達の会話が耳に入ってきた。
「また物乞いしてるのかあの親父。飽きもしないでよくやるよな」
「毎日あちこちの食い物屋の前でやってるんだろ?子供をダシにしてさ。それに街の入口で金を恵んでくれとも言ってるぜ。」
「あの足の怪我も本当は平気なんじゃないのか?」
彼等の話をまとめると、どうやらあのオッサンは別に大した怪我でもないのに自分の子供をダシに物乞いを続けていると言う事になる。…なんだそりゃ、ただのクズじゃないか。村の人間にとってこんな騒ぎは慣れっこなのか、集まった野次馬達も興味を無くした様に散り散りになって行く。だが俺だけはその場を離れずに残っていた。子供二人の様子が明らかにおかしかったからだ。血色の良いオッサンと違い、子供達は痩せ細って今にも倒れそうに見える。あの二人だけでも何とかしてやりたい気分になっていた。
「おお、そこの立派に身なりの旦那。この子達を見てください。痩せ細って可哀想でしょう?哀れと思って少しばかり銭を恵んでいただけませんか?」
物乞いが不発に終わって不貞腐れた態度をとっていたオッサンは、近寄ってきた俺を見た途端に哀れな表情を浮かべて金の催促を始めた。どうやら野次馬達の言っていた事は本当らしい。子供もいるのに困ったオッサンだ。
「オッサン、働かないのか?」
「働きたいのは山々なんですが、生憎昔の戦傷が痛んでまともに仕事も出来ないんですよ。私みたいな貧乏人じゃ治癒魔法をかけてもらう金も無いしで…それでこんな事をやってるわけです」
「ふーん…」
俺は無言でオッサンの側にかがみ、傷跡のある足に回復魔法をかけ始めた。すると刀傷と思われる傷跡が見る見る治っていき、あっと言う間に綺麗な肌になる。オッサンは突然の出来事に金魚の様に口をパクパクとさせていたが、急に俺を睨みつけたかと思うと口汚く罵り始めた。
「余計な事しやがって!これじゃ商売上がったりじゃないか!せっかくガキ共と足の傷で働かずに食えてたってのによ!」
クズだとは思ったが想像以上のクズだったようだ。そもそも子供が痩せ細ってる時点で食えてるのはお前だけだし。こちらが何も言わない事に調子に乗ったのか、オッサンは更にヒートアップしていかに自分が今まで苦労して物乞いをしてきたかを力説し始めた。聞いてるうちに顔が自然と引きつってきた事を自覚した俺は、オッサンの耳障りな口上を振り下ろした拳一つで黙らせる。
「うぐぐ…!」
「うるさい。それでまともに働く事は出来る様になっただろうに。何が不満なんだ」
軽めに拳骨を落としただけだがオッサンには結構なダメージになったようで、頭を押さえてうずくまっている。もう一撃喰らわせて腐った性根を叩き直してやろうと拳を振り上げたその時、それまで黙っていた子供二人がオッサンと俺の間に両手を広げて立ち塞がった。
「お父さんをいじめないで…!」
「いじめるな!」
「………」
今や熟練の戦士ですらビビる俺の前に立ち塞がるとは、親と違って随分しっかりした子供だ。怖いもの知らずってのもあるんだろうけど、体を張って人を助けようとするのはなかなか出来る事じゃない。将来有望な子供達だった。そんな子供二人にかばわれたオッサンは、ばつが悪そうに二人から顔を逸らしている。一応恥ずかしいと言う感情を持ち合わせているみたいだ。
「…おいオッサン。あんたこの子らに対して恥ずかしくないのか?」
「…うるせえな。しょうがねえだろ雇ってくれる所が無いんだからよ。俺みたいなクズはこんな事ぐらいしか出来る事がないんだよ!働くためにゃ俺が一人で動くしかねえ…その間こいつらの面倒は誰が見るんだ?どうしようもねえんだよ」
…まぁ、オッサンの言う事も解らんでもないが、いかにも取って付けた様な理由だな。このオッサンが子供を大事にしているとはとても思えない。子供が痩せてるのがその証拠だ。わざと痩せさせて同情を引こうと言う魂胆もあるんだろうが、そんな物は言い訳にもならない。正直言ってオッサン一人ならこのまま見捨てて勝手に野垂れ死ねとしか思わんが、こんな親でも居なくなればこの子達が路頭に迷う事になる。孤児の行く先など奴隷が関の山だろうし、それではあまりに不憫だろう。俺は盛大にため息をつき、不貞腐れるオッサンの首根っこを捕まえた。
「しょうがない。全員まとめて面倒見てやるか」
「お、おい!何しやがんだ!?」
じたばたと暴れるオッサンとその子供二人を捕まえて、俺は転移の準備に入った。ちょうど暇してたところだし、これも何かの縁だ。こいつらがまともに生活できる手助けをしてやろうじゃないか。何やら必死で抗議しているオッサンの声を聞き流し、俺達はグリトニルに向かってその場を後にした。
辺りに男の野太い怒声が響き渡る。人だかりをかき分けて最前列に顔を出してみると、店の軒先に座り込んだ三人の人間に店主がバケツで水をぶっかけたところのようだった。ずぶ濡れになっているのは中年の男に十歳ぐらいの少女、それに幼い男の子だ。どう言う事情でこうなったのだろうか?事態を見極めようと串焼きを口に頬張りながら、固唾をのんで見守る事にした。
「すいません旦那、ご迷惑なのは解ってますが、私もこんな体でして。ご覧の通りまともに働けないんですよ。少しで良いんです!この子らの分だけでも食べ物を分けてくださいませんか?」
水をかけられた三人の内の一人、中年の男が足を引きずりながらその場に頭を擦り付けて懇願している。あのオッサンの言動から察するに、どうやら三人組は親子らしい。それにしても、オッサンはともかくあんな子供にまで水をかけるなんて酷い事をする奴も居たもんだ。少し懲らしめてやろうかと思ったその時、俺の周りに居る野次馬達の会話が耳に入ってきた。
「また物乞いしてるのかあの親父。飽きもしないでよくやるよな」
「毎日あちこちの食い物屋の前でやってるんだろ?子供をダシにしてさ。それに街の入口で金を恵んでくれとも言ってるぜ。」
「あの足の怪我も本当は平気なんじゃないのか?」
彼等の話をまとめると、どうやらあのオッサンは別に大した怪我でもないのに自分の子供をダシに物乞いを続けていると言う事になる。…なんだそりゃ、ただのクズじゃないか。村の人間にとってこんな騒ぎは慣れっこなのか、集まった野次馬達も興味を無くした様に散り散りになって行く。だが俺だけはその場を離れずに残っていた。子供二人の様子が明らかにおかしかったからだ。血色の良いオッサンと違い、子供達は痩せ細って今にも倒れそうに見える。あの二人だけでも何とかしてやりたい気分になっていた。
「おお、そこの立派に身なりの旦那。この子達を見てください。痩せ細って可哀想でしょう?哀れと思って少しばかり銭を恵んでいただけませんか?」
物乞いが不発に終わって不貞腐れた態度をとっていたオッサンは、近寄ってきた俺を見た途端に哀れな表情を浮かべて金の催促を始めた。どうやら野次馬達の言っていた事は本当らしい。子供もいるのに困ったオッサンだ。
「オッサン、働かないのか?」
「働きたいのは山々なんですが、生憎昔の戦傷が痛んでまともに仕事も出来ないんですよ。私みたいな貧乏人じゃ治癒魔法をかけてもらう金も無いしで…それでこんな事をやってるわけです」
「ふーん…」
俺は無言でオッサンの側にかがみ、傷跡のある足に回復魔法をかけ始めた。すると刀傷と思われる傷跡が見る見る治っていき、あっと言う間に綺麗な肌になる。オッサンは突然の出来事に金魚の様に口をパクパクとさせていたが、急に俺を睨みつけたかと思うと口汚く罵り始めた。
「余計な事しやがって!これじゃ商売上がったりじゃないか!せっかくガキ共と足の傷で働かずに食えてたってのによ!」
クズだとは思ったが想像以上のクズだったようだ。そもそも子供が痩せ細ってる時点で食えてるのはお前だけだし。こちらが何も言わない事に調子に乗ったのか、オッサンは更にヒートアップしていかに自分が今まで苦労して物乞いをしてきたかを力説し始めた。聞いてるうちに顔が自然と引きつってきた事を自覚した俺は、オッサンの耳障りな口上を振り下ろした拳一つで黙らせる。
「うぐぐ…!」
「うるさい。それでまともに働く事は出来る様になっただろうに。何が不満なんだ」
軽めに拳骨を落としただけだがオッサンには結構なダメージになったようで、頭を押さえてうずくまっている。もう一撃喰らわせて腐った性根を叩き直してやろうと拳を振り上げたその時、それまで黙っていた子供二人がオッサンと俺の間に両手を広げて立ち塞がった。
「お父さんをいじめないで…!」
「いじめるな!」
「………」
今や熟練の戦士ですらビビる俺の前に立ち塞がるとは、親と違って随分しっかりした子供だ。怖いもの知らずってのもあるんだろうけど、体を張って人を助けようとするのはなかなか出来る事じゃない。将来有望な子供達だった。そんな子供二人にかばわれたオッサンは、ばつが悪そうに二人から顔を逸らしている。一応恥ずかしいと言う感情を持ち合わせているみたいだ。
「…おいオッサン。あんたこの子らに対して恥ずかしくないのか?」
「…うるせえな。しょうがねえだろ雇ってくれる所が無いんだからよ。俺みたいなクズはこんな事ぐらいしか出来る事がないんだよ!働くためにゃ俺が一人で動くしかねえ…その間こいつらの面倒は誰が見るんだ?どうしようもねえんだよ」
…まぁ、オッサンの言う事も解らんでもないが、いかにも取って付けた様な理由だな。このオッサンが子供を大事にしているとはとても思えない。子供が痩せてるのがその証拠だ。わざと痩せさせて同情を引こうと言う魂胆もあるんだろうが、そんな物は言い訳にもならない。正直言ってオッサン一人ならこのまま見捨てて勝手に野垂れ死ねとしか思わんが、こんな親でも居なくなればこの子達が路頭に迷う事になる。孤児の行く先など奴隷が関の山だろうし、それではあまりに不憫だろう。俺は盛大にため息をつき、不貞腐れるオッサンの首根っこを捕まえた。
「しょうがない。全員まとめて面倒見てやるか」
「お、おい!何しやがんだ!?」
じたばたと暴れるオッサンとその子供二人を捕まえて、俺は転移の準備に入った。ちょうど暇してたところだし、これも何かの縁だ。こいつらがまともに生活できる手助けをしてやろうじゃないか。何やら必死で抗議しているオッサンの声を聞き流し、俺達はグリトニルに向かってその場を後にした。
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