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第316話 危険な新隊長
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―クレア視点
ディアベルさんが態度の良くない参加者の人達を叩きのめした後、いよいよ試験の本番が始まる事になりました。試験内容はいたって簡単。大体のレベル事に集団を分けて、一対一で模擬戦をしてもらうのです。基本寸止めで終わらせるので大怪我する人は居ないと思います。
それぞれ得意な武器を手に真剣な顔で戦う参加者の人達。誰もがこの機会を逃がしてたまるかとばかりに気合が入っています。順調に試験が進み半分ぐらいが終わった時点では、特に腕が立つ人はほんの数人ぐらいでしょうか?中でも細身の剣を持った剣士には驚かされました。
ディアベルさんと同じぐらいの体格をしたその人は黒髪を後ろに縛り、キリリとした切れ長の目の美人さんでした。彼女は自分とそう変わらないレベルの対戦者を多彩な技で赤子の手を捻る様に打ち負かし、一瞬で勝負を決めてしまったのです。確認したところレベルは39。動きの素早さや体の切れからてっきりもっと上だと思ったのですが、いい意味で予想を裏切られました。それに他の参加者の人と比べて礼儀正しく、決してでしゃばろうとしないのも好感が持てました。この人、味方になってもらえるなら凄く頼りになりそうです。ディアベルさんも同意見なのか、しきりにメモを取っていました。
長い時間をかけて吟味した結果、百名ほど居た参加者の中で合格者は五十六名。補欠合格が二十名でした。失格になったのは最初に暴れた人たちのみで、後の人は条件に納得できなかったために辞退した人達です。もっと条件の良い所を探すそうですが、ご主人様の領地以外にそんな所があるのでしょうか?世間知らずな私には解りません。
試験が終わった後どうすればいいのか解らなかったのでエドさんに相談すると、元から居る女の子達の隊に何人かずつ増員し、残りの人数で新たな隊を作る事にしたようです。
「エスト様の指示が無い以上、とりあえずこんな形に治めました。それで新部隊の隊長なんですが…それだけクレアさん達で決めてもらえませんか?私だとどうにも判断がつかないので」
「新隊長ですか?…!それなら…」
私がある人物をちらりと見るとディアベルさんも同じ人を思い浮かべたようで、二人して同じ人を見ていた事に気がつきました。
「やっぱりあの人ですか?」
「クレアもか?実力的にも彼女が一番の適任だろうな」
「はい。確か、名前はリセさんでしたよね。一応本人の希望も聞いてみましょうか」
私達が新隊長に選んだのは試験の時に気になっていた黒髪の人です。私達が新隊長を打診すると、彼女は大変恐縮した様子でこの話を受けてくれました。
「光栄です!私などがエスト様のお役に立てる日が来るなんて!全身全霊をもってこの任を全う致します!」
…なんか、ご主人様に対する態度が変じゃないですかこの人?ご主人様はあくまでも雇い主なだけであって、この人のご主人様じゃないはずなんですが…
「あの…リセさん?エスト様って言うのは…」
「これは失敬。一人で興奮してしまいましたね。エスト様は私の憧れの人なのです。私がエスト様を初めてお見かけしたのはリオグランドの闘技会での事。不利な状況でも創意工夫し、有利な時でも油断せず、そして卑怯な相手には情け容赦の無い攻撃!あの方の戦い方は一瞬で私の心を鷲掴みにしたのです!その後の活躍などクレア殿達には語るまでも無いですが、あの方の噂を耳にするだけでも我が事の様に誇らしい気持ちになったものです。そして私は誓いました。いつかエスト様の下で働きたいと!あの方のお役に立ち、私と言う存在を認めていただきたいと!その機会がようやく訪れたと思ったら新隊長の任を与えていただけるなんて、望外の喜びです!」
『………』
直感でしかありませんが、この人とご主人様を会わせちゃいけないような気がします。ご主人様は一見強気に見えますが、女の人に強く出られる事に弱い人です。これだけの美人に迫られれば流されてそのまま最後まで…と言う最悪の事態も考えられます。やっぱり却下した方がいいのかな…と、よくない考えが一瞬頭をよぎりました。横に立つディアベルさんも悩んでいるのか、さっきから難しい顔をして黙り込んだままです。でも、これだけ喜んでいるのに今更無かった事にするのは可哀想ですし、これは単純に私達が嫉妬しているだけ。こんなので人の人生を左右するなんて、あってはならない事です。私が口を開こうとしたその時、ディアベルさんが先に話始めました。
「リセ殿の気持ちはよく解った。主殿にも伝えておくので、それまでは仕事に励んでくれ」
「はい!頑張ります!エスト様によろしくお伝えください!」
私が悩んでいる間にディアベルさんはさっさと決断したようです。駄目ですね…私には決断力と言うものが足りてません。もっと頑張らないと。
色々ありましたが、これでご主人様に頼まれた仕事は全部終わりです。行きは転移で送ってもらえましたが、帰りは自力で帰る予定になっています。ご主人様がいつ帰ってくるか見当もつかないからです。帰るために馬を借りてきた時、ディアベルさんが慌てたようにこちらに走ってくるのが見えました。何かあったんでしょうか?
「大変だクレア。シャリーが居なくなった!」
「シャリーちゃんが!?」
あの子の事だから無理矢理連れ去られるって事はありえないですけど、食べ物に釣られて連れていかれる危険性は十分に高いです。もし誘拐なら早く見つけないと、主に犯人がとんでも無い事になるでしょう。大事な妹を探すため、私達はそろって走り出しました。
ディアベルさんが態度の良くない参加者の人達を叩きのめした後、いよいよ試験の本番が始まる事になりました。試験内容はいたって簡単。大体のレベル事に集団を分けて、一対一で模擬戦をしてもらうのです。基本寸止めで終わらせるので大怪我する人は居ないと思います。
それぞれ得意な武器を手に真剣な顔で戦う参加者の人達。誰もがこの機会を逃がしてたまるかとばかりに気合が入っています。順調に試験が進み半分ぐらいが終わった時点では、特に腕が立つ人はほんの数人ぐらいでしょうか?中でも細身の剣を持った剣士には驚かされました。
ディアベルさんと同じぐらいの体格をしたその人は黒髪を後ろに縛り、キリリとした切れ長の目の美人さんでした。彼女は自分とそう変わらないレベルの対戦者を多彩な技で赤子の手を捻る様に打ち負かし、一瞬で勝負を決めてしまったのです。確認したところレベルは39。動きの素早さや体の切れからてっきりもっと上だと思ったのですが、いい意味で予想を裏切られました。それに他の参加者の人と比べて礼儀正しく、決してでしゃばろうとしないのも好感が持てました。この人、味方になってもらえるなら凄く頼りになりそうです。ディアベルさんも同意見なのか、しきりにメモを取っていました。
長い時間をかけて吟味した結果、百名ほど居た参加者の中で合格者は五十六名。補欠合格が二十名でした。失格になったのは最初に暴れた人たちのみで、後の人は条件に納得できなかったために辞退した人達です。もっと条件の良い所を探すそうですが、ご主人様の領地以外にそんな所があるのでしょうか?世間知らずな私には解りません。
試験が終わった後どうすればいいのか解らなかったのでエドさんに相談すると、元から居る女の子達の隊に何人かずつ増員し、残りの人数で新たな隊を作る事にしたようです。
「エスト様の指示が無い以上、とりあえずこんな形に治めました。それで新部隊の隊長なんですが…それだけクレアさん達で決めてもらえませんか?私だとどうにも判断がつかないので」
「新隊長ですか?…!それなら…」
私がある人物をちらりと見るとディアベルさんも同じ人を思い浮かべたようで、二人して同じ人を見ていた事に気がつきました。
「やっぱりあの人ですか?」
「クレアもか?実力的にも彼女が一番の適任だろうな」
「はい。確か、名前はリセさんでしたよね。一応本人の希望も聞いてみましょうか」
私達が新隊長に選んだのは試験の時に気になっていた黒髪の人です。私達が新隊長を打診すると、彼女は大変恐縮した様子でこの話を受けてくれました。
「光栄です!私などがエスト様のお役に立てる日が来るなんて!全身全霊をもってこの任を全う致します!」
…なんか、ご主人様に対する態度が変じゃないですかこの人?ご主人様はあくまでも雇い主なだけであって、この人のご主人様じゃないはずなんですが…
「あの…リセさん?エスト様って言うのは…」
「これは失敬。一人で興奮してしまいましたね。エスト様は私の憧れの人なのです。私がエスト様を初めてお見かけしたのはリオグランドの闘技会での事。不利な状況でも創意工夫し、有利な時でも油断せず、そして卑怯な相手には情け容赦の無い攻撃!あの方の戦い方は一瞬で私の心を鷲掴みにしたのです!その後の活躍などクレア殿達には語るまでも無いですが、あの方の噂を耳にするだけでも我が事の様に誇らしい気持ちになったものです。そして私は誓いました。いつかエスト様の下で働きたいと!あの方のお役に立ち、私と言う存在を認めていただきたいと!その機会がようやく訪れたと思ったら新隊長の任を与えていただけるなんて、望外の喜びです!」
『………』
直感でしかありませんが、この人とご主人様を会わせちゃいけないような気がします。ご主人様は一見強気に見えますが、女の人に強く出られる事に弱い人です。これだけの美人に迫られれば流されてそのまま最後まで…と言う最悪の事態も考えられます。やっぱり却下した方がいいのかな…と、よくない考えが一瞬頭をよぎりました。横に立つディアベルさんも悩んでいるのか、さっきから難しい顔をして黙り込んだままです。でも、これだけ喜んでいるのに今更無かった事にするのは可哀想ですし、これは単純に私達が嫉妬しているだけ。こんなので人の人生を左右するなんて、あってはならない事です。私が口を開こうとしたその時、ディアベルさんが先に話始めました。
「リセ殿の気持ちはよく解った。主殿にも伝えておくので、それまでは仕事に励んでくれ」
「はい!頑張ります!エスト様によろしくお伝えください!」
私が悩んでいる間にディアベルさんはさっさと決断したようです。駄目ですね…私には決断力と言うものが足りてません。もっと頑張らないと。
色々ありましたが、これでご主人様に頼まれた仕事は全部終わりです。行きは転移で送ってもらえましたが、帰りは自力で帰る予定になっています。ご主人様がいつ帰ってくるか見当もつかないからです。帰るために馬を借りてきた時、ディアベルさんが慌てたようにこちらに走ってくるのが見えました。何かあったんでしょうか?
「大変だクレア。シャリーが居なくなった!」
「シャリーちゃんが!?」
あの子の事だから無理矢理連れ去られるって事はありえないですけど、食べ物に釣られて連れていかれる危険性は十分に高いです。もし誘拐なら早く見つけないと、主に犯人がとんでも無い事になるでしょう。大事な妹を探すため、私達はそろって走り出しました。
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